私はあんたの何なのさ②
――キーンコーンカーンコーン
「……はぁあああ~~~~~~~~っ」
「今日一日中そんな感じだったね」
放課後。机につっぷし、うな垂れている私を見ながら、中学からの親友の小林沙希が哀れんだ目で見てくる。
「ため息もつきたくなるって……」
今日一日の私の様子を率直に言ってきた沙希。それを私はうな垂れたまま返した。すかさず沙希は、慌てて取り繕うように私のあとに続ける。
「ま、まぁね。まったくあんたの気持ちに気付かない岡田には勲章もんだよ。『気付いていないで賞』って感じ?」
「……沙希、面白くもないし、笑えないってば」
場を少しでも明るくしようとしてくれた沙希の見事な空振りに、私はさらにため息をついた。
「ご、ごめん」
申し訳なさそうにしている沙希。でも、本当に申し訳ないのは私の方。彼女による、ありとあらゆる励ましの言葉は放課後になるまで出し尽くしている。他にかける言葉が見つからなくなった沙希に、これ以上気を使ってもらうわけにはいかないけど……ごめん。もういっぱいいっぱいなんです。自分の置かれている立場で。
あっくんとは、幼稚園のころから一緒の時間を過ごしている。
でも、それは単なる幼なじみとして。どんなに一緒にいても、それ以上の関係にはならない。あっくんのそばにいられる異性としては、きっとある意味一番近い場所にいると思う。お互い気兼ねなく、何でも話が出来ますから。
だけど、裏を返せばそれは一番遠い関係ともいえる。女として……ね。
「いい加減、諦めようよ私も~」
さらに机へとつっぷす私。そんな私に沙希がアドバイスをくれる。
「流香、他に好きな人とか……出来たら苦労しない、か」
私の表情を的確に読み取った沙希はさすがです。だてに親友をやってくれてません。沙希の言うとおり。いっそのこと、他に好きな人が出来ればいいんだけど私にはそれが出来ない。
しばらく沈黙したあと、私は堪らず叫んだ。
「も~~~~~~っ! なんでまだ好きなのぉ~~~~っ!」
私は幼稚園のころからあっくんが好き。何がきっかけで好きになったのか、もう幼すぎて覚えていないけど、十二年間、ずっとあっくんしか好きな人がいなかった。他の人にへは一切、目を向けることがなかった。
我ながらしつこい恋心だと思います。それだけの長い期間ならば、多少は気持ちの変化とかあってもよさそうなんですけどね。
だけど家が隣同士ってこともあり、いつでも、どんな時でもあっくんと一緒にいることが多かったから、なかなか消えてくれない恋心。今あるこのひと時を変える気がないのかもしれない。
私の願いはただ単純にあっくんと一緒にいたいだけ。大切な幼なじみだから、ずっと共に過ごせたらいいと願っている。
だからというわけではないけれど、幼いころは漠然とこれからもあっくんと一緒にいられると思っていた。いつまでも仲良く、一緒にいられると感じていた。
それがただの理想だと分かったのは小学校にあがってから。友だちと遊びに行くあっくんの姿を窓から見てて気付いたんです。例えどんなに仲が良くても、もう、それだけでは一緒にいられない。様々な時間が自分たちに生まれ、そしてどんどんとお互いへの時間は少なくなっていく。
中学生になって部活に入ると、より一層それが感じられた。それぞれがそれぞれやることが出来て、増えていって。どうしようもないものであると頭では分かっているんだけど、それがたまらなく淋しかった。
だから私は意を決して、あっくんに告白をした。そうなんです。胸に抱えたままにはせず、ちゃんと告白はしたんです。卒業間近の中学三年生の時に。
家が隣同士だからわざわざそこまでする必要はなかったんだけど、でもだからこそ関係を改めたかったというのもあり、あえて私は告白の王道ともいえる『呼び出し』をしたんです。
徐々に花の蕾が芽吹き、春の訪れを今か今かと待ち受ける木々や花々が点在する校舎裏。長かった受験がようやく終わり、とりとめて何か差し迫ったものがないこの時期は、容易にあっくんを呼び出すことが出来ました。
何の用事かと不思議そうな面持ちでやって来たあっくんに対し、私は何度も深呼吸を繰り返したのを今でも覚えている。高校も同じ所に行くけど、その時は新しい出会いが待っているし、新しい出来事が待ち受けているはず。
だから、また短くなっていくあっくんとの時間を繋ぎ止めるためにも思い切って告白をした。あっくんとこれからも一緒にいたいという、願いを込めて……。
「あっくんのこと……ずっと好きだったの……」
でも、そのあとのあっくんの反応はというと。
「おう! 俺も流香のことが好きだぞ!」
……え?
――トクンッ
「今さらそんなこと言うなよな。照れんだろ? 俺たち、友だちだし」
……あれ?
「これからも仲良くやっていこうな! 幼なじみなんだし!」
チ――――――――ン
はい、勘の鋭い人だったらとっくに予想出来たであろうありきたりなオチ。私の精一杯の告白は全く通じていませんでした。見事にスルーされ、はてはキッパリと友だち……幼なじみと言われました。この時は、どこからともなく鐘の音が聞こえた気がします。やるせない気持ちと共に頭に響く、間抜けで単調な音が。
……こんなのってありですか?




