一話、騎士達の夢
オルゴン騎士学園
黒いブラウスに赤いスカート、そして靴は自由となっているため動きやすいブーツを履き、金色の剣を腰に付けた少女、アリシア・リィターニアは廊下を走っている、壁に貼り付けられている廊下は走るなと言う紙を無視して。
「コラ!、アリシア!、走るなと言っただろう!」
「ごめんなさーい!、メルビア先生!」
案の定先生に見つかり怒られるアリシア、しかし少女は走るのをやめず、注意して来た剣術指導担当のメルビア先生に謝りながらその場を走り去る。
「全く・・・、あんな落ち着きのないあの子があの大会に出場する許可を貰うとは・・・」
メルビアは一人呟き、そしてアリシアにたっぷりと鍛錬と言う名のお仕置きをしてやろうと思いその場を去って行った。
職員室
「メッシュ先生!」
「よく来たな、アリシア」
職員室に入ったアリシアは自身のクラス三年二組の担任教師、メッシュに駆け寄る、アリシアに声を掛けられたメッシュはアリシアの方を見た。
「アレですか!、アレなんですね?、アレなのよね!?」
「落ち着けバカモン」
いきなり捲し立てて来る少女の頭をメッシュはポコンと叩く、そして机の上に置いている一枚の紙を渡した。
「ほら読め」
「はい!」
アリシアは受け取った紙を読む、そこには聖騎士大会出場許可書と書かれていた、聖騎士大会、それは五年に一回開かれる騎士と騎士候補生の夢の舞台、全ての騎士達はこの大会に出場する為に己を鍛え技を磨いている、そしてアリシアは全ての騎士の夢の舞台に上がる事を許されたのだ。
「この許可書を渡されたって事は学園長がお前を認めたって事だ、ならその期待に応えてみせろアリシア・リィターニア」
「はい!」
メッシュに学園長の期待に応えろと言われたアリシアは力強く返事をする。
「まっでも無理だな、これまでの最年少記録が二十五歳での任命だ、来月十八歳になるんだっけか?のお前じゃまだまだ早い、この学園の最優秀成績を持つお前でもな」
「自分の生徒に期待出来ない先生って私どうかと思いまーす!」
「ならこう言われないようにもっと落ち着きを持てこのバカモノ!」
「はいはーい!、バカモノ!が口癖のメッシュ先生の言う通りでーす!」
このままではメッシュの説教が始まるだろうと思ったアリシアは、クルリと方向転換すると逃げ出した。
「バカモノ!、まだ話は終わっていない!」
「また口癖出てますよー!」
メッシュは話は終わっていないとアリシアを止めようとするが少女は見事逃亡を果たした。
「全く・・・」
アリシアに逃げられたメッシュはため息を吐いてから、仕事に戻る。
廊下
メッシュの説教から逃げ出した少女は鼻歌を歌いながら廊下を歩いている、するとニアを見つけたアリシアは早速ニアに抱き着く。
「おーおーその反応はそう言うことかしら!?」
「うん!、やったわ!私!」
「いっやぁ!、さっすがだねぇ、私の親友ってだけはあるわホント」
アリシアとニアは手を繋いでピョンピョンと飛び聖騎士大会の出場を喜ぶ。
「それで?大会はいつからなの?」
「来月って書いてあったわ、それまでにもっと強くならなきゃ!」
「そうね!、その為にも依頼を受けに・・・」
「ゴホン」
「?」
二人の少女がきゃっきゃっと話していると、背後から咳払いの声が聞こえた、二人の少女が振り返るとそこにはメルビアがいた。
「さっきはどうもアリシアさん」
「ええっと?、なんのことでしょうかー」
「廊下走ってましたよね?」
「えー?、何の事ですー?」
「・・・」
とぼけるアリシアを見てメルビアは手を上げると投影魔法を発動させた、するとバッチリと走るアリシアが映し出された。
「走ってるわね・・・アリシア・・・」
「・・・」
親友すら否定出来ない事実を突きつけられたアリシアは逃亡を図るがメルビアに肩を掴まれ止められた。
「鍛錬しましょっか」
「それって校庭百周の事じゃないですかぁ!、いーやぁ!」
「問答無用です」
アリシアはメルビアに腕を掴まれると校庭にへと引っ張られて行く、そしてニアに涙目で助けを求めるが、ニアはフッと笑いそっぽを向いた。
「こんの!裏切り者ぉ!」
オルゴンの町
百周校庭を走りクタクタになって家への帰り道を歩くアリシア、何とか家に辿り着いた少女は巨大な門の隣にある小さな扉を開け家の敷地内に入る。
「あっ、お帰りなさいませ、アリシアお嬢様」
「ただいま」
敷地内を歩き家を目指していると庭掃除をしていたメイドが声を掛けてきたのでアリシアは声を返す、そして大きな屋敷に辿り着いたアリシアは、両親を探し家の中を歩き、テラスでお茶を飲んでいる二人を見つけた。
「ただいま、父さん母さん」
「お帰りなさい、アリシア」
「お帰り」
アリシアは両親であるオーグル・リィターニアとアイリス・リィターニアに声をかけた、娘の声を聞いた両親はにこやかに少女にお帰りと告げた。
「あらあら?、私の娘は何か嬉しそうね?、彼氏ね?彼氏が出来たのね?、相手はグレイ君!?グレイ君よね!?」
「なぁにぃ!?彼氏だと!?どこのどいつだ!斬りに行く!」
(私まだ何も言ってないのに・・・、しかも何でグレイ・・・)
何も言ってないのにはしゃぐ両親二人を見てアリシアは呆れる、代々優秀な騎士となってきたリィターニア家の現当主オーグルなど斬りに行くとまだ言ってのけた、家の中だからいいものの外で言ったら大問題な発言である。
「彼氏なんて出来てないわよ全く、これよこれ」
アリシアは両親に呆れつつ、先程貰った聖騎士大会の出場許可書を近くの机に置く。
「まぁまぁ!、聖騎士大会!」
「おお!流石は俺の娘だぁ!」
出場許可書を見たアイリスは手を叩いて喜び、オーグルは立ち上がるとアリシアを抱き上げクルクルと回る、リィターニア家は名家と言われつつも聖騎士を一人も輩出していない家であり聖騎士となる事は一族の悲願であった、そしてアリシアがもし聖騎士大会で優勝すればその悲願が叶う、だからこそ現当主であるオーグルはアリシアを抱き上げてまで喜んだ。
「め、目が回るわ父さん・・・」
「お、おお、すまん」
オーグルは目が回ると言うアリシアの言葉を聞きようやく止まりアリシアを地面に降ろす。
「聖騎士になるのって私達の一家の夢でしょ?、私何としてでもその夢を叶えたいの、だから今日から来月の大会まで毎日私の鍛錬に付き合ってよ、父さん母さん」
「おう!良いぞ!」
「勿論よ!」
アリシアの頼みを両親は快く引き受けた。
「ただ毎日はダメだ、休みを入れるのも大切だぞ?、娘よ」
「でも一ヶ月しかないわ・・・」
「オーグルの言う通りよ?、焦っても何も良い事はないわ」
「分かった、ちゃんと休みを入れつつ鍛錬をする」
「それで良い」
渋々と両親の言葉に頷いた少女は椅子に座る、そして両親と楽しく話し始めた。




