四話、ゴブリンキング討伐編2
ゴブリンの住処近くの高台
「アレがゴブリンの住処ね」
「はい」
アリシアは隊を後方に待機させゴブリンの住処の様子を伺っている。ゴブリンの住処はチェリノ村の近くに過去存在していた要塞の跡地を利用して作られており崩落したりしている部分は近くの森から切り出された木材で修復されているようだ。
(・・・どうしようかな?、ねっ私)
(そうね・・・)
アリシアはもう一人の自分と共に作戦を考える。要塞の跡地を使っているだけあって各出入り口は強固な鉄製の扉で守られており、周囲から迫る敵の侵入を防ぐ壁の上にはゴブリン達が立って警戒をしている。
(鉄製の扉を突破するのはメアに攻撃をさせれば容易だけどあれ程の数のゴブリンがあの要塞の中にいる、出来ればメアの魔力を温存したい、ならば崩れていて修理した場所を壊して中に侵入するのが一番早いわ)
「そうなると一番大きな修理がされているあそこね」
アリシアは大きく壁が崩れていた様子で他の場所と同じく木材で修理された場所を指差す。
「チェルズ隊長、弓兵にここからあの壁を狙わせて、火を付けた矢を当ててあの木の壁を焼き落とすの」
「了解しました、すぐに」
チェルズ隊長は通信魔法で弓兵に命令をした。アリシアはメア達と通話をする。
「メア、兵達を率いて私と要塞の西出入り口近くで合流して火矢で木の壁が燃やされ燃え尽きた瞬間に一気に攻め込み敵が戸惑っている内に一気に数を減らすわ」
木材で修復された壁のすぐ近くにある西出入り口近くまでは森に覆われており、敵の目から兵を隠す事が出来る。その為アリシアはそこで兵達と合流をする事にした。
『了解、五分で向かいます』
「ええ」
メアの返答を聞いたアリシアはチェルズの方を向く。彼も同時に通話を終えたようだ。
「あなたはここで弓兵が到着するのを待って、射撃命令は任せたわ」
「はっ!」
前回の作戦では住民が攫われている事もあり焦って要塞の正面から攻撃を仕掛けその結果ゴブリン達の攻撃を受け追い返されたチェルズは、敢えて焦らず作戦を練るアリシアに関心をしつつ敬礼をした。アリシアは彼の敬礼に頷くと森の中を走り始める。
(要塞の中に侵入したらゴブリンキングを探すわよ、敵の将を早期に討ち取り他のゴブリン達の士気を消失させるの、そうなれば殲滅は容易よ)
「分かってる、それが今回の私の一番の役目だ」
ゴブリンの住処
メアが連れて来た兵達と合流したアリシアは剣に手を掛け弓兵達の攻撃が始まるのを待っている。
「来た」
風を切る音と共に複数火矢が飛来し木の壁に突き刺さる、チェルズが率いる弓兵達の攻撃だ。複数の燃え盛る矢が突き刺さった事により木の壁が燃え始めそれを見たゴブリン達は慌てて消火をしようとするが間に合わない。木の壁は皇帝アリシアの狙い通りに焼け落ちた。
「私達の行く手を阻む壁は無くなった!、進軍開始!、私に続けぇ!」
手を掛けていた剣を引き抜き高らかに空に向けて掲げたアリシアは要塞に向けて走り始める。総勢百人のチェルズ部隊は走るアリシアを追って進軍を開始した。
「ニンゲンキタ!」
「コロセ!コロセ!」
ゴブリン達は迫るアリシア達を見て武器を抜いて迫って来る。
「チェルズ隊長!、撃てぇ!」
チェルズとの回線を開いていたアリシアは更なる射撃命令をする。すると今度は先端に爆弾が付けられた矢が飛来し。ゴブリン達を爆発と爆風で次々と蹴散らして行く。
爆弾矢による砲撃が止まるのと同時に部隊は要塞の中に侵入した。すぐに左右から迫るゴブリン達、アリシアはメアとシメラと目を合わせ頷き合う。
「秘奥義!ウェポンビット!、ソードビット!、喰らいなさい!」
「ゼロ!バスター!」
「マジカルシャイン!」
アリシアとメアは使い慣れた技、シメラは空に七つの属性を含んだ魔石を放り投げると剣で叩き斬り、自身が使える秘奥義の中で最強の威力を持つ砲撃型の秘奥義マジカルシャインを放った。
「ワーオ、シメラちゃん凄い・・・」
アリシアはメアのゼロバスターより多くのゴブリンを吹っ飛ばしたシメラのマジカルシャインを見て口をあんぐりと開ける。
「凄いでしょ?この技」
「ええ!、あと何回撃てる?」
「二回かな、魔石のストックがあと二つだから」
「了解!、使い所を見極めてあなたの判断で撃って!、あっゴブリンに撃ってよ!建物の中にはチェリノ村の住民達がいるんだからね!」
「分かってるよぉぉ!、先輩騎士さん達!、何人かついておいで!」
アリシアに褒められる事で久し振りに目覚めたらしくイケイケモードになったシメラは魔法を乱発しながら数人の先輩騎士を引き連れてゴブリンの方に走って行く。先輩達はシメラの勢いに押されおずおずとシメラについて行った。
「起きな!ボルケード!、ボルケードブレイク!」
「さぁ踊りましょう?ナイトメアソード、シャドウナイトメア」
シールスは熱く、ニアはクールにそれぞれ技を放つ。その一撃で迫るゴブリン達の軍勢は大きく崩れ、隙が出来た。
「隙が生まれたわ!、みんな!一気に押し切って!」
アリシアは次々とゴブリンを斬り伏せながら騎士達にゴブリン達を押し切るよう命令した。聖騎士の命を受けた騎士達は声を張り上げながらゴブリン達と相対しその勢いのままゴブリン達を押し込んで行く。
「メア!、あなたは住民を探して!、地下の牢屋に捕らえられている可能性が大きいとチェルズ隊長が言っていたわ!」
「分かりました!」
アリシアは暴走状態の自分を除けば一番戦闘能力が高く要塞内で敵に囲まれても対処が出来るメアを住民の捜索に向かわせた。
「さぁ、私達の仕事は外にいるゴブリンを全部斬り伏せる事!、やってみせるわよ!!、エリシャディア!」
主人の言葉に答えエリシャディアは一際美しく輝いた。そんなアリシアの足元が突然割れ中からゴブリンキングが現れる。
(地下通路の天井を破って来たと言うの!?、やられた!)
背後を仰ぎ見たアリシアは前に飛んでゴブリンキングが持つ大剣から逃れようとするがどう考えても間に合わない。ならばと最小の被弾に抑える為体を捻るが。一つの影がアリシアを守るかのように割り込みゴブリンキングの大剣を剣で受け止めた。
「無事か?アリシア」
「ええ大丈夫、ありがと」
アリシアを守ったのはオーグルにアリシアを守ると約束したグレイだった。その約束を実行したグレイは目を合わせて来るアリシアと頷き合うと剣を構えゴブリンキングに向けて駆け出した。
「グハハハ!、貴様が大将だな!?、ならばこちらも大将が相手をせねばなるまい!、このゴブリンキングの一人!、コブルジ様がなぁ!」
ゴブリンキング、コブルジは闘気を放つ。強力な目に見えない魔力の塊はアリシアとグレイの動きを止めた。コブルジは動きが止まった二人のうちグレイを狙い剣を振り下ろす。
「秘奥義!、ツースラッシュ!」
アリシアは先程グレイが行ったように今度は自分がグレイの前に割り込み二連撃技を放った。一撃目でコブルジの剣をパワーで弾くと二撃目で体を叩き斬る。
「グオォ!、やるな!、だがぁ!」
コブルジは斬られても怯まずアリシアの顔を掴む。
「んん!?」
顔を掴まれたアリシアは自分の顔を掴むコブルジの腕を剣で突き刺したがコブルジの握力はそれでも弱まらず、高くその身をコブルジに掲げられたアリシアは地面に向けて放り投げられた。
「おっとっと!」
グレイが剣を鞘にしまってからアリシアを受け止め。続け様にコブルジが放って来る斬撃をアリシアをお姫様抱っこしながら横に飛び退いて避ける。
「私を投げて!グレイ!」
「おう!」
アリシアに投げるよう頼まれたグレイはアリシアを放り投げた。
「ぬぅぅ!?」
コブルジは高速で迫るアリシアに剣を振るうがアリシアは宙でその剣を弾く。そして。
「秘奥義!、ソニックスマッシュ!」
体を一回転させながら放つアルトシャーニア流剣術、ソニックスマッシュを放った。青く輝くソニックスマッシュはコブルジの左腕を斬り飛ばす。
「ウォォ!」
アリシアを同じく多数の部下を率いるコブルジは負ける訳には行かず腕を斬り飛ばされた程度では引けない。彼はソニックスマッシュを放ち終わり地面に着地したアリシアを全力で蹴り飛ばした。
「くぅぅ!」
「やりやがったな!」
グレイはコブルジの足元から鉄の棘を飛び出させる。コブルジは後ろに飛び退いてそれを避け地面に落ちている自分の腕をグレイに向けて蹴り飛ばした。
「はぁ!」
アリシアがグレイに迫る腕を斬り飛ばしグレイを守る。
「行って!グレイ!」
「ああ!、秘奥義!ダッシュスピアー!」
アリシアの声を聞いたグレイはアルトシャーニア流剣術、ダッシュスピアーを放った。その一撃はコブルジの右足を貫く。
「まだだぁ!」
右足が使い物にならなくなっても立っているコブルジはグレイを殴り飛ばして引かせた。
「エクスペクト!スラッシュ!!」
アリシアはトドメとしてアルトシャーニア流剣術最強の連撃技エクスペクトスラッシュを放つ。金色の斬撃は次々とコブルジの体を斬り裂いていく。
「うぉぉぉ!」
激しい斬撃の嵐を喰らいフラフラになりながらもコブルジはアリシアが放つ十八連撃目に合わせ最後の一撃を放って来た。
「はぁぁぁ!!」
アリシアは顔に迫るコブルジの斬撃を首を捻って避け。真上に飛ぶのと同時に十八連撃目を放った。
「見ろ!ゴブリン達!お前達の将はこの私聖騎士アリシアが討ち取った!、後はお前達だけだ!」
「ヨクモォォォ!」
自分達の将を殺したアリシアにゴブリン達は一切に迫って来る。
「させませんよ、ゼロブレイカー!!」
要塞内部のゴブリンを斬り伏せながら走り地下の牢に囚われていた住民達を見つけ出し解放したメアは彼等に牢で戦闘が終わるまで待つように伝えてから戦場に舞い戻った。そしてゼロブレイカーで一気に敵を斬り裂く。
「さぁ!アリシア!、後ひと頑張りです!」
「ええ!、行くわよ!相棒!」
「はい!」
メアが合流した事によりフル戦力となった部隊は怒り狂うゴブリン達を圧倒し勝利を収めた。
チェリノ村
住民達と共にチェリノ村に戻ったアリシアは村長の村で捕らえられており今回の戦いで救い出された村長とチェルズ隊長に感謝をされていた。
「ありがとうございます、聖騎士アリシア」
「私も感謝します」
「いいの、これが私の仕事だから、そんな事よりもシュルツ王への報告書の提出を忘れないように」
「はい」
「それじゃ、私達は王都に戻るわ、また何かあれば王都にまで連絡して来なさい、すぐに来てあげる」
「ありがとうございました!」
アリシアは何度も感謝して来る二人に優しく笑いかけてから手を振り家から出た。そして仲間達が既に乗る馬車の元に向かう。
「みんなお疲れ、王都に戻ったら私の奢りだ!、美味しいものを食べよう!」
「やったぜ!、何でもいいんだよな!?」
「良いよ!、今日だけは特別!」
「よっしゃぁぁぁ!」
この後王都に戻ったアリシア達は王に報告をしてから城下町に出てシールスが選んだお高いレストランで今回の任務の成功を祝う打ち上げを行った。




