五話、黒魔導士
メイルス国、帝国軍陣地
陣を敷き終わり警備をする者以外は寝静まる静かな夜、陣の外れで敬語をする者達は森の中から何かが近付いてくる音を聞き付け顔を見合わせる。
「おい、暗視ゴーグルで森の中を覗いてみろ・・・」
「ええ」
女性兵士が暗視ゴーグルを覗き森の中を確認する、そして身を震わせながらゴーグルを取り落とした。
「ど、どうした?」
「ドラグーンよ!、沢山のドラグーンがこちらに近付いて来てる!」
「なんだと!?、チッ!陛下に報告しろ!」
夜の襲撃は非常に効果的だ、そして敵が自国の中にいるのならばこの手を打たないわけがない、状況の伝達を頼まれた兵士はメイルス国の手腕に舌を巻きながら、アリシアに報告をする為、彼女の飛空艇に向けて走る。
「ドラグーンは何機いる?」
アイリーンとニアと血を吸い合っており起きていたアリシアはすぐに陣地の端にやって来ていた、そしてドラグーンを何機確認したか、兵に聞いた。
「ドラゴンタイプを二機、ゴリラタイプを三機です」
「分かったわ、ありがとう」
状況を聞いたアリシアは顎に手を当てて作戦を考える、兵士達はその落ち着いた様子を見て安心感を感じた。
「この近くに滝はあるかしら?」
「あります、丁度五機のドラグーンの進行方向に、滝の先は川でさらにその先は海です」
「良し、即急にアテナを向かわせ滝を破壊し川を氾濫させなさい、敵の足元を水の圧力と私の使い魔達によって海に押し込むわ、それでも何機かは氾濫した川と私の使い魔達を越えてこちらにやって来るでしょうけど、それは私に任せなさい、あなた達は私の使い魔達と共に足を掬われ私の使い魔達に押され海に落ちたドラグーン達の撃破をお願い」
「分かりました!」
兵達は敬礼をし出撃をして行く、その様子を見守ったアリシアは右手に杖を持った。
「あの力を始めて戦闘で使う上手く行くのかしら・・・、上手く行かなければ私は・・・、ふふっこんな事考えるべきではない、私は上手くやれるわ、何故なら私はアトリーヌ帝国、この世界最強の国の皇帝なのだから、それに・・・」
自分は失敗をしないそう強く思う事で心を強く持った少女は、最後の言葉を誰にも聞こえない程度の小さな声で呟き、自身の腹に優しく手を触れさせつつ森の近くに向けて歩いて行く。
「もうすぐだ、皇帝アリシアを捕らえた栄誉を受けるぞ!、諸君!」
メイルス国のドラグーン部隊の隊長が、アリシアを捕らえた功績を得るぞと部下達に告げた、するとスピーカー越しに士気高い掛け声が聞こえて来て、隊長は満足気に頷いた、川を渡り始めたその時だ左方向から激しい爆発音が聞こえた。
「なんだ!?」
「分かりません!」
隊長は何が起こるのか?と周囲に目を走らせる、そして見た、左方向から激しい水流が近付いてくるのを。
「な、なんだとぉ!?、た、退避!」
隊長は慌てて退避を勧告するするが、巨大であるドラグーンでは間に合わない、ドラグーン達は成すすべもなく、水流に巻き込まれた。
「くっ!、この水流を突破しろ!」
「隊長!、前方から巨大生物が接近して来ます!」
「皇帝の使い魔か!」
アリシアの使い魔達は水流の中に巻き込まれたドラグーン達を見つけると、突進をし海に向けて押し込み始めた。
「させるかぁ!」
なんとしても皇帝を捕らえるそう誓っている隊長は、全てのスラスターを吹かしアリシアの使い魔と水流を突破した、同じくもう一機のドラグーンも隊長に随伴し、森を突き進む。
「うわぁぁ!?」
水流とアリシアの使い魔達を突破出来なかった三機はアリシアの作戦通り、海に落ちた、そして三機のドラグーンが落ちた地点の上には無数のアテナ達が待ち構えていた、アテナ達はアリシアの使い魔達が海から脱出した後、一斉に砲撃を始めた、空に逃れた使い魔達も口からブレスを吐き攻撃に加わる。
激しい攻撃に合う三機のドラグーンが爆発するまでそんなに長い時間はかからなかった。
「来たわね」
ポツンと森の近くに立つアリシアの目の前に二機のドラグーンが現れた。
「見つけたぞ!、皇帝アリシア!」
あっという間に三人の部下を失い怒る隊長は部下と共にアリシアに向けてビームを放とうとする、対するアリシアはドラグーンがビームを放つ前に杖で地面を叩く、その瞬間、二機のドラゴンタイプのドラグーンの口からビームが放たれた。
「やったか!?」
「いやまだだ!」
部下がビームが直撃したと思い喜ぶ、隊長は油断せずビームが直撃した事により巻き起こった砂煙の中に目を凝らす、すると砂煙の中から黒い魔力が漏れ出して来ているのを隊長は見つけた。
「ドラグーンのビームでもダメージを与えられないとは・・・、悪魔め・・・」
隊長はビームが直撃しても無傷で立つアリシアを見て焦りを感じた、今の攻撃でアリシアは吸血鬼の特性上灰となり動けなくなっていた筈なのに。
「ふっふふふ、流石ね、龍脈、の魔力は、あれ程の砲撃を他愛もなく防ぐとは」
アリシアが無事だった理由、それは己が従えている闇の龍脈の魔力を解放し防御に使ったからだ、強力すぎる魔力の渦はビームを何の問題もなく打ち消したのである。
「さて、初めは何の闇の魔物を召喚しようかしら?、やっぱりカッコいいのが良いわね」
そう言ってアリシアは目の前のドラゴンタイプのドラグーンを見る。
「うん決めた、ドラゴンにしよう、ふふっおいで」
闇の龍脈の魔力を更に解放し、アリシアは目の前の二機のドラゴンタイプのドラグーンよりも更に大きな漆黒のドラゴンを召喚した。
「グオォォォォ!!」
アリシアに呼び出されたドラゴンは叫び声を上げ、アリシアに甘えるように巨大な顔を寄せた、アリシアは巨大な顔を寄せられた事に若干引き気味だが、優しくドラゴンの顔を撫で、頭の上に飛び乗った、漆黒のドラゴンはアリシアを落とさないよう、顔を上げる。
「流石にバハムートよりは弱い・・・か、でも仕方ないわね、あの子は私の使い魔の中でも最強で特別ですもの」
ドラゴンの魔力を探りバハムートよりは弱いと言ったアリシアは、改めてバハムートの強さに頼もしさを感じた。
「さっ、私の夜を邪魔した愚か共達を殺しましょう?、撃て」
「来るぞぉぉ!」
「はい!」
隊長と部下はドラゴンが口を開いたのを見て、機体の前方に全力でフォトンシールドを張る。
「ガァァァァ!」
ドラゴンはブレスを吐き、ブレスは二機のドラゴンタイプのドラグーンのフォトンシールドを捉えた、二機のドラゴンタイプタイプのドラグーンのうち部下が乗るドラグーンは耐え切れず爆発をした。
「くそっ!、よくも部下を!」
更にもう一人部下を失った隊長は、ドラゴンの上に乗るアリシアに向けて特攻を仕掛ける。
「止めなさい」
非情なアリシアはドラゴンに止めるよう命じ、ドラゴンは二本の前足でドラグーンを踏み付け地面に押さえ付けた。
「まだだぁ!」
押さえ付けられても諦めない隊長は、顔に取り付けられた角をドラゴンの胸に突き刺した、そして口からビームを放たせ、ドラゴンの胸に風穴を開ける。
「やるじゃない」
胸に風穴を開けられたドラゴンは消滅した、アリシアは自由落下を始める。
「くらぇぇぇ!」
隊長は自由落下をするアリシアに向けてミサイルを放った。
「でもね?、龍脈の魔力量ならば、あはっ、更に大きなドラゴンを召喚出来るの」
「!?」
ふんだんに魔力を使い、アリシアは先程よりも更に巨大なドラゴンを呼び出した、ドラゴンは羽を一振りし強風でミサイルを追い払った、そして自由落下をしているアリシアを頭でキャッチする。
「ありがと、さっ、終わらせましょうか?」
アリシアの声を聞いたドラゴンは前足でドラグーンを掴むと森の方に放り投げた、そしてバウンドしながら地面を転がって行くドラグーンに向けてブレスを放つ。
「クッソォォォ!、悪魔めぇぇぇ!」
最後まで諦めない隊長は何とかバウンドを止めようとするが、それは叶わなかった、恐ろしいほどまでの威力のブレスに呑み込まれた彼は跡形もなく消失し、ドラグーンを消滅させたブレスは数十キロに渡って伸び、大陸に数十キロに渡って大きな傷を刻み付けた。
「あはっ、あはははは!、素晴らしい!、素晴らしいわ!」
この力があれば負けるわけがない、そう思うアリシアは楽しそうに笑う、しかしふと笑うのをやめた、外部スピーカーから漏れ出していた隊長の言葉に一つ気に入らない事があったのだ。
「それにしても悪魔ってなによ悪魔って、女の子に対して失礼しちゃうわね」
今しがた死んだ者に対してプリプリと怒るアリシアは、ならばと自分に相応しい二つ名を考え始める。
「そうねぇ、私の力は闇と雷のスタイル、そして闇の使い魔達に闇の龍脈、その全てが黒魔導、ならば」
自身が名乗る二つ名を決めたアリシアは、自信ありげに自分に相応しい二つ名を口にする。
「私は今日から黒魔導士アリシアよ」
黒魔導士と言う名を口にしたアリシア、その名を聞いたドラゴンはグルルとどこか嬉しそうな声を漏らした。
「ふふっ、あなたもこの名前が私に相応しいと思ってくれたのね?、ありがと」
アリシアはドラゴンの頭を優しく撫でてから彼を龍脈の中に帰した、ストンと地面に降り立ったアリシアは徒歩で陣地に戻る。
「陛下がお戻りになられたぞ!」
「皇帝陛下万歳!」
巨大なドラゴンを召喚し、二機のドラグーンを単騎でしかも生身で倒して見せたアリシアを出迎えた兵士達は歓声を上げる、アリシアはその声を聞き、嬉しそうな顔で右手を上げた、すると更に歓声は高まった。
「ふふっありがとう、私の忠実な臣下達、でもね?私には新しい二つ名があるわ、今日からはその名で呼んでくれると嬉しいわね?、ふふっ黒魔導士アリシアとね?」
皇帝の言葉を聞いた臣下達は皇帝の新たな二つ名を即座に記憶する、そして。
「黒魔導士アリシア万歳!」
アリシアの新たな二つ名を呼びながら、一斉に歓声を上げて行った。
複数の闇の力を扱い黒魔導士を名乗る少女を果たしてギグルスとメイルス、そしてメアとその仲間達は止める事が出来るのだろうか?。




