五話、GHG-00エクストール
王都ローレリア、城
真夜中、アリシアがムクリと身を起こす。
(血、血が吸いたい…)
愛理の血を吸い収まっていた吸血衝動が再発したのだ、ベッドから降りて立ち上がったアリシアはフラフラと部屋から抜け出すと愛理の部屋に入る。
「・・・、おいで」
ドアが開く音を聞き目を覚ました愛理は、手を広げアリシアを受け入れようとする、アリシアはその腕の中に飛び込むと愛理の首元に牙を突き立て、血を吸い始めた。
「ごめんなさい・・・」
血を十分に吸い吸血衝動が収まったアリシアは愛理に謝る、部屋の冷蔵庫にトマトジュースは完備されており、それを飲めば吸血衝動は収まったのだが、メアやシメラを襲ってしまうかもと言う焦りから、愛理の部屋に向かってしまったのだ。
「いいの、あなたはまだまだ吸血鬼としては幼い、吸血衝動が発生したら焦っちゃうのは仕方ない」
「うん・・・」
愛理はアリシアの頭を撫であなたは悪くないと諭す。
「師匠、今日は一緒に寝て良いかな?」
「うん」
「ありがとう」
アリシアは愛理のベッドに上がると横になる、愛理は茶髪の少女を優しく抱きしめる、すると安心した少女は数秒で眠りに就く。
「・・・」
愛理はこの時にはもう少女が心の中で何を求めているのかを理解していた、少女が求めているものそれは、親の愛情、両親を失っているアリシアにとって二度と手に入らない物である。
「・・・、朝になったらどうにかして元気付けてあげたいな、どうしよっかな・・・」
愛理は胸の中で眠る少女を元気付ける方法を考え始めた。
王都のどこかの路地裏にエリシアがいた、誰かと連絡を取っているようだ。
「陛下、アリシア・レイティスが、真祖の血に目覚めました」
エリシアが連絡を取っていたのは彼女の主人、帝国の皇帝のようだ、そしてアリシアの監視を続けていたエリシアはアリシアが真祖の血に目覚めた事を皇帝に報告した。
『そうか、何故目覚めた?』
「魔王、久城愛理がいました、我々が彼女を奪う前に力を付けさせる為に血に目覚めさせたのだと思います」
『フン、流石は世界を救った英雄様は鼻が効く、我々が最大の戦力を手に入れる前に手を打ったか』
「陛下、私はどうすれば・・・?」
『久城愛理が隙を見せた時彼女に接触せよ、そして伝えるのだ、自分はお前の姉だとだから一緒に帝国に来いとな、十分な揺さぶりになるだろうよ』
「畏まりました」
皇帝との連絡を終えたエリシアは憤り近くの壁を殴る、それはたった一人の肉親である妹を兵器としてしか見ていない皇帝への怒り、そしてそんな最低な男に逆らえない自分の弱さへの怒りだった。
「私はどうすれば良い・・・、父さん・・・、母さん・・・」
城、中庭
この日から愛理と修行を始める予定(メア達もこの国の実力者達に鍛えて貰う予定だ)のアリシアは、既にベッドにいなかった愛理を探し城の庭に出て来た。そこには白い外装の機体が立っていた。
「な、なんなの!?このファントム!、初めて見た!」
アリシアは白い機体を見て興奮する、するとコクピットが開き、愛理がアリシアの目の前に降りて来た。
「驚いた?、この機体は私のデバイス、形式番号GHG-00、機体名はエクストールだよ」
「デバイス・・・、そうか師匠は金の聖杯だもんね、金の聖杯のデバイスの伝説って有名だし、これがそうなんだ」
エクストールを見上げ目をキラキラとさせるアリシア、愛理はそんな少女の様子を見て元気になってくれて良かったと微笑む。
「どう?、コクピットの中見る?」
「勿論!」
「ふふ、そうこなくっちゃ!」
愛理はアリシアをお姫様抱っこ(した途端驚いたアリシアはジタバタした)し、コクピットに入るとアリシアを降ろす。
「わぁー!凄い!、全天周囲モニターなのね!、この世界の技術者達も実現に向けて頑張ってはいるけどまだ完成してない技術なのよ?これ!、ねっ!、シートに座っても良い?」
「どうぞ」
「やった!」
エクストールのコクピットを見て子供のようにはしゃぐアリシアは、シードの左側に備え付けられているタッチパネルを触ったり操縦桿を握ったり、フットペダルを踏みギルスとのペダルの硬さの差を感じて重いのね!と興奮したりと、思う存分、エクストールを堪能する。
「ねっアリシア、私があなたを喜ばせてあげる事ってさ、これくらいしか思いつかなかったんだ、喜んでくれたかな?」
「見て分からない?、大喜びよ!、ありがとう!師匠!」
「ふふふ、なら良かった、それじゃそろそろ修行を始めようか」
「うん・・・」
師に修行を始めようと言われたアリシアは名残惜しそうにコクピットから離れ、共に地面に飛び降りる、すると愛理がコクピットから出る前に移動するよう命じられていたエクストールはエンジンを起動させると宇宙に向けて飛んで行った。
「単独での大気圏内からの離脱も可能なんだ・・・」
アリシアは宇宙に向けて登って行き、徐々に小さくなっていくエクストールを再び目をキラキラとさせながら見送った。
武器を持たなくて良いと愛理に言われたアリシアは手ぶらで棒立ちで立ち、愛理を見ている。
「さてと、アリシア、あなたにはこれから雷属性の魔力を活かした高速移動を身に付けて貰います」
「はーい、でもそれってどうやるの?」
「うーん、簡単に言うと全身に電気を走らせて強化させるって感じかなぁ」
簡単に言うと愛理も使える身体強化と言う魔力を使って身体を強化する技の雷属性版で、愛理の物と比べて雷の魔力の特性上、少量の魔力で済むと言う利点がある。
「全身に魔力を走らせるかぁ、こんな感じかしら?」
アリシアは体の表面に雷属性の魔力を走らせる。
「違う違う、体の中に雷属性の魔力を走らせるの」
「体の中・・・?、嫌な予感がするけど、こうかな?」
愛理に違うと言われ、体の中に雷属性の魔力を走らせろと言われたアリシアは体の中に雷属性の魔力を走らせた、すると一回で出来た、しかし・・・。
「あぃぃぃぃぃ!?」
体内の雷の魔力が通った事により、感電した、雷のスタイルを使うと言う体質上皮膚は電気を通さない特性になっているのだが、体内は普通の吸血鬼である為、感電してしまったのだ。
「あー、やっぱそうなるか」
「わ、分かってるならやらせないで・・・」
「ごめんごめん」
手を合わせて謝る愛理をアリシアはジーと見つめる、すると愛理は口笛を吹きながら視線を逸らした、そんな彼女を見てアリシアは反省する気ないなと思い、睨むのをやめて立ち上がった。
「今のはなんでダメだったのか分かるよ、流す量が多かったからよね?」
「そう、まずはこれでもかと言うくらい弱い雷属性の魔力を体の中に走らせてみて?」
「はーい!、イテテテテテ!」
アリシアは先程が100なら0.1ほどの魔力を体の中に走らせた、それでも全身に激痛が走り、地面に倒れた少女はのたうち回る。
「あのー、本当に痛いです・・・、師匠・・・」
「強くなる為だ、慣れなさい、これが終わればあなたは最高の速さを手に入れれるんだから」
「はいはい慣れますよーだ、イテテテテテ!!」
どこか心許ない愛理の説明に呆れつつ、アリシアは痛みに転げ回りながら、雷の魔力を体内に走らせる練習を繰り返し行う。
「・・・」
何度も雷を体内に走らせた影響か髪の毛が静電気だらけになり逆立っているアリシアは、50回目の練習で0.1の量の雷の魔力を走らせるのに慣れた。
「良し、慣れたね、それで走ってみな」
「うん!、おっ?おお!?」
愛理に走ってみなと言われたアリシアは走った、すると0.1の量の雷の魔力を体内に走らせるだけでも、通常状態より明らかに走るスピードが上がっていた。
「どう?」
「凄い!、たったこれだけでこんなに速くなるなんて!、もっと多くしてみたらどうなるのかしら!?」
「ちょっ!、やめておいた方が・・・」
「にゃぁぁぁぁ!?」
「あーあ・・・」
調子に乗ったアリシアは1の量の雷の魔力を体内に走らせたが、その瞬間体内からバチチと音がし、猛烈な痛みが走り、再び地面を転がる。
「あー・・・、ふぅ・・・、完全に使えるようになるまでかなり時間がかかりそう・・・」
「だね・・・、でもこれを応用すれば、少ない魔力量で腕の筋力を爆発的に上げてパワーを物凄く向上させる事も出来るから、頑張って慣れよう!」
「はーい」
愛理に返事を返したアリシアは徐々に魔力量を上げつつ、体内に雷の魔力を走らせる練習を反復して行って行く。
キン!キン!と金属音が響く、愛理は次に剣技の練習を実戦方式で行なっているのだ。
「ほらもっともっと感覚を研ぎ澄ませて!、ほら!油断してるとこんな風に拳や!蹴りが飛んで来るよ!」
愛理の戦い方はもう一人の金色の九尾であり、愛理の祖先である久城明日奈から代々受け継がれている、全身を使った喧嘩スタイルな戦い方だ、騎士学校などで教わる基本に沿った剣技とは違い、剣を持たない左腕や両足や狐は尻尾を使った攻撃や、突然頭突きをしたりする為、全くの予想が付かない動きが、久城家の剣技の強さである、しかし下品な剣技と言われるのがたまにキズである。
(尻尾まで使って来るから動きが読めない!)
愛理の尻尾が顔に命中し、んがっ!、と顔が後方に跳ね上がったアリシア、その間に迫っていた愛理は無防備なアリシアの横っ腹を蹴り飛ばす。
「っうう、効くわねぇ、師匠の蹴りは・・・」
痛む横っ腹をさすりながら再び剣を構えるアリシア、すると愛理がニヤリと微笑み左手から魔力弾を放って来た。
「おっとっと!」
アリシアはバックステップを踏みながら迫る魔力弾から逃げ、姿勢が整うと、ガンブレードで斬り裂き打ち消した。
「よく反応出来ました、合格」
「いきなり撃たないで・・・」
(これだけスパルタならそりゃ強くなるわ・・・)
アリシアが脳内でそんな事を考えていると、静かに駆け出していた愛理が懐に潜り込んで来た。
「ッー!?」
「油断しない」
ハッとしたアリシアはなんとか反応し両腕でアッパーを受け止める、次に放たれた回転斬りはしゃがんで避け、足元を狙った突きを放つが、さっと足を動かされ避けられた。
「うっ・・・」
そして顔の前に右膝を突き出された、それを見たアリシアは剣を取り落とし負けを宣言した。
「はい、今日はここまで」
アリシアの宣言を見た愛理は膝を引っ込めると、剣を鞘に戻した。
「師匠って本当に強いなぁ、勝てる気がしないわ」
「ふっふっふ、長年の努力の成果さ」
「うん、師匠を見てると努力って大切なんだなって思う、だから私も頑張る!」
「その意気だ、さっ、ご飯食べに行こう、美味しいレストランが近くにあるみたいなんだ!、ほらっ!ほらっ!」
美味しいレストランがあると言った愛理の尻尾はパタパタと振られている、その様子を見てアリシアは普段は小動物みたいなのになぁと思いつつ、師と一緒にレストランに向かって行った。




