七話、闇の遺跡
闇の遺跡
ここはアクアマールとアイオン国にある闇の遺跡、この世界には同じ遺跡が後二十個ある、つまりアリシアは後二十段階のパワーアップが可能と言う訳だ。
「・・・、お前は平気なんだな、アリシア」
エリシアの属性は父から引き継いだ水、その為、この遺跡に流れる瘴気は少し吸っただけで気持ちが悪くなる、キースも同じようで顔色が悪い。
「瘴気と闇の魔力はほぼ同じ物、寧ろ私は心地いいわねここの空気は」
ここ空気を心地いいと言ったアリシアは力が溢れてくるのを感じている、現に瘴気を吸えば吸うほどに力が溢れて来る。
「辛いのなら、外で待っていなさい、ここに封印されている魔の存在など、私一人で殺せるわ」
そう言ってエリシアとキースの返事も聞かずに遺跡の奥に向かって行くアリシア、皇帝を一人で危険な場所に行かせる事など出来ない、エリシアとキースは頷き合うとアリシアについて行く。
「一直線だな」
「あぁ、奥に行くほど瘴気が強くなる、これだけの瘴気を放つのだ、余程強い存在が封印されているのだろう」
一直線の道はやがて行き止まりとなった、見上げればこの行き止まりは巨大な扉、丁度人間が届く高さの場所に黒い水晶が埋め込まれている。
「・・・」
アリシアは暫く紅い瞳で水晶を見つめ、右手で触れると闇の魔力を注ぎ込む、すると扉がズズズと言う音と共に開いた、アリシア達は開いた扉を潜り部屋の中に入る。
「ようやく封印が解かれたか、我が名はライアーン、我を解き放った者よ、感謝するぞ・・・」
アリシア達が部屋の中央まで来るとロウソクの火が灯り部屋が照らされた、部屋の奥にはこの遺跡に封印されていた魔の存在が鎮座していた、その名はライアーン、漆黒の獅子だ。
「闇の子よ、お前の存在はお前が産まれた日から感じていたぞ、ここに何をしに来た?」
「あなたの力を貰い受けに来たの」
「ほほう?、何故だ?」
「帝国の皇帝としての役目を果たす為よ」
「ハッハッハ!、あの帝国はまだ諦めていなかったか!、実に素晴らしい!それでこそ、暗黒帝国とすら呼ばれた帝国だ!」
アリシアの言葉を聞き満足気に笑う、一頻り笑ったライアーンはアリシアにその巨大な顔を近付けた。
「良かろう、我が力をお前にくれてやる、して、お前は力を取り込むには我を殺さないといけないと考えているかもしれんが、その必要はない」
「・・・、アルムスに見せられた古文書には殺さないとその力を己の物に出来ないと書かれていたわ?」
「それは我とは別の魔の存在が出す条件だ、殺せば自分の力を全てくれてやるという野蛮な奴よ、我はそんな野蛮なやり方は好まぬのでな、我と契約した者に力を貸すと言う方法を取っておる、ただし、我を地に付けた者に限るがな」
「結局戦うんじゃない」
そう言ってガンブレードを抜き構えるアリシア、エリシアはダガーを、キースは拳を構えた。
「行くぞ!」
ライアーンは恐ろしいほどまでの瘴気をその身から放ち、アリシア達に襲いかかった。
アイオン国
アイオン国に来た未来のアリシア達は今日はもう遅いという事で、ホテルに泊まっていた、そしてメアとシメラの部屋にウォーリーがやって来た。
「どうかしましたか?」
「彼女、皇帝が闇に堕ちる前はどんな人だったのか教えてくれませんか?、あなた方は友人であるようなので」
「喜んで」
ウォーリーが部屋に来た理由はアリシアについて知りたいからであったようだ、彼がアリシアについて知りたいと思うのは当然である、何も知らない相手を救おうとするのは誰でも難しい、だからこそ知っている者に話を聞き知っておく必要があるのだ。
「私の親友アリシアは、いつも明るくていつも笑顔で、そしてとても優しい太陽のような人でした」
「今の彼女は全くの真逆ですね・・・」
「そうですね・・・、でも近くで見ていた私だからこそ分かるのですが、闇に堕ちる前の彼女に影がなかったわけではないのです、時折アリシアはご両親の写真を見て寂しそうに泣いていましたから」
実際メアは何度も見ている、アリシアが両親の写真を見て涙を零す姿を、そう言う時はメアが心配して近付くのだがアリシアはすぐに涙を止め振り返ると笑っていた、メアは今になって思うあれは強がりだったのだと。
「孤独ですか・・・」
「はい・・・、同じく孤児である私にすら育ての親がいます」
メアの育ての親とは王の命で彼女をアルビオン王国から逃がした騎士である、現在も存命である。
「でも孤児院で育ったアリシアにはそんな人はいません、彼女はずっとずっと孤独を感じながら育ったんだと思います、そして恩人だと思っていた人が自身の孤独の原因だった、それを知った時、アリシアの闇は大きく膨れ上がってしまいました」
「恩人とは?」
「メッシュと言う人です、アリシアが闇に堕ちた発端は彼がアリシアの両親を見捨てて逃げた事を知ったからなのです、そして信じていた国に兵器だと思われている事を知り、私も・・・、彼女を利用しようとしていました、それが知られてしまって、彼女の心は加速度的に闇に染まり始めました」
「その後、彼女は闇と雷のスタイル使いとなり、力を得た彼女は恩人、メッシュさんを殺し、その心を完全に闇に染めた、と言う訳です、後は知っての通り皇帝となり、活動を始めました」
「・・・、ありがとうございます、彼女の事がよく分かりました、孤独、私には分からない感情です、私は常に人に囲まれて生きて来ましたから」
「私も孤独を感じなかったわけではありません、でも育ての親がいる時点でアリシアが感じていた筈の、堪え難い程の強い孤独は理解なんて出来ないと思います・・・」
アリシアの孤独を理解できる者は同じくらいの孤独を感じた者だけだろう、メアは同じく孤児であるグレイやシメラにも話を聞いた、しかし二人ともアリシアが感じている孤独は想像できないと言っていた。
「強いどこまでも強い彼女の孤独、それを埋めるしか彼女の心を救う方法はないのかもしれませんね」
「はい・・・」
「・・・」
未来のアリシアはメアの部屋の外で二人の話を聞いていた、そして胸に手を当てて俯いている、その瞳からは涙、未来のアリシアは泣いていたのだ。
「どうしたの・・・?」
そこに愛理がやって来た。
「私は・・・、こんな優しい人達に想われていたんだなって、そう思ったら止まらなくって・・・」
「そう・・・」
未来のアリシアが流す涙は孤独から来る涙ではない、メアとウォーリーの話は今の自分の事を思っての話であり、未来から来た自分の話ではない、それでも自分を思ってくれている人達の話は心が温かくなる、そう未来のアリシアは嬉しくて泣いていたのだ。
「そうだよ、その温かい心こそ想いの力、人と人を繋げる希望の力だ」
「うん、こんな温かい気持ち、あの頃の私じゃ感じれなかった・・・、だから今の私にも、この気持ちを感じれるようになって欲しい、そう思うわ」
「だからこそあの子を取り戻さなきゃね!、アリシア!」
「うん・・・!」
未来のアリシアと愛理が微笑み合う、その時だ、何処かから強大な闇の力を感じた。
「この魔力・・・、遺跡を開けたのね・・・」
「遺跡?」
「魔を封じたこの世界に二十個ある遺跡よ、私も巡ったわ」
「そんな物がこの世界に・・・、ならあなたがもう一度、遺跡に行き、力を更に上げれば・・・」
「ダメよ、私はもう一度力を手にしてる、多分行って私の魔力を注いでも、扉は開かないわ、この時代あの扉を開く権利があるのは今のアリシアだけよ」
未来のアリシアが更に強くなれば今のアリシアを取り戻すのが更に容易になるかもと考えた愛理は、二巡目は不可だというアリシアの言葉を聞いて俯く、その時だ、メアとウォーリーが慌てた様子で部屋から出て来た。
「わっ!?、なんで部屋の前に・・・、それよりも!、今の巨大な闇の力を感じましたか!?」
「勿論、ここにいるアリシアから聞いたんだけど、この世界には二十個の闇の遺跡があって、そのどれかの扉をアリシアが開けたみたい、メア、みんなを起こして、アリシアの転移で遺跡に向かってみよう」
「はい!」
メア達はアリシアがいる遺跡に向けて転移した。




