六話
メイルス国上空
直々に帝国臣民となる事を許された結果、アリシアに強い忠誠を誓うイブリサは、アリシアに任された帝国軍爆撃部隊の一番隊を率いて、レーダーに映らない程のメイルス国の遥か上空を飛んでいた、目的地はメイルス国の大規模基地だ。
「陛下、目的地に達しました」
帝国にしか受信出来ない周波数を使い、イブリサはフロスヒィー海岸の陣地にいるアリシアに通信を入れた。
『ご苦労様、攻撃を開始しなさい、多大な戦果を期待しているわよ』
通信が繋がるとバスローブ姿で皇帝の飛空艇の自室で寛ぐアリシアの姿が映し出される、自身の忠実な部下であるイブリサを労ってから、アリシアは攻撃命令をした。
「はっ、必ずご期待に応えてみせます」
「ええ」
臣下の礼を取りつつ必ず期待に応えるそう言ったイブリサの言葉を聞いたアリシアは、満足気な笑みを見せてから通信を切った、通信が切れた事を確認したイブリサは自身の部下達を見渡してから命令をする。
「降下と同時に攻撃準備、我等が皇帝、黒魔道士アリシア様のご期待に応えるわよ!」
「「はっ!」」
イブリサの爆撃部隊はイブリサの命令を受け高スピードで急降下を始める、高度を急激に下げた事で敵基地のサイレンが鳴り響き始めたが、今更警戒状態に入ったとしても遅い、既に攻撃準備は出来ている。
「爆撃開始」
爆撃部隊は基地の真上に達した、イブリサは部隊に爆撃命令を下し、各飛空艇は一斉に爆弾を投下し始める、この攻撃により敵基地は成すすべもなく全滅をした。
「作戦終了、良くやったわよ、お前達」
無傷での勝利を誇りに思うイブリサは、部下達に労いの言葉を掛けた、すると部下達は帝国式の敬礼をする、それを見たイブリサは深く頷いた。
「さて、他の指揮官達に負けていられないわ、再び高度を上げ次の基地に向かうわよ」
「了解です」
イブリサの部隊が一番隊と呼ぼれているように、爆撃部隊は十二番隊まで存在している、部下を自身と同じ臣民とすべく尽力するつもりのイブリサは、他の隊に負けない為にも、新たな爆撃候補地に飛空艇の進路を向けさせた。
メイルス国首都
翌朝、たった一日で五機のドラグーンと二十五の基地を失ったメルオルは、このまま停滞をすればあっという間に負ける事を理解している為、次の手を打つ。
「ゴルハボズ、そしてダリア、我等が勝つ為にはなんとしてでも皇帝を打ち破らなくてはならん、フロスヒィー海岸に奴等が敷いた陣地を破壊して欲しい」
「任せろ!、必ず勝ってみせよう!」
「メイルス国に勝利を」
フロスヒィー海岸の帝国陣地の破壊を命じられた二人は、命令を実行する為、部屋から出て行った。
「大統領、我々は?」
「今はこの首都の防衛に集中してくれ」
「分かった」
大統領の言葉を聞いたグレイルは頷く、彼が頷いたのを見たメルオルは、二人の将軍とその部隊と言う多大な戦力を用いた今回の作戦で、皇帝を打ち破れる事を祈る。
フロスヒィー海岸、帝国軍陣地
次々と物資と兵力が帝国本国や属国から補充され、アリシアが部隊を率いてこの陣地を離れたとしても、この陣地を防衛出来るだけの戦力がこの陣地に集まりつつあった。
三日後には本格的に殲滅戦に向けて動けるようになるだろう、そう考えているアリシアは自室の机の上にメイルス国の地図を広げ、各都市の攻略について考えていた。
「・・・、この国の都市の特徴は過去に降り注いだ大量の隕石が作ったクレーターの中に都市を作っている事にある、クレーター自体を防壁として扱い、強力な防御力を得ている、実に厄介だわ」
どの都市もクレーターの中に作られているメイルス国の都市の攻略は非常に難儀と言える、隕石が作り出したクレーターの岩盤は非常に強固で、飛空艇のビーム砲では歯が立たない、強固な岩盤の破壊を避け上空から攻めようにも、そんな事は想定済みだと言わんばかりに、無数の砲台がクレーターに設置されている、そんな場所に飛空艇で飛び込めば一溜まりもないとしか言えない。
「上空から攻めれば蜂の巣にされるだけ・・・、やはりどの都市も入り口から攻めるしかないわね、仕方ないわ」
都市への侵入路である、各都市の入り口には膨大な戦力が配置されているだろう、しかしそれを突破してこそだとアリシアは思う、それに一度中に入れば・・・。
「ふふっ、兵達とファントム、そして龍脈から産まれる魔物達により簡単に落とす事が出来るでしょう」
そうこの国の都市は内部への侵入は非常に高難度だが、一度内部に入ってしまえば脆い、何故なら逃げ場所が四つしかない出入り口しか存在しないからである、そして四つしか入り口がないという事は四方から攻め込めば逃げ場所などなくなると言う事だ。
「その為には同時に四方から攻め込まなければね、その為の進軍ルートを考えなきゃ」
アリシアは机の上に地図を広げまずはフロスヒィー海岸から近い、オベロスと言う名の都市への進軍ルートを考え始めた、その時だ、敵の接近を知らせるアラートが鳴り響いた。
「敵か、フン、なんとしてでもこの海岸から私達を追い出したい訳だ」
アリシアは思う、自分が敵の立場ならなんとしてでも自陣に入り込み陣地を敷いている敵を追い出そうとしていただろうと、その為、敵が連日の攻撃を仕掛けてくるのは当たり前だと思う。
「状況は?」
自室を離れ操縦席に入ったアリシアは状況を尋ねる。
「海と正面から敵が接近中です、索敵部隊からの情報によると、ゴルハボズ将軍の部隊とダリア将軍の部隊の様です」
「将軍を二人も投入するなんて随分とやる気があるじゃない」
状況を聞いたアリシアは考える、前と後ろから攻めて来る敵はどの様な戦力を保有しているのか?と。
「後ろ、海から来る敵は確実に飛空艇とファントム部隊よ、アテナを出撃させ当たらせなさい、正面からの敵は歩兵とファントムの混合部隊でしょう、こちらにもファントムとそれに加えて歩兵部隊を投入しなさい」
「はっ!」
命令を出したアリシアは背後にいる側近達の方を向く、彼等にも命令を出すのだ。
「お姉ちゃんとキースはいつも通りファントムで出てくれる?、海から来る敵をお願い、ニア、アイリーン、あなた達は私について来なさい」
「分かった」
アリシアの命令を受けたエリシアとキースは出撃をする為部屋から出て行った、ついて来いと言われたニアとアイリーンはアリシアが動くのを待つ。
「それと・・・、爆撃部隊をそうね・・・、三部隊呼び戻しなさい、上空から爆撃をさせ敵を叩くわ」
「了解しました、すぐに呼び戻します」
「爆撃部隊が到着したら私に連絡を、爆撃命令は私が出す」
「了解しました」
全ての命令を出し終えたアリシアは森を通り迫る敵の相手をする為、飛空艇を後にした。




