五話
妖狐の里
朝、族長の家から出たアリシアは妖狐の里見て回っていた。この日この里を後にする予定であり聖騎士としての使命があるアリシアは同じ場所に長居する事はあまり出来ない、その為寝坊助なメアが起きて来るまでの間だけでも里を見て回ろうと思ったのだ。
「おねーちゃん!、聖騎士様なんだよね?」
長い髪を揺らして里を歩いていると一人の少年がアリシアに駆け寄って来た。それを見たアリシアは少年の目線に合わせるように屈む。
「そうだよぉ?、お姉ちゃんは聖騎士なのだ」
「わぁ!凄い!、僕もこの里を守る戦士になるつもりなんだ!」
確かに少年は腰に木製の剣を付けている。アリシアはそれを見て幼い頃の自分も彼のようにオーグルに作ってもらった木剣を腰に付け父の真似をし剣の鍛錬をしていたのを思い出す。
「そっか、ならお姉ちゃんが一つ技を見せてあげよう!」
そう言ってアリシアは屈んだ状態から体を起こし剣をゆっくりと引き抜く。アリシアが剣を抜いた瞬間、少年は感じた目の前の少女が優しいお姉さんから戦士に変わるのを。
「私アリシア・リィターニアが解放する!、目覚めなさい!エリシャディア!」
剣を鞘から引き抜いたアリシアはエリシャディアを解放する。そして剣を突き出した状態で構えた。
「エリシャストライク!」
ヴォンと言う音を剣が放ち黄色い閃光に包まれたアリシアは駆け出す。すると技の能力である加速が発動し次の瞬間には五メートルほど離れた場所に彼女は移動していた。これがアリシア自慢の突進技エリシャストライクである。
「凄ーい!僕にも出来るかな!?」
「出来るさ、君の努力次第だけどね?、頑張れる?」
剣を鞘に収め戦士から優しいお姉さんに戻ったアリシアは屈み微笑みながら出来ると言った。
「うん!頑張る!そしてお姉ちゃんみたいな凄ーい戦士になる!」
「おう!応援してるわ」
アリシアは優しく少年に笑いかけ手を振りながら少年から離れる。そして里を歩き商店区にやって来た。
「おっ武器屋だ、見てみるか」
武器兼防具屋を見つけたアリシアは騎士としての本能が刺激され店内を見てみたいと思ったのでドアを開けて店の中に入る。
「いらっしゃい、おっ?その金色の鎧、あんたが噂の聖騎士様かい、ほぉう?その鎧グラゴン鉱石製かい?、よくもまぁあんな高価な素材を鎧に・・・」
(あはは・・・、このおじさんの反応を見てもこの鎧ってやっぱ高いんだ・・・)
「その鎧を身に纏うあんたにゃうちの店の武器や防具は大した物に見えねぇかもしれねぇが、是非見て行ってくれや」
「ええ、あなた達の里の武器や防具見させて貰うわ」
「ってあんたのその剣!解放能力付きの代物じゃねぇか!、ほうほう!凄いねぇ!」
(・・・早く見させてくれないかな)
この後結局店主の前でエリシャディアを解放する事になったアリシアは押しに弱い性格もあって断る事が出来ず。エリシャディアを解放して見せてあげた。
「ふぅ・・・、やっと見れるわ」
解放状態から通常状態に戻したエリシャディアを鞘に戻し店主から離れたアリシアは剣が飾られている棚の前にいる。目の前には片手剣や大剣それに刀などのオーソドックスな武器が置かれている。
「・・・」
アリシアは一本の一見ただの剣に見える剣を手に取った。
「ほほう?それを選ぶとは流石は聖騎士様だ、それはあんたが着ているグラゴン鉱石製の剣でね、斬れ味は解放能力付きの剣にゃ劣るが強度は引けを取らないぜ?」
「へぇ・・・凄いわね」
通常の剣で解放能力付きの剣と同等の強度と聞きアリシアはグラゴンの能力に感心しつつ剣を鞘から引き抜いた。
「うん好みの重さだわ」
アリシアはどちらかと言うと重い剣を好む、何故ならその方が振り下ろした時の威力が高まるからだ。このグラゴン鉱石製の剣はアリシアのエリシャディアと同等の重さであり正にアリシアの好みの重さであった。
「はぁ!」
オーグルに教わった通りの整った構えで剣を振り上げアリシアは振り下ろす。シュン!と言う音と共に振り下ろされた剣は風を切り地面スレスレで止まる。
「良い剣ね、買った、幾らかしら?」
「まいどあり、二万ゴールドだ」
「はい」
グラゴン鉱石製の剣を気に入ったアリシアは買う事にし店主に値段を聞いた。店主はアリシアに二万ゴールドだと伝えアリシアは財布から二万ゴールドを手渡す。
「確かに、これでこの剣はあんたの剣だ、大切に使ってやってくれ」
「ええ」
アリシアは購入したグラゴン鉱石製の剣をエリシャディアが付いている左腰とは逆側の右腰に取り付ける。
「さぁて、次は防具ね」
この後アリシアは防具も見たが、今回購入したグラゴン鉱石製の剣ほどの防具は無かった為、防具は買わずに店を後にする。
「アリシア!、探しましたよ?もう・・・、あれ?剣を買ったんですか?」
「うん、私ってさ創造した剣で二刀流を良くやるんだけど、どうしてもエリシャディアより強度が弱くて左手の剣がよく壊れちゃってたのよね、でもですね?この高い強度を持つグラゴン鉱石製の剣ならば二刀流をした時の私の欠点を克服出来るのです!、だから買ったの」
「ほうほう・・・欠点の改善をしたと言う訳ですか、やりますね流石は私の相棒です」
「ふっふっふ、もっと褒めても良いのよ?」
「すぐ調子に乗らない」
「イテッ」
メアの言葉を聞きアリシアはフフンと大きな胸を張った。そんなアリシアを見てメアはコツンと彼女の額を突き額を突かれたアリシアはイテテと額を撫でる。
「仲良いわねぇあんた達、隙があれば戯れちゃって」
「えっへへ〜、私達は友達で相棒ですもの!」
「はい!、仲が良いのは当たり前です!」
「「ねー?」」
明日奈の言葉を聞きアリシアはメアに抱き着くメアも嬉しそうにアリシアを抱きしめ返し二人は見つめ合うとねーと言い合った。
「ふふっ仲が良いのは良い事よ、それじゃ王様によろしくね?これも渡しておいて」
明日奈がアリシアに手渡したのは里で作られたみたらし団子である。
「ええ、明日奈さんの方もあなた達の仲間の居場所が分かったら教えてね?」
「勿論」
「それではまた会いましょう!明日奈さん!」
「ええまた!」
アリシアとメアは明日奈に向けて手を振りながら里から離れる。明日奈は里から離れて行く二人を見えなくなるまで見送った後振り返る、そこには愛理がいた。
「それじゃ愛理、あなたは情報集めを頼むわね?」
「了解!、私も行って来ます!」
「ええ、行ってらっしゃい」
愛理も明日奈に見送られ里から旅立つ、散り散りになった仲間探しとこの里にはいない自身の娘達を探す旅に。
王都アルトシャルセン、王城
モルヒェン山脈から下山しシロの元に戻ったアリシアとメアはシロに乗り王都に戻って来た。いつも通りアリシアの部屋の竜着き場に降り立ち部屋から出て明日奈に貰ったみたらし団子片手に二人は王室に入る。
「ただ今戻りました」
「よく戻った、里長明日奈の反応はどうだった?」
「えっと、それなのですが・・・」
アリシアは明日奈とその孫愛理が自分達の手で前の世界の記憶を取り戻した事を話す。
「ふむ・・・、里長とその孫の正体が神に魔王とは・・・何やらチグハグな組み合わせだな?神と魔王は普通なら敵対しているものだぞ?」
「ですよねー」
「そしてDIVAに対抗する為に前の世界の英雄達を探す事となった訳か」
「はい、明日奈さん達にも彼等がどこにいるのか見当も付かないみたいなので、知らせが来るまでは動けませんけどね」
「ふむ、それなら知らせが来るまではたっぷりと仕事が出来るな!」
悪い顔を見せた王は沢山の任務書をアリシアとメアに見せて来た。
「勿論やらせて貰います!、それが聖騎士の職務ですから!」
「うむ!、それでは早速頼むぞ!聖騎士アリシア!」
「はい!」
「ええー・・・」
仕事!仕事!とノリノリなアリシアと後はもう休みたかったとゲンナリした顔のメアは与えられた任務をこなす為に王室を後にした。




