五話、グレイの勇気
ケイネスの別荘
アリシアはケイネスの別荘でキースを待っている。
「はぁはぁ・・・、この鬼畜皇帝め・・・」
姉の髪を三つ編みにしたりツインテールにしたりして遊んでいるとキースが息を荒げながら入って来た、それを見てアリシアは姉の髪を元のポニーテールに戻すと部下に近付き・・・?。
「褒め言葉よ、ありがとう」
ドSに微笑んだ。
「・・・、それで鬼畜皇帝様?、ケイネスって奴は?」
「この北にある彼の三つ目の隠れ家よ、この準備の良さ、前々からこの国が帝国に付こうとしている事を知っていたのかしらね?、実に楽しませてくれるわ」
アルムスが皇帝をしていた頃からこのアイオン国は帝国に属国になりたいと打診していた、しかし戦力の準備や政務に忙しいアルムスは返事を後回しにしていたのだ、そしてアイオン国の望みはアリシアの代になってようやく叶ったと言う訳だ。
現皇帝であるアリシア的にも、そこまでして帝国に付きたいと言う国を悪く扱うつもりはない、寧ろ最大の礼儀を持って受け入れているのは、新たに帝国兵となった元アイオン国軍兵に功績を与えようとしている事から証明されている。
「そろそろあの女が箱を開けた頃かな?、アリシア」
「多分ね、その為にもケイネスを傷付けたのだから、開けて貰わないと魔力の無駄になってしまうわ」
アリシアはメアが箱の鍵をアイリーンがケイネスの怪我を治療している間に開ける事は予想している、だがそれで良いのだ、ケイネスを追い詰めているのは彼が死ぬかもしれないとメアに思わせて焦らせ箱を開けさせるのも目的なのだから。
「フン、敵を掌の上で踊らせる、悪い皇帝様だぜ」
「これのどこが悪いの?、奴等は敵、ならば徹底的に追い込み潰すのが正しい選択肢よ、そして扉の鍵は今に私の物になるの、ふっふふふ、あはははははは!」
そう言って邪悪で卑劣な笑みを見せるアリシア、キースはアリシアのその笑みを見て、アルムスはとてつもない化け物を作り上げてしまった物だと思った。
海岸の隠れ家
ここは海岸の隠れ家、グレイとシメラが協力し、船のエンジンを動かそうとしている、愛理とウォーリーは敵の見張り、アイリーンはケイネスの治療をしている、そこにメアが箱を持ってやって来た、アリシアの予想通り鍵を開け、中の扉の鍵を取り出すつもりなのだ。
「ケイネスさん、治療中に申し訳ないのは分かっています、ですが皇帝を止める為に必要な事なのです、この箱に魔力を注いでくれませんか?」
「良いだろう」
ケイネスは弱々しく手を上げると箱に魔力を注ぐ、すると箱の全ての水晶が輝きを放ち、箱が開いた。
「それが箱の中の鍵、ゼロの魔力のスタイル使いの、覚醒の地の神殿の扉の鍵なのですね・・・」
「はい、ようやく手に入りました、これで私はアリシアと同等以上に戦える・・・」
メアはアリシアを救う為の大きな一歩である扉の鍵をギュッと抱きしめる、そして大切に鞄の中に入れた。
「俺が怪我をした甲斐があったようだ、あれ程の力を誇る皇帝と同等以上に戦える者が現れるのは、この世界の平和への第一歩だよ」
「はい、ご協力ありがとうございます」
「うむ、感謝せよ、後は逃げ切るだけだな」
そう言ってケイネスは窓の外の自身の船を見る、しかし彼の船はまだエンジンがかかっていない。
「みんな帝国軍が来たよ、ゼウスと一緒にアリシアとその臣下も、私とウォーリーで兵の相手をする、みんなは船が起動したら早々に逃げなさい、私もウォーリーと一緒に空を飛んで追うから」
「ありがとうございます、愛理さん・・・」
「良いの」
メアがお礼を言うと愛理は頷く、そこにグレイが近付いてきた。
「愛理さん、俺も残る、アリシアに想いを伝えたいんだ」
「・・・、危険だよ?」
「危険なのは分かってるし覚悟してる」
「分かった、一緒に戦おっか、グレイ」
「はい!」
「と言うわけで、メア、先にシメラとアイリーンとケイネスさんを連れてここから離れてくれ、その鍵を奪われるわけにはいかないしな」
「はい、必ず後で会いましょう」
「おう!」
グレイがガッツポーズをするのを見たメアはエンジンを起動させようとしているシメラの元に向かって行った、グレイは愛理とウォーリーは共に駆け出し、帝国軍との戦いを始めた。
「金の聖杯・・・、本当に厄介だわ」
グレイとウォーリーは大した脅威ではない、しかし一人で多数の帝国兵を圧倒する愛理をアリシアは憎々しく見つめる、今の自分では絶対に勝てない相手である愛理は厄介な敵でしかない。
「お姉ちゃん、ゼウスで隠れ家の攻撃を、キースとニアはウォーリーとグレイの相手を、金の聖杯は私が相手をする」
「はーい」
「任せな」
「分かった」
部下達は命令をした通りにそれぞれの相手をしに向かう、ガンブレードをその手に持ったアリシアは駆け出すとゼロフォームに変身し、僅か数分でほぼ全ての帝国兵を殺さずに戦闘不能にしている正に圧倒的な愛理に斬りかかった。
「やぁ、アリシア」
「ええ、こんにちは、師匠」
師と弟子は言葉を交わす、しかしその表情は、優しくアリシアに向けて微笑む愛理に対し、憎々しげに師を睨むアリシアと、対照的だ。
「アリシア、あの時、私の血を限界まで吸うのを我慢したあなたを私は忘れてないよ、あなたは本当は優しい子なの、思い出して?」
愛理の言葉を聞きせせら嗤うアリシアは、左手から愛理に魔力の塊を放ち爆発させる事で、愛理を無理矢理に下がらせる。
「良い攻撃だ!」
しかし愛理は全くダメージを受けておらず爆炎の中から余裕そうに飛び出して来た、そして彼女は回し蹴りを放って来る、アリシアはその攻撃を避け、下から剣を振り上げるが、愛理は体を回転させながらギリギリで避けた。
「私は優しくなんてないわ、師匠、だって私は全ての世界を支配し、自分の思い通りにしようとしている、悪い女ですもの」
「そうだね、今のあなたは悪い子だ、でも少し前の・・・、初めて会った頃の本当のあなたは優しかった、私なんかよりも遥かにね」
「ハッ、世迷言を」
アリシアは愛理と会話をしながら影の中の杖を靴に触れさせ影の中に魔法陣を用意していた、そして靴から身体の中に魔力を通し左手に溜める、放つ技はインフェルノレイだ。
「アリシア!」
そこにニアとキースの攻撃を振り切ったグレイが近付いて来る、同時に空にギルスが現れ、隠れ家に張られたアイリーンの防御魔法を攻撃をしているゼウスを蹴り飛ばす。
「フライトユニット、あの女・・・、もう完成させたのね、それで?、何か用かしら?グレイ」
愛理に魔法を放とうとしていたのに気が削がれたアリシアは左手に溜めていた魔力を体内に循環させ直しグレイを見る、アリシアの左手に魔力が溜まっている事に気付いていた愛理はそれでも剣を構えて警戒する。
「お前に言いたい事がある」
「何よ?」
「俺はずっとお前を見てきた、そしてお前の優しくて明るくてまるで太陽のような笑顔が大好きだったんだ、それで俺さ・・・」
グレイはそこで一度俯く、その背後ではメア達を乗せた船が大海原へと進んで行っていた、そして意を決したグレイが顔を上げ。
「お前の事が好きだ」
アリシアの瞳をしっかりと見て告白をした。
「あーごめん、私、アルムスの事が好きなの、あなたなんて興味ないわ」
しかしアリシアはあっさりとグレイの告白を拒否する。
「そうか、ならあいつからお前を奪ってやるさ、言っておくが俺はお前の事、本気だからな」
「フン、出来もしないことを、なら私とキスの一つでもしてみたらどう?」
「良いぜ・・・」
アリシアに挑発されたグレイは好きな少女に男を見せる為に近付き、恐る恐るだが抱きしめアリシアの体の柔らかさにドギマギする、アリシアはそんなグレイを見てクスクスと笑うと少し揶揄ってやろうと彼の体に強く抱き着き、胸を押し付ける、すると彼はピクリと身を震わせた。
「お、俺がここまでするんだ、魔眼を使っての洗脳は無しだかんな?、それと胸押し付けるな」
「私はこういう時にそんな事をする無粋な女じゃないわ、それと胸を押し付けるのはやめないわ」
「へっ、どうだか」
キスをする前にアリシアと言葉を交わしたグレイは再び意を決してアリシアとキスをする、アリシアは仕方なしにそのキスを受け入れオマケとしてリードしてやる。
「・・・、下手くそ、やっぱあんたなんてあり得ないわ」
「うっせぇ!、キスまでしたんだ!、いつかお前をあいつから奪って、俺のもんにしてやるかんな!、覚えてろよ!」
そう言って顔を真っ赤にしてどこかに向けて走って行くグレイ、男を見せた彼を追う気にならなかったキースとニアは彼を無視しウォーリーの相手をする、アリシアはそんな彼を呆れた表情で見送る。
「ねーねー!アリシア!、実はドキドキしたんじゃなぁい?、女の子ってこう言うのに弱いよねー?」
「うっさい黙れこの駄狐」
「口悪いなぁ、もう」
愛理に暴言を吐き再び斬りかかって来るアリシア、愛理は少女の剣に確実に迷いがあるのを感じて、懐かしい自身が少女だった頃の恋模様を思い出し優しく微笑むのだった。
次回、ギルスVSゼウス




