三話、金色の九尾久城愛理と夜の王その名は・・・
風の国ローラン、王都ローレリア
飛行機の中で豪華な料理や様々な映画や友との楽しい会話を楽しみ、たっぷりとリラックスし元気ハツラツになったアリシアは、風の国ローランの王都ローレリアにやって来ていた。
四人が飛行機から降りるなり、王都所属の騎士団が現れアリシアだけを一台の車に案内し、他の三人は別の車に乗せられた、メア達は暫く近くのホテルで待つように言われたのだ。
アリシアを乗せた車は王城に向かい停車する、そしてドアが開けられると、王城の入り口に一人の男、この国の王ロミアスがいた。
「お、、おうしゃま・・・、王様、こ、今回はお呼びいただきありにゃ!?」
メアに教えられた挨拶をしようとするアリシアだが、全力で噛みまくり即失敗した。
「ははは!、よいよい、いつも通りに喋るが良い」
「あはは〜、はぁ・・・、良し!、初めましてロミアス王、私の名はアリシア・レイティスよ、よろしく!、それで?私に何の用かしら?」
「君に会いたいと言う者がいてな、その者が君を見極めたいと言っている」
「ふぅん、その人って誰?」
「風のスタイル使いだ」
そう言うとアリシアの真上に強い風が吹きアリシアの目の前に一人の男が現れた。
「初めましてだな、雷のスタイル使いのアリシア君、私の名はファーリー、風のスタイル使いだ」
「よ、よろしく」
派手な登場をしたファーリーに戸惑いつつ握手をするアリシア、同時に彼は何故自分を見極めたいのだろう?と疑問に思ったので聞く事にした。
「ねぇ、なんであなたは私を見極めたいと思ったの?」
「一ヶ月前、君のスタイルバーストの力を感じた。その時に感じた、君の中に不穏な魔力が存在するのを」
「私の中に不穏な魔力?、・・・」
この時アリシアは思った、ドォーズと戦った時彼が言っていた、夜の王、と言う言葉がその不穏な力なのではないかと。
「その様子、思い当たる所があるようだな」
「まぁね、夜の王ってどう言う意味か知ってる?」
「・・・いや?、なんの事だか」
「そう・・・」
知識人に見えるファーリーでも知らない言葉、夜の王、その意味を知るドォーズが言っていたあのお方とは誰なのか、アリシアは益々気になった。
「取り敢えず、君には暫くこの王都で暮らして貰う、いいな?」
「良いわよ、その代わり自由な行動はさせてよね?」
「それは保障しよう」
「それなら問題なし!、これから暫くよろしく!、ファーリーさん!、あっそれでね?、後で協力して欲しい事が・・・」
アリシア達は風のスタイル使いに会うと言う事で箱を持って来ていた、その為、アリシアはファーリーに箱に魔力を注ぎ込んで貰えるように頼もうとしたが、背後から強い魔力を感じ振り返る、そこには美しい金髪に、狐の耳と尻尾を九本備えた女性がいた。
(わぁー、綺麗な人!)
「よくぞお越し頂きました、魔王久城愛理殿」
「うん、急な頼みを引き受けてくれてありがとね」
「いえいえ、この多重世界の平和の為に活躍をしているあなた様なら喜んで歓迎致しますよ」
「それでもありがとう」
愛理はロミアスにペコリと頭を下げ、魔王に頭を下げられたロミアスは困った様子で目を泳がせファーリーに助けを求める、ファーリーはスッと目を逸らした。
「さてと、それじゃあ、私の部屋に案内・・・」
下げていた頭を上げて一度周囲を見渡した愛理は、この場にいるアリシアが視界に入り一度視線を逸らした、数秒後尻尾の毛を逆立て驚いた顔をしながら二度見する。
(・・・私の顔に何か付いてるのかしら?)
自分の顔を見られて驚かれたアリシアは若干ショックを受ける。
「お、驚いたぁ〜、まさかあなたがここにいるなんてね、この国で暫く休んだ後に会いに行く予定だったのになぁ」
ピーン!と立ち上がっていた尻尾を収め落ち着いた愛理はアリシアに近付く、アリシアは彼女のまるで自分を知ってるかのような口振りにどこかで会ったのかしら?と思ったので聞く事にする。
「あ、あの、私あなたとどこかで会った?」
「ふふ、初対面さ、でもあなたの事は知ってる、夜の王、の事もね」
「!」
夜の王の意味についてこんなに早く聞けるとは思っていなかったアリシアは、愛理に詰め寄る。
「お願い!教えて!?、夜の王ってなんなの!?」
「落ち着いて、今すぐに教えてあげるから、ロミアス王、ごめんなさい、ちょっと席を外してくれないかな?」
「承知致しました」
愛理の頼みを聞きロミアス王は王城の中に消えていった、しかしファーリーは残っている。
「魔王様、お初にお目にかかります、私の名はファーリー、風のスタイル使いです、失礼なのは承知しているのですが、どうか私にも夜の王の意味についてお聞かせ下さい、彼女、アリシアがここにいるのは、私が彼女の中に不穏な力を感じ、見極めたいと思ったからなのです」
「あぁ、それでこの子がここに、良いよ、あなたもここにいてもね」
「ありがとうございます」
ファーリーは愛理に頭を下げる、そして彼が顔を上げると愛理は口を開き話し始めた。
「夜の王、それは吸血鬼の真祖を示す言葉なの。つまりアリシア、あなたは現在は六人いる吸血鬼真祖の七人目、第七真祖と言うわけなのさ」
(吸血鬼!、私が不穏に感じたのはその力か・・・)
「え、ええ!?、私が吸血鬼?、血を吸いたいと思ったことなんて一度もないのに?」
「現在の吸血鬼の王にも確認したから間違いないよ」
現在の吸血鬼の王とは、愛理の祖母久城明日奈の友人の一人の事である。
「そ、それでもいきなりそんな事を言われても信じられないわよ・・・」
「ふふっ、確かにね、こんな事信じられないよね、なら一つ聞くよ?、君は自分より強い者の血を見た事はある?」
「あるわよ、ついこの間ね」
アリシアが思い出したのはメッシュの血だ、思い出すだけでも身震いがした。
「違う違う、私が聞いてるのは、自分より強い種族の血を見た事があるかって事。吸血鬼ってね?、初めて血を吸う時は人間の血を見ても反応をしないの。本能的に人間を餌だって思ってるからね。だから親吸血鬼は自分の血を見せて、子供の吸血衝動を目覚めさせるの」
愛理はクロスギアと呼ばれる胸元に付いているペンダントからエクスカリバーを取り出すと、首元を軽く斬った、その瞬間・・・。
「か、あぁ!?」
アリシアの心臓が強く高鳴り、その瞳が紅く染まる、そして口の中の犬歯が伸び始め鋭い牙となった。
「ほぅらね、私は魔神、吸血鬼よりも高位の存在なんだ、だからあなたは吸血衝動に目覚め、吸血鬼として覚醒したんだよ」
「くっ、うう!」(そんな・・・、私が本当に吸血鬼だなんて・・・)
己が人間ではないと知ったアリシアは大きなショックを受ける、それもそのはずこれまでの人生自分は人間だと思い生きて来たのだから。
「これはあくまでも予想なんだけど、あなたのお父さんかお母さんが吸血鬼なんだと思う。そしてあなたは真祖と成れるだけの力を持って産まれて来たんだ。あなたの力、ライジングスタイルもかつては吸血鬼が使っていたとされる力だからね」
「確かに、伝記にも雷のスタイルは吸血鬼が使っていたとされている」
「補足ありがと」
愛理はファーリーに感謝しながらアリシアに近付く、そして優しく抱きしめた。
「あなたは優しい子だね、初めて吸血衝動に襲われた吸血鬼は普通は我慢が出来ずに血を求めるのに必死に堪えてる、でももう我慢しなくて良いんだよ?、私の血を吸いなさい、あっ、安心してね、私の知り合いの吸血鬼の王が言ってたんだけど、吸血鬼に血を吸われるだけで眷属になるなんて誤りだから、あくまでも血を半分以上吸った後に獲物に魔力を注いだ場合に限るんだ、だから私の血を吸っても大丈夫なんだよ?」
「あっ・・・」
アリシアが愛理の血を見ても必死に我慢していたのは、吸血鬼が血を吸えば相手は眷属にしてしまうかもと言う恐れからだった、しかしその心配がないと分かった今、アリシアに我慢する理由など無くなった、愛理に抱きしめられているアリシアはまず愛理の首元に流れる血をひと舐めした。
(お、美味しい・・・)
舐めとった愛理の血は非常に甘美だった、一度血の味を知ったしまえばもう収まりは付かない、アリシアは愛理の首元に牙を喰い込ませ、血を吸い始める。
この瞬間、新たな夜の王として、吸血鬼第七真祖として、アリシアは目覚めた。
五分後、アリシアは愛理の首元から牙を引き抜いた、十分に血を吸い満足したのだ。
「んっ、もう良いの?」
「ええ、落ち着いた」
その証拠に紅く染まっていた瞳は元の色に戻っている、しかし口の中の犬歯は牙になったままだ。
「先に謝るね?、こんな強引な方法であなたの中の吸血鬼としての本能を目覚めさせちゃってごめん」
「謝らなくても良いよ、愛理さん、私ってもしかしなくてもいつ誰を襲うか分からない状態だったんでしょ?」
「うん・・・、衝動に目覚めた吸血鬼はさっきも言ったけど我慢しきれずに近くの者を襲っちゃうから・・・」
「やっぱりね、自分を犠牲にして私に辛い思いをさせないようにしてくれたあなたには、感謝の言葉しか出ないわ、ありがと」
「う、うん」
吸血衝動を目覚めさせた相手である自分にお礼を言うアリシアを見て、愛理は目を丸くしつつも思う、強い子だと。
「・・・」
愛理から離れたアリシアは試しにファーリーを見る、しかし彼の事を餌などとは思わなかった、ただ衝動が目覚める以前と同じ、人として認識出来た。
「ねっ、私ってまた吸血衝動に襲われるのかしら?」
「それは大丈夫!、トマトジュースを飲めば抑えられるって吸血鬼の王が言ってたよ!」
「トマトジュース苦手なのに・・・、なら鏡に映らなかったり水辺が苦手になったり十字架に触れられると焼けたり、ニンニクの臭いが嫌になったりは?」
「私が知ってる吸血鬼は鏡に映るし、プールで泳いでるし、十字架のペンダントを首に掛けてたり、ニンニクたっぷりのラーメンを食べたりしてたよ!」
ちなみに全て吸血鬼の王の話である。
「へ、へぇ、一体誰の話なのかしら・・・、なら特に今までと変わらないじゃない、でも誰かに狙われる可能性はあるんじゃないかしら?」
「うん、あるよ。あなたはこれから強い人の血を吸えば吸うほどその力を増す事が出来るようになる。それって考えようによっちゃ、最強の兵器に成れるって事だよね?」
「確かにね、なら愛理さん、私はどうすれば良い?」
「そうだねぇ、誰に狙われても負けないくらいに強くなるとかかな?」
「うん、だから私、強くなるわ、今よりももっと、好きな人を守れるくらいにもっともっとね!、だから愛理さん、あなたの力、私に見せてくれないかしら?、そして私があなたに勝っても負けても、弟子にして欲しい」
これは魔王であるなら圧倒的な強さを持つ筈と判断したアリシアなりの答えである。
(ふふ、弟子にならない?って聞く必要がなくなっちゃったな)
「良いよ、アリシア、私もあなたに力を見せる、だからあなたも今の自分を全部私に見せて!」
「ええ、見せてあげる!、吸血鬼第七真祖である、この私、アリシア・レイティス様の力をね!」
「うん!、かかって来い!、行くよ!ハナ!ゼロフォーム!」
ハナとはクロスギアに搭載された戦術サポートAIだ。
『了解です!ご主人!、ゼロフォーム発動!』
愛理は自身の最強の姿、ゼロフォームに変身した、その瞬間地面が震える程の魔力が解放される、その魔力を感じ闘志が燃え盛るのを感じたアリシアの目は紅く染まり、同時に青い雷が放たれスタイルバーストが発動した。
「い、いきなりスタイルバーストか・・・」
スタイル使いとしての経験が長いファーリーでも、戦いの中で追い詰められた時にしかスタイルバーストは発動出来ない、だからいきなりスタイルバーストを発動したアリシアを見て驚いた。
「いくよ!、アリシア!」
「ええ!、愛理さん!」
世界を二度救った英雄久城愛理と、吸血鬼第七真祖アリシア・レイティスの勝負が始まる。
次回、アリシアVS愛理




