第四部、二章、妖狐の里編、プロローグ
夜、メアの側付きの部屋
「良かった・・・!、本当に無事に・・・」
夜の二時頃、メアの部屋に「赤い瞳」のアリシアが入ってくる。アリシアは眠るメアに駆け寄ると彼女の手を手に取った。
「・・・くっもう時間がないのね、メア、私は必ず戻る、それまではもう一人の私をお願いね?」
もう一人の自分をお願いねとメアに告げた後、アリシアは力なく地面に倒れ込む。
「くっそ・・・もう声も出ない・・・、もう少し時間があればメアと話せるのに・・・、!、あれは!」
地面に倒れたアリシアは今の自分に与えられた猶予の無さを嘆く。DIVAに対しての敗北感を感じつつ部屋を見渡すと一枚の神と羽ペンを見つけ、近くのベッドの柱を掴みなんとか起き上がるとペンと紙を手に取った。
「・・・!?」
朝、アリシアと剣の鍛錬をする為早く起きるようにしているメアが目を覚ました。そして身を起こし部屋の内部を見渡した所で、床にアリシアが倒れているのを見て慌ててベッドから飛び降り、アリシアを揺する。
「アリシア?アリシア?」
「う、うーん?」
メアがアリシアを揺するとアリシアは眠たそうに目をこすりながら起き上がる。
「・・・メアリさん、私は何故ここにいるのでしょうか?」
そして自分自身でもメアの部屋にいる理由が分からなかったようでメアにその理由を聞いて来た。
「知りませんよ・・・そんなの、夢遊病でも発症したんじゃないですか?」
「またまたぁ、小さい頃からピクリとも動かずに眠るから逆に怖いって言われる私が夢遊病なワケないじゃないですかぁー」
「じゃあなんでここにいるんですか?」
「さぁ?、寝言で詠唱しちゃって転移魔法でも発動させちゃったのかもね」
「それはそれで問題ですよ・・・」
二人にとって意味不明すぎるこの事件をいつまでも考えていても話が進展しないので。二人はそれ以上追及するのを辞め。メアは騎士服に着替え、アリシアは騎士服を着てその上に鎧を着ると剣を構え、いつも通りシロに見守られながら朝の鍛錬を始める。
先に王室に行ってるねーと朗らかに言ったアリシアに向けて頷き、側付きは聖騎士の一日の活動の記録も仕事である為記録帳を取りに部屋に戻ったメアは、ベッドの下に一枚の神と羽ペンが落ちているのを見つけた。先程はベッドの上からアリシアと話していた為ベッドの下は見えなかったのだ。
「何故こんな所に羽ペンと紙が?」
ベッドの下の羽ペンと紙を不思議に思ったメアはその二つを手に取る。そして紙に書いてあったものを見て目を見開く。
「アリシア・・・、やはりあなたはあのアリシアの中にいるのですね・・・」
紙にはこう書かれていた、待ってて、とアリシアがこの部屋に倒れていた事からも、この文字を書いたのがレイティスの名を持つアリシアだと判断したメアは。アリシアが触れた紙と羽ペンを大切そうに抱きしめた。
「待ってます、ずっと・・・、だから会えた時は笑顔で話をしましょう・・・アリシア・レイティス」
王室
「遅かったじゃない、メア」
王室近くの壁にもたれかかり右足をプラプラとさせつつメアを待っていたアリシアは。ようやくやって来たメアに口を尖らせながら遅かったと伝えた。
(?、今・・・)
「あ、あの?、アリシア、今私を何と呼びました?」
「?、メアって呼んだけど?、それがどうかした?」
「・・・な、何でもありません」
レイティスの名を持つアリシアが書いた手紙だけでなく。レイティスの名を持つアリシアが短時間とは言え表に出て来た為か、リィターニアの名を持つアリシアが自分をメアと呼んだ。ずっとずっとレイティスの名を持つアリシアがそう呼んでくれていたように・・・。メアはそれが嬉しくて嬉しくて思わずニヤけそうになったが何とか平静を装う。
「変なの・・・、ほら今日も任務を受けるわよ」
「はい!」
レイティスのアリシアが戻って来る希望が出来たメアは元気良く返事をしアリシアと共に王室に入り王の前でアリシアと共に片膝を着く。
「よく来たな、アリシアとメアリよ、今日はお前達に使者を頼みたい、妖狐の里へのな」
「妖狐の里、南アルスゥーニア地方のモルヒェン山脈にあると聞いています」
「うむ、モルヒェン山脈は空にも道にも危険な魔物が住み着いている危険地帯でな、聖騎士でないと使者を頼めんのだ、そこで新人であるお前に声が掛かったと言う訳だ、頼めるか?」
「勿論です!」
アリシアは胸に手を当てながら使者を引き受けた。
「ありがとう、モルヒェン山脈の麓に着いたらこの許可書を兵に渡せ、通してくれる」
妖狐の里は国内にあるが妖狐達の自治領である為、勝手に入る訳にはいかない。その為妖狐の里が一年のうちに数回王室に送ってくる許可書を麓にいる兵に渡さないといけないのだ。しかしこの許可書さえ渡せば簡単に領内に入れてくれる為、妖狐は寛容な種族である。
「次にモルヒェン山脈を登り妖狐の里に着いたら、この手紙を渡せ、メアリお前が私に伝えてくれたDIVAについての警告が書かれた手紙だ、脅威について広く広めるのは大切な事だからな、いずれ他国にも同様に使者を送る予定だ」
「私の事を信じてくれて、本当に感謝しています」
「よいよい、その代わり我が国の為に存分に働いておくれ」
「はい!、それでは行ってまいります!」
「うむ、任せたぞ!」
「「はい!」」
心優しき王に返事を返した二人は立ち上がるといつも通りアリシアの部屋に向かいシロに乗り込むと、モルヒェン山脈に向かう。
妖狐の里
「・・・、何か悪い予感がする、何かが起こるわよ、愛理」
「うん、私も感じる、警戒しなきゃね」
妖狐の里の族長明日奈とその孫愛理が里の内部の国内を広く見渡せる高台に立って。尻尾の毛を逆立てながら会話をしている。
「族長様、アルトシャーニアの聖騎士が麓に近付いて来ているようです」
一人の兵が尻尾を逆立てる二人に近付いて来て聖騎士の接近を伝えて来た。
「聖騎士なら私が送った許可書を持っているわ、通してあげなさい、愛理、迎えに行ってあげて」
「分かった、行ってくる」
「ホワイトローズ、あなたも」
「はい、マスター」
明日奈は孫娘愛理と自身の剣の妖精ホワイトローズをこのモルヒェン山脈にまで近付いていると言う聖騎士の迎えとして送った。
「この悪い予感に合わせるかのような聖騎士の接近、確実に何か起こりそうね・・・、悪い事ではないと良いのだけれど・・・」




