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嵐を呼ぶ男と体育祭⑧



□□□□□□□





「え、私たちの出会い?」


体育祭も午前の部が終わり、昼休みになった今、私たちは屋上で一緒に昼食をとろうとお弁当を広げている最中。

そんな中、私に智花と柚子がせがんでくる。


「そう! あんたたち、どうやって出会ったの? てゆーか、秋月楓は何で演劇部に入ったわけ?」


私の隣をちゃっかり確保している秋月を見ながら、智花は聞いてきた。それを秋月がニヤッと笑って答える。


「流香先輩に逆ナンされたから」

「はぁ!?」

「えぇ!」

「なっ!」

「マジッ!?」


その場にいるみんな。沙希や智花、柚子、そして私とお弁当が一緒の颯太がそれぞれ奇声をあげている。な、何を言ってるのコイツは! みんな余りにも予想外でビックリしてるよ!


「ち、違うでしょ秋月! 誤解を招くような言い方しないで!」


私は慌てて訂正した。


「新入生歓迎会のとき、部活勧誘しただけです! しかもあんただけじゃあありません! 私は他の一年生にも声をかけましたから!」


「な~んだ」とみんなが一斉に嘆息した。え。何そのつまんないみたいな顔は。颯太だけはホッとしたような表情だけれども、沙希までもが不満そうな表情をしている。


「何だよ先輩。ある意味そーじゃん。つーか俺、ぶっちゃけそのとき流香先輩に一目惚れ?」

「はいっ!?」

「はぁ!?」

「えぇ!」

「なっ!」

「マジッ!?」


今度は私も交えてみんなが奇声を発する。

え! 何それ、初めて聞いたんですけど! どういうこと秋月――! 

確かあのとき、私は演劇部をアピールするため部長によって無理矢理着ぐるみを着せられて……。


「猿の格好した先輩、スッゲー可愛いかった! あれ『桃太郎』のコスプレをしてたんだよね?」


そうです。確かにあの時の私は、桃太郎に出てくる猿の格好をしていました。あ、因みに桃太郎は部長がしていたけれども。なんでそんな姿の私に……?


「『ウキィ!』っつってたんだぜ!? 『ウキィ!』って! あれはヤバかった。ど真ん中きたわ俺」


思い出したように「くっくっくっ」と笑っている秋月。

えーとつまり、秋月はそんな間抜けでアホなことをしていた私に一目惚れしたと……。って! 何それ!?


「あ~、確かにあれはど真ん中にくるわ」


いつの間にか沙希もお腹を抱えて笑いを堪えている。智花と柚子も思い出したらしく、口に手をあてて笑っていた。颯太だけが見ていなかったらしく、私たちの会話の蚊帳の外になって拗ねているけど。


「お前バカじゃねーの? そんなねーちゃん見てどこに惚れるんだよ!?」


あ、拗ねた颯太が秋月に八つ当たりしました。でも、秋月はまるで「信じらんねー」と言いたげに、颯太に向かって口を開く。


「バカはテメーだ。あれ見てねーの? 先輩の弟のくせに見てねー方がおかしいだろ。先輩の魅力が全部詰めらてたっつーの! ……可愛いかったなぁ~あのときの先輩」


うっとりと思い出したように最後を呟いた秋月に、颯太は怒りを通り越して呆れたようです。うん、私も呆れています。本当に、そんな私を見て何で好きになったんだろう……。あ、でもだからかな? 秋月が演劇部に入ってくれたの。私に一目惚れして、私目当てで演劇部に入っ……て……。って! や、やだっっ!


「あれ? 先輩~、顔赤ぇーよ? どーしたんだよ~」


秋月が演劇部に入った経緯を思いあたって、顔を赤くする私にツンツンと秋月が頬をつついてる。まるで私が考えている事を見抜いたかのように、面白そうに私の顔を覗き込む秋月。そして、ニヤッと不敵な笑みを浮かべながら、秋月は私の耳元へ囁いてきた。


「当たり。俺、劇部に入ったの先輩目当て」

「きゃあああ~~~~っ!」


甘い囁きに、思わず私は大絶叫をあげる。何を! 何を言ってるんですかコイツはぁ~! 不謹慎にも程がある! そんな理由で部活に入ったの!? だから、……だからですか! 私にあれだけちょっかい出してきたのも。からかってきたのも。私に気があったからこそ!? いやぁ――――――っっっ!


「うぅ、颯太ぁ~……」


恥ずかしくなった私は、秋月とは反対側に座っていた弟へ、助けを求めるかのようにしがみついた。いえ、実際に助けて欲しいです。その光景を見た秋月は、いささか不服そうに口を尖らす。


「先輩、逆々。俺こっち。俺にしがみつけよ」

「アホかぁー! そんなこと言われて、そっちに行くはずないでしょ!? バカ――――ッ!」

「可哀想に流香ぁ~。セクハラ秋月よりも、私と弟くんの間においで」


私が相当焦っているのを見た沙希が、助太刀してくれた。うわぁ~ん、沙希~~。


「小林先輩。俺から流香先輩を取ろうとすんな!」

「黙んな秋月! 流香はまだまだ私らのものなんだよ! ね? 弟くん!」

「そーだそーだ! 沙希ちゃんの言う通り! この野郎~秋月、調子にのんな!」

「テメーら二人共、俺に喧嘩売ってただで済むと思うなよ!」


あれ。何か当の私を放置して、三人がヒートアップしてきた。火花が通常よりも倍です。颯太一人分、多い感じです。ちょ、ちょっと三人とも~。智花、柚子! ど、どうしよ~~?


「いやー、話を聞けてスッキリ。これはこれで面白いね柚子さん」

「そ~だね~。三つ巴の戦いだね~智花さん」


あれれ。こちらはこちらで何やら楽しんでいる様子。三人を止める気はさらさらありません。むしろ、「もっとやれ!」と煽っています。ヒィ~~ッ! 何でこの状況に対して、すっかり順応しているの!? 


もう昼休みまでドタバタです。メチャクチャです。でも、智花と柚子じゃないけれど。私も正直、こんな光景が大分、当たり前のようになってきました。慣れって怖い。

すっかり立ち上がって、ギャーギャーと騒いでいる秋月、沙希、颯太を見た私は、「これも平和な一時なのかな?」と思ってしまえるようになりました。

うん、でもとりあえず三人を止めておこう。まだまだ体育祭は続くからね。





お昼を経て、午後の競技が始まりました。午前の部と違い、ここからは体育祭のメインイベントが目白押しのため、学校中が興奮状態になります。応援団による応援合戦に、各軍団選り抜きの女子によるダンス、男子による騎馬戦。

そして、学年別リレーに軍団対抗リレーと息もつかせません。そんな所へ、秋月がぽそっと。


「流香先輩のダンス見たかったなー。何で出ないの?」


進行表を見ながら、私に向かって残念そうに尋ねてきた秋月。だって、それは……ね?


「よく見て秋月」


派手な応援合戦を繰り広げている校庭から視線をずらし、私は入場口で次の競技をスタンバイしているダンス参加者に指を向けた。


「私には無理だよ。ダンスはそれこそ、選び抜かれた女子がやるからね」


秋月も視線を入場口へと向ける。そこには、各学年屈指の美少女たちが華を咲かせていた。こんなチビで、童顔の私が入れるわけないじゃないの。身の程知らずですよ。それこそ、入場と共に男子から野次が飛びまくりですよ。中学生が紛れこんでるぞーって。あ、なんか自分で言ってショックを受けました。

――ガクゥ


「えー、流香先輩もイケんのになー。でもいいや。他の野郎に先輩の姿晒されんのヤダし!」


それ、本気で言ってるの? いやいやイケてませんから私。他の人に晒されても素通りが関の山です。お世辞にも程があるよ秋月。

どちらかというと、あんたが騎馬戦やリレーに出なくて、ガッカリしている女子が沢山いることに気付いてる?

でも、本当に私がダンスに出なくて残念そうにしている秋月。まだ少しだけブーブー言ってます。ダンスで着るミニスカート。あ、勿論、その下は別のを履いているけど。可愛いレース付きの衣装を私が着るのを、見て見たかったらしい秋月。それに私はちょっと顔を赤くする。そんなのを見たいんだと、恥ずかしくなりながら……。


「ほら秋月、つまんなそーな顔をしないの! 沙希たちは出るんだから、応援しよ?」


ダンスには沙希、智花、柚子が出場する。沙希はもとより、実は智花や柚子も男子から密かに人気があるのを私は知っています。たま~に、私に彼女たちについて聞いてくる人がいるからね。本当に三人とも、何で私の友だちをやってるんだろうってぐらいです。周りから見れば月とスッポン。美女に珍獣。我ながら、妥当なたとえが出てきたと思います。

でも誇らしい。そんな友だちを持てて。だから、一生懸命応援するつもりです!


だけれど俄然競技に興味が無くなったらしい秋月は、校庭からすっかり視線を離し、私の髪をいじっている。って! 何してんの秋月!?


「流香先輩の髪、柔らか! ねぇねぇ、みつあみとかしていい?」


人で遊ぶな――――っ! 私は沙希たちを応援したいのに! 何なんですかあんたは!? 応援する気ゼロなわけ!? どうして私の髪をいじってるの!! ……うわぁ~~。また、周りの視線が痛い気がします。特に女子からの視線が。痛いです。物凄く私、痛いです。「なんであの子、あんなに秋月くんに構われてるの~?」って目で見られてます。

秋月には本当に困ったなぁ。少しは体裁を気にしてほしいです。コイツは自分がモテてるって自覚はあるくせに、女子の視線は気にしていない。むしろ、どうでもいいとさえ感じる。現に、同学年の女子生徒たちがチラチラとこちらを見てきているのに、それを気にせず秋月は私の髪をいじってる。


例の私の嫌がらせの件で秋月が暴れて以来、少し怖さも混じったらしく、以前にも増して一層近寄り難い存在となっている秋月。いつか私が教室で気になった、秋月見たさのギャラリー消失はそのせいだと、この前沙希に聞いたっけ。

でも見た目は抜群に良いから、それでも気になっているようです。チラ見してくる女子の多いこと多いこと。どうしたらいいんですか私。今度言ってみようかな? 人前であまりベタベタしないでって。あ、無理ですね。そもそも周りを気にしてないから、私にちょっかいかけてきたんだっけ。

はぁ~~~~っ。このセクハラ魔王め。


「お、スゲー俺! 先輩、見て見て!」


ハッ! 考え事していてすっかり忘れてた。秋月が私の髪をいじるのを止めていなかった!


「……って、何これ?」


私は自分の鏡で見てみる。鏡の中の人物は間違いなく私。だけど、そこには見知らぬ私がいた。頭が思いっきり爆発している。ところどころ、みつあみはされているけど、いやに余計な髪の束がツンツンとあちこち無造作に結ばれています。

何? 新手の原始人? もしくは新種の芸人ですか? 顔芸ならぬ髪芸ですか? おかし過ぎるぐらい変な頭。私の頭からにょきにょきと髪の束が生えています。ってゆーか、ゴムはどこから調達してきたの?


「みつあみにするんじゃあなかったっけ?」


誰か私の疑問に答えて下さい。彼は確かにそう言いましたよね?


「それだけじゃーつまんねーからさ、どこまで結べんのかな? ってチャレンジしてみた! 新たな先輩発見!」


自分がやり遂げたことに満足している秋月。うん、知らないね。私も知らなかったよ、こんな自分……。って! ふざけないでよ――――っ! そして、スマホで撮らないで! 


私は急いで全部のゴムを取り外しにかかった。一体、いくつ結ばれたのかと思う程の大量のゴムが私から外される。聞けば、このゴムは私のクラスメートの女子が快く貸してくれたそうで……。

秋月は「もったいねー」とか言ってるけど、うるさい! 早く取らないとクセがついて、大変なことになっちゃうでしょ! さながら科学の実験で失敗したような頭になっちゃうじゃない! 

あ……。も~~~~~~、沙希たちがダンスに出ているのに、結局見れなかったじゃない! 応援したかったのに……。ごめんね、みんな。


遠巻きに、私と秋月を見ている人たちが羨ましそうにこちらを見ている。良ければ代わりましょうか? むしろ代わって下さい!


楓の思考は時として作者である私にもわかりません←


冗談はさておき、楓が流香に恋した瞬間はもっと具体的にあるんですけど、それはおいおい明らかにしますので、どうぞお待ちくださいませ。

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