嵐を呼ぶ男と体育祭⑦
――ドン!
――ドン!
体育祭の開会を知らせる音が校庭に鳴り響く。
朝、ちょっと一騒動があったけれど、何とか無事に……いえ、颯太は結構グッタリしているけれどとりあえず、学校に着いた私たち四人。
一先ず、学年ごとに校庭で並ばなければいけないから、それぞれが教室へカバンを置きに行く。私は沙希たちと合流して足早に校庭に向かった。
いよいよ体育祭です!
「……で、何であんたがここにいるの秋月」
開会式も終わり、校庭の応援席についた私は着席した途端、私の横に堂々と座ってきた秋月に汗を垂らす。それを秋月は、あたかも当然だと言いたげに、シレッと返してきた。
「だってさ、一日中先輩と一緒にいられる機会ってねーじゃん? 俺が見逃すか!」
ここ、二年生のスペース! あんたは一年! 何で平気な顔してここにいるのあんたは~。
普通、上級生がひしめく場所で下級生は怖じけづいて来れないでしょ! 大した度胸ですよ。キラキラと嬉しそうに輝く秋月の笑顔に、私は溜め息をついた。朝のエネルギーがもう無くなりそうです。弟と同様、一気にグッタリとしてきました。
「いいじゃない流香。私らは構わないよ」
私の肩にポンッと手を乗せてきた智花が言うのと同時に、他のクラスメートからも「いいじゃん!」という声があがった。どれだけみんな、寛大な心を持っているんだろう……。
「だって~、流香と秋月くん見てると面白いんだも~ん」
――ズルッ
思わずずっこけました。何やらウキウキと楽しそうに私を見て言ってくる柚子に、誰もが「うんうん」と賛同している。って、えぇ!? つまりはそういうことですか!?
「じゃあ先輩、みんなの期待に応えよーぜ! あ、ベタベタしてもいい?」
「いいよ~。むしろ、どんどんして~」
何で柚子が答えるの!? 普通、私が答える場面じゃあないんですか!? そして何を聞いているの秋月! てゆーかしませんからぁ! ベタベタだなんて~~!
「ダメだね。それは私が許さないよ秋月」
ズバァッと沙希が話の中に入ってきた。さ、流石、沙希。親友だぁ~。私の味方は今や、一丸となって秋月を援護するみんなと違って、沙希だけだよ~~。
「私が! 流香にベタベタするんだから!」
――ガクゥッ
え、そっちなの沙希ちゃん。あぁ~。また、沙希と秋月がバチバチと火花を散らしてるよ。
今年の体育祭は、色んな意味で荒れそうです。すでに競技が始まった中で、私は一人うなだれた。いいんですかこれって。本当に秋月がここにいてもいいんですか先生? あれ。もうすでに、担任の先生が諦めた顔をしている。
WINNER秋月。メチャクチャだよ秋月……。
「よっしゃ! 先輩、見てて? 俺、今日は流香先輩にいいとこを見してやっから!」
東楠高校の体育祭は、学年ごとにクラス同士が連合を組んで行なわれます。各学年が七クラスまであるから、一から三までのクラスは赤。四、五クラスは青。そして六、七クラスが黄色といった具合に、色ごとに軍団として編成されてるといった感じですね。
幸か不幸か、私と秋月は同じ青軍団に所属。「優勝を青軍団に!」という応援団の掛け声とともに、秋月が意気揚々と入場口へ向かっていった。私は手元にある進行表を見てみる。
「えっと、次は『軍団対抗:借り物競争』……ね」
何か秋月には似合わないなぁ~と思った。それこそ、体育祭の花形である短距離か騎馬戦、リレーなんかが秋月の容姿からして似合いそうだけど……。
“んなことしたら忙しくて先輩と一緒にいられねーじゃん”
と秋月に言われてしまいました。ははっ。何とも言えず、こそばゆくなる私。秋月は本当に、私のことを思ってくれているんだなぁ、としみじみと思う。そして、考えてくれていることも……。
「流香? 何か顔が少し赤いよ。どーしたの? ほら次、秋月の番!」
沙希に言われて、私はハッと進行表に落としていた視線を校庭へと移した。そこには丁度、スタートラインに立つ秋月がいる。
「位置について、よーい――パァン!」という合図とともに、一斉に他の生徒と駆け出す秋月。
そして借り物が書かれたメモを開いて、何故か知らないけど物凄い勢いでこちらに………来た? はい!?
「先輩! 俺と一緒に来て!」
「え? え? 何で?」
秋月に腕を掴まれ、無理矢理立たされる私。え? 借り物って普通『物』じゃないの? 何で私? ほら。周りを見てみても秋月と同じレースに出ている人たち、あちこちからボールだったり、ペットボトルだったりを探して持っていってるし……。沙希たちも、秋月の行動に意味が分からないって表情です。
「いいから!」
グイッと私は秋月に引っ張られて、そのままゴール地点まで連れて行かれた。
本当に、メモには何が書かれてたの秋月? すっごく楽しそうに笑ってるし。でも、他の生徒たちの目が痛いんですけど~。え、何、あの人たちって見られてるよ~~。
そんな視線にさらされた中、見事一着でゴールした秋月と私。そして私は、メモに書かれた内容を知らされることになる。審査するため、秋月のメモを見た先生が、何やら溜め息をつきながら言ってきたのが発端です。
「秋月……。先生たち、あくまでも『物』のつもりで言ってるんだけどなー?」
「せんせー。でも俺、この人が一番っす」
呆れている先生に、秋月はシレッと答えた。それを先生が再び溜め息をつきながら、今度は私の方を見る。
「二年の……真山だな? 気をつけろ。秋月と二人っきりにならないようにな?」
え、何でですか先生? 何でそんなに心配そうに見ているんですか? どうして……って。あ、先生が私にメモを見せてくれた。すかさず渡されたメモを見てみる私。
……っつ……。な……な、な、な……何!?
私はここでようやく、秋月が何で私を連れて来たのかが分かりました。
『今一番欲しい物』
「俺、一番欲しい物は流香先輩だから。身も心も全部、俺に頂戴? って、いでっ!」
私は顔を真っ赤にさせながら、思いっきり秋月を蹴った。そうですよ! 蹴ってやりましたともさ! メモの内容を知った周りにいる大勢の生徒たちも、私につられ真っ赤になる。恥ずかしい! ヤダ! 何を言ってんのコイツは~~っ! こんなに人がいる前で!
秋月が私の事を考えてくれている? いいえ。考えていません! 私は先ほど、秋月に対して思っていたことを撤回した。コイツはほぼ! 己の欲に忠実なだけですっ!
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「あははは! あ、秋月か……楓、あんた……ぶふっ! 最高だよ!」
真っ赤な顔をしながら帰ってきた流香に、全てを聞いた智花は大爆笑している。同様に柚子もお腹を抱えて、息が苦しそうにしていた。
「く、くっく……、お、お腹痛い~。ぷっ! あ、秋月くんは本当に流香が好きなんだね~」
「うん好き。メッチャ好き。これでもか! ってぐらい大好き」
照れた様子もなく、秋月はシレッと答えながら校庭を見つめる。今度は流香と沙希が競技に出るので、応援席の最前列を陣取っている秋月に、また智花と柚子は笑い出した。
「えーと、次は『障害物競争』か。大丈夫かな流香」
同年代と比べて一回りも小さい流香に、智花は少し心配した。怪我が治ったとはいえ、色々と動かなければならない障害物競争が、体の負担にならないかちょっと気掛かりだったからだ。
「う~ん、流香はもう大丈夫って言ってたけどね~。もしあれだったら止めに行こうよ~」
柚子の提案に智花は同意する。でも、それは二人の杞憂に終わった。流香の出番となり、スタートしてからの流香は持ち前の小柄さで、次々と障害をものともせず攻略していく。
「小さいのが功を奏したね。網抜けなんて、体のでかい奴がからまってるよ」
ホッと安心する智花。
「良かったぁ~。平気そうだね~」
柚子も大丈夫そうな流香に安堵し、小回りを効かせている流香を一生懸命応援した。
「せ、先輩……可愛い~。はぁ~~、ちっちぇ~~。ちょこちょこしてるぅ~~」
「………………」
「………………」
目が点になる智花と柚子。そして「ぶっ!」と再び吹き出した。「ふぅ~」と甘い吐息を漏らしながら、流香の活躍にうっとりしている秋月の姿が滑稽だからだ。
「流香って、背が低いことをコンプレックスに感じているみたいだけど~、そんなことないよね~?」
柚子はニヤニヤしながら智花に聞いた。
「だよねー。ここにヒットしている奴がいるし」
智花も顔をニヤつかせながら柚子に答える。でもそのあと、ハタッと気付いた。
「そーいえば、秋月楓っていつから流香のことが好きなのかな?」
「さぁ~? 今度聞いてみる?」
今までの経緯から、聞けば答えてくれるだろう。特に秋月あたりが。でも当人同士のことだし、聞いたら不味いかどうか思案している智花と柚子。まだ付き合ってもいないんだし、根ほり葉ほり聞くのは不粋なような気がするからだ。
「うわ~~~~~っっ!」
突然、秋月が叫んだので競技から目を離していた智花と柚子はハッと秋月と校庭を見た。流香に、何かあったのかと思ったからだ。
「………………」
「………………」
再び目が点になった智花と柚子。そして、何のことはないと感じた。
競技の最後の障害。宙吊りにされているパンを口に食わえる場面で、流香がぴょんぴょんと必死に飛び付いている。でも背が低い流香には届かないらしく、次から次へと追い抜かれてしまっていた。仕舞いには同じレースの参加者が見かねて、流香が届き易いようにパンを下げてくれている始末。
そんな流香に、秋月は身悶えている。
「ヤベーヤベー! 可愛いすぎる先輩! 届いてねーよ、跳ねてるよ! ぴょんぴょんって何だよ!? ぐっはぁ~~たまんねぇ~~っっ!」
流香の行動にクリーンヒットしたらしい秋月。そしてそんな彼の周りから、ハートマークが散らばっているような錯覚さえ見えた気がする智花と柚子。
「あはははははははっっ!」
「きゃははははははっっ!」
これは何が何でも聞くしかない! 流香と秋月の馴初めを!
大爆笑しながら智花と柚子は、まだ流香にヒットしている秋月を見て思った。二人がどんな風に出会ったのか、聞かなきゃ気になって夜も眠れないからだ。
恋愛ものを書く時、馴れ初めって結構重要だよなー、と個人的に思っているんですけど、相手を好きになるのに理屈なんていらないって言葉も聞きます。
なんていったってハリケーンですから(笑)
どう恋に発展させるか?
それが恋愛ものを考える時楽しいですよね♪
ちなみに子どもを寝かしつけている時が私の考えるタイムです。
横で変な妄想ばっかりしている母でごめんよ。




