二十七話
サンアンの街、サンアン魔法大学
サンアンの街はサンアンビーチに訪れる観光客の為のホテル街や高級住宅街、そして魔法大学と様々な用途が複合した巨大都市だ。ウォーリーはこの街の魔法大学で教師として働いている。
「すいません、ウォーリーさんに会いたいのですが」
メアが門の前にいる守衛に近付きウォーリーに会いたいと伝える。
「ウォーリー先生にですか?、暫しお待ちを・・・」
ウォーリーに会いたいと言われた守衛は連絡魔法で大学側にウォーリーが人と会えるかどうかを聞き始めた。数分後連絡魔法を解きメア達の方を見る。その顔はどこか残念そうだ。
「ウォーリー先生はこの近くの遺跡の研究に向かっているようです、先生は訪れて来る人々の話を聞くのが好きな人ですので、あなた達とも話をしたがったと思うのですが・・・、残念ですがまた後日お越し下さい、明日ならば大学も休校日で先生は大学の部屋で本を読んでいるはずなので」
ウォーリーは大学におらず近くの遺跡に研究に向かっているようだ。
「そうですか、ならまた明日来ます」
いないものは仕方ない諦めたメアは仲間達の元に向かう。
「残念ですが、ウォーリーさんは大学にいないようです、明日また会いに来ましょう」
メアはとても残念そうにウォーリーがいないと仲間達に伝える。
「おやおや?メアちゃん?、他の人に会えなかった時より残念そうに見えますなぁ?」
目敏いシールスがメアの残念そうな様子に気付き揶揄う。
「友達に会えなくて残念だと思っただけです」
それを受けてメアは口を尖らせながらシールスからツーンと顔を背ける。
「ええー?、前の世界で敵だった私もあなたの視線がウォーリーさんの方にばっかり向いてたの気付いてたけどぉ?」
ニアがシールスと協調しメアを揶揄う。
「み、見てませんよ?、ほ、ほら!戦闘中に仲間の様子を監視するのは当たり前でしょう?」
「その割には焦ってるよね、メア」
「な、なんなんですか?、みんなで私を揶揄って」
シメラにすら揶揄われたメアは拗ねた様子で揶揄って来る彼女達に理由を聞く。
「だって側から見てもあなた今日この街に来るの明らかに楽しみにしていたもの、それに鏡の前に何度も行って髪や顔を確認してたじゃない、ウォーリーさんの事好きなんでしょ?、ほら言いなさい?」
「あー!煩いです!、なんでもないですから!、ほら!ホテルに行って部屋を取りますよ!」
顔を真っ赤にしたメアは肩を怒らせながらホテル街の方に向かって行く。
「これは私達が背中を押してあげなきゃね、あの子、素直じゃないから」
「そうだねー、せっかくのチャンスだもん!」
「やるぞー!」
「「「おー!」」」
あっと言う間に明らかに共同戦線を敷くニアとシールスとシメラ。愛理とアイリーンと夫婦はその様子をメアも大変だと彼女に同情する。
サンアンの街近くの遺跡
「ここか」
GATEはサンアンの街の近くにある遺跡の前に来ていた。隣に立つマイナスと頷き合ったGATEは遺跡の中に入る。すると研究服を着た男が二人を止めに来る。
「現在、この遺跡は私達大学の研究員が国からの許可を貰い調べています、一般の方は明日なら自由に・・・」
「黙れ人間ごときが私の行く手を阻むな」
GATEは腕を振るい上げる。同時に放たれた魔力の渦は研究員を一瞬にして消滅させた。
「えっ・・・消えた?」
「て、転移させただけだろ?」
遺跡内を調べている研究員達は一人の研究員が消されたのを見てザワザワと騒ぎ始める。
「あら?分かりにくかった?、なら分かりやすく見せてあげる」
GATEは人差し指を突き出しその先から魔力弾を放つ。その魔力弾は近くにいた女性の胸に吸い込まれて行き胸を貫通し心臓を破壊した。心臓を破壊された女性は血を吐き生き絶える。
「あ、嘘だろ・・・」
「うわぁぁぁぁぁ!?」
仲間が死んだのを見てパニックになる研究員や学生達。マイナスはそれを見て不快そうな顔を見せた。そしてビームサーベルの柄に手をかける。
「殺していいですか?、お姉様、煩くて不快です」
「好きにしなさい」
研究員達を殺しても良いかと聞いてくるマイナスにGATEは冷酷な瞳で好きにしろと言う。姉の許可を貰ったマイナスはその顔に笑みを浮かべると研究員達を襲い始めた。大した戦闘力を持たない彼らが全滅したのはそれから五分後の事であった。
「ん?」
マイナスが研究員達を狩り終えたのを見て研究員達が持ち込んだ椅子に座っていたGATEは立ち上がり遺跡の奥に進もうとしたが。死体の一つのポケットからはみ出していた名簿のようなものが気になり手に取る。そしてリストを見て邪悪な笑みを見せた。
「あはっ、マイナス?、見なさいなこれ、ここには剣以外にも面白い奴がいるみたいよ」
「なんですか?、ふぅーん、確かにこれは面白いです、奴等の仲間が増えるのは正直言って不快ですし、殺してしまいましょうよ?お姉様」
「そうね、ここで始末してしまいましょう」
GATEはマイナスの言葉に同意すると紙を地面に向けて投げ捨てる。リストの名簿の中にはメア達が会いに来たウォーリーの名が記されていた・・・。
ホテル
「こんな近くでアリシアの魔力!?」
愛理が尻尾をピーンとさせGATEの魔力を感じる事に反応する。
「ど、どこから?」
「この方向・・・、あそこの遺跡じゃない?」
アイリスはホテルから見えている遺跡を指差す。
「パンフレットにはこの近くの遺跡はあそこしかないと書いてあるわ・・・、お母様があそこでウォーリーさんに会ったら・・・」
「間違いなく殺されるな・・・」
ウォーリーが殺されると聞いたメアはドアに向けて走って行く。
「行きます遺跡に、ウォーリーさんを助けるんです!」
「おう、シアに俺達の仲間を殺させる訳にはいかねぇ、絶対に止める!」
「急ごうぜ!」
メア達はホテルから離れ街中を走り遺跡に向かって行く。
遺跡、大扉前
コツコツと響くヒールの音を聞いたウォーリーは振り返る。そこには黒いドレスを着た絶世の美少女がいた。
「おや?あなたは?今日はこの遺跡は私達が貸し切りにしている筈ですが?」
ウォーリーは眼鏡をクイっと上げる癖を見せながら少女に何者か聞く。
「それに上の階には他の研究員がいた筈ですが?」
「そんな事よりも、その扉開かないの?」
GATEはウォーリーの言葉を無視し扉に近付く。
「はい、どうやら特殊な封印魔法が仕掛けられているようで、上の方達には上の部屋を調べる事で何か封印を解くヒントが無いか調べて貰い、僕は直接この扉を調べの扉に仕掛けられた封印魔法を解析しているんです」
「ふぅん」
ウォーリーの説明を聞いておきながら興味無さげに流したGATEは扉に触れる。その瞬間扉に仕掛けられた魔法陣が現れた。
「なっ!?、一体何を!?」
魔法大学の教師であり研究員であるウォーリーにとって。こんなに容易く扉に仕掛けられた魔法陣を浮かび上がらせたGATEは驚くべき存在だ。ウォーリーは眼鏡の奥の目を見開きGATEの背中を凝視する。
「答えは簡単、私、人間じゃないから、この程度の魔法なんて私達お父様の子なら簡単に浮かび上がらせ解析をし解除出来る」
そう言ってデータベースを表示するGATE、データベースは一瞬にして封印魔法のプロテクトを解いて行き封印魔法は簡単に解けてしまった。
「はい開いた」
ズズズと開いて行く扉、GATEはその奥に進み保管されている剣を手に取る。
「フン、やはりデータベースで見た通り魔力が高いだけのゴミね、でもこれだけの魔力量があれば時渡りの書を作れてしまうわ」
(時渡りの書?、一体・・・)
ウォーリーは少女が言う時渡りの書とは何か疑問に思い眼鏡を触る。
「あなたが調べたかった剣はこれなのよね?」
「ええ、出来れば私に調べさせて欲しいです、この扉を開いたのはあなたですので調べ終われば必ず返すとお約束します」
ウォーリーは研究欲に満ちた目でGATEに剣を渡して欲しいと頼む。
「良いわよ?、この剣、あなたに渡してあげる」
そう言って剣を右手でしっかりと持ち直したGATEはウォーリーに近付いて行く。ウォーリーの背後ではビームサーベルに手を掛けたマイナスがニヤリと姉の顔を見て笑っていた。
「でもね?、この剣が収まるのは・・・」
地面を蹴り加速するGATE、ウォーリーは目の前の少女の突然の動きに硬直してしまう。
「あなたの胸の奥にある心臓よ、ウォーリー」
GATEが持つ剣の切っ先は正確にウォーリーの胸に向けて吸い込まれて行く。殺される、そう思ったウォーリーはなんとか硬直した体を動かしGATEを水の中に入れる事で動きを鈍らせ少女の剣を避けた。
「お姉様をお前如きの汚らわしい水で汚すなんてぇぇぇ!」
ウォーリーがGATEを水で包んだのを見て怒りを見せたマイナスはビームサーベルを引き抜くとウォーリーに迫る。
「なんなのですか!?あなた達は!、いきなり現れて僕を殺そうとするなんて!」
マイナスの突撃攻撃を避けたウォーリーは水で作った弾でGATEとマイナスを牽制しながら、二人の目的を聞く。
「あなたが知る必要はないわ、たったあなたはここで死ぬのだから」
「・・・、とにかく僕を殺したい訳ですか!」
「ええ!そうです!、お姉様を汚したお前なんて!、今すぐ死ね!」
マイナスは左腕をあげるとショートシールドから連続して斬撃を飛ばす。それを見てGATEも剣を複数作りウォーリーを囲むように飛ばす。
「逃げ場が・・・」
「間に合いました!」
逃げ場がないそう判断したウォーリーは少しの被弾で済むよう自身を水で囲み飛来する剣や斬撃の威力を落とそうとしたが。その前に弾丸や光線により剣と斬撃が叩き落される。
「君は?」
ウォーリーは仲間を引き連れ現れた少女に名を聞く。
「私はメアです、お久しぶりですね!、ウォーリーさん!」
「メア・・・、どこかで聞いた名前・・・」
メアの名を聞いたウォーリーに頭痛が走る。
「早かったじゃない?、メア、随分と慌てて来たのね?、息が上がっているわよ?」
「あなたに仲間を殺させる訳にはいかないですから!、アリシア、あなたの思い通りにはさせません!」
メアの言葉を彼女の背中越しに聞くウォーリー。その姿は朧げな記憶と合致し一斉に蘇り始める。ウォーリーの脳裏に浮かぶ姿は彼が協力したい手を貸したいと思った小さな少女、メアの背中。
「君はまた彼女を救おうとしているのですね、メア」
「はいそれが私の運命みたいです」
メアはウォーリーに返事をすると苦笑した。
「よぉ!ウォーリー、久し振りだな!」
グレイがウォーリーに近付き手を上げて挨拶する。
「はいグレイさん、お久しぶりです」
「インテリメガネ流石だぜ、思い出すのが早え!」
「誰がインテリメガネですか!誰が!」
グレイにインテリメガネと言われたウォーリーは眼鏡をキラーンとさせ抗議する。
「ははっ!、マジで思い出したんだな、またよろしくな!ウォーリー!」
「・・・全く、君は変わりませんね、こちらこそよろしく」
グレイとウォーリーは拳をあわせ合う。
「メアさん、彼女は皇帝を名乗っていた彼女とも様子が違います、一体・・・」
「後で話します!今のアリシアはとにかく強い、逃げる事だけ考えますよ!」
「あとで聞けるのならまぁ良いでしょう!、分かりました!」
メアはそう言うと地面に攻撃を当て砂煙を巻き上がらせた。そして仲間達と共にGATEに背を向け逃げ始める。
「逃げるなんて無粋ね?遊びましょうよ?」
GATEは冷たく呟くと剣を創造し飛ばす。メアが起こした砂煙を突っ切り剣がメア達に迫る。
「ゼロブラスター!」
愛理が迫る剣をブラスターで消滅させたが駆け出していたGATEに一気に迫られ顔を蹴られる。顔を蹴られ吹き飛んだ愛理は壁に激突する。
「アリシア!」
吹き飛ばされた愛理に変わりアイリスが前に出て剣を振るう。GATEは彼女が振るう剣を受け止めた。
「オーグル共々メア達の旅に合流したのね?、アイリス、騎士を引退し剣を置いたあなたがもう一度剣を持つなんて驚きだわ」
「私が剣を取ったのはあなたの為よアリシア!」
「余計なお世話」
自分の為に剣を取ったアイリスを余計なお世話だと笑ったGATEは母の顔に向けて蹴りを放つ。アイリスは根性でGATEの蹴りを避けると距離を取る。
「アイリスさん!、今は後退を!、このような狭い空間で今のアリシアを相手にするのは不利すぎます!」
「くっ、分かったわ」
アイリスは最愛の娘が目の前にいるのに何も出来ない悔しさを感じ俯きつつ娘に背を向け駆け出す。
「待ちなさい!」
「もう良いわ、マイナス」
「・・・?、お姉様?」
「向かって来ない奴等を相手にしてもつまらないもの」
「そう言う事ですか、分かりました」
マイナスは斬撃を放とうとしていた左腕を下げる。同時にGATEは振り返ったメアの顔を見て次にグレイの背中を見てニヤリと笑うと剣を破壊した。
(くっ・・・、あれ程の素材なら時渡りの書を作れたのに・・・)
メアは素材を壊された事を歯噛みするのと同時にGATEが壊そうとした瞬間何故自分の顔やグレイの背中を見て笑みを見せたのかを考えながら遺跡から脱出した。
「お姉様?、サービスしすぎじゃありません?、グレイ様から情報を得た事がバレちゃいますよ?」
「ふふっ、あの子を揺さぶりたいのよ私、その方が面白いからね」
「悪い人ですねお姉様は、そう言うところとっても素敵だと思いますけど」
「あら、ありがと」
姉妹は会話を終えると歩いて遺跡から脱出し街の方に向かう。




