五話
ニルビスの町
アリシアはドゥーム他二名のエージェント確保任務を遂行する為、ニルビスの町に来ていた、この町は荒くれ者が集まる町で誰が町に入ろうが気にしない者達ばかりである、その為組織間連合との対立状態となったデッドスカルの者達も少数だがこの町に出入りしていると言う情報がある。
その中にドゥーム達がいると言う、彼等はピーチと言う酒場に出入りしているようで、町の外にファントムを待機させ、この町に入ったアリシア達は窓の外から酒場の中を伺う。
「居たわ、情報通り、夜の十時丁度から飲み始めてる、・・・」
エンジェルズの仲間、そしてメッシュがベッドの上で眠る原因となった三人組をアリシアは、冷たい瞳で見つめる。
「それでアリシア?、どうするんです?」
「ここで待ってて、そして何も言わないで」
「・・・、分かりました、準備はしておきます」
メア達から離れアリシアは店の中に入る、そしてドゥーム達の前に立つ。
「なんだ?嬢ちゃん?」
ドゥームは目の前に立つアリシアに話しかける。
「可愛い子ねぇ、ドゥーム、あなたに会いに来たんじゃない?」
「そうに違いねぇですぜアニキ!、ほら金なら親父からたんまりと貰った報酬がある!、嬢ちゃんも座って飲みなぁ!」
「・・・、キレるぞあいつ、準備しろ」
「は〜い」
楽しそうに話す、ドゥーム達の前で俯き激しい怒りから身を震わせているアリシアは、プチンと理性を飛ばし、顔を上げると、目の前の机を蹴り上げた、それを見た周囲の客がどよめく。
「なんのつもりだ?」
「エンジェルズって言ったら、分かるかしら?」
「あぁ、よーく分かるぜ、俺らで一階を潰して大勢傷付けてやった組織だ、つまり嬢ちゃんはエンジェルズのエージェントか」
「ええ、そうよ、あんた達三人を捕まえに来たエンジェルズのエージェントよ!」
「喧嘩も売られたし、敵となれば俺らは黙ってるわけにはいかねぇなぁ、あらオルガ、ミレイ、この嬢ちゃんをやるぞ」
「ヒッヒッヒ、おうさ」
「ええ」
ドゥームは銃を二丁構え、オルガは大きな斧、ミレイは短剣だ。アリシアもガンブレードを構える。アリシアは彼等に付いて来るように促すと共に店の外に出て向かい合った。
「簡単に死ぬんじゃねぇぞ嬢ちゃん、楽しませてくれや」
「それはこっちのセリフよ!」
ドゥームはアリシアに向けて銃を放つ、しかしアリシアは不敵に笑って避けない、ドゥームがそれを不思議に思うと銃弾が何かに弾かれた。
「チッ、仲間が居やがるぞ、注意しろ」
「おう!」
ドゥームが二人にアリシアの他にいる敵を警戒するよう二人に促すが、アリシアは敵が警戒に移る前に前に飛び出し、ドゥームに突っ込む。
「ダメだありゃ、完全に頭に血が登ってやがる、メア、シメラ、援護を頼むぜ?」
アリシアとドゥーム達三人が店の外の前に出て来る前に、メアとシメラと共にと物陰に移動していたグレイは、二人に援護を頼む。
「はい、アリシアをお願いします」
「任せな」
グレイが物陰から飛び出したのと同時、アリシアの直線的な大振りの斬撃は、ドゥームにあっさりと避けられ、斬撃を外したばかりのアリシアにオルガの斧が迫る。
「チッ!」
アリシアは舌打ちをしながらオルガに雷を放とうとするが、オルガの斧は腕を盾のように変形させたグレイが防ぐ。
「邪魔しないでよ!グレイ!」
「うっせぇ!、落ち着けこの馬鹿野郎!」
「誰が馬鹿よ!」
「あっはっは!、痴話喧嘩かしらぁ!?」
怒鳴り合うアリシアとグレイに向けてミレイが斬りかかる、しかし彼女の動きはメアの銃弾に阻まれる。
「良いか?、確かにこいつらは仲間を傷付けた仇だ、でもな、そんなイラついた状態じゃ出せる実力も出せねぇだろ?、それじゃメッシュさんの仇も取れねぇぜ」
「・・・」
「分かったのなら深呼吸をしろ、そして敵を倒すことだけに集中しろ、良いな?」
「ええ、ありがとうグレイ、あなたのお陰で大分冷静になれた」
「へんっ、放っておいたら幼馴染が死んじまうからな、これくらい当たり前さ!」
アリシアとグレイの会話が終わった瞬間、ドゥームが二人に向けて銃弾を放って来た、その銃弾を追うようにミレイとオルガも走って来る。
「行くぜ!、アリシア!」
「ええ!」
ハイタッチをした二人は、まずグレイが盾を作り銃弾を防ぐ、その後ろに控えていたアリシアが傍から駆け出し、ミレイの突きを掻い潜ってから、横っ腹を蹴っ飛ばし怯ませる、片膝を着いて怯むミレイを避けアリシアに迫ったオルガが斧を振り下ろしたが、アリシアは後ろに飛んで避け、背後のメアが弾を放ち、オルガの左肩を撃ち抜いた。
「大丈夫か、オルガ」
「俺の丈夫さを舐めないで下せぇ、確かに痛いですが、この程度耐えれやす」
「ふん、なら暫くは耐えろよ!」
ドゥームは銃口に魔力を溜めると、二発の弾をアリシアとグレイに放った。
「注意しろ、アリシア」
「ええ」
正体の分からない敵の攻撃にアリシアとグレイは大きく距離を取って魔法の弾を避ける、すると弾が宙で弾け周囲に小さな弾丸を撒き散らした。
「シールド!」
二人が銃弾を浴びる前にシメラがシールドで守る。
「厄介な盾だぜ、この程度なら余裕で耐えやがる」
「厄介な敵は先に始末する、そうでしょ?、ドゥーム」
「そうだな」
「ちげぇねぇ!」
ドゥーム達は狙いをシメラ達に変えた、まずアリシアとグレイにドゥームが先程と同じ弾を放ち、距離を強制的に取らせると、ミレイとオルガがメアとシメラに迫る、メアとシメラは銃弾と魔法を放つが、オルガは斧を体の前で回転させる事で銃弾と魔法を防ぎ、シメラとの距離を詰め切った。
「良くここまで近付いたね」
「無理やりだなどねぇ!、仕留めさせて貰うわよ!」
「あら?、それはどうかしら?」
ミレイがシメラに斬り掛かろうとした瞬間、真後ろからアリシアの声が聞こえた、彼女は慌てて振り返ろうとしたが、時すでに遅く、アリシアは回し蹴りで後頭部を蹴っ飛ばし、女の意識を奪った。
(いきなりあそこに移動した・・・、あんな摩訶不思議な能力、スタイル以外には考えられねぇな)
ドゥームは冷静にアリシアの能力を分析し切る、その間にオルガは、アリシアに腕を剣で突き刺され腕が動かず斧を振り下ろせない所を、グレイのハンマーで殴られ気絶した。
「やるじゃねぇか、あっという間に俺らをここまで追い詰めるなんてよ」
「褒めてくれてありがとう、このままあなたも倒してあげるわ」
「チッチッチ、そう簡単にはいかねぇぜ?、俺にはまだ切り札があるからなぁ!」
そう言ってドゥームは空を見上げる、彼が見上げる先には満月があった。
「ウウウウ、アォーンンンン!」
狼のような叫び声を上げたドゥームの体は一瞬にして変化して行く、まずは顔が狼の物となり、体が筋肉質になり幅が広がる、腕と足が丸太のように太くなり巨大化した、三人組のリーダー、ドゥームは人間から人狼にへと変化してみせたのだ。
「グルルル!ガァォ!」
人狼にへと変化するのと同時に理性を失ったドゥームは獣のような叫び声を上げる、そして理性を失っても倒すべき敵だと理解しているらしい、アリシアとグレイに向けて飛びかかって来た。
「グレイ!」
「おう!、雷鉄砲!」
アリシアとグレイは雷鉄砲を放つ、しかしドゥームはあっさりと二人の最高のコンビネーション技を突っ切り、グレイに迫ると壁に向けて放り投げた、物凄い勢いで壁に激突したグレイは意識を失い倒れた。
「メアとシメラ!、グレイのカバーを!」
アリシアは雄叫びを上げながら迫って来るドゥームの攻撃を避けながら、メアとシメラにグレイをカバーするように言う、二人は頷くとグレイに近付き、メアはドゥームが近付いて来たら攻撃出来るように銃を向け、シメラは回復魔法をかけ始めた。
「ギァァ!」
「この化け物め!」
アリシアはドゥームをギリギリまで引き付けると跳んで背後に移動し、首元を剣で斬り裂いたが人狼と化したドゥームの皮膚は硬く刃は浅くしか通らなかった、ドゥームは振り返りざまに片手でアリシアを掴むと、地面に思いっきり叩き付ける。
「カッハッ・・・」
たった一度の攻撃で大ダメージを受けたアリシアは、口から血を吐き出すとそのまま動かなくなる。
「アリシア!、くっ!」
メアはニタニタと笑いながら近付いてくるドゥームに銃弾を放つが、全く通じず全て弾かれている、ギリギリ意識を失っていないアリシアはボーとその様子を眺める。
(えーと・・・、私、何してたんだっけ、確か戦ってて・・・)
朦朧とする意識の中でアリシアは今何をしていたのか思い出そうとする、そしてふと視界に倒れている、グレイが目に入った。
(そうだ、あの時も私は何も出来ずにメッシュさんが・・・、そして今度はメアにシメラ、そしてグレイはもう傷付けられてる・・・、エンジェルズのみんなを傷付けたやつと同じ奴に・・・、守るんだ、私は・・・)
「お前からみんなを守ってみせる!」
フラフラと立ち上がったアリシアは叫ぶ、その声を聞いたドゥームは振り返りニタァと笑い、今にも倒れそうな獲物を打ち倒す為に爪を差し向ける、しかし・・・。
「・・・」
全身から普段よりも更に強い雷を放つアリシアは片手でドゥームの狼の手首を掴み、動きを止めてみせた。
「?」
ただの人間にこんな力があるはずがないと本能的に判断したドゥームは、腕を自由にしようと動かすが全く動かなかった。
「何だろう?、この感じ、すっごくパワーが出る!」
突然大きくました自分の力を不思議に思うアリシアは、ドゥームを手前に引くと、そのまま縦に一回転し地面に叩き付けた。
「ガグガァァ!!?」
「すご〜い!、アリシアちゃん!」
「はい・・・」
シメラはアリシアの力を見て喜び、メアはいきなり力を増したアリシアを見て驚いた顔をする。
「よく分からないけど、これで決める!、行くわよ!」
「グァァァァ!」
全身から強烈な雷を放つアリシアとドゥームが同時に駆け出し、ドゥームが先に腕を突き出した、アリシアはその腕を掻い潜り、ドゥームの胸元に入り込むと、胸元に剣を突き出す。
「喰らいなさい!、ライジングブースト!!」
胸元に突き出された剣先から雷の塊が放たれた、その一撃を受けたドゥームは吹き飛び地面を転がって行く、そしてようやく止まった所で既に意識を失った彼は人の姿に戻って行く。
「はぁぁ・・・、勝った・・・」
ドゥームが動かなくなったのを見て勝ちを確信したアリシアは、フッと全身の力が無くなる感覚と共に地面に倒れ込む。
(やったよ私メッシュさん、みんなの仇を取ったわ・・・)
仇を取る、その約束を果たしたアリシアは意識を手放し眠りに就いた。
アトリーヌ帝国
世界最強と呼ばれるアトリーヌ帝国の一室にキースが入って来た、部屋の中には一人の黒い服を着た少女がいる。
「エリシア、お前の妹があの力・・・、スタイルバーストに覚醒したかもしんねぇぞ、どう思うよ?」
「別に、何とも思わんし興味もない」
少女、エリシアは冷たくそう言い放つとキースと入れ替わりに部屋から出て行こうとする。
「待てよエリシア、陛下からお前に任務を伝えろって言われてんだ、ギグルス国に向かい、彼の国のライジングスタイル使いを監視せよ、だってよ、良かったな、妹と話せるんじゃねぇか?」
「言っただろう?、例えたった一人の家族だったとしても、妹に興味などない」
「へっ、冷たいねぇ、折角のたった一人の家族だってのによぉ」
「・・・」
エリシアは茶化すキースを睨む、するとキースは怖い怖いと手を振るう、エリシアはそんな彼から視線を逸らすと、部屋から出て行こうとする。
「あぁそうだ、伝えておくぜ、お前の妹の名は、アリシアだ」
「私が妹の名を知らないとでも思ったか?」
「なぁに言ってみただけさ」
「フン」




