六話、アリシアVSメッシュ
アリシアが闇と雷のスタイル使いとなって一ヶ月後。
皇帝の部屋
皇帝の命令を受け様々な任務をこなし、その度に血を吸いその力が更に増しているアリシアは、皇帝に呼び出されていた。
「我が騎士アリシアよ、監視をさせていたニアからの報が入った、奴等の準備が完了したようだ、明日、魔王の転移を使いここにやってくるようだ」
「へぇ、経った一ヶ月でどこまで変わったのか、見せてもらおうじゃない、陛下?、私一人で相手をしても良いですよね?」
「好きにせよ、しかし一つだけお前に伝えておく」
「はい?」
アルムスがアリシアに伝えた事、それは・・・。
夜、皇帝の寝室
「アリシアよ、起きよ、侵入者が現れたようだ」
「侵入者ですか?」
「見よ」
アルムスに起こされたアリシアは彼が指差す先にあるモニターの画面を見る、そこには一人の男が映っていた。
「奴はお前が一番に憎む相手だそうだな?」
「ええ、殺したくて殺したくて仕方がない相手です」
「ふん、ならば行って恨みを晴らせ」
「はい」
ベッドから降りて漆黒のドレスに身を包んだアリシアは、皇帝の寝室を後にし、姉を起こしてからメッシュがいる一階に向かった。
アトリーヌ城、一階
コツコツとヒールの音が響く、メッシュが音がする方向を見ると、闇のオーラをその身から放つアリシアが姉を伴い階段を降りて来ているところであった。
「アリシア・・・、メアから聞いた通りだな、闇のスタイル使いになったのか・・・」
「ええそうよ、アンタが私を変えたの、この姿にね、さぁ始めましょう?、あなたの最後の夜を」
「あぁ」
アリシアが剣を抜く、メッシュも大剣を構えた、二人は同時に駆け出すと剣を交える。
「はぁぁ!」
体内で魔力を爆発させ、メッシュは無理矢理にアリシアを押し切る、アリシアは華麗に宙返りし地面に着地すると、闇の弾丸をメッシュに向けて放つ。
「チィィ!」
メッシュは大剣で弾丸を防ぎながらアリシアが身に付けている仮面を見据える。
(あれだ、あれを壊せば!)
メッシュの狙いは一つだけ、仮面を破壊すればアリシアの体は元に戻るかもしれないと言うメアから聞いた話を実行するのだ。
「あはっ、そんな亀のように丸まっていても勝てないわよ?、ほらぁ、そうしている間に剣で覆いきれないところが傷付いて行っているわ」
「そんなの言われなくても、分かってるさ!」
メッシュは迫る漆黒の弾丸を剣でガードしながら走り始めた、アリシアは冷たい瞳でその様子を見つめる。
「距離は詰めたぞ!」
アリシアとの距離を詰めたメッシュ、大剣を使っての防御を外し大剣を頭上に掲げたメッシュが見たのは、アリシアの邪悪な笑顔だった。
「ぐっ・・・」
トンッ、と軽い動作で前に出たアリシアはメッシュの腹を剣で刺し貫いた、腹を刺されたメアは血を吐く。
「ふふふ、痛いでしょ?、メッシュでもさぁ、あの日殺されたお父さんとお母さんはもっと痛かったわ、だって・・・、死んだのだから!」
抉るかのようにメッシュの体から引き抜いたアリシア、苦しみの声を上げるだろうと冷酷な瞳で見下ろすメッシュ、しかし彼は歯を食いしばり立ち上がり剣を構えた。
「チッ」
アリシアが立ち上がったメッシュを見て感じた感情は経った一つだけ、つまらない、これだけだった、アリシアにとってこの戦いは確実に勝てる戦いだ、ならば徹底的に苦しめ、悲鳴を聞くつもりだったのに、目の前の男は黙って立ち上がった、それが気に入らない。
「パワーブレイク!」
腹を刺し貫かれているのに、刺される前と全く変わらぬスピードで走りアリシアに迫ったメッシュはパワーブレイクを放つ、アリシアは余裕でそれを避けると、メッシュの胸に手を当てて雷撃を放つ。
「・・・!」
これでもメッシュは悲鳴を上げない、更にイラつきを感じたアリシアは、次は右脚を剣で刺し貫いた。
「く・・・、うぉぉ!」
刺し貫かれた足を無理矢理に動かし、メッシュはアリシアを地面に押さえ付けた。
「素直に驚いたわ、ここまで悲鳴をあげるのを我慢するなんて、頭おかしいの?」
「我慢してるんじゃねぇよ、お前の心の方がよっぽど痛いのは分かってる、だから俺が悲鳴をあげる訳にはいかねぇのさ」
「ッ!、この期に及んで、私のためですって!?、誰のせいでお父さんとお母さんは死んだと思っているの!、アンタでしょ!、そんなあなたが私のため!?、ふざけるな!」
アリシアはその身から恐ろしいほどまでの魔力を放ち、メッシュを体の上から離させた、吹き飛ばされ地面に落ちたメッシュは立ち上がり再び剣を構える、アリシアも立ち上がり剣を構える。
「・・・」
自身に憎しみの表情を向けて来るアリシアを見てメッシュは思い出していた、ここに来る前のボスとの会話を。
『メッシュ、行くのか?』
『はい、アリシアが黒騎士なんてもんになっちまったのは十四年前の俺のせいです、なら今の俺があの日のツケを払わなきゃいけねぇ』
『それが、お前が死ぬ事だって言うのなら、俺は違うって言うぜ?メッシュ、アリシアはお前を殺しても元のあいつに戻ったりなんてしねぇ、更に闇に堕ちるだけだ』
『これで死ぬのなら、俺はそこまでの男だったって事さボス、でもな俺はあいつを守るって決めた、だから死んだりなんてしねぇよ、あいつを連れて必ず戻って来る』
『・・・、その言葉信じるぞメッシュ、アリシアを連れて必ず帰って来い』
『ああ』
ボスとの会話を思い出し終えたその瞬間、アリシアが一瞬で目の前に現れた、メッシュは振り下ろされたガンブレードを逸らし、一撃、アリシアの腹に拳を食い込ませた。
「くっ!」
腹を殴られたアリシアは大したダメージを感じていない様子であり、すぐに姿勢を整えると、下から剣を振り上げる、メッシュはそれを大剣で受け止めると、今度はアリシアの左腕を掴み背負い投げる。
「っうう!?」
こんな攻撃なんて受けるはずではなかった、背負い投げられ床に倒れているアリシアは混乱した様子で、天井を見つめている。
「なんで攻撃を喰らうか分んねぇか?、アリシア、理由は簡単だ、お前に剣を教えたのは俺だ、だからよぉ、読めるんだよお前の攻撃はな!、いくら速くなってもな!」
「くっ!」
大剣を掲げ走り出すメッシュ、アリシアはバックステップで逃げるがすぐに距離を詰められ、メッシュが大剣を振り下ろして来た、アリシアは剣でその攻撃を受け止めるが、強すぎるその斬撃を受け止め切れず足が沈む。
「うぉりぁぁぁ!」
沈んだ足を組み直しなんとか大剣を押し返そうとするアリシア、しかし、メッシュは押し返される前に痛む右脚でアリシアを蹴り飛ばし、アリシアは壁に激突し、ズルズルと床に滑り落ちる。
「ふっふふふ、あははは!、そうよ、それでこそよ、メッシュ、ありがとう、私を楽しませてくれて」
(全然効いちゃいねぇのか・・・)
立ち上がり楽しそうに笑うアリシアを見て、メッシュはこれは骨が折れそうだと思う、だからこそ顔の仮面を見据え、狙いを絞った。
「そうよね、アンタは私をよーく知っているわ、だって私の剣技の元はあなたですもの、でもさアンタが知ってるのは、雷のスタイルを使っていた私、今の闇と雷のスタイルを使う私はもう昔の私とは違う、見せてあげるわ、ダークライジングスタイルの本当の力を」
そう言って魔力を解放するアリシア、手を振るうと無数のワームホールが現れた。
「さぁ、踊ってみせて?」
メッシュの真下にワームホールが現れる、そのワームホールから漆黒のレーザーが放たれ、メッシュは宙に打ち上げられた、更に宙に設置されたワームホールから次々とレーザーが放たれ、様々な方向から来るビームに跳ね飛ばされ続けるメッシュは、アリシアが言った通りまるで踊っているかのようだ。
(ワームホールは闇のスタイルの力、レーザーは雷のスタイルの力か、二つのスタイルを使えるアリシアだからこそ出来る芸当だな、名付けるならダークホールイリュージョンか)
「あはは、とても素敵な踊りでしたわ、メッシュさん?」
何回も何回もレーザーに跳ね飛ばされたメッシュが血だらけになったのを見てからアリシアは、おどけた口調で喋りながらレーザーを放つのをやめた、見るも無残な姿となったメッシュは力なく場面に横たわる、彼の自慢だった大剣は何度も何度もレーザーに焼かれる内に粉々になって消滅している。
「フン、雑魚が、何が私の攻撃を読めるよ、全然読めずにこんなにボロボロになっちゃってさ、バッカみたい」
力なく横たわるメッシュに近付いたアリシアは、メッシュの体の各部を何度も何度も踏み付ける、その度にメッシュは呻き声を上げ、ようやく聞きたかった声を聞く事が出来たアリシアは、頬に手を当てて満足気な表情を見せる。
「はぁ・・・、その声が聞けただけで満足よ、さぁお姉ちゃん?、このゴミ殺しちゃって良いわよ」
「!、アリシア、油断するな!」
「なっ!?」
ダークホールイリュージョンに跳ね飛ばされ続けながらも、最後の一撃を放つ為力を溜め続けていたメッシュは、自身を踏み付けるアリシアの足を振り払って立ち上がり、アリシアの顔の仮面に向けて魔力を込めた右拳で殴りかかる。
「うぉぉぉ!」
メッシュの最後の一撃はアリシアの仮面を破壊するかと思えた、しかし。
「あはは!、ざんねーん、あはっ、あははは!」
新たに現れたダークホールから伸びた黒い鎖によりメッシュは全身を拘束され、仮面に命中するはずだった右拳はアリシアの顔のギリギリで止まっていた、アリシアは拳が当たらず呆然としているメッシュを指差し腹を抱えて笑う。
「はぁーあ、笑った笑った、ほんっと、最高よ?アンタ、それじゃ死んでね?、お姉ちゃん?」
「ああ」
妹に呼ばれたエリシアがメッシュに近付いて来る、その手に持っているのは、アリシアとエリシアの父親が持っていた剣だ。
「エリシアか・・・、その剣・・・」
「お前が見捨てた父さんの剣だ、これでお前を殺してやる!」
「俺はアリシアに負けた、好きにしろ」
「ッ!、ああ!殺してやる!、死ねぇぇぇぇぇ!
」
憎しみを込めた叫び声をあげるエリシアはメッシュの首に向けて全力で剣を振るう、エリシアの斬撃はメッシュの首を斬り飛ばし、メッシュの顔が地面に落ちる。
「・・・、やったね、お姉ちゃん、ありがとう、このゴミを殺してくれて」
「私こそ感謝しよう、こいつをここまで追い詰めてくれて」
両親の仇を取った二人の少女は静かに抱きしめ合う、そしてメッシュへの復讐を終えたアリシアの心は誰がどう見ても手遅れだと言い切れる程に完全に闇に染まった。
「ふふふ、ねぇお姉ちゃん、このゴミを飾る場所、あそこにしない?」
「お前が言いたいことは分かる、行こうか」
「うん」
翌朝、エンジェルズの前を通った女性は悲鳴を上げた、何故ならエンジェルズの前の通りに槍で串刺しにされ地面に突き立てられたメッシュの首と、何本もの剣が突き刺されてメッシュの体が転がっていたのだから・・・。
「だから言っただろうメッシュ・・・、行くなってよ・・・」
ボスはメッシュの死体を見て顔を伏せる、同時に思う、メッシュを殺した時点でアリシアは心はもう取り返しのつかないところまで闇に堕ちてしまっただろうと、思おうとしたがギリギリで踏み止まる、まだ一つだけ最後の可能性があるからだ。
「メア、後はお前次第だ・・・」
そう、メッシュの死体を見て決意を込めた表情を見せたメアが、アリシアの所に仲間と共に向かった、そうこれがボスが手遅れだと思うのを踏み止ませた最後の可能性だ、そしてこれでアリシアを取り戻せなかったら、アリシアは二度と元の彼女には戻れないだろう、ボスはメア達の限りなく低い勝利を天に祈る。




