七話
???
「気に入らないわね」
父の代わりにアリシアの監視をしていたプラスは聖騎士になると言う夢を叶え、グレイと付き合い始め幸せの絶頂である彼女を気に入らないと言った。
「ムカつくしちょっと痛めつけてあげましょうか、ふふっお父様もあいつを殺しさえしなければお怒りにならないでしょうし」
プラスはアリシアの元に転移しようとするその時だったプラスの脳内に声が響く。
(やめなさい!、もう一人の私に手を出すな!)
「あらレイティス、最近大人しかったのにあの子を襲うと言った途端元気になっちゃって」
プラスは精神空間で散々痛め付け大人しくなっていたアリシアの声を聞きクスクスと笑う。
「あなたがあの子を襲わせたくない理由、それはあなたにとってあの子が理想だからでしょう?、両親に囲まれそして夢を叶え彼氏もいる、あなたもそうなれるかもしれなかった存在があの子よ」
(・・・)
図星だった、レイティスの名を持つアリシアにとってリィターニアの名を持つアリシアは正に理想であった。その為アリシアは押し黙る。
「だからこそ気に入らないのよ、私のオリジナルであるあなたとは産まれ方が違うだけで完全に同一の遺伝子を持つあの子が幸せなのがね、私はお父様の許しがないと下界に行けないのにあの子は自由でしかも彼氏とイチャイチャ、本当にムカつく」
(良いの?許しを受けずに下界に行けばそのお父様に怒られるわよ?)
「問題ないわ、お父様が帰って来るまでの間にここに戻れば良いだけだもの」
(お願い!あの子だけには手を出さないで!)
「ふん、精々吠えていなさいレイティス、どうせあなたには何も出来ない」
(くっ!)
アリシアに何も出来ないと言い薄笑いを見せたプラスは転移しリィターニアの名を持つアリシアの元に向かう。
王都アルトシャルセン、王城
グレイは隣で布団を被りスヤスヤと気持ち良さそうに眠っているアリシアを見る。
「・・・」
布団の下は裸である事を思い出したグレイはアリシアの裸が見たくなり布団を捲る。布団の中には桃源郷があった。グレイは桃源郷をじっくりと眺める。
「布団を取ったらどう?、持ち上げたままじゃ疲れるでしょ?」
「!、起きたのか?」
「そりゃそんな視線を感じたら起きるわよ」
そう言って身を起こしたアリシアは布団を蹴り飛ばし立ち上がるとフフンとグレイに裸を見せる。
「お前には恥じらいと言うものはないのか?」
「あるわよ?今だって恥ずかしくて恥ずかしくて仕方ないもの、でもあなたに私の体を見て欲しいから布団を蹴っ飛ばしたの、・・・どうしよう猛烈に恥ずかしくなってきた」
キャーと言い蹲るアリシア、そんな彼女を見てため息を吐いたグレイは彼女が蹴り飛ばした布団を回収し被せてやる。
「後先考えて行動しなさい」
「はぁい・・・」
グレイに小言を言われシュンとし俯くアリシア。グレイはそんな彼女の頭を撫でてやり服を手渡す。
「今日で俺、オルゴンの町に帰るからさ、最後にデートでもしようぜ」
「!、行く行く!、着替えて来るね!」
「おい!ちょっ!」
グレイからデートのお誘いを受け猛烈に喜んだアリシアは真上にポーイと布団と服を放り投げ部屋から出て行く。
「キャァァァ!」
数秒後、アリシアは右手で胸を左手で股間を隠し戻って来た。
「だから呼び止めただろ?」
「うう・・・」
「で?お前の裸を見た奴はどこのどいつだ、ちょっと忘れさせて来る」
「大丈夫、部屋から出てちょっと走った所で気付いたから、誰にも見られてないわ」
「なら良い」
大切な彼女の体が他の者に見られていないと聞いたグレイとホッと安心する。
城下町
いつもの鎧姿のアリシアとグレイが町を歩いている。
「アリシア様!、私のこの手を握ってくれませんか!」
「サイン下さい!」
「ハグして!」
「ハグさせて!」
「おいそこの二人ちょっと来い」
アリシアは産まれたばかりの子の手を握る、すると赤ん坊はアリシアに向けて微笑みその笑顔の可愛さにアリシアも微笑み返す。
(私もグレイとの赤ちゃん欲しいなぁ・・・)
赤ん坊の手を握るアリシアはグレイをチラリと見る。しかし彼はハグ男二人への説教に夢中でアリシアの視線には気付かなかった。
「・・・むぅ」
「ふふふ、男ってああ言う物ですよ?アリシア様、だからこそ偶にドキッとさせられて更に好きになっちゃうんです、経験ありませんか?」
「・・・ある」
「ふふ、なら今は我慢の時です、彼がドキリとさせてくれるまでの待ち時間とでも思いましょう」
「うん」
赤ん坊の母親の言葉を聞きアリシアは頷く。
「ったく、何がハグだよ、ん?どした?」
二人への説教を終え戻って来たグレイはジトーと自分を見て来るアリシアに向けて首を傾げる。
「なんでも?、そんな事よりお腹すいた、何か食べよう?」
赤ん坊にもう一度笑いかけてから握っていた手を離したアリシアはグレイの腕に抱き着く。
「だな、俺も腹減った」
(どうかお幸せにアリシア様)
二人は赤ん坊の母親に見守られながら昼食を探しに向かって行く。
アルヘルブ平原
昼食としてサンドイッチを買ったアリシアとグレイは街の外に出ると仲良く肩を寄せ合って木の下に座りサンドイッチを食べている。
「デカイよなぁ、アルトシャルセンの城ってよ」
「そうねぇあれが私の職場なのよねぇ」
巨大なアルトシャルセンの王城を眺めながらサンドイッチを食べ進める。
「俺もあの城を職場に出来るように頑張るよ、そうなりゃいつでも会える、待っててくれ」
「うん、待ってる」
グレイの言葉を信じるアリシアは腕を広げる抱きしめて欲しいようだ。断る理由もない為グレイはアリシアを抱きしめる。
「えへへ、幸せだよ?私」
「俺もさ」
グレイに抱きしめながらアリシアが嬉しそうに微笑んでいると近くにシュンと何者かが転移して来る音が聞こえた。グレイの胸に擦り寄せていた顔を上げアリシアは誰が転移して来たのか見る。
「プラス!?」
転移して来た存在を見たアリシアはグレイから離れると警戒した様子で剣を構える。
「グレイ!、メアを呼んで来て!お願い!、悔しいけどこいつには私じゃ勝てない・・・、だから早く!」
「分かった、死ぬなよ!アリシア!」
「ええ」
アリシアの頼みを聞いたグレイはアリシアを失わない為にもメアを呼びに町に向かって行く。
「何をしに来たの?」
「そうねあなたが幸せなのがムカついたからさぁ、痛め付けに来たの」
「私の幸せにあなたは何も関係ないでしょ!?」
「そうよ?ないわよ?、でもムカつくのよ、それ以外の理由なんてないわ!」
そう言って剣を構えたプラスはアリシアに斬りかかって来る。アリシアは何とか彼女の斬撃を受け止めるが強すぎる攻撃に押し込まれ片膝を着く。
「たった一撃で片膝を着くなんて弱いわねぇ!」
「あなたの力はもう一人の私の物でしょ!、あなたが凄いんじゃない!、もう一人の私が凄いのよ!」
「ハン!、その凄い力を吸収したのは私よ!」
プラスは更に力を込めアリシアを押し込む、このままでは反撃も出来ないままに斬られるそう考えたアリシアは、プラスの背後に剣を創造し射出した。
「お生憎様ね?、そう言うの私にも出来るのよ?」
プラスは闇の魔力で作った剣を飛ばし背中に迫るアリシアの剣を防いだ。
「でも!気が緩んだわね!」
背中に意識を移した事によりプラスの力が緩んだ、その隙を狙ったアリシアは足を振るい足払いをした。足払いされたプラスは地面に倒れる。
「喰らいなさい!」
「うふふ、ダークチェーン」
「なっ!?」
アリシアは剣でプラスを刺し貫こうとしたがその前にプラスはアリシアをダークチェーンで拘束した。
「ここまでのようね?、まぁでも?私より弱い癖に頑張ったわ、褒めてあげる、だからね?ご褒美としてたっぷりと苦しめてあげる!」
「ああ!?、いやぁぁぁあ!」
プラスはアリシアを闇の塊で覆う。闇の塊に覆われた瞬間体に傷は生じないのに全身に激しい痛みが走りアリシアは悲痛な叫び声を上げた。
(やめなさい!)
「嫌よ、こんな楽しい事やめるわけないないじゃない」
(くっ!)
レイティスの名を持つアリシアは助けたい者を助けられないこの状況を悔しく思う。
(お願い!誰でも良い!、もう一人の私を救って!)
レイティスの名を持つアリシアは叫ぶもう一人の自分を救ってくれる者を。
「聞こえていますよ!アリシア!、もう一人のあなたは私が救います!」
レイティスの名を持つアリシアの叫びに答えたのはメアだった。猛スピードでプラスに接近したメアは渾身の右ストレートをプラスに命中させプラスを吹き飛ばした。その瞬間アリシアを覆っていた闇が消えアリシアは力なく倒れる。
「おっと」
グレイがアリシアを受け止めた。
「流石私の彼氏ね・・・、間に合ったじゃない・・・」
「お前を失うわけにはいかねぇかんな、間に合わない方がありえねぇよ」
「えへへ、大好きよグレイ・・・」
ダメージを負っているアリシアは限界が来たようで気絶する。
「よくもやってくれたわね?、メアリ」
「あなたこそ私の相棒を傷付けた、ただで済むとは思わないで下さい」
プラスとメアリは同時に力を解放し同時に斬りかかった。




