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セブンススタイル  作者: ブレイブ
第二部、三章、教国編
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三話、始まりは小さな行き違いから

教国、教都グランシャリオ、大教会


教国が用意した車に乗りアリシアは大教会に向かっていた、その横には教皇がいる、他の臣下達は別の車でついて来ている。


「あたらめて歓迎致しますぞ、アトリーヌ帝国皇帝、アリシア・レイティス殿よ」


後にアリシアの傀儡になる事を知らない教皇は和やかにアリシアを歓待する、彼は彼女がここに来た時点で和平を結びに来たのだと思っているのだ。


「こちらこそありがとう、教皇様、あなた方の最大の敵である帝国の皇帝である私を盛大に出迎えてくれて」


「敵などとはとんでもない、これから我等は味方になるのだから」


「ええ、そうね?」


教国の味方になるつもりなど一切ないアリシアは、教皇の言葉を聞き笑いそうになってしまったので慌てて話を変え、この国に来た最大の目的であるバトルシア人について聞く事にした。


「この国には兵器として扱われているバトルシア人がいると聞いたわ、会わせてくれないかしら?」


「よいが、会っても返しはせんぞ?、あれらは我が教国の大事な戦力だ」


(何が大事な戦力よ、ただの奴隷だと思っている癖に!)


「ええ、分かっているわ、それでも同じバトルシア人として会いたいの」


「分かった、会えるように取り計らおう」


「ありがとう」


この男がバトルシア人を奴隷としてしか思っていない事を理解しているアリシアは、いっそのことここで殺してやろうかと思いつつも、それを表には出さず微笑んでみせた。


そうしている間に大教会に着いた、アリシアは純白の巨大な教会を見上げる。


「綺麗ね」


「我が教国、最大の自慢だ、そなたの国の城も実に立派な物だと聞いてある」


「ええ、いつか私の城を見に来るといいわ」


(あはっ、私の奴隷としてね)


「うむ、それも和平を結べば実現するであろう」


アリシアは教皇の言葉に頷きつつ、開いたドアから車の外にへと降りる、すると一人の女性が近付いてくる、帝国にいた頃の服装とは違い清純な白い服を着たアイリーンだ。


「お久しぶりですわね、皇帝アリシア」


「ええ久し振りね、聖女アイリーン?」


(数日会えなかっただけでも寂しかったですわ・・・)


(全く・・・、このくらい我慢しなさいな)


(いやです、まだまだお母様に甘えたいので)


(仕方ないわねぇ、これが終わったら可愛がってあげるわ)


(はい!)


表面上は久し振りに会ったように装いつつ、実際は魔眼を合わせあって二人だけの会話をする吸血鬼の親と子、アイリーンは経った数日会えなかっただけで寂しかったようで魔眼を通しアリシアに寂しかったと伝えて来た、アリシアは娘にこれが終わったら可愛がってあげると伝えると、アイリーンは喜んだ。


「そなたらはそれぞれ闇と光のスタイル使い、相入れないのは分かるが、戦い始めないでくれよ?」


二人が見つめ合っているのを見て不穏な空気を感じたらしい教皇は、二人に戦いを始めるなど伝える。


「分かっていますわ、以前は傷つけ合った同士で合っても、今はお客様、そんな無礼な事はしませんわ」


「あら?、私はひと勝負してあげても良いけど?」


(何を言ってるんですの!?)


(だってあなたと勝負するの楽しそうだし)


(後にして下さい!)


(あら?後なら良いのね?)


(後でもダメです!)


(ならいつなら良いの?)


(・・・)


親と子はまたもや目を合わせあいマシンガントークを繰り広げる。


「ふふ、お断りしますわ」


「あら残念」


アリシアから目線を逸らし強制的に魔眼を使っての会話を切り上げたアイリーンは、アリシアの申し出を二重の意味で断る、その言葉の意味を理解しているアリシアは本当に残念そうにした。


「ハッハッハ、うちの聖女は戦いが嫌いなのだよ、それでは食事を用意している、一緒にディナーと行こうではないか」


そう言ってアリシアに手を差し出す教皇ジェラーゼン、アリシアは一度会釈してからその手を取り、大教会の中に自身の臣下達と共に入った。




大教会


豪華な部屋に大きな机と食事をする人数分椅子が並べられている、アリシアはシスターにその中でも一番豪華な椅子に案内され、教皇も同等の椅子に座る、他の者達は豪華ではあるが二人が座る椅子よりは質素な椅子に座る。


「そう言えば、アリシア殿はレイティスの名を持っているようだが、やはり初代皇帝の子孫なのかね?」


教皇ならば知っていたのだろう、食事を始めてからの最初の会話は、レイティスの名についてだった。


「ええ、私は初代皇帝、ゾフィディアの子孫よ」


アリシアは否定する事でもないので肯定する。


「ふむ、そなたが皇帝となったのは定めというわけか、ところでそなたもアリシア殿と同じ顔をしておられるが、アリシア殿の姉か親戚かね?」


「はい、私はエリシア・レイティス、アリシアの姉です、アリシアが皇帝となったのは、私の方が力が弱く、それに闇のスタイルの力に選ばれなかったからです」


「ほほぅ・・・」


初代皇帝の血を引く二人の少女、ジェラーゼンは皇帝であるアリシアは流石に手を出した時点で戦争である為、己の物にするつもりはないようだが、エリシアに対しては物を見るかのような視線を送った。


(こいつ・・・!)


その視線を受けたエリシアは他のバトルシア人にも同じような視線を送っているのだろうと思い、俯き机の下で強く拳を握りしめる、今もし教皇が何か言えば殴りかかるだろう、それ程の怒りをこの世界の各国がバトルシア人を兵器として扱う原因となった国、教国の代表である教皇の座に着く男に感じた。


「お姉ちゃん?」


アリシアはいつもより更に低い声で姉に声を掛ける、ただお姉ちゃんと呼んだだけだが、その声の中には馬鹿な事をするなと言う意味が含まれている、アリシアの声を聞いたエリシアはハッとし強く握っていた拳を解いた。


「なんだ?アリシア、私を呼ぶとは、甘えたくなったか?」


エリシアは今の間が不自然にならないよう妹に話しかける。


「そうねちょっと甘えさせてもらおうかしら、ほら、アーン?」


「自分で食べなさい・・・」


「ハハハ!、姉妹で仲が良いようで何よりだ!」


ジェラーゼンは笑いつつもエリシアを見つめ続けていた、彼は思っていた、最強の皇帝の血を引くこの少女が欲しいと、エリシアは不快な視線を無視し、キースやメアと喋りつつ怒りで味が分からない料理を食べ続けた。




客室


教皇との会食の会話の途中で、明日アイリーンに教都を案内させようと教皇に伝えられたアリシアは、教皇と別れ与えられた客室から教都の様子を眺めていた。


ここに住む者達は皆、シスターか神父か神官のようで男性も女性も皆同じ修道服を着ている、アリシアはそんな教都の様子を見て無個性だなと思いつつ、無個性さから来る統一性のお陰で、聖教と言うこの世界の一大宗教を創り上げる事が出来たのかもしれないと思った。


窓から離れソファに近付いて行くと、エリシアが鼻息荒く扉を開けて部屋の中に入って来た。


「アリシア!、見ただろう!?、あの男の腐った目を!、あの目だけでも我慢ならん!、もう傀儡にしてしまえ!」


相当にお怒りなエリシアは妹の方を掴むと傀儡にしてしまえと言った。


「駄目よ、また早い、まだ私はこの国に来た目的を果たしていないもの」


そう傀儡になれば自我は失われアリシアが指定した命令通りに動くだけの人形となる、後に人形にするとは言えまだ目的を終えていない現状、教皇には自我を持って貰っていないとアリシアが困るのだ。


「なら私に我慢しろと言うのか!?」


「そうよ、だから我慢しなさい、もしかして皇帝の命令が聞けないわけじゃないわよね?」


愛する姉の頼みとは言えアリシアは皇帝としてここに来ている、ならば確実に目的は果たす、アリシアは睨み付けてくる姉の目を凛とした視線で見つめ返し、そんな妹の意志の強い瞳を見たエリシアは怯み妹を睨むのをやめた。


「・・・、そうだなお前は皇帝だ、なら私に何か命令をくれ、ここにはいたくない」


「大人しくしろ、これが命令よ」


「絶対に嫌だ」


「・・・怒るわよ?」


大人しくしろと言ったのに絶対に嫌だと言い放ったエリシアに、イラっと来たアリシアはその身から闇の魔力を発し姉を脅す、しかし姉は余程ここにいたくないのか、強大なアリシアの魔力をその身に受けても怯まず、妹の目を見つめ返す。


「・・・、とにかく大人しくしなさい、これ以上は何も言わないわ」


アリシアはいい加減にしろと叫びたくなるのを大好きな姉にそんな事をしたくないと言う、皇帝としては甘すぎる想いで押さえ付け、もう一度大人しくしろと言い、姉に背を向けた。


「くっ・・・」


エリシアは妹の背中を暫く睨み付け続けたが、諦めたのか妹から離れて行く。


「気持ちは分かるわお姉ちゃん、でも、私は皇帝なの・・・、だから一人のワガママを聞くわけにはいかないのよ・・・」


アリシアは振り返り肩を怒らせドアに向かって行く姉の背中に言葉を掛けた、エリシアはそれを聞いても振り返らず、部屋から出て行く。




大教会廊下


皇帝として個人のワガママを聞くわけにはいかない、背中越しに聞いた妹の言葉は理解出来るが、納得がいかないエリシアは怒りを抑える為、一人通路を早歩きで歩いていた。


「何処だここ・・・」


ようやく気持ちが落ち着いて来たエリシアは周囲を見渡す、すると窓がないと言う事から地下にまで来てしまっていたのだと、彼女は判断した。


「ん?」


エリシアは少しだけ開いている扉の先が気になり覗き込む、そこには・・・。


(これは・・・!)


カプセルの中に入れられた沢山の男や女がいた、それを見たエリシアは部屋の中に入り、一枚の紙を見つけるそこにはこう書いてあった。


「洗脳バトルシア人だと・・・!、屑共め!」


紙を地面に投げ捨てたエリシアは激しい怒りを感じ、同族をカプセルから救う為、カプセルに近付いて行く、その時だった。


「かはっ!?」


横から何者かに蹴り飛ばされ、エリシアは壁に激突する、エリシアが誰に蹴られたのかあいてを確認すると自分より幼い十二歳くらいに見える少女だった、この歳でこの蹴りの威力、確実にバトルシア人だろう。


「まさかそなたの方からここに来てくれるとは、大変喜ばしいよ、エリシア殿?」


ダメージが大きすぎて起き上がれないエリシアに教皇が近付いてくる。


「きさ・・ま!、これ・・・は、なん・だ!」


エリシアは言葉が途切れ途切れに言葉を発しつつこの場所の正体を教皇に聞く。


「我々教国の新商品だ、こやつらは目覚めた時、始めに見た者を主人として認めるように設定されておる、なぁ?」


教皇はエリシアを蹴り飛ばした少女に声を掛ける。


「はい、私のオーナーはジェラーゼン様です」


少女は無機質な喋り方で主人の言葉に答えた。


「操り人形と言う訳か」


「そうだ、しかし帝国の外では貴様らバトルシアはただの兵器扱い元より操り人形だ、ならば洗脳して更に扱いやすくしても問題なかろう?」


「外道め!」


流石はバトルシア人、既に回復していたエリシアはジェラーゼンに殴り掛かるが、少女が割り込みエリシアの腹に強烈な一撃を叩き込む、急所に強烈な一撃を喰らったエリシアは血を吐きながら前のめりに倒れる。


「フン、初代皇帝の血を引く者ですらこのように野蛮で愚かか、まぁ良い、洗脳を施せば少しはマシになるだろう、おい、この者を開いているカプセルに入れろ」


「はい」


少女はエリシアを担ぐとカプセルに入れる、それを見たジェラーゼンはパネルの操作を始めた。


(くそ・・・、脱出しなければ!)


エリシアは全く動かない体を無理矢理に動かしカプセルから脱出しようとするが、その前に上から降りて来たマスクに顔を覆われ、意識が朦朧とするのを感じた。


「ただのマスクが放出するのは睡眠薬だ、しかし・・・」


朦朧とするエリシアは上からゴーグルのような物とヘッドホンのような物が降りてくるのを見た。


「その二つの機械こそこのカプセルの本質、さぁ初代皇帝の血を引く者よ、私の忠実な下僕となるが良い、洗脳が終われば潜在能力の解放もしてやろう」


エリシアの顔にゴーグルとヘッドホンが取り付けられる、その瞬間に意味がわからない映像と、どこか心地の良い音が聞こえ始める。


(すまない・・・、アリシア・・・、お前の言う通りだった・・・)


エリシアは薄れ行く意識の中、妹の言葉が正しかったと後悔する。

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