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嵐を呼ぶ男と体育祭②






「真山先輩だよね?」


放課後、ホームルームが終わったあとにクラスメートから「一年の男子が呼んでるよ」と言われ、秋月か颯太にしては随分謙虚だなと思いながらも私は廊下に出る。だけど、私のその予想は外れた。


「……誰……?」


首を捻る私の前には確かに一年の男の子。でも秋月でも颯太でもない。全く見知らぬ男子が、そこにいました。校則を完全に無視した赤く短い髪、耳に沢山開けられたピアス。大概、秋月も颯太もだけど……それ以上に着崩している制服。一見チャラチャラしてそうな、そんな風貌の男の子。


「始めまして。俺ね、楓の中学からのダチで森脇哲平もりわき てっぺいって言うんだ。楓に頼まれて、先輩を部室へ送り届けに参りました」


見た目と違って、ちゃんと挨拶してくれた森脇哲平という子。


「気軽に、哲平って呼んでね」


と言う彼――哲平くんを見て、私が少々怪しんだのは致し方ないことでした。


「そう……なの?」


そういえば、ホームルームが終わった途端すぐに私を迎えに来る秋月がまだ来ていないのを私は思い出す。何か用事でもあるのかな? 哲平くんを疑う訳ではないけれど。秋月はこういったことを他人に頼むような性格ではなさそうだと、私は感じていたからです。

だから聞き返してみたのですが、ニッコリと笑顔の哲平くんに私は言いくるめられてしまった。


「真山先輩は俺のこと怪しんでるね? 心配しなくても大丈夫。何だったらあとで楓に聞いてみな? じゃあ行こうか」

「え。ちょっ、ちょっと待って……」


ていうか、もう嫌がらせは大分減っているから私一人でも行けるんですけど……。

それでも半ば強引に引きずられていく私。沙希たちも不信がり、慌てて私のあとを追おうとしてくれたけど、私と同様哲平くんに上手いこと言いくるめられてしまう結果で終わった。

一体、どういうことなんだろう?

鼻歌を歌って、私の腕を引っ張る哲平くん。なんか読めない子だな。でも、本当に秋月に頼まれたんだったら……腕、掴まれちゃってるし。とりあえず、着いて行くしかないです。


「あの、哲平……くん?」

「うん? 何、先輩?」


おずおずと聞く私に、哲平くんはニッコリと笑顔を返してきた。


「秋月は……どうしたの?」

「楓はね、今先生に呼ばれててさ。ちょっと長くなりそうだから? 俺が代わりに来たんだよ。……まだ怪しい? 俺のこと」


――ギクッ


正直、怪しいです。そういうことだったら秋月、連絡してくれそうだから。だって秋月、連絡魔だし。

その連絡も無しに突然現れた哲平くんを怪しむのは、至って普通だと思う。


「ふっ、真山先輩は正直だね。顔に出てるよ? 俺のこと怪しいって」


――ギクギクッ


嘘! 出てたの!?


「大丈夫、大丈夫。ほら、もう部室でしょ?」

「あ……」


哲平くんが指を示した先は、確かに演劇部の部室だった。途端に私は、哲平くんにした態度が申し訳なくて顔を赤くする。

本当に、ただ私を秋月の代わりに部室へ送り届けてくれたらしい。私はペコリと哲平くんにお辞儀をしながら、お礼を言った。だけど、彼から返ってきた言葉は、それに通じないもの。


「真山先輩、ごめんね?」

「……え?」


急に謝りだした哲平くんを思わず見る。ニッコリしている哲平くんに、なんで謝られたのか分からない私。そんな私の頭をポンポンと撫でてきながら、哲平くんは私に言ってきた。


「これから真山先輩は色々と大変な目に遭うけど、楓のためだから。頑張ってね?」


は? これから私が大変な目に遭う? それが秋月のため……って……?

送ってはくれたものの、最終的に謎を残された感が否めません。

「じゃーね!」と手を振りながら今来た廊下を引き返し、あっという間に去っていく哲平くん。

そして、呆然とする私。彼が残した言葉の意味が分からなかった。でも多分、他の誰に聞いても分からないと思う。主旨も何も、説明不足と言わざるを得ませんからね。


部室にはまだ入らず、私はぐるぐると暫くの間、そこで頭を巡らせていた。そして後悔しました。さっさと部室に入れば良かったと。


「真山流香……だよね?」


哲平くんが去ったあと、それを待っていたかのようにわらわらと廊下の端から人が集まる。


「ちょっとツラー貸せよ」


私の周りに集まったのは、学年がそれぞれ違う女子生徒たち。もしかして、いやもしかしなくても、彼女たちが私を見る視線で気付いた。この人たちが、私に嫌がらせをしてきた人たちなんだと……。





――ドンッ!


近くにある空き教室まで、無理矢理連れていかれた私。そこで思いっきり、一人の女子生徒に突き飛ばされた。


「いった……」


拍子に尻餅をつく。それを見ていた女子生徒たちは、「キャハハ」と楽しそうに笑っていた。すぐさま私は、彼女たちへ文句の一言でも言ってやろうと口を開く。だけど、その行動はあまり意味がない様子。


「何をするの!?」

「うるせーな! 黙れよ!」


――ドカッ


反抗した私は胸を蹴られて、そのまま床に転がされた。同時に、冷や汗が額から零れ落ちる。ヤバイ……。これは紛れもなく、集団暴行です。胸を蹴られた痛みでむせながら、それでも冷静に考える私。少なからず、いつかは直接的にやられると思ってましたからね。でもまさか、こんな大勢で来るとは思ってもみなかった。

何とかこの場を切り抜けなきゃ、と思考を巡らす。一人や二人ならまだしも、十数人に取り囲まれた私は力技じゃ勝てないし……。相手の隙をついて逃げるしか方法がないので、辺りの様子を見ようと私は顔を上げてみた。


「なーに見てんだよ? 助けは誰も来ないよ~?」


――グシャッ


寝転んだままだったので、今度は顔を踏まれた。私の思惑を読んだのか、空き教室のドアは閉まられ、窓のカーテンも閉められる。外と完全に遮断された空間。そこで、次々と私は罵声を浴びせられていった。


「こ~んなチビがどーやって秋月くんに気に入られたんだか! 信じられない!」

「生意気なんだよ! 大して可愛くもないクセに、一年に手ぇー出してさ! 死ね、クソブタ!」

「いい気になってんじゃねーよ。ウザい取り巻きに守られたりなんかしちゃってさ、あんたお姫様きどりかっての。ムカツク!」


何て言ったのこの人たち? 頭の中で、彼女たちに浴びせられた言葉が並んでいく。どうやって? 手を出す? 生意気? いい気になってる? 取り巻き? 守られて? 

ていうか取り巻きってもしかして、沙希たちのことを言ってるの?

罵声と共にビシバシと殴られたり蹴られたりしながらも、私は段々と怒りが込み上げてきた。ガバッ、と私は渾身の力で起き上がり、声を張り上げる。


「勝手なことばかり言って!」


部活で鍛えあげられた声量で、多少相手はビクついたらしい。私はそれを機に、秋月ファンである彼女たちへ向かって、ずっと言いたかったことを全て吐き出してやろうと思った。


「自分たちはそれで今何をしてるの!? 秋月に気にかけて貰いたいんだったら、自分たちこそ、私にこんなことしてる場合じゃあないでしょ!?」


吐いた分の息を吸い、私はまた言い放つ。


「彼のとこへ行けばいいじゃない! 話しかけて、仲良くなろうとしてみればいいじゃない! 恥ずかしくないの!? 何もしないで、こんな陳腐なことして!」

「う、うるさいっ!」


バシィと思いっきり顔を叩かれたけど、私は構わず続けた。


「うるさくない! それが本当のことでしょ!? 私は確かに、みんなにそばにいてもらってる! 守ってももらってる! けどね!?」


キッと周りを見渡しながら、私は思いを巡らした。


“守るから”


そう言ってくれた人たち。沙希や智花、柚子。そして秋月。みんなの顔が浮かばせながら、私は最後の言葉を叫んだ。思いの丈を全て。


「それは全部、私のことを心配してくれるみんなの優しさからなんだよ!? あんたたちみたいな何もしないで、私に嫌がらせしてくるような人たちがいるから! ――っつ!?」


――バキィ


私は頭がクラクラするのを感じた。最後まで言えずに、視界が揺れる。血が数滴、頭からこぼれ落ちるのをはためで見た。口を噛まないだけ幸いです。

どうやら私は叫んでいる最中、集団の一人に椅子で頭を殴られたらしい。ちょっと失敗だったかな。一気にまくし立て過ぎたかも。ただでさえ私が気に入らず、集団で暴行してくる相手なのに。私はどうやら、彼女たちを逆上させてしまったみたい。


「あーもうマジでムカついた。コイツ」

「やっちゃう?」

「やっちゃおーよ。ちょっと一年! 誰も来ないように、外見張ってて!」


クスクスと周りから笑い声が聞こえる。先輩らしき人に指示された一年生が「はぁ~い」と言って、空き教室の外に向かっていった。その時、私はあることに気付く。あれ? あの子。この前廊下で泣きながら、私の前を通り過ぎてた子だ。頭から血を流し、横たわりながらも私はそう思い出していた。

だけど、それ以上深く考えていられません。


「さぁ~て、まずはどうしてやろうか?」


私に馬乗りしながら、三年生とおぼしき女子生徒が指を鳴らす。


「先輩、先に制服をズタズタにしてやるのってはどうです? それで、校庭の真ん中に放り出すの! あ、その前に顔面をボコボコにしてやるけど」


ニンマリと私を見ながら言う二年の女子生徒。知らない人だ。どこのクラスの人だろう。


「いいねぇー、それ採用! 誰かハサミ持ってないー?」


自分たちのしていることが少しでも悪いと思っていないのか。キャッキャッと楽しそうに私の制服を切り刻んでくる。少し朦朧としていた頭も回復してきて、必死に足掻く私。だけど手足を抑えられ、どうすることも出来ない。叫ぼうと思っても、口を塞がれてしまった。


「ねー。ロリコン野郎の前に放り出したら、すっごい楽しいんじゃない?」

「キャハハハ! ぜってー犯されるって! あ~でもそれもいいねぇ~」

「誰か知り合いにいるー? 呼び出そーよー」


はぁ!? また別の考えを思い付いたらしい彼女たちに、私は驚愕した。それ、犯罪だから! 段々と恐怖で顔がひきつり始める。この人たち、本当にやりかねません。スマホの画面を開き、何やら対象となる人物を捜している彼女たちを見て、私は心の中で叫んだ。

ヤダ……コ、コワイ……。ど、どうしよう……。誰か! 誰か助けて……っ!


一人の女子生徒がスマホで話をし始めた。捜していた人物が、本当にいるみたい。


「ねぇねぇあんたさー、幼女とか好きじゃなかったっけ~? 童顔チビもいける~?」


一体、どんな奴と知り合いになってるというの。


「え!? うん、うん……マァジで~? いい子がいるよー。顔はボコにしちゃうけど、じゃあ後は痛めつけないでおくわ~」


本格的に、危機感が私の身に及んできました。話具合で一目瞭然。嫌な予感が現実のものへと、徐々に進んでいく。ざわざわと全身の毛が総毛立つ。

ヤダ……よ……。恐い。恐いよ。私、どうなっちゃうの……?

沙希。颯太。智花。柚子。あっくん……。

次々と浮かぶ親しい人たち。その人たちへ、無意識にも私は助けを求めていた。


――――――秋月!


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