六話
朝、アリシアが泊まる客室
静かな朝、アリシアの静かな寝息が規則正しく聞こえている、そんな静かな部屋に意を決した表情のグレイが入って来た、彼はアリシアに彼女をアルムスから奪うと宣言している、それを実行しに来たのだ。
「・・・」
ベッドの横に立ったグレイは眠るアリシアの顔を見る、形良く小さな顔、長い睫毛、綺麗な形の鼻、グレイは思う、眠っていてもアリシアは綺麗だと。
そんな事を考えながら、ベッドに登ったグレイはアリシアに覆い被さる、そしてその唇を奪おうと顔を近付けたが。
「だめだ・・・」
途中で先程までは強く持てていた勇気が消えてなくなり、グレイはアリシアの顔から自身の顔を離した。
「ヘタレ」
するとアリシアは目を開け、グレイにヘタレと言った。
「!、起きてたのかよ」
「ふふ、最初からね」
最初からアリシアは起きていたと聞きグレイは耳を赤くする。
「耳赤くしちゃって・・・、そんな事で私をアルムスから奪えるのかしら?」
そう言ってグレイにアリシアは挑発的な視線を送る。
「舐めんなよ」
アルムスの名を聞き、消え失せていた勇気がまた沸き起こるのを感じたグレイはアリシアの唇を奪う、部屋に男女がキスをする音が小さく響く。
数分後、グレイはアリシアの顔から自分の顔を離す。
「強引なのは好きだけど、その前にヘタレてたから25点ね、まぁこの前よりは頑張ったわ、褒めてあげる」
そう言ってドSに微笑みながら、グレイの頭をアリシアはよく頑張ったねーとよしよしと撫でる。
「くっくそ!、覚えてろよー!」
完全に目の前の少女に馬鹿にされていると理解したグレイは、ベッドから飛び降りると物凄い速さで逃げて行った、アリシアはそんな彼を見送りながらクスクスと楽しげに笑うのだった。
バトルシア人の宿舎
ついて来るなとアリシアが言うのに、しつこくついて行く!と言って聞かないメア、来るな行くと延々と続く問答が面倒になったアリシアは勝手について来なさいなと言い大教会を出た、メアは嬉しそうにしながらアリシアについて行き、二人大勢のバトルシア人が寝泊まりをする宿舎にやって来た。
ちなみに前日戦った洗脳されたバトルシア人達とは昨日のうちにアリシアは話しており、少し話しただけで彼等は帝国に行きたいと言って来たので、アリシアは許可した。
「一つ聞くけど、なんでそんなについて来たいのよ?」
「アリシアがいい事をしようとしてるからです」
「は?」
皇帝である自分がいい事をしようとしているとメアが言ったのを聞いたメアは、思わずは?と言ってしまった。
「私、昨日あなたと彼等の話を聞いてたんです、その時あなたは言いました、私はこの国の奴らみたいにあなた達に戦いを強要したりしない、私と共にこの間違った戦いたい人だけ、後に軍に入りなさい、戦いたくない人は一般市民として自由に生きなさいと、つまりあなたはこの国で兵器として扱われている人達に自由を与えようとしている、それってとってもいい事です!」
そう言ってメアはアリシアの手を握り優しく微笑む。
「私はあなたがいい事をするのなら迷わずに協力します、だって友達ですから」
「フン、今回はアンタが言ういい事なのかもしれないわね、認めてあげる」
そう言ってアリシアは自分の手を握るメアの手を振り払う、アリシアに手を振り払われたメアは悲しそうな表情を見せた。
アリシアは宿舎に近付くとドアを開ける。
「我等が希望!、アリシア様だ!」
「アリシア様がお越しになられたぞ!!」
すると歓声が巻き起こった、バトルシア人達はアリシアの姿を既に知っておりこの国に来ている事も知っていたらしい、そしてアリシアがここに訪れるのを待っていたようだ。
「ありがとう」
それを聞いたアリシアは優しく微笑みながら手を広げる。
「今日、私がここに来たのはあなた達にとある提案をする為なの、こんな兵器としてあなた達を扱う国なんて捨てて帝国に来ない?、帝国に来るのなら勿論自由を与えるわ、それに仕事も、ねぇ?どうかしら?」
アリシアの言葉を聞いたバトルシア人達は暫く顔を見合わせあった後、互いに頷き合った。
「勿論ですとも!」
「絶対に行くぜ!、陛下!」
バトルシア人達は帝国に行くと皆言って来た、それを聞いたアリシアは頷き、数千人はいる彼等に後に帝国から船を寄越すのでその船に乗って帝国まで来てくれと伝えた、彼等はすぐに頷き、それを見たアリシアはもう一度彼等に微笑みかけてから宿舎を出る。
(懐かしい笑顔でした・・・)
先程、アリシアが見せた笑顔はメアが知る闇に堕ちる前の彼女の笑顔と同じ物だった、今では決して自分には見せてくれない優しい微笑み、しかしメアは寂しくも思うが当たり前だとも思う、何故なら自分は彼女を一度裏切っているのだから、そんな自分にアリシアが優しく微笑みかけてくれないのは当然だ。
前を歩くアリシアの背中を寂しげに見つめるメアは思う、いつか彼女からの信頼を取り戻し、もう一度、オルビアの町にいた頃のように二人で楽しく笑い合ってみせると。
「何?」
背中に受けるメアの視線が気になったアリシアは振り返り冷たい瞳でメアを見る。
「なんでもありません」
「そう、なら私の背中を見ないでくれないかしら?、あなたの視線を背中に受けるだけでも不快なの」
背中に受ける視線すら不快と言ったアリシアは踵を返すと大教会の方に歩いて行く、辛辣なアリシアの言葉を聞いても挫けないメアはアリシアの隣に行くと、歩調を合わせて彼女の隣を歩く。
「背中を見られるのが嫌ならこれなら問題ありませんよね!、あっ、それと私と話をしてくれるって言いましたよね、アリシア、いつなら大丈夫ですか?」
「今日はまだこの後する事がある、明日ならあなたに時間をあげても良いわ」
そもそも元より明日にメアに時間をあげるつもりだったが、アリシアはその事を言わなかった。
「ありがとうございます、アリシア」
「フン、皇帝である私があなたの無駄話に付き合ってあげるのよ?、本当に感謝しなさいな」
「はい」
アリシアに感謝しろと言われたメアは返事を返しつつ頷く、それを横目で見ていたアリシアは、彼女を鼻で笑う。
大教会、兵器開発部
教国はこの世界の影の支配者と呼ばれるだけはあり、兵器の自己開発も行なっていた、その中でもここはアリシアが最も注目するフォトンリウムの開発部だった、フォトンリウムの開発部に来たアリシアの隣にメアはいない、ここに来る前に明日時間をあげないわよ?と言ったらさっさと退散して行った。
「良く来てくれたわね、ミッセル、この素材使えそう?」
「はい!、専用の加工機械を生産しなければなりませんが、ここに試作の物があります、これを我が帝国の技術で発展させ量産すれば、新型ファントムの装甲に使えるでしょう!」
「ふふっ、優秀な人は好きよ?私」
ミッセルを褒めたアリシアは目の前の教国が作ったフォトンリウムに触れる、帝国の魔術師や初代皇帝からの手ほどきを受け優秀な魔術師となっているアリシアは、触れるだけで恐ろしい程までの魔力が目の前の新素材に含まれているのを感じた。
「・・・」
この素材がどれほどの物なのかその手で感じてみたい、そう思ったアリシアはガンブレードを構えるとフォトンリウムに向けて斬りかかる。
「へぇ・・・、私の斬撃を弾くだけじゃなく、この私に武器を壊させるなんて・・・、本当に凄いわね」
激しい金属音を立ててフォトンリウムとぶつかり合った、帝国製の刀身を用いたガンブレードは折れた、折れた愛剣を見てアリシアはフォトンリウムの硬さな素直に感心した。
「ミッセル、もう一つ仕事よ、フォトンリウムで私のガンブレードの新しい刀身を作りなさい」
「へ、陛下の武器に手を掛けさせて頂けるとは!、身に余る光栄です!、三日ほどお時間を!」
「ええ」
ミッセルはアリシアから刀身が折れたガンブレードを受け取ると、フォトンリウムに触れながら転移して行った、それを見送ったアリシアは邪悪な笑みを見せてから部屋から出る。




