八話
アルヘルブ平原
「今日でもう一人のアリシアを救ってみせます!」
リィターニアの名を持つアリシアはたった今救った。ならば次はレイティスの名を持つアリシアを救う番だ。ずっと救いたかった者を助ける為の戦い、メアは普段以上の魔力を解放しプラスに向かって行く。
「レイティスは渡さないわよ!、闇と雷のスタイルの力を完全に私の物にするにはレイティスの記憶と経験が必要なのだから!」
「だからこそです!、その力を完全にさせたりなどしません!」
そう、これはプラスの力を完全な物にさせない為の戦いでもある。メアの目的は二つレイティスの名を持つアリシアを取り戻し闇と雷のスタイルの力も取り戻す事だ。
同じ顔をした二人の少女は剣をぶつけ合う、以前はアリシアを奪われた動揺もあり力を発揮し切れていなかったメアは決め手に欠ける攻撃しか出来ていなかったが。今回は集中し切っておりプラスを一撃で押し切った。
「なっ!?この前は大した事なかったのに!」
「当たり前です!、大切な友を救う為の戦いなのですから!」
(メア・・・、私あなたに何度も何度も酷い事をしたのに・・・、それでも私を友と呼んでくれるのね)
メアが自分を友と呼んでくれた、アリシアはその事をとても幸福に感じるのと同時に嬉しく思った。
(これは・・・レイティスの感情?、これが嬉しく思う気持ち、そして幸福感・・・)
プラスは精神空間に取り込んでいるアリシアから流れ込んで来る二つの感情に戸惑う。その影響でプラスの動きが鈍った。
「はぁぁ!」
敵の動きの鈍りをメアは見失ったりなどしない、一気にプラスに接近したメアは彼女の顎を蹴り上げそして渾身の回し蹴りをプラスに命中させた。
「流石だぜメア」
グレイがメアの強さを賞賛する。
「そうね・・・」
「起きたのか」
「うん、・・・、メアはさ本当に強いあの子は私の目標なの、いつか必ずメアを越える強さを手に入れてみせる!、でも・・・今すぐには追い付けない、だからこそ私に出来る事をする、その為には立たなきゃ!」
アリシアはそう言うと立ち上がろうとする、しかしボロボロの体は言う事を聞かず立ち上がれない。
「立てアリシア、そしてメアを助けてやってくれ」
「ええ!」
大好きな恋人の声を力に変えアリシアは立ち上がった。
「あれ程のダメージを受けて立っただと!?」
プラスは立ち上がったリィターニアの名を持つアリシアを見て驚く、中にいるレイティスの名を持つアリシアもあれ程のダメージを自分は挫けてしまうだろうと思い、自分にはない心の強さを持つ彼女を見て羨ましく思った。
「心が強いからアリシアは立てるのですよ」
「ふん、そんな物絶対的な力の前では無意味だわ!、現にいくら心が強くてもあの子は私に負けてるじゃない!」
「そうだね、私はあなたに一回負けたわ、でもねたった一度負けたくらいで私はあんたに勝つのを諦めたりなんてしない!、何度だって立ち上がってあんたに戦いを挑んでやる!、そしてもう一人の私をあんたから取り戻す!」
痛む身体を奮い立たせアリシアはプラスは斬りかかる。しかし傷付いた身体ではプラスを押し切る事は出来ず軽く振り払われる。
「あんたを殺したらお父様に怒られるのよ、寝てなさい」
そう言ってプラスは手刀をアリシアの首元を狙い振り下ろすがアリシアはまだ抜いていなかったもう一つの剣を引き抜きプラスの右腕を斬り飛ばした。
「くぁぁ!?」
完全に格下と見下していた者から手痛い攻撃を受けたプラスは驚愕した表情を見せた。大ダメージを受けている彼女がこのような動きを出来るとは思っていなかったのだ。
「流石です!アリシア!」
メアはプラスがアリシアに集中している間にプラスの背後に回り彼女を羽交い締めにする。
「この!離せ!」
「離しません!、もう一人のアリシアを返して貰います!、アリシア!」
「ええ!」
アリシアはプラスの首を掴む。
「今です!もう一人のアリシア!、アリシアが接している首を通してもう一人のアリシアの中に逃げ込んで下さい!」
(ええ!)
「させんぞ」
レイティスの名を持つアリシアが移動しようとしたその時だった、背後に強大な魔力を持つ者が現れた。
「お父様!」
現れたのはエクストールの体を手に入れたDIVAだった。
(くっ!DIVA!)
「・・・、これがDIVA・・・世界を書き換えた張本人・・・」
倒すべき相手を初めてその目に捉えたアリシアは倒すべき相手としてその目にしっかりとその姿を焼き付けた。
「プラス、だから下界に降りるなど言ったであろう?、だから腕をこやつらに奪われたのだ」
「申し訳ございません・・・」
「そしてリィターニアよ、そこまでにしておけ死にたくなければな?」
DIVAはアリシアとメアに銃口を向ける、アリシアとメアは仕方なく腕を上げて降参をした。ここで死ぬわけにはいかない。
「良い子だ、それではな、また会おう」
DIVAはブラスを腕に乗せると転移して行った。
「惜しかったね・・・メア・・・」
「はい・・・、でも!私は諦めない絶対に!」
「だね、絶対にもう一人の私を取り戻しましょう!」
二人はもう一人のアリシアを救うと改めて決め合う。そのすぐ後に限界が来たアリシアはばったりと地面に倒れる。
「わわ!?、これはヤバイ倒れ方ですよ!?、はやく王都に連れて帰りましょう!」
「だな!」
グレイはアリシアを背負うとメアと共に大慌てで王都に戻って行く。
???
「プラス、暫くはお前も俺が監視をする良いな?」
「はい・・・」
「良し、それでは治療カプセルに入れ、体を治さなくてはな」
プラスは大人しくDIVAの言葉に従いカプセルの中に入る。するとすぐにカプセルの中が液体で満たされプラスの治療が始まる。
「しかしよもやプラスの腕を奪うとは、流石同じ遺伝子を持つだけはある、侮れんな」
DIVAはプラスの腕を奪ったリィターニアの名を持つアリシアを警戒する。
病室
「アリシアの容体はどうだ?」
ここは王都の病室、プラスに襲われたアリシアが過去に運び込まれたと聞き期待の新人の容体を聞きに王が部屋に訪れている。
「後遺症などは残りませんが、かなりのダメージを受けていますからね・・・、数日は目を覚まさないでしょう」
「そうか・・・、良かった・・・」
医師から容体を聞き後遺症などは残らないと聞いたグレイはホッと肩を撫で下ろす。
「良かったな少年よ」
王はグレイの肩を叩き部屋から出て行く。
「本当、こうやって無茶をする所は昔から変わんねぇよな?」
「だな」
「でもそれがアリシアのいい所だよ?、何かに必死になれるって事だもん、もしそうじゃなかったら今頃アリシアは聖騎士じゃなかったよ」
「そうだな、でもさ彼氏として無茶をして欲しくないって思うのも当然だと思うんだ」
「なら無茶をアリシアにさせないように私達も頑張りましょう」
「分かってる、付き合うって決めた時点で強くなるって決めてるんだ、俺」
グレイはそう言ってアリシアの右手を手に取る。しかし付き合い始めてから手を握れば握り返してくれたアリシアのその手は深く深く眠っている為、握り返してはくれなかった。




