四話
ノメッツの雑貨店
アリシアとメアはノメッツの雑貨店に来ていた、外ではギルが町行く車達を興味津々に見ている。
「それにしてもお前がローン払いとは言えファントムのオーナーとはなぁ」
「ふふん、いずれこのアリシア様の物になる予定だったファントムが予定より早く私の物になっただけよ」
「あら?、ギルが来た日に飛び回って喜んでいたのは誰でしたっけ?」
「さ、さぁ?、あなたじゃない?」
「アリシアですよね?」
「・・・」
「痛いです」
メアのチクリとした言葉に小さなダメージを受けたアリシアはメアの頬を引っ張る、じゃれ合う同じ顔の少女達の元にノメッツが近付いて来た。
「これこれ、暴れちゃいけないよ、それでねぇ、ちょっと仕事を頼まれてくれないかい?」
「はぁはぁ、良いわよ」
「ふぅぅ、どんな仕事です?」
アリシアの頬引っ張りからこしょばせ合いにへと進展していた、同じ顔の少女のじゃれ合いはノメッツの言葉により収束した、二人は肩で息をしながら、どんな仕事か聞く。
「ちょっとねぇ、重い荷物を運んで欲しいんだ、君のファントムなら可能だろう?」
「ええ、ギルなら楽勝よ、でも中身は?」
エンジェルズの心得として物を運ぶ仕事を受ける際には必ず中身を聞けと言う物がある、もし怪しい薬だった場合は犯罪に値するからだ。
「ファントム用の武器だよ、隣町のスズラの町のアマチさんから、オーダーされてね」
「それなら問題ありません、引き受けます」
「ありがとう、この仕事が終わって帰って来たら、君達に報酬としてこの店の商品の一つをプレゼントするよ」
「マジ!?」
「マジさぁ」
店の商品を一つプレゼントして貰えると聞き、アリシアはとあるコーナーに向かう、そこはガンブレードのコーナーだ。
「ここの何が欲しいんです?」
「あれよ!」
アリシアが指差すのはガンブレードの替え刃、現在のアリシアのガンブレードの刃は購入した際の標準仕様である、そしてガンブレードの刃にはいくつかのグレードがあり標準仕様の物が最下層に位置する、アリシアが指差しているのは中級に位置する、ガンブレードの刃である。
「お値段50万ゴールドですか、これは中々買えませんね」
「ええ、だから今回の依頼絶対に成功させるわよ!」
「はい!」
「あっそういや、メアは何が欲しいの?」
「私は電気ケトルが欲しいです、コーヒーを飲む時に楽になるので」
「げ、現実的だ・・・」
アリシアとメアは共にギルに乗り込むと、アマチという者の荷物をギルスに担がせ運び始める。
国道十一号線
ズシンズシンとギルスは国道十一号線を進む、スズラの町に向けて、そんなアリシア達を遠くから見つめる者達がいた。
「なぁ、お前らよぉ、あのファントムが運ぶ荷物ってなんだと思うよ?」
「お高い物じゃないかしらねぇ」
「ヒヒッ、なら奪って売っちまおう!」
「そうだな、それが俺らデッドスカルのやり方だぁ!」
デッドスカルに所属する三人はギルスが運ぶ荷物を奪う為に動き始める。
特に話す事もないアリシアとメアはアリシアは操縦しながらボーと風景を眺め、メアは水筒に入れて来た紅茶をゆっくりと飲んでいる。
『オーナー、曲でも流しましょうか?』
「あら良いわね、お願い」
『では、ヘイ!』
「ちょっと待ったあなたが歌うの?」
『はい、ラジオから流れている曲に合わせてですが』
「普通にラジオを流して・・・」
『・・・ちょっと残念ですが、分かりました』
(ギルの歌を聴いてみたかったと言うのは秘密です)
アリシアの注文を聞きギルはラジオを再生した、コクピット内にノリノリな曲が鳴り響く。
『ヘイ!』
そしてギルは歌詞に合わせてヘイ!と叫ぶ、ノリの良いAIである。
『ヘイ!、ん?、オーナー!、右でも左でも良いです!、避けてください!』
もう一度ギルが叫んだ後、突然コクピット内に銃弾が近付いて来ている事を知らせるアラームが鳴り、ギルが避けるように言った。
「へっ!?、ッウウ!」
ギルの声を聞いたアリシアは、慌てて左にへと機体をジャンプさせる、すると今までいた場所をビームが通過した。
「ファントムの攻撃ですか、ギル?、何処からです?」
『右方向からです、取り敢えずコンテナは置いて下さい、動きが制限されて不利です』
「分かってる」
アリシアはギルスが担いでいるコンテナを地面に置く、そしてギルが言う右方向に機体を向かせ、敵を探す。
「来た!」
『あのホバー走行推進機構・・・、メイルス国の機体ですね、形式番号はMX-7、機体名はドラスです、地上での移動スピードは私以上の強敵です、気を引き締めて下さい』
「ええ」
ファントム好きなアリシアはもちろんドラスの事を知っている、そしてドラスの弱点も知っていた。
「ギル、あなたもドラスの弱点は知っているわね?」
『はい』
「ならそれを実行する!、メア私に捕まって!」
「はい!」
アリシアに捕まってと言われたメアは、アリシアにしっかりと抱き着く、メアが抱き着いて来たのを確認したアリシアは、操縦桿を前に押しギルスを走らせ始めた。
「リーダァ、獲物があっちから走って来やすぜ」
「うふふ、狩りやすくて良いじゃない」
「おう、蜂の巣にしてやろうじゃねぇか!」
敵の一番機、二番機、三番機はそれぞれ、ビームライフル、バスーカ、マシンガンを放って来た、それを見てアリシアはジグザグと機体を走らせて避け、武器を選択する。
「さぁ見せて貰うわよ!、あなた達がその機体の弱点を把握出来ているのかを!」
アリシアが選択した武器は頭部のバルカンだった、右トリガーを引き頭部からバルカンを放たせたアリシアは命中するよう祈る。
「チッ!、う、うぉぉ!?」
ギルスの頭部バルカンは無事一機目のドラスに命中した、その瞬間、一機目は大きくバランスを崩し倒れる、これがドラスの弱点、通常時のホバー走行は初めて乗ったパイロットでも難なく操作出来るのだが、アリシアが今行ったように、少しでもバランスを崩してやると、熟練したパイロットでないと、安定状態に戻すのがかなり難しい、その為ドラスは訓練に長い時間を有する機体と言われている。
「何やってんだ!、オルガ!、新品の機体を転かしやがってよぉ!」
「す、すまねぇ!」
「リーダーに謝ってる場合じゃないわよ!、早く動きなさい!」
「ひっ!、ひぃぃ!」
オルガと呼ばれた男が、警告音が知らせる方向を見ると、ギルスがビームサーベルを掲げ近付いて来ていた、オルガは慌ててフットペダルを踏み込み機体を飛び立たせようとするが、アリシアはその前に彼の機体を蹴り飛ばし、姿勢を崩させもう一度転倒させた、そして足と腕をビームサーベルで斬り落とす。
「これで動けないでしょ、さぁ!、後二機!」
「新品を!、よくもやりやがったな!」
新品であるらしいドラスの一体の腕や足を斬られたリーダーの男は修理費の事もあり、怒りギルスにかなりのスピードで近付いて来る。
「アリシア、次はどうするんです?」
「こうする!」
二機目が放って来たバスーカの弾を、機体を小さく回転させる事で避けたアリシアは機体をしゃがませ真横を通ろうとしている二体目に足をかけた、すると二機目のドラスは派手に一回転し、背中から地面に落ちる。
「グハァ!」
「貰った!」
二機目も腕と足を斬り裂き仕留めるつもりのアリシアはギルスを詰め寄らせるが、三機目のマシンガンが迫って来た、アリシアは仕方なく足を止めシールドで防ぐ、その間に二体目は立ち上がり、移動をしながらバスーカを放って来る。
「くっ!」
アリシアは迫る弾をバルカンで迎撃し、撃ち落とし爆発させる、しかし二体目は爆煙を突っ切ってギルスに迫って来た。
「喰らえや!」
「こっちの攻撃もねぇ!」
二機目はタックル、三機目はビームサーベルを突き出し迫って来る、それを見たアリシアはギリギリまで引き付けてから、機体を前に大きくジャンプさせた。
「くっそ!」
「危ない!」
敵はなんとか機体を止めぶつからずに済んだが大きな隙が出来た、大きなジャンプをしギルスの足が地面と接地した瞬間、アリシアは機体を回転させつつビームサーベルを振るう、ギルスが振るったビームサーベルは見事、二機の足を斬り飛ばした。
「なぁぁ!?」
「クソ!」
足を落とされズドンと地面に落ちる二機、アリシアは手に持つ武器で攻撃される前に武器をサーベルで破壊する。
「ふぅ・・・、勝てましたね・・・」
「疲れたわ・・・」
襲われたとは言え、人殺しをするつもりはないアリシアはコンテナをギルスに担ぎ直させる。
「この人達どうします?」
「軍に報告する、知り合いもいるしね、すぐに動いてくれるでしょう」
『電話繋ぎました』
アリシアは襲って来た三人を軍に報告し、この場所を報告してからこの場所を離れた。
スズラの町
デッドスカルの者達に襲われて以降は特に何も無く平和に国道を進み、スズラの町にやって来たアリシアはアマチが住む場所を記したノメッツのメモを見ながら住宅街の中を進む。
「それにしても襲って来た人達は、一体何者なのでしょうか?」
「あら?、見てない?、奴等の機体の肩に赤いドクロマークがあったでしょ?、あれはデッドスカルのマーク、オルビナって治安の悪い町が少し遠くにあるのだけど、そこを寝ぐらにしてる奴等よ」
『出ました、どうやら他の組織のエージェントの仕事を横取りして報酬を貰ったりしているようですね』
「ええ、酷い奴らよ・・・、着いたわ」
デッドスカルの話をしている間に、アマチの家に着いた、家の庭には何かの格納庫がある。
「おお!来たな!、そのコンテナは庭に降ろしてくれ!、後はこっちで移動させるから!」
「はーい」
アリシアは外部との会話用のマイクを通して、アマチに返答しつつ、言われた通りにコンテナを庭の中に運び込み置いた、その時だ、格納庫の中が見えた。
「わぁ!、FNLシリーズの一個前!、FNKシリーズの機体じゃない!」
「おや!よく知ってるじゃないか!、見て行くかい!?」
「見る見る!」
『おお・・・、ご先祖様です、まさかこんな場所でお会い出来るとは・・・』
(前のシリーズとなれば確かにご先祖と言えるのでしょうね、ふふっ、なんだか面白いです)
興奮するアリシアとギル、メアは二人を微笑ましげに見守りつつ、共に格納庫に入る。
「君は知ってそうだね、この機体の名を」
「勿論、FNKシリーズ最初期機体、FNK-01マースよ。武装はヒートホークにマシンガンとシンプルで、機体操作性に優れた機体と言われているわ。特筆すべきは拡張性の高さで、パーツにお金をかける事が出来れば、FNLシリーズに劣らない性能にまで性能を上げることだって出来ちゃう名機中の名機よ!」
「よく知ってるね!、君とは仲良くなりそうだ!」
「うん!、私もそう思う!」
グッ!と腕を組むアリシアとアマチ、アマチはアリシアの機体を見る。
「君の機体こそ、最新型のギルスじゃないか、高かったんじゃないかい?」
「まぁその詳しくは言えないけど、ローンです・・・」
「そうかい・・・、まぁ頑張りたまえ!」
アマチはローンで機体代を払うと言うアリシアを元気付けるためか背中をバンバンと叩く、正直痛いがアリシアは我慢する。
「さてともっとアマチさんとお話ししたいけど、ノメッツさんに無事に荷物を届けた事を報告しなきゃいけないから、帰るわね、ねっまた来ていい?」
「どうぞどうぞ、次来た時はゆっくりとファントムについて語り合おうじゃないか!」
「勿論!、それじゃまたね!、アマチさん!」
「御機嫌よう」
『それではご先祖様、失礼致します』
何やらマースと話していたらしいギルは彼に頭を下げる、そしてコクピットに再び二人の少女を乗せたギルスはアマチとマースに手を振りながら、町を離れて行った。
ノメッツの雑貨屋
ノメッツの雑貨屋に戻って来たアリシアは報酬として貰った中級のガンブレードの刃を、雑貨屋にあるラボを使わせてもらい、早速取り付けている。
「そうやって刃を外すのですね」
「うん、この部分のメンテを定期的にしなきゃいけないの」
ガンブレードの刃は折りたたみ式であり、剣部分を折りたたんだ時に銃部分の銃口が見えるという構造になっている。そして刃の部分は根元の可動部分を分解すれば比較的簡単に取り外しが出来る反面、定期的なメンテナンスをしなければその可動部分が動かなくなり戦闘に支障を来たす場合があるので、メンテナンスは忘れてはいけない。
「よし、出来た」
分解した可動部分を組み直し、刃の取り替えが完了した、以前の刃は銀色の単色だったが、新しい刃は腹の部分が赤色で刃部分が銀色となっている。
「おお!強そうですね!」
「でしょう?、目指せ!超高級の刃!よ!」
「はい!、頑張りましょう!」
刃の交換を終えたアリシアはラボを貸してくれたノメッツにお礼をし、メアと共に店を後にした。




