戸惑う心に忍びよる影⑩
無事に普通自動車の学科試験を合格しましたー!
これからはより時間を有効的に使えると思うので、ガンガン更新できたらと思います。
できたら……がむばる
「一体、どーゆーことだよ!」
興奮状態の弟が私に詰め寄ってきた。
「うっ。ど、どうっていわれても……」
だらだらと冷や汗が流れるのを感じる。
ここは私の部屋。家に着いた途端、私は颯太にガクガクと肩を揺さぶられています。
無理もありません。ついさっき、颯太には私と秋月がキスをしている場面を見られちゃったわけですから。
「一体! 全体! 何で秋月とあんなことになってんだよ―!」
言葉に合わせながら、更に私を揺さぶってくる弟。いや、颯太、そんなに揺らされたら、おねーちゃん喋りたくても喋れないよ。
「ただの後輩じゃなかったのかよ――っ!」
だから颯太、そんなに揺らさないで……き、気持ち悪い……。喋れない、から……。
って、あれ? 何かこれもデジャブ? 前も誰かにこんなことされたような……? あ、沙希でした。初めて秋月と一緒に登校したあと、それを聞いた沙希にされたんでした。
って! 今になって気付いたけれど、この手のデジャブ、みんな秋月絡みじゃない!
思い付いた私は顔を少し赤く染めた。やだ、何だか秋月、どんどん私の身近な存在になっていってる。こんなちょっとしたことでも、そばにいると感じられる程。
そんな私を見て、颯太は逆に青くなる。
「ま、まさか、ね、ねーちゃん……」
颯太の一言は私にとって、これまでにないぐらい衝撃を与えた。ゴクリと生唾を呑み込む颯太。そして、絶体これだけは避けて欲しいと言ってるような顔で、私に向かって聞いてくる。
「あ、秋月のこと……す、すすすす好きになったのか!?」
――ドキッ!
「ち、ち、ち、違う――――――っ!」
慌てて否定しても、もう後の祭。私の心臓が飛び跳ねたのを見逃さなかった颯太は、ガクウッと項垂れる。
「そ、そんなぁ~~」
流石に、血を分けた弟へは誤魔化せませんでした。私が秋月のこと好きになってきてるのを知った颯太は、余程ショックだったらしい。ふらふらと私の肩を掴んでいた手を離し、へたり込む。
そしてボソッと呟いた。
「ねーちゃんが……秋月の……毒牙にかかっちまった……」
「人聞き悪いこと言わないで颯太!」
てゆうか、毒牙って何!? あんたの中で秋月は何なの!?
そう突っ込んでやりたかったけど、あまりにも颯太がショックを受けているので私は赤くなった顔を颯太から背けることで精一杯だった。自分で自覚するよりも、他人に……って颯太は弟だけど、指摘される方がとても恥ずかしいと気付いたからです。
ううっ、何て言えばいいの? 私だって、まさか秋月のことを好きになるなんて思わなかったんだもん。
そんな私に、颯太は更にボソッと言ってきた。
「俺、ねーちゃんはあっくんと……って思ってたのに……」
「え……」
颯太の思いがけない言葉に、私は止まってしまった。構わず、続ける颯太。
「そのうち、ねーちゃんとあっくんが付き合うと思ってた。最後はきっと、ねーちゃんとあっくんがくっついて……。そのままずっと俺たち、一緒にいると思ってたのにさ……」
すっかり眉尻を下げ、とても悲しそうにしている弟。颯太自身、あっくんの幼なじみでもあるし、本当の兄のようにあっくんを慕っている。だから颯太も今まで言わないだけで、私と同じことを願ってたんだね。ずっとこのまま。一緒にいられる関係を。
――ズキンッ
颯太。『それ』はもう、ないんだよ……。
「颯太、今でもちゃんと『幼なじみ』でしょ?」
私は弟に言い聞かせるよう告げる。そして自分にも言い聞かせる。だって、それは変わらない事実であり、また、変えようもない事実だから。
あっくんには私なんかより、別の人がもういるんだから。
「でもさー」
まだ納得のいってない颯太はダラダラと私の部屋にいる。
全く、しつこいです。
「もうこの話は終わり!」と、私は何やら他にも言いたげだった颯太を無理矢理部屋から追い出そうとする。だって帰ってすぐに颯太に捕まったから実はまだ制服のままだし。もう着替えたいんですけど!? いくら弟でも、高校生になってまで目の前で着替える訳にはいきません!
「ほら颯太、さっさと出て行きなさい。着替えるんだから」
とりあえず、今日一番聞かれたくない内容を颯太が思い出す前に追い出さなきゃ。何だかんだで話が反れました。私と秋月がキスをしていたこと。私は頭を切り替えて、ぐいぐいと颯太の背中を押しながら、廊下へと弟をおいやる。でも。
「あー! まだ肝心なこと聞いてねー! ねーちゃん、何で秋月とキスしてたんだよ――――!?」
しまった! 颯太が思い出してしまいました。ううっ。やっぱり、これは避けて通れない道だったみたい。再び冷や汗をダラダラと垂らす私に向き直り、颯太は顔面を蒼白にさせ、仕舞いにはガタガタと体を震えさせながら言ってきた。
「も、もしかして……ねーちゃん。あ、秋月と……!? 嫌だぁ――! あんな野郎を兄呼ばわりしたくねぇ――――っっ!」
頭を抱え、大絶叫をする颯太。ってぇ! 颯太!? 一体どこまで考えが飛んでるの!? わたわたと両腕を振りながら私は慌てて訂正をする。これ以上、颯太が変な想像をする前に誤解を解かないと。
「べ、別に付き合ってないからね!? 本当だからね!? あ、秋月が無理矢理」
「む、無理矢理――――!?」
しまった。別の方向に、颯太の火がついてしまいました。
「無理矢理って……無理矢理って! あ~~の~~や~~ろぉ~~~~~~っっ!」
完全に颯太がキレました。ご近所迷惑にも程があるぐらい、雄叫びをあげています。
「次、ぜぇって~アイツをぶちのめしてやるぅ~~っ!」
「ちょ、ちょっと颯太! 声、声大きいよ! っていうか、違うの。いや、違くないけれど。あ、秋月は颯太が思っている程」
「庇うのかよ!? ねーちゃん!」
ピシャリと颯太に遮られた。
うっ! いや庇うっていうか、普段メチャクチャだけれどいい所もあるのに……。って、庇ってますね。でも、うん、それは本当のことだし。
私はちゃんと颯太に伝えたかったけど、怒りでもう真っ赤になっている颯太は私の声に耳を傾けず、断固拒否の態度を示した。
「認めねー! ねーちゃん、俺はぜってぇー認めないからな! あんな奴!」
あう。今はまだ無理みたいです。極限まで憤慨している颯太にとって、秋月は天敵みたいな感じになってしまいました。
まぁ、前からそんな雰囲気だったけど、私にキスを秋月がしたことによって、更に根強くなったみたい。はぁ~~~~何か障害が……。へっ!? 障害って何!? やだ、わ、私何言ってんの~。
あわあわと焦っている私。そして、真っ赤になって怒っている颯太。
そんな私たち姉弟の下にある意味救世主。でも、ある意味悪魔な人物が、ひょっこりとやって来た。
「お~いあがるぞー。流香? 帰ってるよなー?」
ガチャンと玄関のドアが開く音と共に、聞き慣れた声が私たちの耳に届く。
――ドキィ!
私の心臓はかなり大きく飛び跳ねた。
うそ、こんな時に!? どうして来ちゃうの~。
私は階下よりやって来た人物を、汗を垂らしながら見る。
「よ! どうしたんだお前ら? そんな所につったって?」
あ。あっくん……。
「あ――――! あっくん、ナイスタイミング!」
颯太がこれ幸いにとあっくんにまとわりつく。さっきまでの怒りを納め、若干涙ぐみながらあっくんにすがりついた。
まるで、ピンチの時に現れたヒーローを、待ち兼ねたような雰囲気です。
逆に私は最大のピンチです。秋月とのことがあったあとで颯太に詰め寄られ、丁度あっくんのことも話に出していたし、何よりもあっくんに秋月とキスしたことがバレないか気が気ではないから。颯太はこんな状態だから、口を滑らせかねません! さ、流石にあっくんにまでバレたくない!
必死で今の状況を、どうあっくんに伝えるか頭を巡らせている私。そんな私を他所に、颯太が早速暴露しようとしていた。案の定でした。
「聞いてくれよ! ねーちゃんがさぁ」
「いやぁああ――――っ! 颯太言わないで!」
慌てて颯太の口を塞ぐ。あ、危ない。あまりにもの緊張感で汗がとめどなく流れる。心臓はすでにバクバクと鼓動していて破裂寸前。でも颯太を間一髪止めることが出来て良かったです。ギリギリセーフです。
「ん? 何かお前ら変じゃね?」
そんなはたから見ても明らかに様子がおかしい私たち姉弟に、流石のあっくんも気付いたみたい。
…………………………。
ぎゃああぁ――――――! あ、あっくん、普段は鈍感キングなのに! なんでこういう時に限って、悟いの!?
「どうした? 流香、そんなに慌てちまって」
「な、何でもないよ?」
何とか誤魔化そうと心みる。そして颯太の口を塞ぎながら、明後日の方向を見る私。
でもそれは新しく舞い込んだ試練の始まりでもありました。
い、今気付いたけれど、あっくんの顔がすぐそばに……あ……る。きゃああぁぁぁ――――っっ! 近い! 近すぎるっ!
幼なじみという気兼ねなさから、秋月並みに私の顔を覗き込んでくるあっくん。お願いだから、もう少し離れて! 颯太の口封じには成功したものの、新たな試練に私はもうおかしくなりそうです。秋月といい、あっくんといい。こうも一日で立て続けに、二人から接近されては、私の心臓が持ちません!
そんな私の隙をついて口に当てられた手を退かした颯太は、ムッとした表情であっくんに言う。
「……ねーちゃん、秋月に手ぇ出されてんだよ、あっくん」
ひっ! そ、颯太ぁ!?
私は弟が発した言葉に蒼白する。
隙をつかれたぁ!
だけど、慌てた私はそのあと、あっくんが返した言葉で拍子抜けしてしまう。
「ははっ、知ってる。流香、随分気に入られてるみたいだもんな、秋月に」
そっか。あっくんにはもう、見られてるんだっけ。
私は思い出した。今日、あっくんの所に野球ボールを届けた時、秋月はあっくんの前で抱き着いてきたり、頬擦りしてきたりしたんだった。何か慌てる必要……ないみたい。
私はあっけらかんと言ってきたあっくんにちょっとショックを受けたけれど、この場をどうにかやり過ごせたみたいで安堵した。
そうだよね。あっくんは別に、私が秋月とどんな感じになろうが、気にならないんだから。
ふう、と溜め息をついた私の横で、颯太は大したことないみたいな素振りのあっくんに更に言う。不満たらたらに。
「あっくん、アイツを何とかしてくれよー! 秋月の野郎、マジでねーちゃんにつきまとって、俺、嫌だー!」
思っていたよりもこの章は長くなっておりますが、もう少々お付き合いくださいませ。




