八話
闇の遺跡
アリシアはライアーンをギリギリにまで引き付けてから、ワームホールを出現させ、天井に出口を出現させ、ライアーンを高所から叩き落とした。
「グヌゥ・・・、今代の皇帝は面白い技を使うようだ、しかし!」
高所から落ちたダメージからすぐに立ち直ったライアーンは闇のブレスを放つ。
「キース?」
「おうよ」
キースが炎の壁でブレスを阻む、そして炎の壁が消えると、アリシアとエリシアの姿が消えていた。
「ヌゥ!?、どこに!?」
「ここよ、ライオンさん」
ライアーンは二人を探す、すると頭上から声がし、ワームホールを通りライアーンの真上に現れた姉妹は同時に蹴りを放ってその巨体を背後の壁にまで吹き飛ばした。
「ヌォォォ!、やるなぁ!、それでこそだ!皇帝よ!」
ライアーンは立ち上がりつつ、アリシア達の足元に魔法陣を出現させ、雷を落とす。
「ふぅん、あなた雷を使うのね、気に入ったわ」
アリシアは飛来する雷に見向きもせず、頭上に向けて掌を向け手から雷を吸収する。
「倍返しよ」
雷を吸収したアリシアは左手からダークライジングマグナムを放つ。
「うぉぉぉ!?」
ライアーンは迫る攻撃を見て防御の姿勢を取るが、雷はライアーンの真横を通り、背後の壁に激突した。
「もう十分でしょう?ライアーン、私と契りを交わしなさい」
「あぁ、圧倒的な力の差があると言うのに、我をここまで圧倒したそなたは我の主人に相応しい、皇帝アリシアよ!我と契約し、更なる力を得よ!」
アリシアは右手を前方に差し出す、それを見たライアーンはアリシアの手に巨大な前足を当て魔力を送る、するとアリシアの右手の甲に黒いドラゴンのマークが現れ、マークの中心には赤い文字で1と書かれている、ドラゴンのマークは暫く輝きを放った後アリシアの体の中に吸い込まれるかのように消えて行った。
「よし、これで契約は完了した、今は見えないが、お前の右手に刻まれた龍のマークはお前の帝国が暗黒帝国と呼ばれていた頃の国旗だ、お前の先代達の証をその身に刻めた事を誇りに思え」
「ええ、実に誇らしいわ」
アリシアは愛おしそうに右手甲を触る。
「そして・・・この力!、ふふっ!、凄い!、凄いわ!」
ライアーンと契約した事により爆発的にアリシアの魔力は膨れ上がった、溢れ出てくる強力な魔力を辺りに撒き散らしながら、アリシアは恍惚とした様子で己の体を抱きしめている。
「満足してくれたようだな、我が主人よ」
「ええ、これからよろしくね?、ライアーン」
「うむ、いつでも呼ぶとよい、召喚は右手甲に魔力を集めると先程のマークが現れる、その時に我の姿をイメージしつつマークに触れればよい」
「分かった」
召喚方法を聞いたアリシアは試しに右手甲に魔力を送る、すると確かに先程のマークが現れた。
「うむ、問題ないようだな、それではまた会おう」
ライアーンは姿を消した、彼等は魔の二十眷属と呼ばれており、この世界とは別次元に彼等の空間がある、そこに帰って行ったのだ。
「終わったな、アリシア、それではアイオン国に向かおう」
「うん」
アリシア達がこの場を後にしようとした時だ、足音が聞こえて来て、未来のアリシア達がやって来た。
「・・・、ライアーンが居ない・・・、もう契約したのね?」
「そうよ、契約したわ、どう?この魔力?、あはは!素晴らしいでしょう?」
アリシアは怪しく微笑むと目の前の彼等に見せびらかせるかのように、闇の魔力をその身から放つ。
(アリシア・・・)
グレイはアリシアの邪悪な笑顔を見て、どうしても以前のアリシアと比較してしまい、過去の幼かった頃のアリシアの様子を思い出していた・・・
俺の名はグレイ、エンジェルズのエージェントだ。
俺とアリシアとシメラは同じ孤児院で育った幼馴染だ、でも俺がアリシアとよく話すようになったのはメッシュさんが剣を教え始め、大人しい性格だったアリシアが活発な性格に変わり始めた十二歳になった頃だった。
メッシュさんに剣を教わる以前のあいつは誰とも遊ばずいつも部屋の片隅で絵本を読んでいる、大人しい子供だった、そしてちょっとした事で泣く、通称泣き虫アリシアと呼ばれていたよ。
俺はそんなあいつを弱虫と馬鹿にする側の一人だった、でもある日考えが変わったんだ、木の上で悲しそうに鳴いている猫を一人で助けていたあいつの姿を見て、あいつが良く泣くのは優しいからだって分かった。
あの日以降、俺はアリシアを馬鹿にしなくなった、そりゃそうだよな、あんなに優しい奴を馬鹿になんて出来ねぇ、そしてあの日以降俺はずっとアリシアの姿を追っていた、そうしている間に・・・。
そして十二歳になった頃、俺はようやくアリシアと話せて友達になった、それ以降は毎日一緒に遊び、色々な思い出を作った、一番楽しかったのはシメラと一緒にやった秘密基地作りかな。
数年が経ち歳上だった俺はシメラと共にアリシアより先に孤児院を出た、アリシアはあの日も明るく笑って俺を送り出してくれたっけな、そして俺はアリシアの太陽のように明るくて優しい笑顔が大好きだった。
でも今のアリシアは昔のような明るくて優しい笑顔を見せない、ただただ暗い薄笑いを見せるだけだ。
過去を思い出していたグレイは現実に戻り邪悪に微笑む少女を見る、グレイはその笑みを見ているだけで胸が締め付けられるような感覚に襲われた。
「大丈夫?、グレイ、顔色悪いよ?」
それを見ていたシメラが彼に近付き肩を叩く。
「大丈夫だ」
グレイは肩に触れているシメラの手に触れると大丈夫だと伝えた、それを聞いたシメラは安心した様子で頷く。
「ふふ、早速あなた達でこの力を試してあげる」
アリシアは右手を振りかぶると未来のアリシア達に魔力を放った、迫り来る恐ろしいほどまでの強大な魔力、アイリーンが前に出て光の魔力で打ち消そうとするが打ち負けて吹き飛ばされ、吹き飛ばされた彼女を愛理とメアが受け止めた。
「凄まじい力ですわ・・・、闇を滅する事が出来る光の魔力でも全く滅する事が出来ませんでした・・・」
「ふふふ、この程度で打ち負けているようじゃ、この先、もっともっと強くなる私に対抗なんて出来ないわね、だからもっと強くならないとね?、ねぇ?アイリーン?」
「・・・はい」
「・・・、アイリーン?」
何故アリシアの言葉にアイリーンが相槌を打つのか気になったメアは彼女の名を呼ぶ。
「ごめんなさいメア、不審に思わせてしまいましたわね、彼女の言葉通り強くならなくてはと思ってしまいまして」
「ふふふ、別に疑っているわけではないので、安心してください」
「そうですか、それならいいですわ」
メアと愛理に支えられているアイリーンは姿勢を整えると、杖を構え直し仲間達と共に、皇帝とその臣下と相対する、そして未来のアリシア達は一斉に攻撃を放つ。
「・・・」
アリシアは迫る攻撃を見てワームホールを作り出すと、臣下と共にワームホールの中に入って攻撃を避けた、そしてこの部屋の入り口にもう一つ現れたワームホールから出て来る。
「残念だけど、ここまでよ、どうやらあなた達に先手を取られているようですもの、続きはアイオン国でね、ふふ、来なさい?、ライアーン」
アリシアはライアーンを呼び出す。
「もう呼び出しか、主人よ」
「ええ、私がこの遺跡の外に出るまでの間、彼等と遊んであげて?」
「承知した、さて戦おうか人間どもよ!」
アリシアの命を受けたライアーンは未来のアリシア達に襲い掛かる。
「くっ!、アリシア!、アイオン国に来ても無駄です!、私達が先に土のスタイル使いに会い、あなたから守り切ってみせますから!」
「そう、なら私は確実に土のスタイル使いを殺すと宣言するわ、競争ね?、メア」
顔だけを向けメアに対して見下すかのような視線を送ったアリシアは、臣下と共に遺跡の外に向かって行った、未来のアリシア達はアリシアを止める為、必死になってライアーンを退けようとするがライアーンの雷が激しく動く事もままならない、そして遺跡の外から飛空艇のエンジン音が聞こえて来た、未来のアリシア達はアリシアを追いかける事すら出来ずに逃したのだ。
「逃げられました・・・」
「落ち込まないのメア、彼女が言っていた通り、先手は私達が取れる状況よ、早急にアイオン国に戻り、土のスタイル使いに会うわよ!」
「はい!」
未来のアリシア達は転移しアイオン国に向かう。
アイオン国、首都
ここはアイオン国の首都、ニアは土のスタイル使いの家に忍び込んでいた、ニアはアリシアから命を受けていたのだ、自分を囮とすることで未来のアリシア達を引き付ける、その間に土のスタイル使いに忍び寄り殺せと、ニアはその命を忠実に実行しようとしている。
「さようなら、土のスタイル使いさん」
土のスタイル使いが眠るベッドに近付いたニアは漆黒の剣を引き抜くと彼の首に向けて振り下ろす。




