二話
オルゴンの町、騎士学園
「み、見て、あれアリシアさんじゃない?」
「やっぱり綺麗ねー」
アリシアは校門にもたれかかりグレイを待っていた。金色の鎧を着ている彼女はどうしても目立つ為、校門の前を通り下校する者達から注目される。そんな彼等の視線を受けるアリシアはモジモジと足を動かしながら髪を弄り視線に耐え続ける。
「!」
校舎から出て来るグレイ達を見つけたアリシアは校門から離れ駆け出した。グレイは前から走って来たアリシアに気付く。
「ひーさーしーぶーりっ!」
「おっとっと、お前つい最近までいた学園で良く俺に抱き付けるな・・・、俺達が付き合ってるのを全校生徒に見せ付けるようなもんだぞ・・・」
実際学園の美少女ランキングで三年連続一位(二位はシメラ、三位はアリシアの学友のニア)になる程の容姿を持つアリシアに抱き付かれ彼が彼氏なのだと理解した周りを歩く男子生徒達は猛烈な敵意の視線をグレイに送っている。
「良いじゃん見せ付けたら、なんか問題ある?」
「あるわっ!この馬鹿野郎!、見ろや周りの視線!、俺明日からこいつらに暫く睨まれ続けるんだぞ!?、お前はその容姿の良さを少しは自覚しろ!」
「ご、ごめんなさい・・・」
グレイに怒られたアリシアはシュンとする。その瞬間アリシアから皇帝アリシアに入れ替わる。
「フフン、私の容姿が良いなんて当たり前の事、だから私?謝る必要なんてないわ?」
(そ、そうかなぁ?)
「そうよ、そしてグレイ、いきなり私に謝らせるなんて感心しないわね、あなたも周りの奴等の視線なんて気にせず堂々としたら良いだけじゃない」
「な、な、お前まさかあっちのアリシアか?」
「ええそうよ、私は紛れもないアリシア・レイティス、ふふふ、アトリーヌ帝国の皇帝がこの世界に復活したの」
皇帝アリシアは黒いドレスを着たアリシアを見てわななくグレイを見てドドンと大きな胸を張り復活した事を誇る。
「そ、そうか、良かったよお前が戻ってこれて」
「本当だよー、安心した」
「あら?シメラ、記憶戻ったの?」
「うん、グレイに前の世界での話をいっぱいされたら戻っちゃったー、ニアちゃんの記憶も私達がニアちゃんにどれだけ苦戦したかを話したら戻ったよー、今はニアちゃん部活だからここにはいないけどねー」
「へぇ、やるじゃないグレイ、私がいない間にもちゃんと働いているなんて、流石は私の彼氏ね、皇帝の名を持って褒めてあげる、感謝しなさいな」
「お、おう」
グレイは皇帝アリシアから褒められ照れ臭そうに頭を掻く。周りの男子生徒や女子生徒達は普段のアリシアの無邪気な様子から急に女王様のようになった皇帝アリシアを見て一部の者は頬を赤く染めている。
「喋り方だけでも別人って分かるよ、あたしお前とは喧嘩したくない・・・」
シールスは皇帝アリシアのドSな雰囲気を感じて喧嘩をする前に喧嘩を辞退した。
「あら?何よシールス、喧嘩を売って来るのならばたっぷりと可愛がってあげたのに?」
アリシアはそんなシールスの顔を自分の方に向けさせると顔を寄せる。
「お、お前の顔を近くで見ても嬉しくねーよ!、離れてくれ!」
「可愛い子猫ちゃんね」
シャー!と皇帝アリシアに威嚇するシールスと精神世界からシールスに顔を近付けるなー!と猛烈に抗議して来るアリシアの声を聞き、皇帝アリシアはシールスから顔を離す前に彼女の頬にキスをした。
(何しとるんじゃぁぁぁぁ!)
「何してんだぁぁぁぁ!」
仲は良い癖に中々噛み合わないアリシアとシールスの思考が一致した瞬間である。二人とも精神世界と現実世界で皇帝アリシアのキスに抗議の叫び声をあげる。周りで見ていた女子生徒の中には何人かアリシア様・・・と言いながら気絶する者もいた。
「何って可愛い子に印を付けただけよ?、私あなたみたいに強がってる子好きなの、そのうち可愛がりに行ってあげるから楽しみにしていなさいな」
ドS皇帝絶好調である。満足した様子のドS皇帝様はアリシアに肉体の主導権を譲った。譲られる瞬間アリシアはここで!?と言い。皇帝アリシアはドSにクスクスと笑っていた。
「うっうう・・・、頬でも初めては好きな人にして貰いたかったのに・・・」
そしてシールスは意外と純情乙女なようだ。
「あ、あのね?シールス、もう一人の私がごめん・・・」
アリシアはシールスの肩に手を触れ謝る。その瞬間パッと立ち上がったシールスは?
「触るなぁぁぁぁぁ!」
泣き叫びながら校庭から飛び出して行った。
「私初めてあなたを私の中に入れた事を後悔したわ、どうしてくれるのよ!これ!」
皇帝アリシアがドSっぷりを全力で披露したせいで周りの女子生徒達の熱い視線を受けるアリシアは皇帝アリシアに抗議する。
(もう一度変わっても良いのなら全員可愛がってあげて、あなたのハーレムを作ってあげるけど?)
「グレイ一筋なのでお断りです!、シメラ!グレイ!行くわよ!」
「大変だなお前・・・」
「頑張ってね・・・」
女子生徒達の視線から逃げるように校庭を後にするアリシアに、グレイとシメラは同情する。
この後王都のアリシアの部屋にファンレターやらプレゼントが届くようになるが皇帝アリシアは勿論どこ吹く風である。
オルゴンの町、ケーキ屋
「太るよー?アリシア」
「運動すれば大丈夫!」
皇帝アリシアに対しプリプリと怒っているアリシアは二人と共にこの町に住んでいた頃の行き着けのケーキ屋に入りケーキをやけ食いしていた。
「こんなに食って誰が払うんだよ?」
「自分で払うわよ!文句ある!?」
「・・・ないです」
自分で払うと言うのならば最早シメラとグレイにアリシアを止める手立てはない。この後店員も引くペースでケーキを食いまくり満腹になったアリシアはようやく落ち着いたようでコーヒーを飲み一息つく。
「それで?騎士になれそう?」
「ふふふ、なんと俺もシメラもシールスも部活でここにいないニアも!王都の騎士団に内定した!、来週からは俺達も王都騎士団の一員さ!」
「!、やった!、ならみんな一緒に働けるわね!」
「おう!」
これからはシロを使っても十五分ほどかかるオルゴンの町にまでグレイに会いに来る必要はなく。騎士は皆王城の敷地内の宿舎に住まう為すぐに会えると思ったアリシアはグレイの手を握り喜ぶ。
「それでよぉ?、初任給でプレゼント送るからさ、楽しみにしててくれよな?」
「ふふ、私の大好きな彼氏君は私に何をプレゼントしてくれるの?」
「ひ、秘密だ」
結婚指輪だとは言えないグレイはそっぽを向き秘密と言う。
「ええー、何よそれ」
アリシアはグレイの言葉を聞き頬を膨らませた。
「まぁまぁ、アリシアが必ず喜べるものだからさ?、楽しみにしててよー」
「シメラがそう言うのなら、うん、分かった」
素直である。
「いらっしゃ・・・!?」
アリシア達が楽しく話していると店主が何故か言葉に詰まった。その声を聞いたアリシアは振り返る。そこにはラフォリアとエリシアとキースがいた。
「な、なんであなた達がここに?」
アリシアは慌てて立ち上がり彼女達が何故ここにいるのかを聞く。
「我々の陛下が高い実力を持つのと同時に将来性が見込めそしてバトルシアの血を持つあなたに興味を持ったのですよ」
「な、なんで私がバトルシアって・・・」
「ふふ、プレミリカの王城のメイド、こう言えば分かりますか?」
「・・・」
アリシアは思い出す。王達に肩にバトルシアのマークがないか確認された時、確かに部屋に世話役のメイドがいた事を。アリシアがバトルシア人の一人である事を知っていると言う事は彼女もナイリアーノのスパイの一人であったのだろう。
「・・・簡単に私を攫えるとは思わないでよね!」
アリシアはグレイとシメラの手を取ると店主と目を合わせる。すると店主は裏口の扉を開いてくれた。アリシアはそこから外に飛び出す。
「あの人ラフォリアさんだろ!?、この世界でも相当に強いんじゃねーか?、そんな人がお前を攫おうとしてるってどうすんだよ!?」
「メアと合流する!、それに加えてあなた達二人がいればなんとかなるかもしれな・・・、くぅ!?」
アリシアの体をキースの剣から放たれた炎が捉え、アリシアは地面を転がる。
「よくもやったな!」
グレイは愛剣、アイアンブレイドを引き抜き周囲の鉄製の物を操るとキースに鉄の棘を差し向ける。
「フン!、こんな物!斬るだけだ!」
しかしエリシアに鉄の棘が全て斬られてしまう。続けてシメラがマジックソードから様々な魔法を放つが。ラフォリアは槍を回転させるさせる事により全部弾いた。
「ダメ!あの人がいる時点でメアがいないと勝てない!、逃げるのよ!」
「くそっ!」
グレイとシメラはアリシアの言葉を聞き背を向け逃げ始めた。アリシアも立ち上がり逃げ出そうとするが。走り出す前にラフォリアが懐に潜って来た。
「なんて速さ・・・、くそ・・・」
ドスン!と言う音が響きラフォリアの拳がアリシアの腹に吸い込まれる。その一撃によりアリシアの意識が飛びアリシアはラフォリアにもたれかかるように気絶した。
「対象確保、帰りますよ」
「ああ」
「さすが隊長だぜ、マジ強え」
気絶したアリシアを肩に担いだラフォリアはグレイとシメラには用はないと言った様子で背を向けた。エリシアとキースも彼等に同行する。
「行かせるかぁぁ!」
大切な彼女を奪われるつもりはないグレイがラフォリア達に斬りかかる。
「遅いですね」
しかしグレイの剣が届く前にラフォリア達は転移しグレイの剣は虚しく空を斬った。
「くそっ!アリシアぁぁぁ!」
アリシアを奪われたグレイの叫び声が町に響く。
リィターニア家
「と言うわけだ、早くアリシアを助けに行かねぇと、何をさせるか分かんねぇ」
アリシアが攫われた後、急ぎリィターニア家に入ったグレイとシメラは状況を説明した。
「・・・、今の私は騎士なのですよグレイ、王の命令無しでは動けません、なのでまずは一緒に王都に来て下さい、そこでシュルツ王の判断を仰ぎます」
「そんな事をしている間にアリシアに何をされるか分かんねぇんだぞ!、分かってんのかよ!お前!」
「分かっています!!だからこそアリシアを救う為の戦力を貸して貰う為に王都に行くのです!無策で敵の陣地の中に入っても殺されるだけです」
口ではそう言うラフォリアの手は震えている。またもアリシアを奪われたのだラフォリアもかなりの怒りを感じている。それでもラフォリアは自分を抑え冷静な言葉を言ったのだ。
「分かったよ・・・」
ラフォリアの手を見たグレイは俯き納得する。
「それではシロに乗り王都に行きましょう、アレシアはここにいて下さい、定員オーバーですので」
「分かったわ、必ずママを助けて戻って来てね!」
「はい」
ラフォリアはアレシアの言葉に頷いてからシロに乗りグレイ達と共に王都に向かう。
王都アルトシャルセン、王の部屋
「プリンセスアレシアの次は同じ血を持つアリシアを狙って来るとは・・・、皇帝め節操のない・・・、良かろう、聖騎士アリシアの救出任務を許可する、オデッセルス、指揮を任せる」
「はっ!」
「そして側付きラフォリアよ、必ずアリシアを連れ戻せ、私もあやつには期待しておるのでな、帝国になど渡すつもりはない」
「はい!」
ラフォリアは王の言葉に大きな声で返事をした。
「そして騎士候補生達よ、お前達にとっての初任務、必ず成功させよ、期待しているぞ」
「「はい!」」
「それでは行け!」
こうしてアリシア救出作戦が始まった。一行は船着場で魔導船に乗り込みアリシアが運び込まれたと思われるナイリアーノ帝国の帝都に向かう。
ナイリアーノ帝国、帝都、牢屋
「んん・・・」
ジャラジャラと鎖の音を牢屋に響かせながら肌色の囚人服を着せられたアリシアが目を覚まし身を起こした。
(ようやく起きたのね)
「ここは・・・、ナイリアーノの牢屋かな?」
(恐らくね)
「・・・逃げなきゃ!」
アリシアは魔力を大きく使うがこの際は仕方がない転移魔法を発動させようとする。しかし単位は発動しなかった。
「何故?」
(あなたを拘束してる鎖よ、これは魔封石、これを使われると愛理さんでも魔法を発動出来なくなる厄介な代物よ、つまりこれを付けられた時点でどうしようもないってワケ)
「そんな・・・」
皇帝アリシアの言葉を聞き焦ったアリシアは鎖を引っ張りどうにか抜け出せないか試すが鎖も手枷もビクともしなかった。
「何か、何かないの?」
敵の目的は自分の血を目覚めさせる事だと察しているアリシアは逃げ出す方法がないか牢屋の中を見渡す。しかし牢屋の中にはトイレやベッドがあるだけで使えそうな物は何もない。
「無駄だ、アリシア・リィターニア、その魔封石を付けられている時点でな」
「竜騎士エリシア・・・」
焦るアリシアの元にエリシアが来た。彼女はよ牢屋の扉を開け部屋の中に入って来るとアリシアを殴る。
「パピカの分だ、殺さなかっただけ感謝しろ」
「・・・」
仲間を殺されて怒るのは当然、殺した張本人であるアリシアはエリシアに殴られても俯くことしか出来なかった。
「さて、陛下がお前を持っているついて来い」
エリシアは壁に繋がれている鎖を解く。その瞬間を狙っていたかのようにアリシアは駆け出した。
「元気が良いですね、でもそう簡単に逃すわけがないでしょう?」
しかし牢屋の入り口にラフォリアが現れアリシアを殴って引き止める。
「・・・、エリシア?私にこの女を殴らせる為にわざと逃しましたね?」
「何のことやら?」
「全く・・・、ほら行きますよ」
ラフォリアは鎖を引きアリシアを無理矢理に立ち上がらせる。そして荒々しく鎖を引くとアリシアは地面に倒れた。
「何をしているんですか?、ほら立って?」
ラフォリアは再びアリシアに立つように促す。そしてアリシアが立つとまた鎖を強く引きアリシアを転ばせる。
「隊長だって遊んでいるじゃないか」
「フン、部下を殺されたのです、この程度で済ませているだけ十分に甘い対応ですよ」
ラフォリアはそう言ってアリシアの体を何度も踏み付けてから蹴り飛ばした。その衝撃でアリシアは壁に激突する。
「うう・・・」
数秒で体をボロボロにされたアリシアは呻く。
「フフ、もうちょっと遊びましょうか、あっ後で傷は治してあげます、傷だらけだと陛下に怒られますからね、エリシア?、良いですよ?」
「流石は隊長だ」
エリシアは自身の隊長の言葉に目を輝かせアリシアを痛め付け始めた。遅れてラフォリアも参加し。アリシアの全身が血だらけになった所で拷問は終わった。
「生意気な目ですね、殺さないのが残念です」
アリシアの傷を治したラフォリアは拷問をされた後でも力強く睨み付けてくるアリシアの目を見て不快感を表したが。そろそろ時間はギリギリそれ以上の攻撃はせず皇帝の元にアリシアを連れて行く。
皇帝の部屋
アリシアを連れてラフォリアは皇帝の部屋に入った。そしてアリシアの手に繋がれた鎖を皇帝に手渡す。
「よくやった、下がってもよいぞ、これで先の失態は許してやろう」
「ありがとうございます」
ラフォリアは皇帝に頭を下げると部屋から出て行く。
「さて、聖騎士アリシアよ、これからお前の飼い主となる私の名をお前に伝えねばなるまい、私の名はオルボルク・ナイリアーノ、このナイリアーノ帝国の皇帝だ」
そう言ってオルボルクはアリシアの髪に触れようとするがアリシアは近付いてきた手に噛み付こうとした。それを見てオルボルクは手を引く。
「躾のなっていない犬だ、まぁ良い、血に目覚めた後たっぷりと躾けてやろう、これを使ってな?」
オルボルクはそう言ってアリシアに赤い石を見せる。
「何よそれ・・・」
石から発せられる禍々しい魔力を感じ不快感を感じたアリシアは石の正体をオルボルクに聞く。
「マインドストーンさ、これを脳内に入れられた者は入れた者の言う事ならば何でも聞くようになると言う代物だ、良かったなアリシアよ、お前はこの石のお陰でバトルシアの血により暴走をする事はないぞ?、その代わり私に洗脳され私の忠実な僕となってしまうがなぁ?」
「くっ!、そんなの嫌!、離して!」
洗脳されると聞いたアリシアはオルボルクから逃げ出そうとするがオルボルクの力は強く逃げ出せない。
「しかしお前の美しさを損なう何と無粋な服か、おい、ドレスを用意させろ」
「はい」
メイドは皇帝の言葉に返事をすると部屋から出て行く。
「待って!あなた!」
メイドの顔に見覚えがあったアリシアは引き止める。
「ふふ、プレミリカでお会いしましたね?では」
メイドは怪しく微笑むと部屋から出て行った。
「フン、優秀なスパイであろう?、着替えたら早速お前の血を目覚めさせる作業を行う、よいな?」
「・・・」
自分の情報を帝国に伝えたメイドの姿、そしてラフォリアやエリシアからの拷問。心の中が屈辱で埋め立てられているアリシアは皇帝を睨み付け必ず洗脳される前にこの帝国から逃げ出してやるそう誓うのであった。




