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嵐を呼ぶ男と体育祭④






「随分と派手にやられたな真山」

「!?」


私と秋月だけの教室に、別の誰かが声を出した。


「部室の前で声がしたはずなのに、なかなか入って来なかったのはそのせいか。秋月、とりあえず落ち着け」


しっかりとした声音が秋月をいさめる。そして教室の中へと足を踏み入れ、ドカドカと私たちの前に来たのは、演劇部部長の藤堂先輩でした。


「部長!?」


秋月が声をあげる。「何でここに」という秋月の質問に、部長はサラッと言う。


「何やら大きな音が二回したんでな。気になった。お前たちだけ、まだ来ておらんし。……どれ、見せてみなさい真山」


淡々と部長が私の傷の具合を見る。良かった、部長が来てくれて。秋月も動揺してるし、私も、実際にこの後どうすべきか考えられない程クラクラしてきたから助かりました。


「ふむ、傷はそれほどでもないが出血は酷いな。秋月、そのまま押さえていろ」

「は、はい!」


部長の指示に従って、再び私の頭を押さえる秋月。凄いなぁ、流石部長。秋月を使ってるよ。

私は呑気にもそんなことを思った。いつでも冷静な部長。おもむろにスマホを取り出し、電話をかけ始める。


「そうだ、保健医を連れて来い。あと、職員室へ行って救急車かタクシーを呼んで貰え。至急だ。それから真山に着替えも持って来い」


どうやら演劇部の誰かに連絡を取ったらしい。でも、スマホをしまう様子を見て私は部長の指示に驚いた。

え、職員室に、救急車……? そんなことしたら大袈裟になっちゃうんじゃあ?


「ぶ、部長」

「先輩、動くなよ!」


秋月が止めるのにも構わず、私は部長に向かって口を開く。


「そ、そんな、救急車だなんて……」


私が言いたいことを汲み取ってくれたのか、部長は私を手で制し、静かに言葉連ねる。


「真山、相手方を気にかける必要は無い。これは犯罪だ。それ相応の対処をしなければ、またお前に行くぞ」


ピクッと秋月が反応した気がした。そしてポソッと呟く。


「また……」


秋月の声には気付かなかったのか、部長は更に私に向かい、分厚い眼鏡を人差し指で上げ告げてくる。


「大事な部員にこれ以上、傷付けられてはこちらも損害だ。今、この現状を利用しなければ次はどうなる?」


次。次が……あったら……? 

何も言えません。部長の忠告に、私は何も返す言葉がなかった。次があったらと思うと、恐怖で再び体が震え出す。秋月が来てくれなかったら、私はあのあとどうなってた? それがまた……起こるの……?


「先輩、今度こそ……守るから……」


ガタガタと肩を揺らす私に、秋月がそっと呟く。見てみると、すっかり動揺が消え真剣な視線を私に注ぐ秋月がいた。もう、同じ過ちは繰り返さない。そう言いたげな面持ちだった。途端に、私は何だかホッと安心感を覚える。秋月が傍にいる。一緒にいてくれる。不思議なことに、ただそれだけで私は震えが止まったんです。なんだろう? この感じは。


「まぁ」


私たちの様子を見ながら、部長は「ふぅ」と息を吐く。


「大分、秋月が暴れたみたいだから、暫くは大丈夫だろう」


教室を見渡しながら嘆息する部長。


「…………うっ」


バツが悪そうな秋月。彼が冷や汗を垂らしているのを、私は頭をふらつかせながらも見逃さなかった。

吹き飛ばされたドア。そのドアの衝撃によって、ひっくり返っている数々の机と椅子。蹴られた机と椅子もあります。そして壊れた机。あ、壁もへこんでる。大惨事のあとです。うん、当分ないかも。


そのあとはちょっとした一騒動。

部長がジッと、ボロボロの私の姿を見てる事に気付いた秋月が、「わぁ! ダ、ダメっす!」と私にしがみついてきたり。

「それはあんたも!」と私が突っ込んだり。

駆け付けた保健の先生と担任の先生が、そんな私たちを目撃したり。

演劇部のみんなも集まって、一斉に悲惨な教室内を見て騒いだり。

「男は出てけ!」と女子部員が男子を追い立てたり。

それをなかなか出て行かない秋月が、部長に引きずられていったり。

「本当に秋月くんは真山さんのことが好きなんだね~」と言われたり。

え、演劇部のみんなも気付いていたの!? と、私が驚いたり。

部活中だった颯太にも連絡がいったり。

そしてその颯太が弾丸の如く駆け抜けて来て、そのまま勢い余って転んだり。

だけどムクって起きたかと思ったら「ね~ちゃ~~ん! 死ぬなー!」と何か勘違いしていたり。


その後、病院に行くまでエトセトラ。語り尽くせません。もう、メチャクチャな状態でした。





□□□□□□□





「秋月……こちらへ来い」


流香が応急処置と着替えを手伝って貰っている間、藤堂は楓を手招きして部室に誘った。


「何すか? 部長」


流香のそばから離れたくなかったが、藤堂が妙に深刻な表情をするので、楓は仕方がなく着いて行く。そして部室に入った途端、ピシャッとトビラは閉められた。誰にも話を聞かせないらしい藤堂。そんな藤堂の態度にいぶかしがる楓は、とりあえず、彼の口が開くのを待った。


「お前、今日生徒指導に呼ばれたそうだな?」


分厚い眼鏡を押し上げながら、藤堂は楓に聞いた。


「……すんません」


藤堂が何を言いたいのか感付いた楓は、少し間を開けてから謝罪する。


「困るな。あわよくば部活停止の処分までくらうぞ。……暴力沙汰は一番、停止の恐れがある」


何も言えない楓。確かに、今日流香を迎えに行けなかったのは校内で暴力沙汰を起こし、生徒指導室へ呼ばれていたからだ。藤堂は、そのために自分を部室へ呼んだのだと楓は思った。

しかし。


「真山のためとはいえ、脅したんだろう? 真山に嫌がらせをした者たちを。一枚、硝子を割ったそうじゃないか」

「っ!? 何で、部長が知ってるんすか?」


楓は驚愕した。何故なら自分が今まで流香のために、嫌がらせを止めるためにした『手段』を、藤堂が知っていたからだ。


「聞いているのは俺だ、秋月」


さしもの楓も、真実と藤堂から発せられる威圧に負ける。


「……はい、全員じゃないっすけど」


歯切れを悪くする楓。その言葉を聞いた藤堂は、深い溜め息をついた。


「そうやってお前は彼女たちに、これ以上、真山に近づくのを辞めるよう交渉したつもりなのか? つもりならお笑いだ。……見ろ、その結果がこのざまだ」


“このざま”


藤堂が言いたいのは、流香のために嫌がらせをしてきた人物を片っ端から『脅し』ていった楓の行為。その行為が、彼に思いを寄せる者たちの感情を無理矢理、楓自身によって抑えつけられたということ。

そこから不満感を生み。結果、やり場のない悲しみと憎しみが全て流香に。自分たちが楓に脅された『原因』と考える流香に返ってしまったと言いたいようだ。


「………………すんません」


そこまで考えが及んでいなかった楓。ただ流香を守りたいがために、自分が考える『最良』の方法をしたつもりだった。それしか思いつかなかった。脅せば恐れられて、これ以上流香に被害が出ないと単純に思っていた。

だが、それは間違いだった。塞き止められた感情は一気に爆発され、守りたかった流香に流れていってしまった。

守っていたつもりだった。しかし、本当につもりであったのだと愕然とされる。

藤堂の、容赦がない指摘によって。


「お前のことは、お前がこの演劇部へ入部した時に学校側から聞かされていた」


突如、話の内容が変わって困惑する楓。


「え……」


自分がしてしまった過ちに、再び自責の念が湧いた楓だったが、藤堂からポツリと溢された言葉を聞いてハッとなる。それはずっと、この東楠高校に入ってから一部の人間を除き、楓が隠していた内容だった。誰にも。流香にすら言えないものだった。


「とんでもない『問題児』だったんだろう? 中学までは。毎日、パトカーが来てたそうじゃないか」

「…………」


顔を藤堂から背ける楓。自分のそれまでの生活が、この人に知られていたとは思いもしなかった。


「毎日喧嘩、脅迫、万引き。……果ては校内で喫煙。わんぱくだったんだな」


強く手を握りしめながら無言になる楓。誰にも知られていないと思ってた分、動揺が隠せない。

触れて欲しくないこと。触れられれば、流香と一緒にいられないと思った。流香と一番長く一緒にいられる時間を統括する藤堂が、自分の過去を知っている。それは、ある予感も彷彿させられる。

退部させられるかもしれない。

自分を危険だと判断し、部のため、退部させられる権限を藤堂が握っている。それは何としても避けたい。流香が。心寄せる流香が、自分のそばにずっといる空間だからだ。


楓から冷や汗が流れ落ちる。そんな楓には構わず。藤堂は何故、自分がそのことを知っているのか教えた。


「学校側からは随分と心配されたものだ。『あの』秋月を入部させるのは危険だぞ、とな」


楓は唇を噛み締めた。その先の言葉は聞きたくない。言わないで欲しい。


「下手すれば部員の何人かが被害に遭うかもしれない。問題が起きて、廃部するかもしれない、とも言われたな」


そんなことはしない。そんなこと出来ない。流香がいるから。いつでも自分を真っ直ぐに見てくれる。どんなに自分がやり過ぎた行動をしても、最後には『自分』を見てくれる流香が。そんな彼女がいる場所だから。

楓は目を閉じた。藤堂が言うその先の言葉を覚悟しながら。


「だが……」


それまで淡々と喋っていた藤堂が「フッ」と笑ったのを感じ、つられて楓は藤堂の顔を見る。そこには、まるで面白い物を見るかのような藤堂の姿があった。


「真山と一緒にいる時のお前は、聞いていたのとだいぶ違うな」

「へ?」


楓は思わず間抜けな声を出してしまった。何故なら、藤堂がそのあと「くっくっくっ」と笑いを堪えていたからだ。いつも冷静で、マイペースに物事を進める藤堂。入部してまだ日は浅いが、笑いを耐えている姿を今まで楓は見たことがない。


「ぶ、部長!?」


思わず楓は声を出す。覚悟を決めていた分、拍子が抜けてしまった。そんな楓へ藤堂が「すまんすまん」と言いながらようやく笑いを押さえ、楓に顔を向ける。


「秋月が真山に対して必死にアピールしてる所を思い出したら……可笑しくなってしまった。何ださっきの『ダメっす!』は。俺は真山が寒そうだなと思っただけだぞ? 退部させられると思ったか?」


自分が恐れていることを言い当てられ、楓は「ウッ」と身を引いたが、そんな彼に藤堂は告げる。


「それは言わん。あんなお前がいるんだ。今までのお前とは違う。だから……」


藤堂は楓のすぐ目の前に立ち、彼の頭をぐりぐりと乱暴に撫でまわした。そして、優しく言う。


「もう、今回のことがないように。これからはもう少し考え行動しろ。以上だ」


「はぁぁぁ」と、長い溜め息が楓の口から出た。退部しなくていい安堵と、藤堂が楓に伝えたかった意味が理解出来たからだ。


「か、敵わねーな。流石、部長なだけあるっすね」


半眼になりながら、ぶつくさとぼやく楓。そして、藤堂が自分に教えてくれたこと。気付かせてくれたことを真摯に受け止め、ハッキリと返事をした。


「はい。俺、もうちっと考えます。今までの俺のやり方じゃなくて、流香先輩と一緒にいるために……変わります」


いつか流香と口論して、彼女に言われたことを思い出す。

“子どもみたいなこと言って!”

あの時、篤ばかり庇う流香に子ども扱いされて頭にきた。自分はちゃんと色々と考えて行動しているつもりだった。でも今回、そんなつもりでいる自分の浅はかな行動で、流香が危険な目に遭ってしまった。変わらなければならない。


「流香先輩のそばにいたいから……」


好きな人のそばにいるために。好きな人を守るために。もっと自分を成長させなければならない。

楓は、藤堂に向かってハッキリと告げる。自分の決意を。

そんな楓を見て、藤堂はまた笑う。少し大人になったな、と。真っ直ぐな瞳を自分に向けてくる楓に対して、そう藤堂は感じた。


はい、今回で楓の本性が判明です。

普通のイケメンじゃあつまらんなぁと思ってなんとなく設定したのですが、この楓の本性がこの小説の全体のキモとなってくれました。

ありがとう問題児!←


一応、王道少女漫画風のつもりで書いてます。

えぇ、少女漫画です。

例えラブよりもコメディが多くても!

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