三話
DIVAの世界
トテテとイチちゃんが走る。目的地はGATEの元だ。
「おねーちゃん!あーそぼ!」
グレイの隣で珍しく服を着て寝ているGATEをロックオンしたイチちゃんは飛んだ。そしてGATEの腹の上に着地する。
「ぐほっ!?」
腹にイチちゃんの全体重をかけた一撃を喰らったGATEは目を見開き体をくの字に曲げ変な声を出した、そして力なくイチちゃんの一撃に反応して勝手に上に上がった手足をベッドに降ろす。メア達との戦いで圧倒的な勝利を続けて来たGATEはこの日始めて幼子に敗退した。
「アレ?おねーちゃん?、おねーちゃーん?」
イチちゃんは白目を向いているGATEを揺する。しかしGATEは全く反応しない。この後グレイは気絶しているGATEを見て焦りまくった。
「イチちゃん?」
復活したGATEはイチちゃんと目線を合わせる姿勢でイチちゃんの前に座っている。
「はーい!」
姉に名を呼ばれたイチちゃんは元気良く手を挙げる。
「はい!元気な返事ね!、・・・違う違う、イチちゃん?私は怒っています、何故でしょうか?言ってみなさい」
「おねーちゃん怒ってるの?、なんで?」
姉が怒っていると聞いたイチちゃんは不思議そうに首を傾げる。そのキョトンとした様子の可愛さを見てGATEは思わず彼女を抱きしめかけたが我慢する。
「それを考えてみなさい、あなた、さっき何をした?」
「おねーちゃんの上にジャンプした!」
「そうね、私のお腹にすごーくおもーい一撃を入れてくれたわね、それがダメなの、分かる?」
「なんで?」
お腹へのジャンプがダメと言われたイチちゃんはまた首を傾げた。
「考えてみなさい?、お腹にね?重い物を落とされたら痛いでしょう?」
「うん」
「さっきね?お姉ちゃんも痛かったの、泣きそうになっちゃったわ?、イチちゃんはお姉ちゃんが泣いちゃっても良い?」
「だめ!!」
イチちゃんは真剣な面持ちで姉が泣くのは駄目だと言う。
「そうね、ダメよね?、ならこれからは寝ているお姉ちゃんのお腹に向けてジャンプしないって約束出来るかしら?」
「うん!、約束する!」
「良い子ね、お姉ちゃんが起きている時ならジャンプしても良いからね?、ほらおいで?」
GATEはベッドの上に寝転がるとイチちゃんを呼ぶ。イチちゃんは嬉しそうに微笑むと駆け出しまた飛んだ。GATEは飛んで来るイチちゃんを両手で受け止め高い高いをする。
「えへへ〜」
姉に高い高いされるイチちゃんは楽しそうだ。GATEは立ち上がるとイチちゃんを高い高いしながらクルクルと回り始める。するとイチちゃんはきゃっきゃっと楽しそうな声を上げる。
(・・・子供が好きなところはアリシアだった頃と変わらないんだな)
グレイはイチちゃんと遊ぶGATEを見て彼女がアリシアであった頃と変わらず子供が好きなんだなと思う。
王都アルトシャルセン、メアの側付きの部屋
「ん・・・」
GATEとの戦いから一週間が経った日の夜、寿命を擦り減らしてまで戦った影響で体に大きな負荷を溜めてしまっていたメアが。その負荷から身を覚ませる程度には回復し身を起こした。ダメージが抜けきっていない体にはピシリと痛みが走る。
「起きたんだね、メア」
眠るメアを見守っていた愛理が目を覚ました彼女に声をかける。
「おはようございます、師匠、私はどのくらい寝ていましたか?、それにアリシアは?」
メアは起きるなりどれくらい経ったのか、そしていの一番にGATEの事を聞く。
「一週間だよ、アリシアは・・・、一回だけ地上に現れたグレイとマイナス、後もう一人、誰かの魔力を観測した」
「アリシアは地上に現れ何をしたのです?」
「分からない、突然自然保護区に現れて魔物を狩り始めて、その自然保護区の警備隊の人達を邪魔だったんだろうね、殺した」
「また・・・、また!罪の無い人を殺したんですか!、アリシアは!、くっ!」
叫んだメアは体に痛みが走り蹲る。愛理は辛そうな彼女に近付くと背中を撫でる。
「ねぇメア、君は本当にアリシアを殺すつもりなの?」
「・・・はい、アリシアは罪の無い人を殺しすぎました、私はもう彼女を許せない、だから死んでしまった人の為にも彼女は私が討ちます」
GATEを討つそう言ったメアの手は震えている。愛理はそれを見て明らかに本心では無いと思いメアを抱きしめる。
「聞くよ?メア、本当にアリシアを殺しちゃって良いの?、あなたはそれで本当に後悔しない?」
「・・・するに決まってるじゃないですか、今だって彼女の隣で一緒に笑っていたい、楽しく話がしたいそう思っています!、でも!、でも・・・!、私は沢山の人を殺して笑っていたアリシアを許せないんです!」
「そっか・・・」
GATEと共に笑っていたいと言うメアの本心を聞いた愛理は頷く。そして彼女を離すと目を合わせた。
「メア?、これから何度も何度もアリシアとぶつかり合いなさい、あなたの想いに決着が着くまで何度も何度も悩みながらね?、そうしているうちにあなたの、本当、が分かる時が来る、その時、アリシアを殺すか殺さないか決めるの、私としてはあなた達には友達に戻って欲しい、だからあなたがアリシアを殺さない説得してみせるともう一度言ってくれる事を期待してるけどね」
愛理は一度言葉を切り優しく微笑む。その後すぐに厳しい表情となった。
「ただ、答えを出さなければあなたはアリシアに関わっている限りは彼女に殺される、確実にね?、だから絶対に答えを見つけなさい、あなたがこの先も生きていく為に」
「はい、私は必ず答えを見つけてみせます、話をしてくれて、ありがとうございます、師匠」
自分が生き残る為の話をしてくれた師にメアは感謝し大きく頭を下げた。愛理は弟子の肩に優しく手を触れさせると尻尾で優しく頬を撫でてから去って行った。
「ッ・・・」
部屋から出て行く愛理を見送ったメアは痛む体を奮い立たせテラスの方に向かう。
『見て見て!メア!、すごーく高いわよ!、王都が見渡せちゃう!』
『そんなに身を乗り出したら落ちちゃいますよ?』
『大丈夫だいじょ・・・、きゃぁぁ!?』
『アリシア!?』
メアはテラスでのアリシアとの思い出を思い出す。楽しかったあの頃の思い出に浸るとメアの心を占めていたGATEへの怒りが消えて行き彼女を元の彼女に戻しまた笑い合いたいそう思えた。
「あはは・・・、私ってやっぱりそうなんですね、アリシアを本気で嫌う事なんて出来ない、ましてや殺すなんて・・・私には出来ないみたいです」
アリシアを殺してやるそう強くメアは思ってみる、それだけで大切な友を殺すと言う恐怖感から手が震え出した。メアはその手を見て自分を自分で笑う。
「答え、見つけなきゃ、愛理さんに言われた通りに、そしてもっともっと強くなる、私はもっと!」
強くなる、そう決めたメアは夜空に向けて手を掲げた。空を占める星々はメアを勇気付けるようにキラキラと光り輝く。
アリシアとメア、再びすれ違ってしまった二人の少女の運命が交わり合う日は果たしてやって来るのだろうか?。




