八話、二人の少女は再び出会う
リィターニア家
この日はアリシアが聖騎士に正式に任命される日、朝早くに目を覚ましたアリシアは寝間着のまま部屋から出てシロの元に向かう。
「今日からよろしくね?シロ、私とお前はこれから聖騎士として沢山の人を救うんだ、頑張ろう」
「クー」
シロはアリシアに甘え頭をアリシアに擦り付ける、アリシアは優しくシロの頭を撫でる、すると父と母がアリシアの元にやって来た。
「今日を最後にお前がこの家からいなくなると思うと寂しいなぁ」
「そうねぇ寂しいわ、それにアリシアはモテるし王都ですぐに彼氏が出来ちゃうかもよ?」
「・・・アリシア、王に言ってここから出勤出来るように取り計らって貰え」
「嫌よ、なんでお城に私の部屋があるのにシロでも十五分かかるここから王都に通わなきゃいけないのよ」
「グヌヌヌ・・・」
アリシアの正論を聞き何も言い返せないオーグルは、何とかアリシアをこの家から職場に通わせる策を考えるが、考え付く前に娘と妻は家に入って行ってしまった、家に入って行く二人を見てオーグルは慌てて二人を追って家の中に入って行った。
白いブラウスと黒いズボンを履いたアリシアは家の玄関にいた、これから学園長が作ってくれた鎧を受け取りにシロと共に向かうのだ。
「それじゃ行ってくるね、父さん母さん」
「あぁ、王都で会おう」
「ふふっ、弁当を作って持って行ってあげるわね」
「うん!」
アリシアは父と母に手を振るとシロに乗り学園に向かって行った、オーグルとアイリスは成長し自分達の元から巣立って行った娘の後ろ姿をその姿が見えなくなるまで見送っていた。
オルゴン騎士学園、学園長室
シロを校庭の木に繋ぎ、学園の中に入ったアリシアは、三年間通った学び舎の中を眺めつつ学園長室に入った。
「ようやったのぅアリシア、お前は我が校の誇りじゃよ」
部屋に入ると学園長が近付いて来たアリシアの肩を叩きつつ誇りだと伝えて来た、そして学園長は部屋の中にある真新しい鎧を指差した。
「あれがお主の鎧じゃ、名はお主の剣の名にちなんでエリシャメイルじゃ、着てみると良い」
「はい」
アリシアは鎧に近付く、エリシャメイルと名付けられた鎧はエリシャディアと同じく金色で、大会の際に纏った母の鎧とは違い重装鎧だ。
「あの学園長、これ重くないですか?」
生まれ持っての優れた反射神経を活かしたスピード戦法を主とするアリシアにとって重い鎧は、自身の利点を潰すだけとなってしまう、その為アリシアは鎧の重量について学園長に聞いた。
「問題ない、超軽量と呼ばれている、グラゴン鉱石で作った鎧じゃからな、高い硬度を持つのに軽装鎧並の軽さを実現した凄い鎧じゃ」
「そんな素材を使って・・・、高かったんじゃ・・・」
「気にするな、聖騎士となったお主への贈り物じゃ」
「ありがとうございます!、学園長!」
アリシアは学園長に深く頭を下げてから、鎧を身に付けて行く、授業で鎧の身に付け方を習っていたアリシアは特に苦労する事もなく鎧を身に付け、学園長室に金の剣と鎧を身に付けた騎士が誕生した。
(本当に軽い・・・、これならなんの問題もなくいつも通りに戦えるわ)
「よく似合ってある、これから頑張るのじゃぞアリシア、皆お主に期待しておるからな」
「はい!、今までお世話になりました!」
金の鎧を身に付けたアリシアは学園長に頭を下げてから、部屋を後にした。
校庭
「さっ王都に行こっか、シロ」
校庭を歩きシロに近付いたアリシアは木に繋いでいた紐を解きシロに乗り込む、するとグレイ達が走って来るのが見えた。
「みんな、どうしたの?」
アリシアはシロから降りてグレイ達に近付く。
「お前に伝える事があってな」
「何?」
「簡単だよ、私達もすぐに騎士になって王都に行く」
「だからよぉ!、少しの間お前は王都で一人だけど、すぐにあたし達が行くから寂しくなんて思うなよ!」
「ふふっ、ありがと!みんな!、その言葉だけで寂しいだなんて思わずに済むよ!、だから待ってるね!」
「「おう!」」
グレイ達は待っていると伝えたアリシアに大きな声で返事をした、その声を聞いて柔らかく微笑んだアリシアは、シロにもう一度乗るとシロと共に空を飛び、王都にへと旅立って行った。
王都アルトシャルセン、王城
王都にやって来たアリシアは、シロに取り付けていた荷物を部屋に運び込もうとするが、シロが降り立った音を聞いたのか沢山のメイド達がやって来て、荷物を運び始めた。
「これは私共がやっておきますので、アリシア様は王室へ、王が待っておられます」
「分かった、お願いするわ」
王が自分を待っていると聞いたアリシアは王を待たせすぎる訳にはいかない為、メイド達に荷物を任せ、シロの頭を優しく撫でてから自分の部屋から離れ王室に向かう。
王室
世界の中心の国の王都に住まう王の前に一人の金色の鎧を着た茶髪の少女、アリシアがやって来る。
「よく来たな、新たな聖騎士よ」
「お呼び頂き光栄です、シュルツ王」
少女は王の前で片膝を着くと胸元に手を当てながら光栄だと王に告げた。
「私は僅か十八歳で聖騎士になるまで上り詰めたお前を評価している、その実力をこれからは聖騎士として存分に発揮し、この世界を守れ、良いな?」
「はい」
「良い返事だ、それではこれよりお前を十五人目の聖騎士として正式に任命する、右手を差し出せ」
右手を差し出すよう言われたアリシアは素直に従い、右手を差し出した、するとアリシアの右手に十五人目の聖騎士の証である数字のXV(15)が刻まれた。
「ありがとうございます」
「よいよい、聖騎士の任命は歴代の王の楽しみの一つだからな、それでは早速任務を与えよう」
王はアリシアに任務内容が書かれた紙を渡す、その内容はアルトシャーニアの北部、ヘイゲンブロックに現れた謎の魔力反応を探れと言った物であった。
「謎の魔力反応ですか・・・」
「うむ、かなり強大な魔力でな、ただの兵士を向かわせたら無駄死にになるやもしれん、だからこそ高い実力を持つ聖騎士を向かわせる事になったのだ」
「それが私と」
「そうだ、私の期待に応えてくれよ、十五人目の聖騎士、アリシア・リィターニアよ」
「はっ」
聖騎士アリシアは王に頭を下げると謎の魔力反応を探りに行く為、王室を後にし、シロに乗り王都から離れた。
ヘイゲンブロック
「ここは・・・?、私は確か・・・」
ヘイゲンブロックと呼ばれる荒野に、一人の少女が倒れていた、その名はメアリ・アルビオン、アリシアを救おうとしていた少女だ。
「・・・、何故このような場所にいるのかは分かりませんが、とにかくまずはギグルスに戻ってみましょう」
この世界の事は気になるがまずは仲間と合流するのが先決だと思ったメアは転移しようとする、しかし・・・。
「発動しない・・・?」
転移は発動しなかった。
「確かに風景を記憶していると言うのに転移出来ないと言う事はギグルスが存在しないどころか、第50世界すら存在しないと言う事・・・、何が起こっているのですか・・・」
状況が理解出来ず焦るメアは更に天上界に転移しようとするがまたも失敗する、天上界も存在しないようだ。
「まさか・・・、くっ!、とにかく町に行ってみましょう!」
情報を得る為に町に向かう、そう決めたメアは近くに落ちていた愛剣を拾い、町を探して移動を始めた。
数時間後
「・・・」
竜から降り立ったアリシアはメアが倒れていた場所を調べている。
「オルベニの町の方に向かったのか」
地面に残る足跡を見て謎の魔力反応の正体は人間だと判断し、足跡の行き先からオルベニと言う町に向かったのだろうと判断したアリシアは、再び竜に乗り込む。
「急ごうシロ、あそこから強い魔力を感じた、危険な存在だったら町が危ないわ」
「クー!」
シロはアリシアの言葉に元気良く返事をする、アリシアは自身の竜の声を聞き微笑むと、オルベニの町に向かって行く。
オルベニの町
オルベニの町、近くの山を越えて来た冒険者達の休憩地点となっている町である。
「お、おお・・・、聖騎士様がこのような町に一体どう言ったご用件ですかな?」
「ちょっと人を探しててね、この人にどう見ても冒険者じゃない服装をした人が来なかったかしら?」
「うーむ、確かに珍しい格好をした女が来ましたな、酒場に向かいましたぞ」
「ありがとう、その酒場に行くからこの子を見ていてくれないかしら?」
「分かりましたぞ、お任せ下さいだぞ」
「お願いね、シロ?良い子にしててね?」
「クー」
町の入り口にいた特徴的な口癖な男にシロを任せたアリシアは酒場に入る。
「・・・」
酒場に入ったアリシアは店内を見渡す、そしてこの「世界」では明らかに浮いた服を着た少女の後ろ姿を見付けたので近付き肩を叩く。
「・・・!?」
肩を叩かれ振り返った少女はアリシアの顔を見て驚いた様子で目を見開く、アリシアは少女の反応を見て、その理由を察していた、何故なら自分も少女の顔が髪色以外は自分と全く同じで驚いたからだ。
「あ、あなた、名前は?」
少女は驚いた顔のまま名前を聞いて来た。
「アリシア、アリシア・リィターニアよ」
隠す事ではない為、アリシアはは自身の名を少女に伝える。
「リィターニア?、レイティスじゃなくて?」
「私の家名は産まれた時からリィターニアよ」
自身の家名に誇りを持っているアリシアは別の家名ではないか?、と聞いてくる少女に若干イラついた。
「そんな・・・ならこのアリシアは私が知るアリシアと別人?、まさか彼が世界を書き換えた?、でも私にはそんな記憶は・・・一体何が・・・」
一人で混乱し始める少女、アリシアは少女の様子を不審だと捉え、剣に手をかけながら口を開く。
「何を混乱しているのか知らないけど、私があなたに会いに来たのはあなたが強力な魔力を放ちながら、ヘイゲンブロックに現れたからよ、その変な服もそうだけどあなた一体何?、どこから来たの?」
「私は、メアリ、メアリ・アルビオンです」
「!、へ、へぇ、メアリって言うのね、それだけ?、どこから来たとかそう言うのはないの?」
ここでアリシアも驚く、最初顔を見た時から夢に出て来た少女と同じ顔をしていると思っていたが名前も同じだったのだ、その為アリシアも驚いたが平静を装いつつ更に質問をする。
「ギグルスと言うか国が私の国です」
「・・・ふざけないで、そんな国この世界にはないわ」
ギグルスと言う国はこの「世界」にはない、その為アリシアはメアにふざけるなと言った。
「本当です!、私の世界は多重世界の五十番目の世界で・・・」
「多重世界?、何よそれ?」
「多重世界とは沢山の世界が集まった世界の集合体を称した名前です、この世界はいくつ目の世界ですか?」
多重世界の説明をしたメアは、この世界を何番目の世界か、アリシアに尋ねた。
「世迷言ね、あなたの言い方じゃまるで異世界があるかのような言い方だけど、うちの国も含めて沢山の国の魔法学者が転移魔法を応用し異世界がないか探しているけど、今まで一度も見つかっていないわ、つまりこの次元とでも言えば良いのかしら?には、異世界なんてない、つまりあなたは嘘を付いていると言う事になる」
「そ、そんな!、私は嘘なんてついていません!」
アリシアに嘘を付いていると言われたメアは慌てて弁明する、対するアリシアは剣を抜いた。
「問答無用よ、私アリシア・リィターニアは十五番目の聖騎士としてあなたを拘束するわ、抵抗するのなら斬る、斬られたくないのなら、大人しく降伏しなさい」
「・・・」
(どうする?、このまま大人しくアリシアについて行けば間違いなく牢屋に入れられてこの世界について暫くは探れなくなる、なら逃げる?、でも逃げた場合は指名手配をされる可能性が・・・)
首筋に金色の剣を突き付けられているメアは悩む、このままアリシアについて行くか逃げるかの選択肢を。
「・・・、ついて・・・」
迷った結果真実を話しアリシアが言う王に事情を話すべきだと判断したメアは、アリシアについて行くと伝えようとしたが、酒場の外から爆発音が聞こえて来た、その音を聞いたアリシアはメアの首元から剣を引き、酒場の外にへと飛び出して行く。
「ゴブリンか、爆弾を持っている、大方、近くの廃棄鉱山にあったものを使っていると言った所かしらね、・・・これ以上は町を襲わせないわよ!」
「・・・」
(アリシアがあんなに正義感に溢れた顔をしている・・・、このアリシアは本当に・・・)
町を襲うゴブリンを倒す、そう決めたアリシアの正義感に溢れた顔を見たメアは、改めて目の前のアリシアが自分が知るアリシアとは別人だと思った。
「メアリだっけ?、そこから動かないで、まだまだ話はたっぷりとあるのだから、大人しくしてて」
「手を貸しますよ、私も戦えますから」
メアは戦えると言い、アリシアに剣を見せた。
「あなたの手を借りるつもりはないわ、そんな事をしなくても私には・・・」
アリシアは剣を引き抜き解放し剣を創造する。
「これ程の数の剣を創る事が出来るのだから、さぁ・・・行きなさい!、町を襲うゴブリンを狩り尽くすわよ!」
「!!」
剣を創造したアリシアは右手に持つエリシャディアを振るう、すると複数の剣は幾分の狂いもなくゴブリンに向かって行き、ゴブリンを串刺しにし仕留めて行く。
(五十匹程いたゴブリンを僅か数秒で・・・、やはりアリシアは強いですね・・・)
ゴブリン達を数秒で倒したアリシアを見て、メアは彼女はやはり強いと思った、そしてアリシアについて行く為、大人しく近付いて行ったが何かが飛んで自分に近付いてくる音が聞こえ、メアはそちらを見る、そこには・・・。
「その紋章!ナイリアーノ帝国の!」
「あぁ!そうだ!、私はナイリアーノのエリシア!!、その女は貰って行くぞ!」
ナイリアーノ帝国の兵、エリシアはメアの首根っこを掴むと無理矢理に竜に引き上げ再び空にへと飛び上がった、そして逃げて行く。
「待ちなさい!」
アリシアは剣を飛ばして竜に当て逃走を防ごうとするが、エリシアはアリシアに向けて煙幕を投げ視界を塞いで来た、煙幕が晴れる頃にはエリシアとメアはおらず逃げ切られてしまったようだ。
「くっ、逃げられたか・・・」
メアとエリシアを探すか王都に戻り王に報告するかの選択肢を選ぶ事になったアリシアは、顎に手を触れながら考える。
「父さんが言ってた、何事も報告が大事だと、王都に戻るか・・・」
悩んだ結果、王に報告すべきだと考えたアリシアはシロに乗ると王都に戻って行った。
アリシアとメアは暫くは敵同士となります。




