一話、黒騎士アリシア
メッシュの部屋
「なんだ?」
アリシアがドアをノックするとメッシュが出て来た、アリシアは彼の顔を見て黒い感情が疼き始めるのを感じたが、なんとか抑えた。
「私の両親の事、メッシュさんが知ってるって聞いたの、だから聞かせて欲しい」
「・・・誰に聞いた?」
「誰に聞いたかなんて、そんな事別にどうでも良いじゃない、知らないのか知ってるのかどっち?」
「知ってる」
「そう、話してくれる?」
「分かった、お前が大きくなったら話そうと思っていた事だしな」
メッシュは話し始める、姉が教えてくれた事実と全く同じ話を。
「なんで、お父さんとお母さんを置いて自分だけが逃げたの?」
今すぐにでも手が出てしまいそうな程に怒りを感じているアリシアは、どうにか平静を装い、メッシュに両親を見捨て自分だけが逃げた理由を聞いた。
「死にたくなかった、それだけだ」
「ッ!」
そもそもメッシュが飛び出さなければ両親もメッシュも死ななかった、それなのにメッシュは死にたくなかったと言った、こんな男に恋心を抱いていた自分への怒り、そして孤児となり孤独を感じながら生きないと行けなくなった原因の目の前の男をアリシアは本気で殴った、アリシアに殴られたメッシュは吹き飛び地面に倒れる。
「ねぇ、私さメッシュ、アンタの事好きだったんだ、馬鹿みたいよね、両親の仇だってのにさ」
冷たい目で床に倒れているメッシュを見下ろしてからアリシアは、部屋から出て行った。
メッシュは部屋から出て行くアリシアを追う事が出来ずただ呆然としているしかなかった。
共同墓地
墓地にやって来たアリシアは管理者に事情を話し、激しい雨の中、両親の墓を掘り起こしていた、そして・・・。
「・・・、アリシア」
メッシュがアリシアに殴られたと聞き、何が起こったのかを大体は察したボスは、アリシアを追い墓地にやって来た、そして既に墓の掘り返しを終え、穴の近くに立っているアリシアに声を掛けた、ボスに声を掛けられたアリシアはゆっくりと振り返る。
「ねぇボス、これはどういう事?、なんで掘り返しても何も出てこないの?」
ボスに話しかけるアリシア、その瞳は悲しみに染まっていた。
「その穴が事実さ、俺は国の命令でお前に嘘を吐いた、帝国でお前の両親が死んだのも知っていたさ」
「へぇ、つまりこの国も私を兵器として見てたんだ」
「そうだ」
嘘を付かれていただけでなく、国に兵器として見られていたと知ったアリシアは・・・?。
「あはっ、あはははは!」
涙を流しながら笑う。
「本当バッカみたい、こんな国が好きだって思っていた自分も、エンジェルズに憧れて入れた事を喜んでいた自分も!、嘘吐き、みんな嘘吐きだ!、私が子供だと思って!」
「すまない・・・」
叫ぶアリシアにボスは謝る事しか出来なかった、そこにメア達がやって来る。
「ごめんね?、メアリ、私、帝国に行く事にしたわ、だからあなたの剣にはなれない」
「だ、駄目です!、帝国に行ってもあなたは兵器として扱われる、そんなの絶対に許しません!」
「そうね、私はどこにいても兵器扱いだ、ここにいても帝国に行っても、でも帝国の方が私に嘘を付いて騙していたこんな国よりはよっぽどマシなの、だから私は帝国の兵器になる、そしてメアリ?、私はあなたの」
アリシアはここで一度言葉を切り、以前アリシアが自身より強いと言ったメアリの憎しみの瞳より、更にどんよりと曇った憎しみの瞳を見せた。
「敵だ」
自分はメアリの敵、そう告げたアリシアはボスとメアリとグレイとシメラに背を向けると、この場から離れようとする、ここで止めないと手遅れになる、そう確信しているメアリとグレイとシメラは、アリシアに近付きメアリが腕を手に取り引き止める。
「離して」
「離しません!、あなたは私を親友と言ってくれた、私もあなたの事を親友だと思っています!、親友を兵器としてしか扱わない場所に向かわせる者などいません!」
「そうだぜ、アリシア、帝国に行く必要なんてねぇ、それでさお前を兵器と思っていたエンジェルズなんてやめちまおう、なぁに、働ける所なんていくらでもあるよ」
「だからメアちゃんの事を敵だなんて言わないで〜・・・」
メアリ達の話を聞き、アリシアは彼等に対し滑稽な物を見るかのような視線を送り、メアリの顔を睨み付ける。
「アンタさ、言ったじゃない、私にして良かったってさ、あれ私みたいなスタイル使いなら誰でも良かったって事でしょ?」
「それになんであの時アンタの正体についての話をしたか分かる?、アンタが私をどう思ってるか、確かめる為だったの、そしてあの時、私は確信したわ、あなたもそこにいるボスやこの国の奴等と変わらないって!」
「そんな・・・、私はあなたを兵器だなんて・・・」
アリシアは腕を掴むメアリの手を振り払うと、今度こそ、この場を後にした。
路地裏
「待たせたな、アリシア」
「ううん、いいの」
アリシアは姉に抱き着く、エリシアは抱き着いてきた妹を優しく抱きしめる。
「それじゃ行こうか、帝国へ」
「ええ」
アリシアから一度離れたエリシアは手を差し向ける、アリシアはその手を取る為に手を伸ばす、姉と妹その手が重なった瞬間転移魔法が発動し、アリシアはギグルス国を後にした。
アトリーヌ帝国
「よく来たな、吸血鬼第七真祖にして、雷のスタイル使い、アリシア・レイティスよ、して、お前が忠誠を誓うのは誰だ?」
「あなた様です、皇帝陛下」
「ククク、これからは我が右腕として存分に働け、真の黒騎士としてな」
皇帝がそう言うと、ニアが現れアリシアに近付いてくる、そしてアリシアの前に立った。
「ふふ、前に言った通りすぐに会えたでしょう?、アリシア」
「そうね、ニア」
言葉を交わし合ったアリシアとニアは笑顔を見せ合う、そしてアリシアは何をすれば良いか分かっているかのような様子で、ニアに抱き着く。
「あなたは自分が仮の闇のスタイル使いだと言った、なら陛下が言った通り真の黒騎士、真の闇のスタイル使いがいるはず、それが私なのね?」
「そうよ、あなたが真の黒騎士、真の闇のスタイル使い、二つのスタイルを持つ、帝国最強の戦士よ」
そう言ってニアは闇の魔力を放つ、するとその力は全て仮面に収められ、一気に魔力を失ったニアは倒れるが皇帝が受け止めた。
「アリシア、その仮面を手に取れ、そうすればお前が黒騎士だ」
「はい、皇帝陛下」
アリシアは地面に落ちた仮面を手に取ると目だけを覆い、口や鼻は露出したままの禍々しいデザインのバイザーの様な仮面を顔に付けた、すると強力な闇の魔力が放たれ、アリシアは貪欲に闇の魔力を吸収して行く。
(凄い・・・、これが闇のスタイルの力・・・)
アリシアが闇のスタイルの力に酔いしれている間に、仮面の中の魔力はすべてアリシアの中に吸収された、自分が着ている服を見て不満気な表情を見せたアリシアは指を横に振るう、すると髪には悪魔の角のような装飾が現れ、次に服が漆黒の魔力に焼かれて消滅し、闇のスタイル使いに相応しい漆黒のドレスが現れる、アリシアは現れたドレスに袖を通し、次に赤いヒールを作り出し履くと、ヒールの音を部屋に響かせながら、皇帝の前に立った、キールが生まれ変わったアリシアの姿を見て口笛を吹く。
「如何でしょうか?」
「実に美しい」
「お褒めに預かり光栄ですわ、皇帝陛下」
皇帝に自身の姿を褒められたアリシアは恭しく頭を下げる。
「早速その力を試したいみたい筈だ、いくつかの適当な任務をやる、それで力を試せ、ニア、エリシア、キースはお前の部下とする、好きに使え」
「はい」
少女は皇帝の言葉を聞き微笑む、その微笑みは誰が見ても邪悪だと言う程に禍々しい笑みだった。




