三話
回収所、ファントムのドック
オルジが操るアミールに実質的に敗北したアリシアは、ギルスのコクピットに座り膝を抱え俯いていた、その理由は初めてファントムを使っての戦闘で敗北した事が悔しかったのだ。
「新人ちゃん一号はあの中かい?」
「えっ?、はい、その新人ちゃんがアリシアの事でしたら、あの中ですけど」
「ありがとね、新人ちゃん二号」
「なっ、二号って・・・」
コクピットの外から男の声が聞こえて来た、その暫く後にコンテナが動く音がし、ギルスのコクピットの中に一人の男が顔を出す。
「よぉ!、アリシア、負けたそうだな!」
「グレイ・・・、人が悔しがってる時に随分と明るいわね」
「明るくして負けたお前を元気付けようとしてやってんだよ、寧ろ感謝して欲しいぜ」
「ふんっ!」
ギルスのコクピットの中で明るい声を出す彼の名はグレイ、エンジェルズ最強のファントムパイロットと言われている優秀なエージェントで、アリシアと同じ孤児院で暮らしていた幼馴染の一人である、小さい頃から彼に良くからかわれているアリシアは、彼からプイッと顔を晒した。
「負けず嫌いなのは変わんねぇなぁお前、折角エンジェルズ最強のパイロットである俺が、模擬戦でもやってお前を鍛えてやろうと思って来てやったのに、帰っちまうぞ?」
「フン、余計なお世話よ、帰りなさい」
「やだね、俺はお前を鍛えるってもう決めたもんね」
グレイは地べたに座ると腕を組み、アリシアが自分と訓練すると言うまで絶対に動かないという姿勢を示した。
「あーもう!、分かったわよ!、やってやろうじゃない!」
「おうおう!その意気だ!、それじゃ行くか!」
「ええ!、訓練と言っても本気でやるからね!、私に負けて吠え面かくんじゃないわよ!」
「へん!、良いぜやってみろよ、俺に吠え面かかせてみな」
グレイはそう言うとギルスのコクピットから離れ地面に降りると、自分の機体ミウラに乗り込み起動させた。そしてアリシアに付いて来いと手招きしたので、アリシアもギルスを起動させ付いて行く。
「大丈夫でしょうか、もし負ければまた落ち込むのでは・・・」
「うーん?、心配ないよ〜、多分普通に負けるから〜」
「ええ!?、それなら止めた方が・・・」
「良いの良いの、終わった後、アリシアは絶対に元気になってるからね〜、それじゃいこー」
「は、はぁ・・・」
メアはシメラの言葉の意味を理解出来ないまま車に乗れ乗れと手招きしているシメラの隣に座り、前を行くギルスとミウラに付いて行く。
「ここで良いや、それじゃやろうぜ」
グレイのミウラが止まった場所は回収所のすぐ近くの開けた場所、ファントム同士で戦うのなら最適な周囲に何も遮蔽物などない場所である。
「ルールは?」
「簡単さ、このスティックで殴り合って先にコクピットに突き付けた方の勝ち、簡単だろ?」
グレイはそう言って両手で持っていたスティックのうち一本を差し出す。
「分かった」
アリシアはそれを受け取ると右手に持たせ、一度距離を取った。
「シメラ!、頼むわ!、合図してくれ!」
「はーい!、いきなりドーン!」
グレイに合図を頼まれたシメラは爆発呪文を空に向けて放った、呪文が花火のように空で炸裂した瞬間、アリシアとグレイは同時に機体を動かし相見える。
「へぇ、流石、新型のギルス、速い」
ミウラよりも余程速い速度で走り迫って来るギルスを見てグレイはその性能の高さに感心をする。
「はぁぁ!」
ミウラに迫ったギルスはスティックを振り上げて振り下ろす、対するミウラはスティックを受け止めると逸らし衝撃を受け流す、そしてギルスに蹴りを当てた。
「ッ!、こんなに早く一撃を貰うなんて・・・」
「これが腕の差ってやつさぁ!」
蹴りを受けて怯むギルスにミウラは突きを放つ。なんとか反応したアリシアは受け流そうとスティックを構えるが、グレイは途中でスティックの動きを変えると、ギルスの顔を殴った。
(あの時と同じ!?、カメラが!)
顔を殴られた事でモニターの映像が一度途切れる、前回もこれで負けたのを忘れてはいないアリシアは機体を後ろにジャンプさせた、しかし・・・。
「くっ・・・」
「俺の勝ちだな」
ミウラは後退したギルスに付いて来ておりコクピットにスティックを突き付けていた、カメラが復活した瞬間、負けを理解したアリシアは悔しそうに俯く。
「今回と前回でダメな所分かっただろ?、アリシア、言ってみろ」
「顔の防御が薄いんでしょ?、私の操縦って」
「そうだ、初心者なのにこれだけの近接戦が出来るんだ、お前はセンスが良いとは素直に思う、でもなやっぱり初心者は初心者だ、だから顔の防御が疎かになるって言う初心者特有のミスをしちまう」
「ファントムの顔はコクピットに次ぐファントムの第二の弱点だ。武器で殴られたりすりゃ暫くの間映像が乱れ視界が無くなるわけだからな。だからこそ頭は確実に守り、そして絶対に壊されちゃいけねぇ。良いな?」
「ええよーく分かりました」
「よしよし良い子だ、それじゃ今回の授業料を払って貰おうかな」
「な、何よ?」
どんな授業料を払わされるのやらと思うアリシアは、ゴクリと唾を飲み覚悟をする。
「昔みたいにお兄ちゃんって呼んでくれ、一回でいいから」
「はっ?、そんなんでいいの?」
「うん、良い」
「お、お兄ちゃん」
「それじゃダメ、もっと可愛く」
「くっ・・・、お兄ちゃんっ!」
「んー!、良いねぇ!、今みたいに生意気じゃなく素直で可愛かった頃のお前みたいだ!、それじゃ帰って飯でもくおーぜ!」
「あらなぁに?、この私アリシア様は昔から優しくて素直ですけどぉ?」
「良いや違うね、今のお前は全く素直じゃないね、しかも優しくなんかないね」
「ふふん、嘘を仰らないでくれますぅ?」
「嘘じゃないね、本当だね」
アリシアとグレイはコクピット間の通信で言い合いながら回収所に戻って行く。
「シメラさんの言う通りです、アリシア、元気になりました」
「でしょー?、グレイはアリシアのお兄ちゃんだからね、元気のつけ方を知ってるんだよ〜」
「ふふ、そうですね」
メアは通信機から聞こえて来る、楽しそうにグレイと言い合いをするアリシアの声を聞きながら、元気になってよかったと微笑む。
レストラン
回収所には腹が減っては戦は出来ぬとの事で武闘派揃いのナックルズのボスが作らせた、簡易のレストランがある。アリシア達はそこで食事を取っていた。
「あっそうだアリシア、俺のダチがよぉ、他の奴と組みやがってさ、俺フリーになっちまったんだわ、だから今日からお前と組みたいんだけど良いよな?」
ステーキセットをガツガツと組みながらアリシアと組みたいと言ってくるグレイ、それを聞いたアリシアは・・・?。
「良いよ、あなたのパイロットとしての腕は頼りになるもの、寧ろ大歓迎と言いたいところかしら」
「うっし、なら今日からよろしく」
「ええ」
まずアリシアとグレイが握手をし、次にメア、そしていつの間にかアレシアとメアに付いて来るようになっていたシメラとグレイは握手をする。
「今までは二人・・・?、うーん?三人?、だったから、チームを作れなかったけど、四人になったのならチームを作れるのよね、ねっ、三人共チーム名何にする?、私はファントムズ!が良い!」
エンジェルズには四人からチームを作れると言う規定がある、その為、ミートパスタを食べるアリシアはチーム名を何にするのか聞いた、そしていち早く自分の意見を言った。
「それかアリシア様と三人の下僕かしら」
「・・・」
「な、何よ?」
「ふざけてるだけですよね?」
「そ、そうよ?、冗談よ?」
「なら良いです」
(怖かった・・・)
アリシアの言葉が冗談だと理解したメアは上品な仕草でハンバーグを食べる、そしてんーとチーム名を考える。
「フェアリーってどうです?、母様によく呼んでもらった本に妖精がよく出てきて、私、好きなんです」
「ええー、お昼寝隊が良い〜」
「おっ、良いなお昼寝隊」
「おい幼馴染さっきふざけたばかりの私が言うのもなんだけどもふざけるな」
「へっ」
「・・・、それじゃメアの言う通り、私達のチーム名はフェアリーね、後でボスに届け出しておくわ、あっリーダーは私だから」
「はいはいどうぞ」
「そう言うと思ってたから良いよ〜」
「ふふふ」
「な、何よ、とにかく私がリーダーだからね!」
そう言うと思っていたと言う態度をするグレイとそのまんま言葉に出したシメラ、ニコニコと笑うメアを見て、拗ね口を作ったアリシアはさっさとパスタを食べてから、ボスに連絡をし、チームを作ると伝えた。




