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語られる真意へ向き合う心②

ちょっと長めに載せてみました。

読みづらいようでしたらまた以前の文字数に戻します。






「ひ、久しぶりだな~」

「なー沙希ちゃん。何でねーちゃん、あんなに怒ってんだよ?」


あっくんと颯太が揃って汗を垂らしている。先程の沙希と同じ反応。昼休みになった途端、聞こえてきた私の大声に二人は慌てて来てくれたらしい。

そしてその二人が目にしたのは珍しい私のぶちギレた姿だった。

そう、私今、キレています。

沙希が「ふう」と溜め息をつきながら、私の代わりについさっきあったことを説明してくれる。私が手を離せない状態だからね。


「なんてゆーの? 訳も分からず後輩をけなされたから……ってとこかな」


じゅ~と紙パックのコーヒー牛乳を飲みながら、沙希は簡潔に言った。


「はぁ? 後輩って、秋月のことかよ? だからねーちゃん、アイツに……」


秋月絡みとなればすぐさま割って入る颯太が遠目で見るだけに止めている。割って入ることが出来ないからです。入りたくもないと思っているでしょう。


「こりゃあしばらく、秋月は流香に離してもらえないな」


あっくんも「ははっ」と苦笑いするしかない。それもそのはず。沙希は元より、あっくんと颯太にとっては昔から知っている状況だからです。真顔の、ぶちギレた私には近付けない。というか、近付きたくない。近付いてはいけないと知っている。


「二人とも話し掛けないでね。今私、秋月と大事な話をしているから」


あっくんと颯太に向かって問答無用に壁を作る。「うっ」と身を捩るあっくんと颯太が見えたけど、私は気にしない。椅子に座らせた秋月に再び向き直した。怒りの矛先を、関連している当人へ突き付けるためです。

どうしても納得がいかない、先程のちょっとした騒動。だから直接本人に聞く。とことん追求して、答えてもらうからね秋月! 既にあんたが! 今まで『何かをしていた』ってことは、明白なんだから!!


「いい加減に話しなさい。あんた、先生にあんな扱い受けてるその理由は? はぐらしてばっかりいないで答えなさい。分からないでしょ。訳があるんだったら私に全部言いなさい」


「いや、えっと、その……る、流香先輩? マジ顔になってるって。つ、つーか、ち、近くてドキドキすんだけど」


秋月の顔を両手で鷲掴みし詰問する私。そんな私に秋月は焦りながらも微妙に顔を赤くしている。

だけど彼の反応を無視し、更に顔を近付けて聞く。


「人の話聞いてるよね? 関係ないことは言わないで。私が聞いてることに答えなさい。何で? どういうわけ? 私の知らないことがあるんでしょ?」

「う、あ、せ、先輩、べ、別に何もね、ねーよ」

「嘘つき。そんなわけないでしょ。何を今更」

「こ、これだから流香のまじギレはある意味おっかねーんだよな。始まったらズバズバ止まらない。永遠と続くスパイラルってか?」


私たちの様子を見ながらあっくんが一人ごちる。颯太も、同意するかのようにブンブンと首を縦に振った。


「あの淡々としてるのがスッゲ~怖ぇ~んだよ。ちゃんと答えねーと、終わらないんだよなー。下手に叱られるより、俺ヤダ」

「全くだ。近づいたらとばっちりも受けるからな。気をつけよーぜ、颯太」


「うわ~」という顔をしながらあっくんと颯太は私と秋月を見ていた。

そんなこととは露知らず、智花と柚子がいつものように外野席を陣取って、私と秋月の様子を実況している。私から近付かれて何やら顔を真っ赤にし、固まっている秋月が面白いと感じているようです。


「あー、普段自分からだから、逆パターンには免疫がないようですね柚子さん」


自分の顔を私に鷲掴みされ、動こうにも動けない秋月へ智花が言う。


「そのようですね~智花さん。でもこれはこれで見応えがあると思いま~す。秋月くん、明らかにパニクってま~す」


今度は私に顔を近付けられ、わたわたとしている秋月に柚子が解説した。


「うんうん。流香に迫られる秋月楓。慌ててる流香を見るより面白いかもしれませんね、柚子さん」


私に詰問されているのにも関わらず、別の方向でどもりがちな秋月に感想を述べる智花。


「はい~、とっても新鮮です~。……でも智花さん、私たちもあんまり喋っていると流香に怒られそうなのでそろそろ退散した方がいいと思いま~す」


ずっと喋っていた二人に向け、私がそちらへ顔を向けたのに気付いた柚子が冷や汗を垂らしながら提案をした。言うのが遅いか、私は既に二人に向かって真顔のまま言い放つ。


「分かってるんだったら、ちょっと静かにしてて」

「はい、すみませんでした」

「はい、ごめんなさい~」


ピシャリと二人の実況を止める私。そして、そんな智花と柚子がすごすごと引き下がったのを沙希が何やら労っていた。


ようやく秋月とまともに話せる。そう思った私は残りの昼休みの時間を確認し、今までよりも更に顔を近付け、彼に詰め寄った。


「さぁ秋月、ちゃんと話してくれるまで昼休みはこのままだからね。何でなの? 中学って先生が言ってたけど、あんた何かしてたの?」

「うっ! な、何もねーよ。それより先輩、近っ。ヤバイんだけど、俺……」


しどろもどろだけれど、こちらが聞いてることを何とかはぐらかそうとしている秋月。微妙に私の怒りとは関係ないことも意識し出したみたいだけれど私は無視した。

とにかくさっさとあんたのことを話しなさい秋月! このままあそこまで言われて、泣き寝入りするつもり!? そんなの、私は認めない! 


だけどキレている私をもってしても、完全に別の雰囲気を持ち始めた秋月には通用しなかった。


「どうなの? 何か思い当たることがちゃんとあるんでしょ?」

「先輩……俺、変になりそう……」

「変だよ、さっき先生が言ってたこと。自分でそう思わないの?」

「マジ……ヤベェ……近ぇ。チューしたい……」

「中学で何かあったんでしょ? ちゃんと話しなさい」

「ギューもしてぇ……。先輩、本当にこのあと……さぼろう? 抜けよーぜ?」

「大体、何でちょっと授業を抜けたぐらいであそこまで言われなきゃならないの? …………………………聞きなさい」


噛み合っているんだか噛み合っていないんだか。そんな分からない会話に終止符を打つため、私は秋月の耳を引っ張った。途端、「いててて!」と声をあげる秋月。

致し方ない。更に私は彼に詰め寄り、真顔のまま脅しを入れた。


「いい? ちゃんと私の質問に答えないと………………するよ?」


流石に、ピシィッと秋月も我に戻ったようです。


「今秋月、流香に何か言われたな」


私たちの声が聞き取れないのか、離れた位置にいるあっくんがぽつりと言っている声を聞こえた気がした。それをガタガタに震えている颯太が答えている。


「き、聞きたくねー。沙希ちゃんの時は何て言ってたんだっけ?」

「えーっと、確か……『いい加減にしないとあんたのピーを潰すよ』って、言ってたかな?」


沙希は颯太からの問いに昔のことを思い出しながら教えてあげた。それを聞いた途端、あっくんと颯太は「ひっ!」と声をあげる。因みに、今回秋月に言ったのは別だけどね。

何だっけそれ。確か小林、お前が変な男に付きまとわれていた時に、流香がソイツに言ったんだったけか?」


苦笑いをしているあっくんが聞くと、沙希は「まぁね」とその時の私を思い出したらしくダラダラ冷や汗を垂らし始めた。


「あの時の流香……冗談に聞こえなかったわ」

「何言ってんだよ沙希ちゃん! ねーちゃんはあーなったら、全部言ってることはマジなんだぜ? 本音さらけ出してんだから……って……」


そう自分が言ったことを口にして、更に颯太はガタガタと体を震わせた。


「も、もしかして沙希ちゃん。ねーちゃんその時……」


颯太の予想に、沙希は固く目を閉じながら頷いた。


「想像に任せるよ……」


いやいや、別に想像しなくていいから。

それを聞いたあっくんはもう笑うしかなく、颯太はといえば身を縮みこませちゃってるし。

そこの三人、みんなは私と秋月の声は自分たちが喋っているから聞こえないかもしれないけど、こっちは微妙に聞こえてるんだからね? 何、私抜きで話してんの。

突っ込んでやりたかったけど、今は秋月で忙しいので断念した。


「え、一体何の話?」

「何、何~? それ~?」


智花と柚子が興味深げに沙希たちに会話の内容を尋ねる。私の過去で、一番近いぶちギレた時の話を知りたがっているようです。それを沙希がちょっと頬を染めながら、二人の問いに答えていた。


「私と流香が出会った時の話だよ」


そう言うと、沙希は再び私たちの方へ視線を向ける。そんな時もありました。

まぁでも一先ずその話は置いといて、私は秋月だけに集中する。

とどめの一言を秋月に言ったあと、彼の返答を待っていた。秋月自身、引き下がろうとしない私をもう認めるしかないようです。随分と遠回りしたけど、ぼそぼそと口を動かす秋月に、私は耳を傾けた。

でも、また私は納得がいかない局面に立たされる。


「……ごめん、先輩。……言えない」

「っ!? ……何で?」


すかさず私は聞き返す。少し眉を寄せた私は、今まで秋月の顔を掴んでいた手を離し、しゃがみこんで下から彼を覗き込んだ。


「私に言えないって、どうして?」


更に追求する私。

言えないって、どうして隠そうとするわけ? ここまで来て、何も知らないままだなんて! 納得出来るはずないでしょ!? 

私は紛糾しそうになる。でも次第に、私の目にはとても辛そうな表情をする秋月が映し出された。


「ごめん、先輩。本当にごめん。……これだけは。本当にこれだけは、流香先輩に言えねーんだ」


私に知られたくない……?

スッと秋月が私の手を掴む。そしてまるで懇願するかのように、私の目を真っ直ぐに見てきた。途端、私はそれ以上何も言えなかった。小さく秋月が「先輩に嫌われたくねー」と言ったから。


要するに、私があんたを嫌いになりそうなことを、今までしてきた。と、いうことですか。

怒りを納め急速に冷静になる私。


「はあぁぁ」

「え、る、る、流香先輩!?」


私は思いっきり深く溜め息をついた。そんな私を見ながら、秋月は少し慌てた口調で言い改める。


「ち、ちげーかんな! 俺、先輩にだけは知られたくないっつーか、今の俺だけを知ってて欲しいっつーか。その、えっと……」

「分かったよ」


言い澱んでいる秋月を制して、私は彼に微笑みをかけた。


「え……?」


ずっとキレていた私が突然笑ったので秋月はまたもや困惑し始めたみたい。だから、言ってあげることにする。


「そこまで言うんだったら、もう、あんたには聞かないよ。私が知っている秋月は、生意気セクハラ俺様大型犬だもん、ね?」


私のセリフにぽかんとする秋月。やや呼吸を置いてようやく、私が言った内容を理解したみたいです。


「先輩、ひでー。でも、ありがとう……」


ニッコリと笑う私に、秋月も少し頬を赤くしながら笑って返してくれた。


仕方ないな。つまりは、こういうことなんです。


秋月はただこれまでの自分が嫌。

私に知られたくない程。

話せない程。


ただ何でそう思ってるのかそこまでは分からないけど、あれだけ迫ったのに頑として言わない秋月。

言えない秋月。

そして気付く。

だからもう聞かない。

本気で私は彼が今まで何をしてきたのか知りたかったけど、諦めることにする。何故なら彼の言葉を聞いてハッキリと、彼の中にある秘め事が見えたような気がしたから。


中学の時は多分、あまり生活態度がよろしくなかっただろう秋月。体育の先生が言ってた内容と照らし合わせて、大方、私の予想は外れていないはず。その時怒った秋月の様子を思い出してみても、裏付けられる。


『問題児』


きっと学校側にはそれまでの秋月の行いが中学から伝達されていたのかもしれない。

って、それってどれだけのことをしてきたの……とは思うけれど。

だから先生たちは、あんな目で秋月を見ていたんだ。

そう考えると余計に秋月が今、抱えているものも少し、見えるでしょう?


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