四話、聖騎士大会1
オルゴン騎士学園、学園長室
聖騎士大会の前日、アリシアは学園長に呼び出されていた。
「失礼します」
この一ヶ月間、父と母の指導、そして仲間達と学園内にあるクエストボードから依頼を受け様々な討伐依頼を行い実戦経験を積んだアリシアは、一ヶ月前より更に力を増していた。
学園長室に入った少女は窓の前にいる学園長の元に向かう。
「よく来たのぅ、アリシア」
学園長、ベルスウが振り返りアリシアを歓迎する、ベルスウは過去にこの国の騎士団(聖騎士達は騎士団の更に上の立場となる)の団長をやっていた、優秀な騎士であった。
「いえ、今回お呼びいただいたのは、聖騎士大会の事ですよね?」
「うむ、明日は朝の六時に校門に来るのじゃ、馬車で儂と共に王都に向かう、後は・・・」
ベルスウはアリシアの服を見つめる。
「あ、あの?なんですか?」
「すまなんだ、聖騎士大会は鎧を着て出場する者が多くてな、お主にも必要ではないか?と思ったのじゃ」
「鎧なら母さんの物があってサイズも合うと思います、ほぼ同じ体型ですし」
「おおそうか、なら今回は母君の鎧を借りるとよい、大会に優勝しお主が聖騎士となったら儂から新たな鎧をプレゼントしよう」
「!、ありがとうございます!」
過去、様々な戦でこの国を何度も勝利に導いたベルスウから鎧を貰うという事は、かなりの名誉である、その為アリシアは嬉しそうな顔で返事をした。
「よいよい、どうせ作るのなら完璧な物が欲しいじゃろう?、メルビアに採寸を頼んでおる、測ってもらうと良い」
「はい!」
アリシアはメルビアに採寸をして貰う為、一度ペコリと学園長頭を下げてから、部屋から出て行った、少女を見送ったベルスウは再び窓の方に向く。
「リィターニア家の天才少女が聖騎士に慣れるか、くく年甲斐もなくワクワクしてしまうのぅ、儂もまだまだ騎士の心を失ってはいないようじゃ」
翌日、リィターニア家
朝の五時、アリシアはアイリスの部屋にいた、オーグルもいる。
「ふふ、似合うじゃない、アリシア」
「そう?」
「ああ、その鎧を着て騎士をやっていた頃のアイリスを思い出すよ」
アリシアが着るアイリスの鎧は白い軽装鎧だ、胸と籠手と脛当てと言う人間の弱点を覆っており、鎧の下に制服を身に纏っている。
「ちなみにその鎧には渾名があってな」
「えっ?、なになに!」
「やめてー!、言わないでー!」
「血みどろ鎧だ」
「・・・あぁ、母さんらしいわ」
「・・・うう、昔の話じゃない・・・」
何故血みどろ鎧と呼ばれていたのかと言うと、文字通り鬼モードとなりヒャッハーするアイリスが、敵を追いかけ回し、鎧を血に染めて帰ってくる様子を見て他の兵がそう名付けたのだ。
「・・・、ねぇ父さん、よく考えたら、この鎧を着た私を見て母さんを思い出すって事は、私も母さんみたいになるって言ってるのと同じじゃない?」
「ち、違う、お前は俺がまともな性格に育てたからな!、アイリスのように戦闘時に人格が変わらないように!、大丈夫!お前は大丈夫!」
「そう?」
「あなたー?、さっきからムカつくのですけどぉ?」
オーグルの言葉を聞きアリシアは安心するがアイリスはプンプン怒り、オーグルに迫る。
「戦闘時に暴走するお前が悪い」
「なによぉ!それ!」
開き直るオーグル、アイリスはムキムキと怒りオーグルの頬を引っ張り始めた、アリシアはそんないつも通りの両親の様子を見て、戦いの前だと言うのに自分が落ち着いているのを感じ、両親に感謝をする。
「それじゃ父さん母さん、私先に行ってるね?」
「ん、ああ!、頑張れよ!アリシア、必ず見に行くからな」
「ふふっ、必ず聖騎士になってみせなさい!」
オーグルとアイリスはアリシアがこの町から経った後の八時ごろにこの町から王都に向かう、大会の開始は十時、このオルゴンの町は王都まで一時間の距離にある為十分余裕を持った旅路となる予定だ。
「うん!」
アリシアは父と母に向けてガッツポーズをすると、剣を腰に付け部屋から出て行く、両親はこれから晴れ舞台に立つ娘を誇らしく思っていた。
王都、アルトシャルセン
アリシアと学園長を乗せた馬車は王都アルトシャルセンに辿り着いていた、アリシアは王都の様子を見慣れた様子で眺める、その理由はオルゴンの町に近いこの王都は母や幼馴染達とよく訪れている馴染みの場所だからだ。
「見よアリシア、闘技場じゃ」
「はい・・・」
大会が行われる場所は王城のすぐ隣にある闘技場で行われる、様々な闘技大会が行われて来た由緒正しい場所である、アリシアは闘技場を見てゴクリと唾を飲んだ。
馬車は闘技場の裏口選手入場口で停車した、すぐに騎士が近付いて来て馬車のドアを開けた、アリシアは学園長と共に馬車を降りる。
「ようこそ、ベルスウ学園長、こちらが?」
「うむ、今回の我が校の代表、アリシア・リィターニアじゃ」
「ほう!、オーグル隊長の!、こんなに大きくなっていたとは!、覚えているかい?、ビールウだよ!」
「え、えと?、ごめんなさい・・・、覚えてないわ・・・」
目の前の騎士ビールウはアリシアの事を知っているらしい、しかし記憶にないアリシアは首を傾げ謝った。
「うーむ、まだまだ小さい頃だったからなぁ、仕方ないか」
ビールウはアリシアの言葉を聞きシュンとした様子で仕方ないと言った、アリシアがまだまだ幼い頃、父の職場を行きたい!とせがむアリシアをオーグルはこの王都に連れて来ていた、ビールウとはそこで出会い、抱き上げて貰った事もあるのだが、アリシアは幼すぎた為忘れてしまったようだ。
「その・・・忘れちゃってごめんなさい・・・」
「良いよ!良いよ!、そんな事より闘技場の中に入ろう!、君の控え室に案内するよ!」
「うん!」
明るいビールウは全く気にしてない様子でアリシアを案内すると言った、アリシアはそんな彼に内心で感謝しつつ頷いた、ビールウはアリシアの頭を撫でてから闘技場の中に入って行く。
闘技場の中はレンガ造りの古めかしい構造で、如何にも歴史ある建造物と言った様子だ、ビールウは普段は鍛錬で使っている事もあって迷う事なく通路を行き、アリシアの名が書かれた控え室の前に到着した。
「ここだ、入ろうか」
「はい」
ビールウはドアを開け控え室の中に入る、アリシアと学園長もそれに続く、控え室の内部は机と椅子とベッド、そして飲料水を入れる魔導冷蔵庫だけが置かれている質素なものだった、ビールウはアリシアと学園長に椅子に座るよう促し二人は椅子に座る。
「それでは早速、大会の説明をしよう、聖騎士大会は大会に出場する一番強い騎士や騎士候補生を聖騎士として任命する為の大会だ、だからこそこの大会は勝ち抜き戦、簡単に言うとバトルロイヤルで行われる」
「バトルロイヤルですか・・・」
「そうだ、君が最後まで立っていれば晴れて聖騎士という訳だ、しかし禁止事項が一つだけある、それは逃走行為の禁止だ、逃げて逃げて勝ち抜いた者を聖騎士にしても意味はないからね、もし逃走行為と見なされる行動を取った時点でその者は敗退だ、だから聖騎士となりたいのならば、最後まで戦い続け勝ち抜くんだ、良いね?」
「はい!」
ここに来た時点で最後まで戦う心算のアリシアは力強く返事をした。
「良し!、最後に今回の参加人数を教えておこうか、今回の聖騎士候補は君を含めて十人、皆実力者ばかりだが、オーグル隊長の娘の君なら大丈夫、絶対勝ち抜ける!、応援しているよ!」
「うん!!絶対に勝ってみせるわ!」
「その意気だ、それではまた後で時間が来たら呼びに来るよ」
ビールウはアリシアに向けて柔らかい笑みを見せると部屋から出て行った。
「儂も観客席に行っておる、頑張るのじゃぞ、アリシア!」
「はい!」
学園長もアリシアの肩を叩いてから部屋から出て行った、一人となったアリシアは暫くは椅子に座っていたが、落ち着かなくなり椅子から立ち上がると剣を抜く。
(大丈夫、大丈夫だ、私なら絶対やれる、期待してくれているみんなの為にも絶対に聖騎士になるんだ!)
精神統一をした少女は部屋の中で剣を振るう、少女の剣は一撃一撃が研ぎ澄まされており、完璧に集中が出来ている事を物語っていた。
そして、大会が始まる
「時間だよ、行こうか」
「はい」
アリシアが幼馴染達とクエストボードから依頼を受けるお話はオマケとして掲載します。




