六話
魔族の要塞付近
アイリーンに回復薬に加えて治療魔法での愛理の早期回復を任せたアリシアは仲間達と共に走り聖シルベリラ王国王都に向かう魔族の総勢五万の編隊の先頭に立ちはだかった。
「ダイナミックスピン!」
アルトシャーニア流剣術ダイナミックスピン。ダイナミックの名の通り通常の回転斬りよりも広範囲の斬撃を放てる技でこう言った少数対多数の戦いの時に役立つ技だ。
アリシアはこの一撃で一気に二十人程の魔族を薙ぎ払った。
「ふぅん、さっきのあいつの仲間かな、私の兵を傷付けるなんて生意気、みんな!、たった数人の敵なんて数で押し潰しちゃいな!」
「「おお!」」
たった六人のアリシア達では五万の戦力は驚異的な存在だ。前方から迫る圧倒的な圧力にアリシアは冷や汗を掻きつつもアイリーンが呼んだシルベリラ兵が早くこの馬車に到着する事を信じ圧倒的な戦力差に立ち向かう。
「アイアンスピアー!」
グレイの鉄製の針が進軍する魔族達の中央から飛び出した。いきなり地面から飛び出して来た針にかなりの数の魔族が串刺しにされるが。それでも一部他の魔族達はグレイが召喚した針を避けてアリシア達に近付いてくる。
「撃てぇ!」
アリシア達を射程範囲に収めた魔族の魔術師達は次々と魔弾を放ち始めた。森の中の街道を覆い尽くす砲撃にアリシア達は成すすべもなく被弾して行く。
「くっ!、ううう!、シールド!」
「ダークシールド!」
ニアとシメラが協力してシールドを張り魔弾を弾く。一時的に砲撃がなくなった隙を見てメアと頷き合ったアリシアは皇帝アリシアにその姿を変え影の中を通って砲撃をする魔術師隊の後方に現れる。
「ダークエレキくっ!ブラスター!」
「ゼロ!ブラスター!」
スタイルの能力を使えない状態でのブラスターは体に痛みを生じさせる。皇帝アリシアはその痛みに顔を顰めつつもブラスターを撃ちメアと共に仲間に砲撃してくる魔術師隊を薙ぎ払った。
「魔術師隊の第一陣がやられた・・・、チッ、あの二人は私直々に仕留めないといけないみたいだね」
自身にとって厄介な敵であるアリシアとメアの活躍を見て舌打ちをしたメリアはインフェルノモードに変身してから空を飛び剣を引き抜くとアリシアに斬りかかる。
「くぅ!?」
(今のあなたより私の方がパワーがある!、変わって!)
「っ!、ええ!」
前の自分ならメリアのパワーとも張り合えたのにと悔しそうな表情を見せる皇帝アリシアはアリシアと体の主導権を変わった。そしてアリシアは斬りかかって来るメリアの斬撃を受け止めるがたった一撃でアリシアは片膝を着かされる。もし皇帝アリシアのままであれば片膝を着かされるだけでなく腕を折られていただろうそれくらいに強烈な斬撃だった。
「やるじゃないか、私の斬撃を受け止めるなんて」
「ハハハ、受け止めれただけで右腕にかなりのダメージが入ったけどね」
「フン、そこを含めてアンタを褒めてあげてるんだよ!」
メリアはアリシアの剣を払うと顔に蹴りを叩き込んだ。強力な蹴りを喰らって吹き飛ばされたアリシアの顔からは鼻血が流れ出し地面をゴロゴロと転がる。
「アリシア!」
(なんて威力・・・、流石は世界を救った英雄の一人・・・、本気を出さないとやられます!)
本当は蹴り飛ばされたアリシアのカバーに入りたいがそんな事をしていると殺されると理解しているメアは。メリアに斬りかかるが軽く受け止められた。
「おっ、アンタはあの子よりも更に良い一撃を撃つね、でもまだまだだ、私には及ばない」
メアの本気の一撃すら余裕で受け止めるメリアは左手からブラスターを放つ。
「ああああ!?」
灼熱のブラスターを喰らったメアは悲鳴を上げ一撃で戦闘不能にされた。
(メアが一撃で!?、嘘でしょ!?)
メアが一撃で負けたのを信じられないと言った目で見るアリシアは怯えを感じる。
「どうした?震えてるよ?、降参するって言うのならば許してあげても良いけど?」
「私がここで降参をすればあなたはこのまま王都に攻め込むのでしょう!?、世界を明日奈さんと共に救ったあなたにそんな事はさせない!」
「明日奈・・・?、ッ!」
明日奈の名を聞いたメリアは頭痛を感じ額を抑える。しかしこんな頭痛なんでもないとすぐに振り払うと紅蓮の炎をアリシアに差し向ける。
「あなたは私が目指すヒーローの一人なんだ!、だから私はあなたに悪い事なんてさせない!、行くわよ!私!、フュージョンモード!!」
(発動!!)
メリアに悪事をさせない為アリシアはテレシアに変身をする。金色の髪と黒と白と金の鎧を身に纏った少女は二本のエリシャディアを構える。
「ソニックスマッシュ!!」
アリシアはソニックスマッシュでメリアの炎を斬りはらう。そしてグッとメリアに接近した。
(髪の色が変わったら急に早くなった、ふぅん)
自身の脅威とはなり得ないが急激に力を増した目の前の少女に興味を持ったメリアはどこまでその斬撃の威力が上がったのか確かめてみようと斬撃を受け止めた。
「!、へぇ面白い、その姿になると凄くパワーが上がるんだね!」
「まぁね、私ともう一人の私、二人の魂が合わさって魔力量も増してるからね」
「よく分からないけど・・・、良いよ良いよ!、もっと戦いを楽しもうじゃないか!」
メリアは足を振り上げてテレシアの顔を蹴り上げようとする。その素早い蹴りに反応してみせたテレシアは体を仰け反らせ蹴りを躱し。先程顔を蹴られたお返しとメリアの腹に蹴りを叩き込む。
「くっ!、ハハッ!」
メリアは殺さないように手を抜いていた愛理と違い本気で挑んで来るテレシアの姿勢を喜び楽しそうに笑いながらテレシアの顔を殴った。顔を殴られたテレシアはニヤリと微笑むと頭突きを目の前の女の顔に叩き込む。
「ふふっ」
「あはっ」
睨み合う二人の女は目の前の女を必ず倒すそう思い合い再び剣を交える。周りの魔族は激しい女同士の戦いに身を引き加勢をするのは諦めてシメラ達を倒す為にゾロゾロと進み始めた。
「ウェポン!」
「何をするのか知らないけどさせない!」
テレシアはソードビットを撃ち出そうとするが。メリアは何かが発動する前にテレシアの顔を掴むと地面に叩きつけた。テレシアの口から血が漏れ出す。
「ああ!」
地面に押さえ付けられるテレシアはメリアの腹に膝を叩き込む。
「さっきからお腹ばかり!、痛いんだけど!?」
「同じ所に攻撃を当ててダメージを蓄積させるのは実力で負けている相手を相手にする時の基本よ!、嫌なら防げば良いじゃない!」
「良いよ!、防いでやるよ!」
何度も何度もテレシアはメリアの腹に膝撃ちを叩き込む。メリアはその痛みに堪えつつテレシアを持ち上げると左手からブラスターを放つ。
(メアが負けた時と同じだ!、でも!)
何とか靴を地面に触れさせたテレシアは皇帝アリシアの能力である影潜りを使いメリアのブラスターから逃れた。そして影の中を通りメリアの真後ろに現れる。
「くっ!?」
「ソニック!スマッシュ!!」
これで決めるとテレシアはソニックスマッシュをメリアの背中に向けて放った。しかし・・・。
「ふふっ、私が飛べるのを忘れていたね、でもよく頑張ったよ」
メリアは背中の羽を広げて空に飛び立ちテレシアの斬撃を避けた。続けて全力で加速するとテレシアに強烈な回し蹴り当てた。その一撃により意識を飛ばされたテレシアは地面に倒れる。
「ボス、この二人どうするんです?」
「楽しませて貰ったし放っておけ、仲間も見逃してあげな」
「へいっ!」
メリアは楽しませてくれた倒れる二人に笑いかけると剣を鞘に収め進軍する自軍と共に王城に向かって行く。
三十分後
「んっ・・・」
アリシアの瞳がゆっくりと開く。そして慌てて起き上がり敵を探すがどこにもいなかった。
「大丈夫だよアリシア、敵はいない」
混乱しているアリシアを愛理が優しく抱きしめて安心させた。
「そう・・・、私達負けたのね・・・?」
「うん・・・」
愛理に抱きしめられて落ち着いたアリシアは負けたのか?と聞く。愛理は悔しそうに頷いた。
「すぐに行かなきゃ!、特にメリアさんを止めないと!」
「そうだね、でも次はメアとあなたと私の三人で挑むよ、今のあの人記憶がない事もあってか容赦がなくてとにかく強いからね」
「分かった」
「他のみんなはシルベリラ軍と合流して一緒に戦って、アイリーン、彼等との話は君に任せる」
「分かりましたわ」
愛理にグレイ達を任されたアイリーンは胸元に手を当てながら頷く。
「よし!、なら早速リベンジだ、今度こそメリアさんを倒して記憶を戻すよ!」
「ええ!」
「はい!」
愛理の言葉にアリシアとメアは力強く返事をした。
「良し!、それじゃあ行こう!」
愛理はアリシアとメアを脇に抱えて翼を広げる。
「えっ・・・、これで行くの?」
「大丈夫大丈夫、私二人くらい余裕で運べるから」
「恥ずかしいんですけど・・・」
「気にするなっ!」
恥ずかしがる二人に愛理は気にするなと言う。そして空に飛び立った。
「ちょっ!せめておんぶするとか何かあるでしょ!?」
「ない!」
「降ろしてぇ!」
「断る!」
グレイ達は悲鳴を上げるアリシアとメアを哀れな物を見る目で見送った後、走って森の先の平原に向かって行く。




