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戸惑う心に忍びよる影⑫




次の日。

とりあえず昨日のあっくんのことはおいといて、迎えに来てくれた秋月と一緒に登校してきた私。

また校舎から物が落ちてきたり、何かが飛んでくるかと思って警戒したけど、無事に来ることが出来ました。

朝は何事もなく済んで良かったと思う。逆に私が秋月のことを好きになってきていると知った彼から、登校中散々ベタベタされて、むしろこっちを警戒した方がいいんじゃないかと思った程。


そんな私は今、学校に着いたあと困った局面にいます。


「何で朝っぱらからテメーの顔を見なきゃなんねーんだ。朝練はどーした朝練は。万年補欠部員が!」


私のクラスの前で、ギロッと睨みをきかせている秋月。更に睨みでは飽きたらず、睨んだ相手――颯太に、シレッと失礼なことを言う。それに憤慨した颯太が、朝から怒鳴り声をあげていた。


「んだとゴラァ――! 一応レギュラー候補に入ってんだよ! いちいち腹立つ奴だな。俺だって、朝からテメーの顔なんざ見たくね――――っ!」


ビシィと、秋月に向け怒りをぶつける颯太。昨日、私から話を聞いた颯太がサッカー部の朝練が終わったあと、直ぐ様私の様子を見に来てくれたんだけど……。教室の前で私たちと鉢合わせして、何故か秋月とバトルを繰り広げ始めてしまってます。


「じゃあ来んな、このシスコン野郎! せんぱ~い、どっかで二人きりになろーぜ? 昨日の続き、しよ?」

「つ、続きって何?」


二人の間でわたわたしている私に、秋月がキラキラとした笑顔で言ってくる。だけど、後半の意味が分からなかったので頭にハテナマークを散らばせながら聞き返す私。そこへ秋月の意味不明な言葉を敏感に感じとった颯太が、更に声を張り上げた。


「させるかぁー! てんめ~秋月、ねーちゃんに何をする気だ! 調子こいてんじゃねーぞ!」


ガシッと私の腕を掴む颯太。

まるで、「行かすもんか!」と言っているような勢いで。それにチッと舌打ちした秋月が、颯太とは反対の私の腕を掴む。

え、何これ。また『捕らわれの宇宙人』状態になったんですけど。

ダラダラと汗をかく私を他所に、秋月と颯太はもう戦闘体制に入っていた。バチバチと、火花を散らしながら。

ははっ。昨日の件で、颯太も「俺もねーちゃんのそばにいる!」って言ってたけど……。結局はあれです。哲平くんよりも、先に秋月の方が色々と危ないって感じの雰囲気です。私も否定しません。まぁ、あっくんとの『秋月、流香にベタベタし過ぎ討論』で出した颯太なりの結論が、


「とにかく、ねーちゃんと秋月から目を離すな!」


みたいですから。


「何してんの、あんたら」


教室の前でギャーギャーと喚いている秋月と颯太の声に、耳を塞ぎながら沙希が登校してきた。


「おはよー沙希」

「はよ~。……っるさいなぁ~」


朝が弱い沙希にとって、二人の声は騒音以外何者でもないらしい。少々不機嫌になっている沙希。そんな彼女に気付いた颯太が、味方が現れたと言わんばかりにすがる。


「沙希ちゃーん、聞いてくれよ! 秋月の野郎がさぁ、またねーちゃんに手ぇ出してきやがったんだぜー!?」


それを秋月が横やりを入れる。


「へっ、ちげーよ弟ぉ。『手ぇ出す』じゃなくて『口説いてる』っつったろ!」

「っざけんな――! あれのどこが『口説いてる』だ! 『襲ってる』の間違いだろ――――!?」

「な、何言ってんの颯太~~! 『襲ってる』って何!?」


二人の口論に私まで加わってしまったので、沙希が白目をむきはじめた。

た、大変! 沙希が倒れる~~! 

慌てて私は掴まれている両腕を引っ張って、二人から逃れようとするけど敵わず。自力で踏ん張った親友を、見つめることしか出来なかった。


「もー、いい加減にしなさい二人とも! 離して!」


沙希のそばに寄りたかった私は、秋月と颯太を交互に睨み叱った。けど、


「やなこった。弟が離さねーから」

「ヤダね。秋月の野郎が離さねーもん」


――ガクゥ


二人から同じ意味の言葉が返ってきて項垂れる。そこへ、沙希がまだふらつきながらも口を出してきた。


「じゃあ二人で流香を引っ張り合えばー? それで、勝った方が流香所有権を持つってことで」


え、沙希、何それ? 

私は突然、彼女から発せられた無茶ぶりに驚いた。だけど、そんな私に沙希が小さくウインクしてくる。あぁ、なるほど。そういうことですか。

私は沙希の機転に、心の中で拍手を送った。

要は私の引っ張り合いをして、それを私が痛がり、慌てた秋月と颯太が揃って手を離す……。

そんな、昔の人がやった有名な話を応用して、沙希は二人に促したんです。

凄い沙希! 名奉行です! これなら二人共、私から手を離し……。


「んなことしたら、流香先輩が痛ぇーじゃん」

「無茶言うなよー沙希ちゃん! ねーちゃんの腕が外れちまうって」


あれ。こちらの思惑を他所に、秋月と颯太が私を気遣っちゃいました。そして結局、


「テメーが離せ!」

「おめーが離せ!」


――ドカッ


秋月が颯太のあごに拳を繰り出し、颯太が秋月のお腹に蹴りを放って……両者引き分け。

「ぐはっ!」と呻く二人が、お互いが受けた箇所に手を当てたことで、私の腕は解放された。

って、何なのこれ。この展開。私も沙希も、目が点になったのは言うまでもありません。


「バカじゃないの? あんたたち」


ボソッと。でもキッパリと言った沙希に私も頷く。うん。こんなコントみたいなこと、まさか日常で見れるとは思わなかったよ。


「あはははははっ!」

「きゃははははっ!」


ようやく教室に入って来た私たちを、智花と柚子が大爆笑しながら迎えてくれた。どうやら今までの場面を影で見ていたらしい。腹を抱えながら笑っている二人に、颯太が「何だよー!」と声をあげる。


「智花さんに柚子さん! 見てたんだったら止めてくれよなー。秋月の野郎をさ――!」


ブーブー文句を言う颯太に、「あんたはバカですか」と智花が口を開く。


「男だったら、自分で何とかしな」


続いて、柚子にも突っ込まれてしまう。


「そ~だよ~? 颯太くんも~頑張ろうね~」


完全に智花と柚子にあしらわれた颯太。今の颯太では、二人にこれ以上何も言えないので「う~」と呻いている。そして、今度は沙希にすがりついた。何としても自分の味方を見つけるつもりらしい。そんな弟に私はもう、呆れ果てて止める気も起きないでいます。


「沙希ちゃーん、俺の味方は沙希ちゃんだけだ~。秋月の野郎マジでムカツク!」

「はいはい。ってゆうか、どうしたの? 朝からあんたがここにいるなんて、珍しくない?」


――ギクッ


沙希の鋭い指摘に、私は冷や汗が出る。だって沙希たちにはまだ伝えていないことが沢山あって、それを颯太がうっかり口を滑らせないか心配だからです。哲平くんの件とか、もろもろ。


「んなの決まってんだろ小林先輩。こいつ、シスコンだから。さっきからうぜー」


シレッと、何故か秋月が沙希の疑問に答える。

い、いや、この場合ナイスタイミングなんですけど……。それはそれであんまりな内容に、つい私は汗を垂らしてしまった。


「まぁね、聞くまでもなかったわ」


そしてすぐに納得した沙希にも、思わず転けそうになる。

ははっ、い、いいんですけどね、知られなければ。

とりあえず私はほっとした。思いがけない秋月からの横やりのおかげで、上手く話が反れたので。でもここで終らせておけばいいのに、颯太は更に沙希へとすがりつく。


「ちげーよ! この野郎がこれ以上ねーちゃんに手ぇ出すのを止めるためだ! 沙希ちゃんからも言ってやってくれよ~。って、秋月、何ねーちゃんの席に座ってんだよ――!」


ハッ! 颯太の叫びで今気付いた。いつの間にか私の席に座っている秋月。何やらニコニコと、私に向かって手招きしているけど……凄く嫌な予感が否めません。


「せんぱ~い! んなとこつったってねーで、俺の膝に来いよ」


はぁっ!?


「何で!?」


今日、免許取得後初めて自車で運転したのですが、さっそく車庫入れでミスしてぶつけてしまい、旦那に怒られました。

でも義姉に「最初はぶつけてなんぼよ!」とフォローを入れてもらえたのでこれからも安全第一に歩行者と自転車保護、そして女は度胸で運転頑張りたいと思います←

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