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戸惑う心に忍びよる影②

流香と楓のドキドキ初デート回はーじまーるよー


結局私はこのあと、秋月に無理矢理拉致されました。

先日、体育祭のときに気付いた私の気持ち。まだ戸惑っているのに……。


「近くにさ、いっぱい遊べる場所があるからそこに行こ?」


そう言った秋月に連れていかれたのは、解散した公園から少し歩き、賑やかな駅前の近くにあるアミューズメントパークだった。私はさして興味なかったから、今まで行ったことがなかったんだよね。でも今回は秋月によって華々しくデビューです。


地元でも有名なこの場所はゲームセンターはもとより、ボーリング場に卓球、ダーツやビリヤードなんかも完備。果てはフットサルやバスケが出来るスペースもあり、二、三年前に建てられた若者に人気のスポット。交通の便もいいので、カップルオススメのデートコースでもあります。

そう、デートスポットなんですよ……。


「へへっ。先輩とさ、ここで遊びたかったんだよな。ヤベェ~! マジでデートだ!」


ニコニコと嬉しそうな秋月をチラッと見た私は、見られないように一生懸命赤い顔を隠す。『デート』という単語。前までの私だったらさして気にもせず、秋月に「違うでしょ!」と突っ込めたんだけど今はそうじゃあありません。

体育祭のときに気付いた私の気持ち。秋月を好きになってきているという事実が、私の体をガチガチに固まらせている。


「……先輩。手と足、同じ動きしてっけど歩きにくくね?」


うっ! 秋月に指摘されて、私は自分の手足が同時に動いていることに初めて気付いた。

やだ、何緊張してるの私! ただ一緒に遊ぶだけじゃない! そうそう、後輩と一緒に。秋月と一緒に遊べて嬉し……って違う――――――っ! 嬉しいだなんて、そ、そんな! 

秋月の目の前で、動揺しそうになったのを何とか堪えました。


「ちょっと『くるみ割り人形』の練習を。次の演目、私、人形役だから!」

「へ? あぁそっか。先輩スゲー勉強熱心じゃん。さっすが」


うっそ、信じちゃいました秋月。私の手と足が一緒になっている理由、そんなわけないじゃない~。

我ながら苦しい説明。演劇部に所属しているからこそ、成り立つ理由ではあるけれども。

でも不思議そうな顔をしていた秋月を何とか誤魔化すことに成功した。そりゃあ、手も足も同時に出ますよ。なんていったって、秋月に私の気持ちがバレないか気が気じゃあないんだから! 

まだ知られる訳にはいかない、私の気持ち。だって整理ついてない私の中で今、二つの感情が物凄くぶつかり合っている。

どうしたらいいの……これ。秋月と二人きりになりたくなかった。

本当に今は勘弁してほしいんです。自分の思考と感情が複雑に絡まっている今の私は、ちょっとしたことでも混乱してしまう。戸惑いまくりだもん。


なぜなら私、まだあっくんのことが好きなんです。あっくんを思うとドキドキも未だにします。小さい頃からの私の願いである、あっくんとずっと一緒にいたいというのも健在です。

でもそこに、秋月へのドキドキも混ざり合ってきておかしくなってくる。あっくんとずっと一緒にいたい。彼のそばにいて、これからを過ごしたいと思っている。

だけど、秋月と一緒にいると一番安心する。そばにいて、味わったことがない感情に満たされているとも思っている。

二つの感情が、私の中でせめぎ合っているんです。私の胸中は今、その真っ只中。

かたや大切な幼なじみ。かたや大事な後輩。二つの思いの狭間で、私は秋月に対してどう接すればいいのか分からなくなっている。


「お、ひっさしぶり~」


そんな私とは裏腹に、楽観的な声を出す秋月。私があれこれ考えている間に、秋月と私はすっかりアミューズメントパークの中に入っていた。

き、来ちゃった……。何とかこの場をうまく切り抜けなければ! 混乱している私の感情を、秋月に悟られないようにしなくちゃいけない。だってもし秋月が知ったら……嫌じゃない? 中途半端なんだもん。秋月は私のことを、好きでいてくれてるんだから。

必死になって私は自分を落ち着けさせる。ただ遊びに来ただけ、と自分に言い聞かせた。後輩と遊びに来ただけと。


「先輩、まず何からやる? 始めてなんだろ? 俺、案内するからさ、何かやりたいものがあったら言って。思いっきり遊ぼうぜー!」


ぐるぐると頭を巡らせている私を、秋月はいつになくハイテンションで誘う。何を考えているのか聞いてこないあたり、私がただ恥ずかしがっていると思っているみたい。その対応にちょっと救われた。満面な笑顔の秋月。凄く嬉しそう。デートとか言ってたけど、純粋に私と遊びたいだけなんだね。「あれは?」「これは?」と聞いてくる秋月に、私は少し緊張の糸がほぐれた気がした。

よくよく考えてみれば、私の気持ちに秋月は気付いていないんだ。だから、何も緊張することはない。今まで通りにしてればいいと、更に自分に言い聞かせる。戸惑っている私の気持ちは、こればかりは私の問題だし。

今はただ、遊ぶ事に集中することにしよう。折角来たんだしね。私とただ遊びたいだけの秋月に、申し訳ないもん。

よし、遊ぼう! 遊ぶぞ! 

意気込む私に、秋月はそっと優しい微笑みをかけてくれた。ちょっと今まで大人しかった私が、意気揚々とゲームセンターの方へ進んで行くのを追いかけてくる。


「あ、流香先輩!」


急に私は秋月に手を握りしめられた。え、な、なに!? ドキンッと波打つ心臓を、何とか平静に保った私。


「ちょ、ちょっと秋月! 何で手を繋ぐの!?」


ついさっきまで言い聞かせた言葉が無残にも散る前に、私は秋月に『いつも通り』の反応をしてみせる。すると、秋月はニヤッと笑いながら私に言ってきた。


「人多いからさ、ちっせぇー先輩を見失なわないようにしないとな! 迷子の呼び出ししなきゃならねーじゃん?」


今、ちっせぇーって言いました? 迷子って言いました? おのれ秋月! 人のことバカにして――――っ! 

私は躊躇いもなく、秋月の足を踏んだ。いつものように私をからかってきた秋月。良かった。秋月がふざけたたヤツで。これなら私、大丈夫そうです。今日も明日も明後日も乗り越えていけそうです。全く! どうせ私はチビですよ! 高校生に見えませんよ!

プンッと膨れた私に、秋月は「冗談だっつーの」と言いながら、それでもシッカリと手を握ってきた。途端に少し赤くなる私。ちょっと。本当にちょっとだけ、秋月に手を握られて嬉しくなってしまいそうになりました。

いけない! 油断も隙もないじゃない! 

慌てて私は何かで気を紛らわそうと辺りに視線を配る。途端に、家にもあるゲームが私の目の中に飛び込んできた。


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