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私はあんたの何なのさ①


ざわめく声。それに重なるかのような心臓の音。私にとってはいつもの光景。変わらない光景。


登校中の生徒が行き交う校舎内で私、真山流香(まやまるか)は、目の前にいる幼なじみの岡田篤(おかだあつし)に両手に抱えるぐらいの包みを差し出していた。


「はい、お弁当」

「さんきゅ! 助かったよ流香! わりぃな、持ってきてもらっちまって」


包みを受け取った彼に私はそう告げられる。同時に、陽によく焼けた小麦色の顔から発せられる屈託のない笑顔も向けられ、私の胸は否応なしにも高鳴ってしまった。

必殺、胸キュン笑顔。心の準備が出来てからにしてほしいです。


「う、ううん。ちょうどおばさんに会ったし……。あっくんのことだから、絶対ピンチになるからね!」


必死に平静を装おうとしている私。でも岡田篤――あっくんは、さらに眩しい笑顔を放ってきた。


「さっすが、持つべきものは幼なじみ! 分かってるな~」


きらきらと輝く効果音があっくんから聞こえてきた気がした。最高に輝かしいあっくんの笑顔を浴びた私は、もちろん、動揺しています。あわわわ。不意打ちでそんな顔をしないでよ。ヤバイです……効いたぁ~~!うぅ……どうしよう……。顔が赤くなっていないかな?

だけど、まったく私の様子に気付いていないのか、あっくんは私が渡したお弁当にすりすりと頬ずりしながら、まだ私に感謝している。


「これがないと午後もたないからな~。本当にマジで助かったわ! 腹減って途中で行き倒れてたかもしれないからな」


言い終わると、ぽんぽんと私の頭を軽く撫でるあっくん。その行動に、私はちょっとうな垂れてしまった。何も気付いていないや。赤い顔、気にする必要もないみたい。


「気を付けてよ? いくら家が隣同士だからって、そうそう持ってきてあげられない時もあるんだからね!」


ちょっと元気がなくなりつつも、なるべくその事を悟られないようにと思い、私はびしぃっと人差し指を彼に向けて強気で返してみた。でもそれが逆に、仇となってしまったのは想定外です。


「へいへい。あんまり小うるさいと彼氏出来ないぞ流香!」


――ズキンッ


何かが胸に突き刺さったような感覚を覚える私。あっくんから告げられた些細な言葉は、私に十分なダメージを与えてくれるもの。

あ~~、本当にもう! ひとの気持ちを知らないで、どうしてそれを言っちゃうかな。あ。気持ちを知らないから言えるんでしたね。


「う、うるさいなぁ! べ、べべ、別に彼氏なんて……っ!」


あんたに言われたくないんですけど?

すでにどもりがちになってしまっている私。そんな私にあっくんは、さらに傷口を抉るような言葉を言い放つ。


「早く俺を安心させろよ? なかなかいないぞ~? こんなに幼なじみの恋愛事情を心配してくれるヤツは!」


「あははは」と笑いながら言う彼へ、同じく笑いながら顔を向ける私。でもそんな表情とは裏腹に、私の心臓は最初の鼓動とは一転して痛み出していた。


――ズキンッ――ズキンッ


ひとの気も知らないで。一発殴ってやろうかコイツ。


「もー、ほら予鈴が鳴ってるよ! 早く教室に行かないと!」


ぐっと堪えたこぶしをあっくんから見えないように後ろへ隠す。なんだって私はこんな人の気持ちに気付かないような超鈍感男のことが好きなんだろう。悲しくなってきました。


「あっ、まずい遅刻する! じゃーな、サンキュ~! お礼にいつでも男の相談にのってやるからな!」


とどめの右ストレート炸裂。殴られたのは私の方でした。ははっ。もう涙も出てきませんとも。いつものことですから。はい。


走り去ったあっくんを見送ったあと、予鈴が鳴っているのも最早どうでもよくなり、とぼとぼと私は自分の教室へと戻った。頭の中で、今取り交わされた会話が重く自分へとのしかかってきているのを感じながら。


あんたにとって、私は何なの……。


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