十二話、闇の龍脈
アルムスの部屋
黒いドレスに身を包んだアリシアはアルムスの部屋にいた。
「顔が腫れているわ、アルムス、酷いわね誰がやったのかしら?」
自分が殴ったせいだと分かっているのに恋人を揶揄うアリシアは、ニヤニヤとしながら彼の腕に抱き着く。
「お前だろう・・・」
「あら?、そうだったかしら?」
アルムスはそんな少女の額を突く、するとアリシアはクスクスと楽しそうに笑った。
「そう言えば、何故、私がお前に教国を手に入れようと進言したか、分かるか?」
「ええ、あれ以降バトルシア人について調べたから、あの国が始めたのよね?、私達の種族を兵器として扱うのを」
「そうだ、今も奴等は我等の同胞を捕らえ洗脳し、兵器と変えている」
兵器として扱われるのを何よりも嫌うアリシアは、同じ種族の者達を教国が兵器として始めに扱った国と知り、激しい怒りを感じている、完全に滅ぼし根絶やしにしてやりたいと思うほどにだ、しかしこの世界での聖教の影響力は絶対だ、なので滅ぼすよりは利用した方がいいと理解しているアリシアは自分を無理矢理に抑えている。
「私達を兵器として扱うのは教国だけじゃないわ、ギグルスも他の国もよ」
そしてアリシアにとって教国に同調しバトルシア人を兵器として扱う他の国も同罪である。
「そうだな、して皇帝であるお前はどうする?」
「決まっているわ、まず教国を落とし、私達の奴隷とする、そして世界中で兵器として働かされている私達の仲間に呼び掛けこの国に集まるように言う」
アリシアはそこで言葉を切って酷く淀んだ目を見せる。
「集まったバトルシア人達が自分達を兵器として扱ったこの世界への恨みを晴らしたいと言うのならば私は止めたりなんてしない、何故なら私も知ってるもの、兵器として扱われると知った時の苦しみを!」
叫んだアリシアを宥めるように同じくバトルシア人であるアルムスは少女の髪を優しく撫でる。
「そして再び私達がこの世界を支配し、私達を兵器として扱った奴等をこき使ってやるの、ふふ、人間としての権利なんてない、ただの家畜としてね!、あはっ、あははははは!」
「実に素晴らしい、それこそ我々バトルシアの理想の世界だ」
「そうよ、そうよねぇ!、アルムス!、ふふ、私の手で絶対に実現させてやるわ!」
「ククッ、我々なら出来るさ」
邪悪に高笑いする少女を抱きしめるアルムス、アリシアは自分達が全てを支配する世界を夢見て、彼の胸の中で目を閉じた。
闇の遺跡
アリシアはライアーンがいた闇の遺跡にいた。
「主人よ、ここで何をする?」
「そうね、強いて言えば、戦争の準備、かしら」
そう言ってライアーンがと共に部屋の中央に向かうアリシア、そこで目を閉じ周囲の魔力を探り始めた。
「・・・、ふふ、やはりね」
「何が分かった?」
「これよ」
アリシアは影から杖を取り出すと、地面を叩く、すると禍々しい闇の魔力が地面から噴き出した、その瞬間闇の遺跡を覆っていた瘴気が更に強くなる。
「な、なんだこれは、我の寝床にこんな禍々しい闇の魔力が!?」
「気付いてなかったのね?、これ、あなたが長い間ここに居たお陰なのよ?、強いて言うならば闇の龍脈かしらね」
ライアーンは長き月日この場所にいた、その身から溢れ出る闇の力はこの土地の魔力を汚染し、地脈から溢れる魔力は恐ろしい程までの闇の魔力にへと変質させていたのだ、アリシアはこの闇の魔力を解放した、とある目的の為に。
「主人よ、これほどの闇の魔力を解放し何をするつもりだ?」
「私は一年後に戦争を始める、その為に兵力を増やし、新たな兵器も作っているわ、でもそれだけじゃ足りない、一つの世界を手に入れるにはね?、だから・・・」
アリシアは杖に魔力を溜め、闇の龍脈にかざす、そして己と同調させる事で龍脈から溢れ出る魔力を従わせて見せた。
「こうして闇の魔力を私に従わせる、これほどの魔力があれば作れるのよ、闇の存在をね?」
龍脈の闇の魔力を従わせたアリシアはイメージする魔の存在を、そしてアリシアがイメージする闇の存在は形を持ち、ぬるりぬるりと闇の魔力の中から這い出して来た、その姿は紅く目を光らせる漆黒のゴブリンだった。
「ハハッ!、流石は我が主人!、魔を創造して見せたか!」
「ふふ、今はこの程度の魔しか作れないけどね?、でもあなたの他の魔の者達が汚染し産まれている筈の二十ある闇の龍脈を、繋げたら、どうなるかしら?」
「クク!、更に強力な魔を作れるようになるだろう」
「正解、人間の兵士や兵器だけじゃない、私は魔の存在と言う無限に産み出せる強大な戦力を得れる、そうなればこの世界が私の物になるのは時間の問題よ」
次々と産み出される漆黒のゴブリン、チラリとそれを見たアリシアは杖を向けて魔の存在が産まれるのを止めた。
「今、あなた達の増やしすぎて、久城愛理に勘付かれる訳にはいかないの、だから・・・」
アリシアはライアーンを見上げ、漆黒のゴブリン達に指をさした。
「ライアーン?、ご飯よ」
「ククク、極上の晩餐だ」
ライアーンは産まれたばかりの魔を食べる、彼等の体に含まれている闇の魔力を食した事により、ライアーンの力が更に増した。
「満足だ主人よ、欲を言えば定期的に食べさせて欲しいぞ」
「気が向いたらね、それではあなたの世界に帰りなさい」
「気が向いたらか・・・」
アリシアの言葉を聞きガックリと肩を落とすライアーンは帰って行った、それを見送ったアリシアは闇の遺跡の外に出た、そこで振り返ると魔力で扉を作り遺跡を封じる、闇の魔力が溢れ出すのを止める為だ。
「これで良し、今は教国を支配する事が優先だけど、それが終われば次は私の力を強化するのと同時に龍脈を繋げる作業を始めましょう、それとアイリーンをゼロの魔力のスタイル使いにもしなきゃね」
今後の計画を呟いたアリシアは転移し帝国に戻って行った。
アトリーヌ城、皇帝の部屋
闇の龍脈の事をアルムスや臣下達に伝えたアリシアは、この日はもう特にする事はないので皇帝の椅子に座り、本を読んでいる。
「陛下」
そこに一人の男が近付いてきた、この国のファントム開発の主任、ミッセルだ。
「何?」
「陛下の機体、ゼウスを元に設計をした新型ファントムのフレームが完成致しましたので、お知らせにあがりました」
「そう、ふふ、一般機すらギルスの性能を上回ると言う、新型の性能、期待しているわ」
「はい、必ずや陛下のご期待に応えてみせます」
「ええ」
アリシアの言葉に頭を下げるミッセル。
「ねぇねぇ、私達の機体はまだ?」
そんな彼にニアが話しかける。
「勿論全力を尽くし開発に勤しんでおります、しかし最高の性能を実現する為にも、もう少し時間を頂けませんか?」
「ええー、早くしなさいよぉ〜」
「し、しかし・・・」
臣下用の機体の完成にもう少し時間が欲しいと言うミッセル、ニアは早くしろと言う、それを聞いたミッセルは困った表情を見せた。
「ワガママはダメよ?、ニア」
「でもー」
「あなた達は私の側近、ならば最高の機体を持つべきよ、だから安心なさい?、ミッセル、好きなだけ時間をかけニア達の機体を作りなさい」
「ムー」
「わ、分かりました、ありがとうございます、皇帝陛下」
時間をかけてもいい、皇帝自身からそう許可を貰ったミッセルは安心した様子だ、ニアは不満そうだが。
「それでは行きなさい」
「ハッ」
皇帝に部屋から出るよう言われたミッセルは頭を下げて部屋から出て行った。
「ふむ・・・」
「どうしたの?、お姉ちゃん」
何やら不満気な表情を見せる姉にアリシアはどうしたのか聞く。
「いや、私達側近の機体が完成するとゼウスに乗れなくなるからな、あの機体扱い易くて気に入ってたんだよ」
「そう言う事ね、でもあの機体は私のよ?、今貸してるのは、この国にお姉ちゃんの操縦能力に見合った機体がないからよ」
「分かっているがなぁ」
「ならお姉ちゃんの機体は私のゼウスと同じ性能にまでチューンさせるわ、それなら不満はないでしょう?」
「それなら、うむ、良い」
新型がゼウスと同じ性能になると聞いたエリシアは納得した様子で頷く。




