七話、暴走
???
DIVAが二度目の調整を施されたアリシアとメア達の戦いを見ていた。
「チッ、やはりリィターニアを狙う者が出て来たか、まだ「成長」し切れていないと言うのに・・・」
(成長?、オリジナルの私からスタイルの力を抜いたのはやはり何か目的があるの?)
プラスは自分ですら知らないDIVAの思惑について考える。
「マイナスよ、例の計画の為にもリィターニアを悪しき心を持った者に利用させれん、もしかすればこのまま不完全な状態でアレが覚醒してしまうやもしれん、だから取り敢えずはメアリ達を助けろこのままでは殺されてリィターニアの成長に必要な者が失われてしまう、そしてこれを渡せ」
DIVAはそう言うと一本の剣を創造した。
「父様?それは?」
「オプジェクトクラッシャー、簡単に言えばリィターニアの頭に埋め込まれたマインドストーンなる物を破壊出来る武器だ、ただし二十秒間リィターニアの体にこれを刺し続けなければ破壊は出来んがな」
DIVAは宙に創り出したオプジェクトクラッシャーをマイナスの元に移動させる。マイナスは剣を手に取った。
「それをメアリに渡せ、使い方を教えるのと一度使えば壊れる事を伝えるのも忘れるな?、渡した後はメアリ達がアリシアの元に向かう手助けをしてやれ」
「分かりました、行って参ります」
DIVAから剣を受け取ったマイナスは転移した。
「人間どもよ、アリシアを兵器として使うのはお前達ではない、俺だ、さて準備を進めなければな」
「・・・」
敵であるアリシアを利用しようとしている父にプラスは疑念の視線を送る。DIVAは娘の視線に気付かず彼も何処かに転移して行った。
ナイリアーノ帝国、オルスェン山脈
「ん・・・ここは?」
メアは見知らぬ森の中で目を覚ました。そしてアリシアの攻撃を喰らった事を思い出すと身を起こし慌てて周囲を見渡す。
「良かった・・・みんないる・・・」
気絶しているが仲間達が無事だと分かったメアはほっと安心する。そんな彼女の真後ろに何者かが飛び降りて来たその音を聞いたメアは剣を引き抜きながら振り返り回転斬りを放つ。
「起きれば見知らぬ場所にいてそして背後に何者かが現れる音がした、警戒して突然です、流石は私のオリジナルですね」
マイナスはメアの剣を素手で白刃どりしながらメアに話しかける。
「その顔・・・いや似てませんね」
(・・・それよりもその胸)
「アリシアのコピーであるプラスと同じ、私のコピーですか?」
「ええ、私はあなたのコピー、名はマイナスと言います」
メアに名を聞かれたマイナスは無表情なまま名を名乗った。
「あなたが助けてくれたのですか?」
「ええ、リィターニアが技を放つ直前にあなた達全員をここに転移させました、二度も友を救えなかった愚かなコピー元を助けてあげた私に感謝しなさい」
マイナスに痛い所を突かれたメアは俯く。
「本当は愚かなあなたの手助けなどしたくはないのですが、父様の命令ですから仕方ありません、この剣を受け取りなさい、オリジナル」
マイナスは腰に装備していたオプジェクトクラッシャーをメアに渡す。
「これは・・・?」
メアは受け取った剣の正体を聞く。
「オプジェクトクラッシャー、リィターニアの頭に埋め込まれているマインドストーンを破壊出来る剣です」
「なんでそんな物をあなた達の敵である私に?」
「さっきも言ったでしょう?、父様の命令です、それにリィターニアは我々にとっても必要な存在なのですよ」
「・・・どう言う意味です!」
マイナスの言葉を彼等もアリシアを利用すると言う意味だと理解したメアは彼女の言葉の意味を尋ねる。
「おっと私とあろう者が口を滑らせてしまいました、もちろん教えません」
メアを不安にさせる為わざと自分達の目的が分からない程度に口を滑らせたマイナスは教えないと言ってからメアに向けてニヤリと微笑む。
「話させてあげても良いんですよ?」
メアはそう言って右手に持っている剣を構える。
「やめておきなさい、我々にとってあなたも利用価値がある存在、出来れば殺したくはありません、私と戦えば死にますよ?あなた」
マイナスは明らかにメアを見下した視線を送りながら自分と戦うのはやめておけと言い魔力を解放した、その魔力はメアよりも遥かに大きい物であった。
「・・・くっ」
アリシアを救う為に死ぬわけにはいかないメアは彼女から情報を聞き出すのを諦め戦わずにして敗北を認めると言う屈辱感を感じながら剣を鞘に戻す。
「それで良いのです、それではあなたの仲間達が全員起きたら行きましょうか」
「どこに?」
「帝都にですよ、リィターニアの元に案内してあげます、フフッ勿論、私は戦いませんが、あなた達の不始末はあなた達で返上して下さいな」
「・・・、分かっています」
(今分かった事はDIVAもアリシアを利用しようとしている事、三回もアリシアを奪われるわけにはいかない、なんとしてでも三回目は防がなければ!)
メアは三回目の失敗は犯さないと心の中で誓いマイナスから視線を逸らすと仲間達が目を覚ますのを待つ。
ナイリアーノ城
アリシアは城の庭にある庭園に皇帝と共にいた。
「綺麗ね」
「だろう?、私は花を愛でるのが趣味でな、高い予算をかけてこの庭園を作らせたのだ」
「良い趣味だと思うわ」
「ありがとう」
皇帝との会話が途切れアリシアは庭園の様子を眺める。美しい花達に綺麗な水路そして小鳥達、それぞれが皆美しいとアリシアは思う。
「陛下」
アリシアがこの場所を眺めていると一人の兵がやって来る。
「なんだ?」
「ハルミィス王国との会談の時間です、謁見の間においで下さい」
「分かった」
「マスター?、私も・・・?」
「いやいい、暫く暇をやる、ここにいるのも良いし部屋で休むのも良い、好きにするがよい」
「分かりました」
皇帝から暇をもらったアリシアは片膝を着く。自身が洗脳した少女の忠実な様子を見た皇帝は満足気に頷くと兵と共に城の中に入って行く。
「好きにするといいと言われても、それはそれで困るわね・・・」
この世界に召喚されたばかりだとマインドストーンに思い込まされており、この世界に知り合いなどいないと思っているアリシアは特にする事はないと思った結果日向ぼっこでもしようと思い。柔らかな芝生の上に腰を落としやがて横になると眠り始めた。
アリシアが眠り始めてから一時間後、メア達が庭園に転移して来た。
「着きましたよ、さぁここからはあなた達の仕事です」
「分かってるよ」
アリシアにオプジェクトクラッシャーを刺す役目を自分に任せて欲しいと言いメアから剣を受け取ったグレイがマイナスの言葉に答える。
「・・・?、!、お前達!生きていたの!?」
周囲から聞こえて来る話し声を聞き目を覚ましたアリシアは殺した筈の者達が目の前にいる事に驚き慌てて立ち上がると剣を引き抜いた。
「フフッ、私が助けました、殺せてなくて残念でしたね?、リィターニア」
「リィターニア?、誰の事よ?」
「フン、自分の名すら忘れているのですか」
「意味が分からないわ、・・・まぁ良い、あなたも含めて全員殺すだけですもの!」
アリシアはそう言うと剣を創造し撃ち出した。メアとオデッセルスが落ち着いて飛来する剣を斬り落とす。
「ふぅん、もうウェポンビットは通じないと言う訳、良いわっ!、私を最高に楽しませてくれそうじゃない!」
以前の調整よりは大分落ち着いているもののやはりバトルシア人としての本能に抗えていないアリシアは楽しげに微笑みメア達に向けて駆け出した。
「水で動きを鈍らせる!!」
リーリナはアリシアの目の前に水を出現させた、そして彼女をその中に飛び込ませる事で動きを鈍らせた。水の中を通り抜けた強制的に速度を落とされたアリシアにシメラの魔法が飛来しアリシアは吹き飛ぶ。
「くっ!」
吹き飛ばされたアリシアは宙返りをし地面に着地する。そこにオデッセルスが接近し光の爆発を当てようとしたが。アリシアは驚異的な速さで動きオデッセルスの胴体を斬り裂いて見せた。
「ここまでの力を身につけるとはね、驚いたよ!」
千年以上の時を生き豊富すぎる経験を持つオデッセルスよりもバトルシアの血に覚醒した今のアリシアは強い。オデッセルスは向上した彼女の力を同じ聖騎士として誇りに思う。
「あなたに褒められても嬉しくはない」
「それは失礼!」
オデッセルスは剣を振り上げ振り下ろす。それを見たアリシアは剣で防ごうとするが。オデッセルスはその動作を見て微笑み隣に避けた。するとオデッセルスの背後に隠れていたリーリナが技を放とうとしているところであった。
「ウォーターショック!!」
敵に当たるのと同時に破裂し敵に強い衝撃を与える技ウォーターショックがアリシアに命中した。アリシアはその技を喰らいよろめく。
(ごめんアリシア、少し我慢してくれ・・・)
「うぉぉ!」
愛する女性を救う為彼女を刺す決意をしたグレイがオプジェクトクラッシャーを構えアリシアに迫る。
「簡単にやらせるとも!」
アリシアは崩れた姿勢のまま剣をアリシアに向けて飛ばす。
「ええい!」
シメラが魔法で全ての剣を叩き落とした。そしてグレアがアリシアの懐に潜り込みアリシアの腹に剣を突き刺した。
「ぐぅ!?」
腹に剣を突き刺されたアリシアは呻き口から血をこぼす。
「圧倒的な力の差があると言うのに打ち勝つとは、敵ながらにお見事です」
戦闘の様子を見守っていたマイナスはアリシアに打ち勝ったメア達を評価した。
「うう!?、ああああ!?」
剣を刺されて数秒後、アリシアの頭に激しい頭痛が走る。アリシアは腹に剣が突き刺さったのを忘れ頭を抱えてもがく。
「すまねぇアリシア・・・、痛いだろうけどお前を元に戻す為だ、耐えてくれ・・・」
グレイはもがくアリシアを抱きしめ彼女の痛みが早く治まるのを祈る。やがて二十秒経ち、アリシアは静かになる。同時に剣は跡形もなく消滅しており。剣が治療をしたのかグレイが刺し貫いたアリシアの腹の傷がなくなっていた。
「大丈夫か?、アリシア、俺が分かるか?」
グレイは俯いているアリシアに声をかける。
「すぐ・・・に、私から・・・離れて!グレ・・・イ!、ダメ・・・ダメえええ!、ああああ!!」
顔を上げたアリシアはグレイに攻撃しようとするのを必死に抑えている様子でグレイに自分から離れるように言った、そして闘争本能に呑まれ激しい雄叫びをアリシアは上げた。
「バトルシアの血の暴走ですか、今まではマインドストーンと言う石のお陰である程度は収まっていましたが、壊された事により枷が外れたのでしょう」
「そんな・・・、せっかく助けたのにアリシアは暴走しちまうって事かよ!?」
「そう言う事です、先程は手を貸しませんでしたが、今回は手を貸してあげます、暴走する彼女を止めますよ」
マイナスが言葉を言い終わるのと同時に叫ぶのをやめたアリシアはゆらりとグレイ達の方を向く。その目に光はなく口元には笑みが張り付いていた。メア達は思う今のアリシアは獣となっており自分達はただの殺すべき獲物にしか見えていないのだろうと。
「あはっ、あはははは!」
笑いながら暴走状態となったアリシアは駆け出す。対するメア達は暴走するアリシアをその闘争本能から解放する為の戦いを始めた。




