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戸惑う心に忍びよる影③


「秋月、あ、あれは?」


助かったとばかりに、私は一つのゲーム台に指を向けた。それを見た秋月は、意外だと言わんばかりにすっとんきょうな声をあげる。


「え、流香先輩……マジ!?」


あれ、物凄くビックリされている。そんなに驚く程かな? 私が『対戦格闘ゲーム』を選んだの。

自分が知っているゲームをただ選んだだけなのに。

でもそれは秋月にとって、意外中の意外だったようです。


「俺、流香先輩はあっちにある太鼓のゲームか、カーレースか、UFOキャッチャーかと思った」


秋月が視線を向けた先には、確かにそれらしきゲームがある。でも、私はこっちの対戦格闘ゲームの方に興味があるので首を横に振った。


「ううん。私、こっちがいいなぁ。今颯太とハマってるんだもん」


途端に秋月はウケたのか、「ぶはっ!」と笑い出す。


「ハハッ! ギャップありすぎだって先輩。おもしれ~~!」


私のゲーム嗜好に、ツボにはまったらしい秋月。大爆笑してお腹が痛そうな感じにもなっています。

え、だって、技とか綺麗に決まったら気持ちいいじゃない? あれ、違うの? 

思わず私は汗を垂らしてしまう。

え、私が格闘ゲームするのが、そんなに笑う程意外なの!? 

まだ笑っている秋月。私はダラダラと汗が流れてくるのを感じつつ、何か間違えたのかと思い不安になってしまう。女子が格闘ゲーム好きってもしかして変!? って。

私がわたわたと動揺をし始めると、そこでようやく何かを納得したみたいに秋月が口を開いた。


「だよな~。なにげに先輩、凶暴だもんな! ピッタリじゃね? ってイテッ!」

「そうさせてるのはあんたでしょ!」


何でそうなるの!? 

危うく言われもないことを定着させられそうになった私は、秋月に全てをなすりつけた。ギュ~~ッと背伸びしながら秋月の耳を掴む私。きっとこういう行動が秋月曰く、凶暴だと言いたいのかもしれないけど決して違います! 私はそう言いたいです! 

でも私、秋月と関わりあうようになってから確かに手を出すようになってきた……かな。ははっ、認めたくないけど。


ゲームをする前に自分の手の出しやすさにちょっと反省しながら、結局、私たちは対戦格闘ゲームの前にやってきた。まさかこれが。私にとって試練になるとは思わないまま……。


「じゃあ早速やろ? もち対戦で!」

「え、本当にいいの秋月?」


耳を少し赤くさせて、でもニコニコと笑う秋月に私は尋ねた。それを秋月は、


「むしろ全然オッケー! 俺もこーゆーの好きだし」


と言って心よく了承してくれる。でもそのかわりに、ニヤッと突然不敵に笑い出した秋月は、私にある条件をつきつけてきた。


「負けた方は、勝った方の言うこと一つ聞くにするかんな! ちなみに俺、先輩からのチューってことで。絶体負けねー!」


異様に燃え始める秋月。


チ――――――ン。


固まりました私。今なんて言った秋月? 対戦して、負けた方が勝った方の言うことを聞くって言いませんでした? そして、秋月は私からのキスがいいと……。

いゃあああ――――――っっ! 何で!? こ、これは、是が非でも勝たなきゃ! 私が秋月にキス!? ム、ムリムリムリムリムリムリ!


かくして、突如として勃発した対戦格闘ゲームによる、命をかけた戦い。そりゃあ命をかけますよ。無理ですもん。秋月にキスなんて、出来るわけないでしょ!? まだ私の気持ちは複雑に絡まっているのに、そんな心ごと爆発させるようなことなんて出来ません! 秋月がどれだけゲームが上手いのか知らないけれど、あちらはあちらで、私からのキスを絶体勝ち取ると気合いが入りまくりだから油断は禁物。絶体阻止します! 自分で自分の唇を守ってみせます! あらゆる手を尽くしてみせます! 


秋月と私、それぞれがたかがゲーム。されどゲームに変な闘志を燃やす。怒涛の対戦、先取五回勝負。つまりは先に五回勝つことで、勝敗が喫するということです。私たちはスティックを握り、ボタンと画面に全神経を集中させて対戦を始めた。結果は……。


「あり得ね――! 何でそんなに先輩強ぇーんだよ!?」


バンバンッと筐体を打ちつける秋月。五対一で見事。私が完膚無きまでに秋月を撃破させていただきました。


「納得いかねー! この俺が! 喧嘩で負けるなんて……くっそ~~~~っ! 先輩のチューがぁ!」


いやいや、喧嘩じゃなくてゲームですから秋月。相当悔しいのか、秋月はすっかり拗ねてしまった。

は、ははっ。意外に強かった私。颯太以外の人と対戦したことがなかったから知らなかったけど、まさか楽勝で秋月に勝てるとは思いもしませんでしたよ。


「先輩のチュ~。先輩のチュ~~~~」


一通り拗ねたあと、秋月は筐体でうちひしがれていた。かなり……いえ、死ぬほど悔しそうです。まだ言ってる。うん。本当に勝って良かった。試練クリアですね。


「ほら秋月、いつまでも拗ねないの! 次は何をする?」


再戦を申し込んでくる秋月を、「勝負の世界は厳しいの!」と言い聞かせ、今度は秋月がしたいゲームをすることにした私たち。そしてごく自然に、再び秋月に手を繋がれたけど、さっきの対戦でキスを死守することが出来た私は、最初と比べ大分余裕を持てるようになっていました。とりあえず、このまま何とかなりそうでほっとする。ゲームで負けてまだブーブー言ってる彼に私も無理にじゃなく、心から楽しく遊びたいと思うようになってきたから……。


「あ――っ! 次、あれしよーぜ先輩。早く!」


対戦格闘ゲームのあと、他のゲームも沢山やりました。思っていた以上に私が楽しんでいるので、秋月はすごくご満悦の様子。そして、ふと何か思い当たったように、次の遊びに私を引っ張って行く。


「ちょっと秋月、待ってよ~」


秋月に促されるまま、やって来たのはゲームセンターを通り過ぎ、ダーツが出来る場所。


「先輩次これ! ぜってーこれやろ!」


やけに意気込んでいるな~。そして不思議に思う。何で秋月、そんなにニヤッて笑ってるの? 私は微妙に嫌な予感がした。

ダーツって私、やったことがないんだけど? 相手にならないよ? それでもいいのかな~。狼狽える私に、秋月は「まぁまぁ」と言いながらさっさと受付を済ませる。物凄く楽しそう。経験のない私が相手なのに、本当にいいのかな? だけどそのまま、自分たちのスペースに私を連れて行く秋月。


「結構楽しいんだって。俺教えるからさ、先輩もやってみ?」


何回かやったことがあるらしい秋月は、私に持ち方だったり投げ方だったりを丁寧に教えてくれた。まだ不敵に笑っているのが気になるけど……。それでも私は折角だし、ダーツをしてみることにする。

ダーツって針で刺すというイメージがあったから、怖いな~と今まで思ってた。でも実際はプラスチックの先端だったので、私は安心して投げる。


――ヒュッ!


――ストーン


落下。案の定、的に当たりもしない。

む、難しいなぁ~。これはちょっと、苦戦しそうです。ん? 待ってよ? 秋月が浮かれながらここに来たのって、も、もしかして……。

満面な笑顔をしている秋月を見て、私はあることに気付いた。


「先輩、これに勝った人は」

「しません! その手には乗りませんから!」


下手くそな私を見て。よからぬことを企んでたらしい秋月を私は完全に拒否をする。ダーツは絶体負けるから、最初から勝負しないもん。


「っち! 先輩のチュー、チャンスなのに」


私の即答に秋月はブツブツと何か言っている。何か舌打ちが聞こえた気がしたんだけど、やっぱり狙ってたわけ? だからあんなに意気込んでいたの? 私からのキス、諦めてなかったんだね。

本当に油断も隙もない!


実は今運転免許を取ろうとしてて、明日ついに卒検なのですよ。

うわーうわーうわー。

が、がんばってきます。

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