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私はあんたの何なのさ③


「なんていうか……あれは本当に何も言えなかったわ」


遠い目をしながら沙希が呟く。


「………………うん」


私の告白を影で見守ってくれていた沙希も口が開いてたね。見たまんまにポカーンって。


「私も沙希みたいだったら少しでも女として見てくれたのかな……?」


150に満たない低い身長に、未だ中学生……下手すれば小学生にさえ見える童顔っぷりな私。反対に沙希は163センチという私の理想の身長にスラッと伸びた手足。そんなにメイクをしていないのに誰もが振り返るような整った顔。ゆるくウェーブがかかった長くて明るめの髪。何人もの男の子が沙希に告白してきたのを私は知っている。自分の外見のせいにするわけじゃあないけど、神様、不公平ですよ。


「沙希ちゃん可愛いねぇ~。おまけにいい匂いもするし。わぁ~~女の子だぁ~~」

「ちょっと流香? なんかおっさん化していない? 私は流香の方がよっぽど可愛らしいと思うんだけど」


くんくんと嗅ぐ真似をしている私の奇妙な行動に身を捩りながら、沙希は私のコンプレックスをフォローしてくれたけど、私はそれを聞いていないふりをした。


「岡田だってそのうち……あっ」

「それはないよ」


期待を促す沙希はあることに気付いたらしく、言いかけた言葉を途中で止める。

それと同時に私もキッパリと断言した。


「いや、うん……えっと……」


口を濁す沙希。私のためにその先の言葉をハッキリ言わない沙希は優しい。彼女のためにも、いい加減、いつまでもこんなトークを続けるわけにいかないですね。


「よし、部活の時間! もう行かなきゃ!」

「あ、今日演劇部だっけ?」


いきなり立ち上がった私にちょっとビックリしながらも、私に合わせて沙希も明るい声を出す。


「そう! 新入生も入ったことだし、今日はこれからの活動内容のミーティングなの!」


こぶしを天井に向かって突き上げながらやる気を出してきた私に、沙希は優しく微笑んでくれた。


「じゃあ私、先に帰ってるからね」


ポンポンと私の肩を叩く沙希。


「うん! ごめんね今日は……」


今朝のあっくんとのやり取りでため息ばかりついてて……。私は今日一日の反省と謝罪を沙希に伝えた。そんな私に沙希は片目だけを閉じ、可愛くウインクしながら応えてくれる。


「いいって。私にぐらいため息をこぼしなさいな!」


あぁ、沙希。やっぱり持つべきものは親友だね。って、ごく最近、私は似たようなフレーズを言われた気がします。いえ、似たようなじゃあありませんね。ていうか『気がする』というほど、そんなに時間は経っていません。今朝のあっくんじゃあないですか。


「ちょ、ちょっと! あんたまたなにテンション下げてんの? 大丈夫? あ、そっか。部活ってことは……頑張れ流香。今日こそは勝ってきなさい」

「???」


一瞬、彼女の言っている意味が分からなかった私。だけど真摯にこちらを見つめてくる親友の表情と、部活という単語で、もう一つのうなだれる要素を思い出した。

そうでした。今、私にはあっくん以外にも自分の存在を問いかけたい人物がいたんでした。それは幼なじみに対する淡い気持ちなどとは全く別のもの。沙希によるエールから、それがどんなものであるか多少うかがえると思います。


「……うん。あ~~~~~~! もうっ!」


思わず叫びたくなる、ていうか叫びましたが。私は沙希と廊下で別れたあと、部室に向かって歩きだした。沙希が今日こそは勝ってこいって言ってたけど……。それはどうなんだろう。相手が相手なので。






「はぁ~~」


だるい……。

一度一階まで降り、何度か角を曲がって部室に通じる廊下を行く私。東楠高校にはたくさんの部活があるけれど、それらの部室は一つの棟でまとめられているのではなく、無造作にあちこちへ散らばっている。運動部など、ある程度活動が盛んな部活にはちゃんと校庭や体育館に直行できる位置で部室や倉庫が配備されているけど、大抵の中小規模の部活は活動に配慮された場所を割り当てられてなどいなく、適当に空いている教室やスペースを拠点にしているのがほとんどです。

私が所属する演劇部も、そんな中規模部活の一つ。私はそんな校舎の端っこにある部室へ、とことこと進んで行った。


「また今日も……なのかな?」


演劇部での活動自体は大好きな私だけれども、先を予測しようとすればするほど足どりが段々と重くなってくるのを感じた。行きたいけれど、行きたくない。去年までは、部活が始まる放課後が学校に来る楽しみの一つと言っても過言ではないくらい大好きだった。

あっくんのことを忘れられる、貴重な時間だからです。大して目立つような部ではないけれども、部員みんな仲が良く、いつも笑いが絶えない空間。私のコンプレックスである身長と顔も、「それは個性だ! 存分に部で発揮してくれたまえっ!」と、言ってくれた部長のおかげで気にならないで済む。

沙希や他の友だちと一緒にいる以外で心が安らげる場所。

でも、今年からは……。


「せんぱ~い!」


でも、今年からは違う。あいつが演劇部に入ったおかげで一転してしまいました。


「せんぱ~~いっ!」


そうそう。このどこからともなく聞こえてくる、やたら通る声。そこまで低くはないけど、女の私からしたらよく澄んだ低音。それが天井なり壁なり廊下なりに反響して、私の耳へと届く。うん、間違いなくあいつの声です。

やだやだ。まだ部室にも到着していないのにあいつの声が聞こえてきちゃうなんて。どんだけ過敏になってるの。まぁ、今までのことがあるから、神経質にもなってしまうのかもしれませんが。


「ちょっ、せんぱ~~~~~~い! って、聞けよっ!」


あれ? あいつの……声……?


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