四話
ファルレオン平原
「ブモモモ!」
牛型の魔物が斧を振り上げて皇帝アリシアとアイリーンに迫って来た。皇帝アリシアはそれを見てニヤリと笑うと優雅な仕草で左手を上げる。
「ホーリーシールド!」
アイリーンが皇帝の名を受けてシールドを張る。牛型の魔物の斬撃はシールドにより阻まれた。
「アリシア!、私達も手助けを!?」
「いらないわ、アイリーンがいれば十分よ」
「ふふっ光栄ですわ」
メア達の手助けを断った皇帝アリシアの能力はダークエレキモードと言う能力である。ダークライジングスタイルより遥かに出力では劣るが同じ能力を持つ技を放つ事は出来る。皇帝アリシアは事前に買っておいた魔法用の杖を足元の影から取り出すと左手に持った。
「ダークショット」
魔法用の杖の先端から闇の魔力を込めたビームを放つ。
「フモっ!」
牛型の魔物は飛来するビームを横っ跳びに飛んで避ける。
「アイリーン?やれ」
「はい」
皇帝アリシアの考えを読んでいたアイリーンが牛型の方魔物が飛んだ先に機雷を仕込んでいた。牛型の魔物が地面に着地するのと同時に爆発する。
「ブッ、ブモモ・・・」
今の機雷で大ダメージを受けた牛型の魔物は片膝を着く。皇帝はゆっくりと牛型の魔物に歩み寄り剣を掲げると一撃にしてその顔を斬り落とし仕留めるのだった。
「あの二人が敵だった頃を思い出しました」
「あぁ、本当に厄介だったよ」
牛型の魔物を圧倒した皇帝アリシアとアイリーンを見てメア達は二人が味方となって良かったと心から思うのであった。
「あぁ、やはりお母様の能力は奪われていたのですね、どうりで魔力が弱いと思いました」
「フン、絶対に取り戻すけどね」
「ふふっ、それでこそお母様です」
戦闘を終え王都までの道をアイリーンと共に皇帝アリシアは歩く。アイリーンが助けた御者と馬も一緒だ。
「アイリーンはなんであの魔物に追われていたのですか?」
メアがアイリーンが魔物に追われていた理由を聞く。
「現在この国ではちょっとした困り事がありまして・・・、私は聖女としてその困り事の原因である魔族と話をしに行っていたのですが、その・・・全力で追い返されてしかもあの牛型も私を殺す為の追っ手として放たれたのですわ、取り敢えず王都近くのここまで逃げてこれたのは良かったのですが・・・」
「さっきのあそこで追いつかれちまったって訳か」
「そうなりますわ」
シールスの言葉に頷いたアイリーンはどこか悲しそうだ。本来なら無血で終わらせたかったのだが交渉を断られしかも追っ手を出された時点でそう言うわけにはいかない。これより王都に戻り報告をすれば王都から魔族達への討伐隊が出されるだろう、アイリーンはそれが悲しいのだ。
「そうだっ!、私は誇り高き吸血鬼!!から人間になってしまっていますが、お母様なら!」
アイリーンは同じ魔族である皇帝アリシアならば魔族も話し合いに応じてくれるかもと思い皇帝アリシアの顔を見る。すると皇帝アリシアはあーと口を開けて牙を見せた。その牙はごく普通の人間の牙であった。
「ま、まさかお母様も・・・」
「ええ、吸血鬼ではないわ、そもそもこの体の本来の持ち主は・・・」
皇帝アリシアが漆黒の光に包まれた後金色の光に包まれる。数秒で金色の鎧を着たアリシアが現れる。
「私だからね、初めまして聖女アイリーン、私は聖騎士アリシアです、申し訳ないのだけれど・・・バトルシア人ではあるけど吸血鬼ではないわ・・・」
「そうですか・・・」
アイリーンはアリシアが魔族ではなくなっていると聞き落ち込んだ表情を見せる。その時だ愛理が私!私と自分を指差している。
「あら?、糞狐さん、どうかしましたか?」
「糞狐って何かな!?」
愛理は尻尾をピーン!と立ててアイリーンの言葉の意味を聞く。
「あっすいません、前の世界で私達の邪魔を散々してくれたのでつい・・・、愛理さん、どうかしましたか?」
「・・・、私、この世界でも魔族だよ」
愛理は拗ねた様子で自分が魔族だとアイリーンに伝えた。
「そうでしたわ!あなたは魔王!、なんの疑いもなく魔族でした!味方になると使えますわね!」
「一々棘のある言い方するのやめない?」
「嫌ですわ」
即答である。
「・・・、それで?どうするの?、このまま王都に行くかその魔族の元に行くかなんだけど」
「魔族の元に行きますわ、説得が通じるのならばそうするべきですもの、無駄な血を流すべきではありませんわ、さっきの牛型の方もあのように興奮していなければ殺したくはありませんでした」
自分を殺すつもりで追い掛けて来た者すら殺したくないと言うこれが本来のアイリーンである。自分が変えてしまった前の世界の彼女と今の彼女の違いを一番に感じたのはアリシアの中で話を聞いている皇帝アリシアであった。
「そうと決まれば魔族の所に行こうぜ」
「はい!」
「着いたら私に任せてね、交渉はしてみる、でもね?アイリーン、ダメだったら・・・」
「・・・分かっています、私も協力して彼等を討ちます」
アイリーンは愛理の言葉に頷いて見せた。愛理はそれを見て頷く。
「それでは案内致しますわ」
「はーい!」
アリシア達はアイリーンの案内に従い森の中に入った。
魔族の住処近隣の森
暗い森の中をアリシア達は進む。
「そう言えば、アイリーン、ゼロの力は使えないのですか?」
アイリーンからゼロの魔力を感じないメアが彼女の力について質問した。
「はい・・・、前の体が消滅するのと同時に無くなってしまったようですわ、幸い光のスタイルの力は保有していますが」
「そっちを持っているのなら安心したよ」
自身のフュージョンモードの力をフュージョンスタイルの力にする為にはアイリーンの光のスタイルの力が必須だ。その為アリシアは彼女が光のスタイルの力を持っていると聞き安心した表情を見せる。
「何故ですか?」
「私は今フュージョンスタイルって力を手に入れようとしててさ、そのスタイルの完成の為にはあなたの光のスタイルの力が必要なの」
「そうなのですか、でもこの力をお渡しするわけには・・・」
「だよねー、どうにか能力をコピー出来たら良いんだけどなぁ・・・」
アリシアはアイリーンが駄目だと言うのならば彼女から光のスタイルの力を貰い受けるつもりはない。しかしフュージョンスタイルを完成させたい気持ちはある為。どうにかコピーする方法を模索している。
「この世界の解放能力付きの剣ならそう言う能力を持った物があるかもしれないねー!、探してみようよー!」
「そうね、それしか方法はないわ、ならば私達の目的の一つに能力コピーの力を持った剣を探すも追加ね」
新たな目的が増えたアリシア達は頷き合う。
「おっ、見えて来たぜ、デッカい要塞だ」
グレイが指をさす先そこには立派な要塞があった。
「あれは数ヶ月前までこの国の軍が使っていた設備の整った要塞ですわ、ですが突然の襲撃により魔族達に奪われてしまったのです」
「あの要塞を取り戻す為にもお姉ちゃんが使者として赴いたって訳か」
「はい、追い返されましたけど・・・」
「ほらほら!落ち込まない!、私がどうにかしてやるさ!」
どんと任せろと愛理はガッツポーズを見せる。そして誇らしげに尻尾を立てて要塞に一人で向かって行った。
「大丈夫でしょうか、愛理さん」
「魔王様を信じよう」
少し心配そうなメアと彼女の後ろ姿に信頼した視線を送るアリシア。そんな二人に見守られながら愛理は要塞に入って行った。
???
「お父様?、奴等が武器を完成させる前に時渡りの書を奪っておくべきでは?」
DIVAの元に戻ったマイナスが父に時渡りの書を奪うべきだと伝える。
(・・・マイナスは奴等から情報を得れなかった筈、なのに何故情報を・・・)
マイナスの言葉をその後方で聞いていたブラスが。何故マイナスが時渡りの書の事を知っているのか疑問に思う。
「よい、寧ろ完成させるつもりだ、そして奪う、完成すれば俺にとっても実に有用な武器となる筈だからな」
「お父様がそうおっしゃるのならば・・・、ふふっ武器を奪うのは勿論、お姉様ですよね?」
「そうだ」
(お姉様・・・?)
DIVAとマイナスの話を聞くプラスの中で疑問が更に深まって行く。




