四話
モルヒェン山脈高層
ビュンビュン風が吹き荒れるモルヒェン山脈の高層を二人の少女が身を寄せ合い歩いている。二人とも冷え性なのでこの環境は正に地獄である。
「あ、あ、あ、あ!寒い!」
「ですね!、こう言う時は恋話でもして暖まりましょう!」
「いや待ておかしい、何故そうなる?」
「友達に好きな人がいるかどうか気になるのは当たり前です、さぁ話すのですアリシア、あっちなみに私はこの世界には好きな人はまだいないので何も言う事はありません」
メアはどこかの悪そうな司祭のような話し方でアリシアに好きな人を話させようとする。
「嫌よ、あなたに話したら広めまくりそうだもん」
「こんな話広めませんよ、約束します」
「本当?、なら言ってもいいけど・・・」
(本当に押しに弱いですね・・・)
メアが脳内で小悪魔な囁きをしているのに気付かないアリシアは頬を染めモジモジし始める。話そうか話すまいか悩んでいるのだ。数分モジモジし続けたアリシアは遂に話す事に決めたようで口を開く。
「ちょっと前はメッシュ先生が好きだったわ」
「ちょっと前?、なら今は?」
「グレイよ、今はグレイの事が好き、いつもさ私の事を見てくれてていつも支えてくれるんだグレイって、その事に気付いたらさ好きになってたの、ふふっグレイは私が見てくれている事に気付いてる事に気付いてないみたいだけどね、そう言う鈍い所も好き」
「ほうほう・・・」
(これは・・・前の世界も含めてグレイの大逆転です・・・)
前の世界のグレイはアリシアが好きだった、レイティスの名を持つアリシアはアルムスと結婚してしまい彼はアリシアを諦めた、しかしこの世界のアリシアはグレイが好きと言い、グレイもアリシアの口振りではアリシアの事が好きなようだ、つまりは両思い正に世界を跨いでのグレイの逆転勝利である。
「グレイとは同じ騎士学園に通っていたんですよね?、好きならなんで告白しなかったんです?」
「・・・好きって事に気付いたのが聖騎士になる間際だったのよ、だからさ忙しくて告白する暇なんてなかったの、と言うかあなたグレイの事知ってるの?」
「はい前の世界のグレイと友達でしたので」
「ふぅぅん、なら前の世界のグレイは私と付き合ってた?」
前の世界にもグレイがいたと聞いたアリシアは見事に食い付き質問をする。
「いいえ、彼はシメラと付き合いました、あなたが別の人と結婚してしまったので」
「結婚って・・・、前の世界の私って十七歳で死んだんじゃないの?」
「好きって思ったら一直線なんですよ、あなたと同じで」
「あーうん、私だもんね、よく分かる」
メアの言葉に納得したアリシアはウンウンと頷く。
「それで?待つのですか?自分から告白するのですか?」
「女としての私は待ちたいって言ってる、でもなぁあいつ待ってたらいつまでも告白してこなさそうなのよねぇ、だからさ!次会ったら私から告白する!、そしてあいつを私の物にしてやるの!」
「ふふっならあなたの恋全力で応援しますね」
「うん!」
恋話を終えた二人の少女は笑い合うとまた仲良く身を寄せ合い寒さに耐えながら雷竜がいる場所に向かって行く。
雷竜の住処
「おお・・・雷が舞ってますぜ・・・メアさん」
「近寄りたくないですね・・・」
聖騎士とその側付きが雷竜の住処に到着した。岩の陰に隠れて様子を伺う二人の少女の視線の先には雷を撒き散らす雷竜がおり雷を撒き散らしまくっている事からも相当にご立腹なようだ。
「何に怒ってるんですかね・・・あの人」
「さぁ?お腹でも壊してるんじゃないですか?」
「あー変な魔物を食べたとかそう言う?」
「それですよ多分」
勝手な妄想で雷竜がご立腹な理由を決め付ける二人はこのまま隠れていても話が進まないので岩の陰から恐る恐ると出て雷竜の元に向かう。
「キェェェェ!」
その結果怒られた、二人は同時に涙目になりヒッ!と可愛らしく悲鳴を上げてから背を向けて猛スピードで岩の陰に戻る。
「無理無理無理無理!、目つき悪すぎよ!」
「それもありますし!見ました!?口からブレスを放とうとしてましたよ!?、怖いです怖すぎます!」
一回のチャレンジで雷竜にビビりまくった二人は無理でしたと報告しに里に戻ろうとするが、雷竜が攻撃して来ないか振り返ったアリシアがとある物を見付ける。
「見た?メア、彼の足の裏に大きな岩が突き刺さってたわ」
「いえ・・・見えませんでした、目が良いですねアリシア」
「馬や竜に乗るからね騎士って目が良くないとやってられないのよ」
「それもそうですね、原因は分かりましたけど足の裏ですか・・・どうやって抜きます?」
「そりゃあもうあの子をひっくり返してですね・・・おりゃーって引っこ抜くんですよ」
「・・・そのひっくり返す役は勿論あなたがやるんですよね?」
「えっ?何言ってるんですか?アルビオンさん、勿論あなたがひっくり返すんですよ?、私にあんなデカイドラゴンをひっくり返せるパワーなんてあるわけないじゃないですかぁー」
またまたぁとそこら辺のおばちゃんみたいな仕草でドラゴンをひっくり返す役をメアに押し付けるアリシア。メアはグヌヌと言いながら渋々と頷くメアの方がパワーがあるのは事実だからだ。
「その代わり!一回で足の裏に刺さってる岩を引っこ抜いて下さいよ!?」
「分かっております!メアリ殿!、必ずや一回で成功させてみせます!」
「任せましたぞ!聖騎士アリシア殿!、それでは行きます!」
「ふふっ、ええ!」
時間が経てば経つほどメアとの仲を深めることが出来ている。その事を嬉しく思うアリシアは嬉しそうに微笑み先に駆け出したメアを追って駆け出した。
「キェェェェ!」
再び近付いてくる二人を見て雄叫びを上げた雷竜は雷のブレスを放つ。
「当たらないで下さいよ!」
「分かってる!」
二人は左右に分かれて飛び退きブレスを避ける、そしてメアが雷竜の下に潜り込んだ。
「フヌヌヌ!、やぁぁぁ!」
雷竜の下に潜り込んだメアは顔を真っ赤にしながら魔力を身体強化に回し、雷竜を押し上げると放り投げた。放り投げられた雷竜は二人の目論見通りひっくり返る。
「よぉし!、動かないでよね!」
ひっくり返った雷竜の上に飛び乗ったアリシアは岩が突き刺さっている右前足に取り付き突き刺さった岩を両手で掴むと引っこ抜いた。
「キェェェェ!?」
前足から岩が引っこ抜かれた痛みで悲鳴を上げた雷竜はジタバタと暴れ、振り落とされたアリシアは崖の方に向けて放り投げられた。
「しまった!?」
アリシアは焦り眼下に見える木を掴もうとするがギリギリで届かない。
「アリシアぁぁ!」
全力疾走で走るメアがなんとかアリシアに追い付きその手を掴む。しかしメアの靴が滑り崖ギリギリで踏み止まった二人は崖下に落ちて行く。
「クォォォ!」
崖下に向けて落ちる二人の耳に先程までとは違う鳴き方の雷竜の声が聞こえて来た。数秒後崖の上から雷竜が現れ落ちる二人の下に回り込むと雷竜は二人をキャッチした。
「ありがとう雷竜さん、助けてくれて」
「クエエ」
二人をキャッチし崖の上に戻って行く雷竜。アリシアは彼に感謝の言葉を告げその言葉を聞いた雷竜は顔だけを二人の方に向けると優しい声で鳴いた。
「ふぅ、後は傷を塞ぐだけですね、簡単な治癒魔法なら使えるので、少し我慢してください」
そしてメアの治療の魔法により岩が突き刺さっていた場所の治療が行われ荒れ狂っていた雷竜が平静を取り戻した事によりモルヒェン山脈に平和が戻って来た。
妖狐の里、族長の家
「お帰りなさい、あなた達なら出来ると思っていたわ、ありがとう」
水晶で二人の様子を見守っていた明日奈は二人が家に入って来るなら二人に感謝をした。
「まぁね私達なら楽勝よね?相棒」
「はい!相棒!」
明日奈に褒められたアリシアとメアはニシシと笑い合うと拳をあわせ合う。
「ふふっ、それでは他のみんながどこにいるのかは私達が探しておくわ、あなた達は今日はこの里で休み明日、国に戻りなさい」
「ええ、たっぷりと休ませて貰うわ」
「温泉があるみたいですよ!、入りましょうよ!アリシア!」
「良いわね!」
「案内するねー」
この日は里で休む事にしたアリシアとメアは愛理に案内され温泉に向かう。
「・・・相変わらず無駄にデカイのが四つ」
そしてメアは今回もプカプカと浮かぶ四つの桃に殺意を送るのだった。




