三話
オルビアの町、墓地
アリシアが暮らしていた孤児院の裏地に墓地がある。アリシアは両親が眠る墓の前に座り手を合わせていた。
(顔も知らないお父さんお母さん、私、十五歳になったわ。それでね?私、お父さんとお母さんみたいにエンジェルズのエージェントになったの)
アリシアの両親はアリシアと同じくエンジェルズのエージェントだった。アリシアの両親はアリシアが一歳になって間も無く?、高難度任務に向かい亡くなった。その任務の内容は正体不明の組織がギグルス国内の首都で集まり何かをしているので探ってくれとの任務だった。
アリシアの両親は見事、組織を見つけ出し組織がアルビオン王国を狙っているとの情報をエンジェルズ本部に伝えた。しかしそのすぐ後に組織の者に見つかり殺され、死体はバラバラにされた状態でエンジェルズに送り付けられたと、何故両親は死んだのかとボスに問い詰めたときにアリシアは聞いている。
(お父さんとお母さんを殺した組織の正体は今も分かってない。でも私、アリシア様がいつか二人の仇を取るからね。期待して待ってなさい)
(あ、後新しい友達が出来たわ、今度連れて来て紹介するわね)
アリシアは立ち上がり優しく父と母の墓に触れると背を向け両親の墓から離れた。
「あらアリシア、今日は仕事休み?」
「ええ休み、リンダは?」
リンダとは孤児院でアリシアが暮らしていた頃のルームメイトだ。現在はエンジェルズに入ったアリシアとは違い、孤児院に残り孤児達の世話をする保母となっている。
「私は仕事」
「なぁんだ、休みなら一緒に町で遊ぼうと思ったのに」
「また今度ね、ほら行った行った。これからお墓の掃除をしなきゃいけないの」
「はいはい」
リンダの仕事の邪魔をするつもりはないアリシアは、リンダに手を振ってから別れた。
オルビアの町
朝、食堂で出会ったメアはエンジェルズの資料室で他のスタイルの能力者について調べると言ってそそくさと行ってしまった。コンビを組んだ身でありながら一人で仕事をする訳にもいかないので、この日は休みなのである。箱を開けると心に決め頑張っている彼女を邪魔するつもりはないお暇なアリシアは、一人オルビアの町を歩いている。
「ん?」(あれは・・・)
お気に入りのサンドイッチを食べながら、町をブラブラと歩くアリシアの視界に、とある者が目に入った。先日はメアを逃す事を優先した為、放置し結果的に取り逃がす事になったメアを追っていた男達だ。
(捕まえる価値は・・・、あるな・・・)
男達を目で追いながら、アリシアは装備の状態を確認する。腰には愛用のガンブレードであるメリー、そしてズボンの右ポケットにはエンジェルズとの連絡用の小型通信機が入っている。これだけの装備があれば問題ないと判断したアリシアは、男二人が路地裏に入った所で駆け出した。
「やぁ!お兄さん達!二日ぶりね!」
足の速いアリシアはあっという間に男二人に追い付き声を掛けた。
「お前はあの時の!」
「あの女はどこだ!」
どうやら男達はアリシアを覚えており、そしてまだメアを探しているようだ。
「安心しなさいな、すぐに会わせてあげる!」
「消えた!」
「後ろだろ!」
男達にメアを渡す気は一切ないアリシアは雷撃を発生させ跳んだ。対する男達は流石は二回目、アリシアが跳んだのを見て振り返る、しかしアリシアは現れない。
「ごめんねー、私のジャンプってさぁ、十秒くらいは時間を調節出来るの」
「なっ!?」
「にっ!?」
アリシアは振り返った男達の後ろに現れた、慌てずに二人の男に雷撃を浴びせると気絶させる。
「さて、どう運ぼうか・・・」
男達を捕らえる事が出来たのは良いものの、運び方を考えてなかったアリシアは困った様子で周囲を見渡す。
「良い物、発見!」
アリシアが見付けた物は荷車だった、よいしょっと男を担いだアリシアは男を荷台に乗せ、近くのシートを拝借するとそれで荷台の上に乗る二人の男を隠し、他の者達に何を運んでいるのか分からないようにすると、運び始めた。
「!」
しかし数秒も経たないうちに、真上から何者かの気配。気配に反応したアリシアは荷車から離れ後ろに飛び退く。
「全く・・・、やはり現地で雇った者は使うべきではないな・・・」
(こいつ、この気配・・・)
「おっ、気付いたな。そう俺は!お前と同じスタイルの能力者さ」
男はそう言うと体から炎を放つ、彼は炎のスタイルの能力者のようだ。
「光栄ね、私とは別の属性だけど同じ能力を扱う人に出会えるなんて」
アリシアはガンブレードを腰から引き抜くとガンモードにして構える。先程の現地で雇ったと言う言葉から、二人の男と違って、炎のスタイル使いの男はメアを狙う組織の更に中枢にいる可能性が高い。ならば荷車の上で伸びている男達よりもこの炎のスタイル使いの男の方が捕らえる価値は高いと言える。
「だから、捕まえてあげるわ!」
三発、アリシアは男に向けて銃弾を放つ。狙った場所は一発は足を撃ち抜き動きを封じる為の弾、もう二発は逃げ場をなくす為、男の体の左右にわざと外して撃った。男は足を狙った銃弾を避ける為に上に飛ぶ。正にアリシアの狙い通りだ。
「ライジングソード!」
剣に雷を纏わせアリシアは男に斬りかかる。
「早えな!でも甘いぜ!」
男は空中で炎を放つと、体を回転させアリシアの斬撃を避けた。斬撃がスカッたアリシアは雷撃を放ち、また跳んだ。
「チッ、跳んだか・・・」
地面に着地した男は周囲を見回す。対するアリシアは男の真後ろに現れ斬りかかる。
「くっ!?」
しかし背後を取り勝った!と判断したアリシアに炎が命中した。男はアリシアが背後に現れると想定し、あらかじめ手のひらに炎を溜めておいたのだ。そしてアリシアの気配を感じた瞬間真後ろに向けて炎を放った。
「お前は身体能力も剣技も能力も悪くねぇ。でも経験が足りねぇな。まぁ頑張って経験を積め。そうすりゃお前は絶対に強くなれる」
炎をまともに喰らい壁に叩き付けられたアリシアの肩を叩き、まだ気絶している男二人を担ぐと、この場を後にしようとする。
「待ちなさい!あなた名前は!?」
フラつく体を無理矢理に立たせて、アリシアはガンモードにしたガンブレードを男に向かつつ、何者か聞く。
「ん?、そうだなぁ・・・、キースだ」
「偽名ね」
「そりゃ敵に本名は教えねぇだろ」
「確かに、でもその名前絶対に忘れないんだから!」
「おうおう、あんたみたいな美人に覚えてもらえるなんて光栄だぜ」
「そうよ・・・、光栄に思いなさい、今日は負けたけど・・・、いつかはあなたに勝つこのアリシア様に、覚えられると言う事を・・・ね・・・」
炎の直撃と壁への激突が大ダメージであったアリシアは意識を失い倒れた、それを見たキースは男二人を地面に置いてから、アリシアを持ち上げ、壁にもたれ掛けさせると、もう一度男二人を担ぎ、この場を後にした。