七話、矛盾
王都ローレリア、城下町
翌日、アリシアは姉に連絡をし以前会った路地裏に呼び出した。
「おはよ、お姉ちゃん」
「おはよう、意外と早かったな?、もう我慢出来なくなったのか」
「うーん、今日はそう言うのじゃないの、お姉ちゃんに会いたいって人がいるんだ」
「・・・?」
誰が自分に会いたいのか?と疑問に思うエリシアは、アリシアの背後から現れた少女の顔を見て目を見開く、何故なら自分達姉妹と全く同じ顔をしていたから。
「な、何故、私達と同じ顔をしている!?、お前は誰だ!」
「メアリ・アルビオンと言えば分かるでしょう?、帝国兵さん?」
「・・・!、十年前に取り逃がしたと言うアルビオン王国の姫か、私達姉妹と同じ顔をしていたとはな、驚いたよ、それで?私に何の用だ?」
エリシアはアルビオンの名を聞いただけでメアリの正体を理解した。
「私は帝国の情報を欲しています、ですから、エリシア・レイティス、帝国を滅ぼす為の私の目となってくれませんか?」
「つまり、私に帝国のスパイをしろ、帝国を裏切れと言っているわけか」
「はい」
エリシアは目の前の女が本気で帝国を滅ぼすと言っているのかを探る為メアリの瞳を見る、メアリは迷いのない瞳でエリシアの瞳を見つめ返した。
「どうやら本気らしい、アリシア、お前は昨日、私と一緒に来るのは保留と言っていた、それなのにこれはどう言う事だ?」
「安心してお姉ちゃん、私はまだ、帝国の敵になるか味方になるか保留にしてるから」
「つまり、その王女が私に会いたいと言うから連れて来たと言う訳か」
「そう言う事」
「そうか、なら良い、ではメアリ姫、私があなたに協力して得ることが出来る利点を話して貰おうか?」
アリシアの言葉を聞き安心したエリシアは、メアリに自分が協力する利点とは何か?質問した。
「あなたはアリシアと同じく両親を殺した帝国を憎んでいる筈、私に協力し私に情報を渡す事で、他国に帝国の弱点が知れ渡ります、そうなればその弱点を突き、帝国を滅ぼすのは容易になる、ふふ、私に協力すればあなたの恨みを晴らす事が出来ますよ?」
「フン、私が得る事が出来る情報程度の弱点で帝国を滅ぼせると思っているのか?」
「出来ますよ?、だって私には切り札がありますから」
「・・・、それはスタイル使いの魔力で鍵が開くあの箱の中身の事か?」
「はい」
メアリはエリシアに箱の事がバレているのは気にしない、その程度想定済みだからだ。
「あれの中には何が入っている?」
「あれの中にある物は八人目のスタイル使いを生み出す儀式を行う神殿を封じた鍵です」
「八人目のスタイル使い?、それって一体?」
属性は炎、水、雷、土、風、光、闇の七つしかないとアリシアは知っている、ならば八人目とはどう言う事か気になったアリシアは口を挟む。
「八つ目の属性とはゼロの魔力の事ですよ、アリシア、そしてゼロの魔力のスタイル使いは金の聖杯と同等の力を持つとされています」
「魔王と同等だと?、・・・」
ゼロの魔力のスタイル使いが愛理と同等の力を持つと聞いたエリシアは顎に手を触れる、確かにその様な切り札があれば帝国に勝てるかもしれない、そう思ったのだ。
「一つ聞こう、ゼロの魔力のスタイル使いには誰がなる?」
「私がなります、これから戦争を起こすつもりの私が先陣を切らないなんて馬鹿らしいでしょう?、ですからその力は私が得ます」
「フッ、あっはっはっは!、随分と肝が据わったお姫様の様だ、良いだろう、お前の目になってやる、しかし一つ条件がある」
「条件とは?」
「私の条件、それはアリシアだ、アリシアが帝国に来るのならば私はお前の目にはならない、アリシアが帝国に来ないのならば私はお前の目になってやる、その二つだ」
エリシアは何があってもアリシアと戦うつもりはない、その結果のこの答えだ。
「分かりました、あなたも答えは保留と言う事ですね」
「そう言う事だ、それではもう用は済んだだろう?、帰ってくれないか?、妹と二人にして欲しい」
「分かりました、それではアリシア?また後で」
「うん」
メアリはアリシアに手を振ると去って行った、この場にはアリシアとエリシアが残る。
「とんだじゃじゃ馬と友達なんだな、姉として心配になるぞ」
「あはは、普段は優しくて良い子なのよ?、でも帝国に対しては・・・、ね」
「私達と同じと言う訳か」
「そう、でもメアリの恨みは両親を殺された私達よりも深い、だって国を滅ぼされているのですもの、そう言えば昨日は混乱していて気付かなかったんだけど、昔ボスが私に教えてくれた、私達の両親の死についての話には一つの矛盾点があるの」
前日、メアリとの話を終え眠る為ベッドに入ったアリシアは気付いた、ボスから伝えられた両親が死んだ場所の相違について、それを姉に伝える。
「どう言う事だ?」
「ボスは私達の両親がギグルス国の首都で死んだって言っていたわ」
「なに!?、そんな筈はない!、私達の両親の死体は帝都で確認され、・・・こんな事は言いたくないが両親の死体の写真は申し出て私も確認している!」
「やっぱりね、確認する事がもう一つ出来ちゃったわ」
アリシアは考える、嘘を付いているのはどっちだと、帝国は両親の死体の写真を撮っており、写真を確認したいと申し出たエリシアに見せている、その為帝国の話が嘘とは考え難いとは言え偽造写真の可能性もある、しかしギグルス国には両親の墓がある、もしその墓に棺桶が埋められていなければ・・・。
「ボスは嘘付きって事になる」
もし、メッシュが仇であるだけで無く、ボスまで嘘を付いていたのならば、アリシアが取る選択はもう決まっている、帝国に付くこれだけだ。
「実は私にとってはどっちでも良い事なのだがな、何故ならさっきも言った通りだからだ」
アリシアがどんな選択を取ってもその味方をする、それがエリシアの方針だ、だからこそどちらでも良いと言えるのだ。
「ありがとう、お姉ちゃん」
どんな時でも味方でいてくれる家族と言う存在が、これ程頼りになるとは思っていなかったアリシアは、姉の胸に飛び込んだ。
「・・・」
そんなアリシアとエリシアの様子を見ている仮面の少女がいる、仮面の少女は姉妹がこれ以上会話をしないのを確認すると、転移しアトリーヌ帝国の帝都に入る。
「戻ったか、エリシアの監視結果を聞かせろ」
「はい」
仮面の少女は皇帝の名を受け、エリシアの監視結果を話して聞かせた。
「やはりな、大方、ギグルスにいるメアリ姫のスパイにでもなろうと言うのだろう?」
「はい」
「フン、まぁ妹が我が国に来ると言うのならば裏切らないと言っているのだ、もしそうなれば許してやろう、しかしメアリ姫の目となるのならば即刻抹殺する、良いな?、ニアよ」
「はい、お父様、その時は私が彼女を討ちます」
仮面の少女、ニア、はエリシアが裏切るのならば自分が討つと宣言した。
「うむ、任せる、我が娘よ」
皇帝はニアの肩に触れると部屋から出て行った、ニアもその後を追って部屋から出る。




