四話
ギグルス国横断鉄道
(落ちる・・・、死ぬの?私・・・)
もう跳んでも汽車に届かない位置にまで落ちたアリシアは遠ざかって行く汽車を呆然と見つめる、そこに聞こえて来るメアの声。
(メア・・・、友達になって欲しい、そう言って私に触れて来た時のあなたの手は震えていた、多分私が友達になってくれるか不安だったのね、私はそんなあなただからあなたの友達になった、そしてあなたの側にいてあげたい、そう思ったの、だから・・・!)
「こんな所で死ねるかぁぁぁ!」
アリシアは魔力を解放する、自身のライジングスタイルの新たな力を解放する為に。
「これは・・・?」
アリシアの足元に雷が集まり足場となった、これがアリシアの新しい力、今までは雷を放てばすぐに消えてしまっていたが、危機的な状況が幸してか雷をその場に留める留める事が出来るようになった、これによりアリシアは宙に留まっている雷を足場にして一命を取り留めた。
「ふ、ふふふ!、流石私ね!、やれば出来るじゃない!、さぁ追いつくわよ!」
額の汗を服で拭いたアリシアはいくつもの宙に留まる雷の道を作り、その上を走って落ちている間に遠くにまで行ってしまった汽車を追う。
「メア!、しっかりしろ!、やられるぞ!」
(くそ!、守るって誓ったのによ!)
アリシアが死んだと思っているメアは両手を地面に付け泣いている、メッシュは守ると誓っていたアリシアを失う原因となったキースに全力の攻撃を仕掛けるが、炎による防御は強固であり中々崩さない、その時だ。
「この私、アリシア様の友達を泣かせたのは、お前かぁぁぁぁ!」
「アリシア!?」
「生きてやがったか・・・」
アリシアが先程落ちた右側のハッチから舞い戻って来た、貨車の中に舞い戻ったアリシアは宙に設置した雷を蹴り飛ばし猛スピードでキースに迫るとタックルし、彼を吹き飛ばした。
「バカバカ!、本当に死んだと思ったんですよ!?、それに私を泣かせたのはあなたです!、この大馬鹿ぁ!」
「あらら・・・、ごめん・・・」
舞い戻ったアリシアに抱き着きメアはその胸をポカポカと叩く、結構痛い、これほど心配してくれる友を泣かせてしまったのだ、アリシアはこの痛みを噛みしめる。
「・・・、生きていたんです許します、ですからあいつを倒しましょう!」
「そうね、行くわよ!、メア!」
「はい!」
「それでさ多分なんだけど・・・」
「え?、はい・・・分かりました」
頷き合った同じ顔をした二人の少女はコソコソと耳打ちし終えた後、駆け出した、アリシアが宙に雷を留め、メアがそこにビームを撃ち込むすると・・・?。
「うぉ!?」
宙に留まっていた雷がキースを巻き込み盛大に爆発した、その余波で残りの敵兵も吹き飛び倒れ伏した。
「せ、成功ね!」
「高威力すぎますよ・・・」
「魔力を込めすぎた、テヘッ!」
「テヘッじゃねーよ!、見ろ屋根全部ふっとんだぞ!?、この後の守り、どうすんだ!?オメー!」
「ファントムとか来たら勝ち目ないよ〜」
アリシアとメアの合作ライジングボムは貨車の屋根を丸ごと吹き飛ばしており、シメラの言う通り、ファントムが来たら勝ち目はない。
「へっ、そのファントムがこっちにはいるのさ!、来いよ!俺の相棒!」
雷爆弾をまともに喰らいそのダメージがかなりの物であるキースはフラフラと立ち上がり、懐から端末を取り出すと、ボタンを押した、すると空を飛んで来る物体がある、帝国製のファントムだ。
「そんな物を出して来るなんて卑怯よ!」
「うるせぇ!、こっちも任務を失敗するわけにゃいかねぇんだよ!、その新型!、頂いて行くぜ!」
汽車の隣を走って並走するファントムにキースが乗り込む、そしてキースが乗り込んだファントムは新型ファントムに向けて手を伸ばすが、シメラがその手を爆破し止める。
「くっ!、やはり通じない・・・!」
しかしキースのファントムは爆破魔法をまともに喰らっても無傷だ、そして邪魔をしたシメラに頭部の機関銃を放って来る。
「くぅぅ!」
シメラは全力でシールドを張りなんとか機関銃を防いだ、しかしこれで全ての魔力を使ってしまい、フラフラと倒れる。
「くそっ、このままじゃ勝ち目が・・・、仕方ねぇ!、アリシア!、新型に乗れ!」
「えっ!?、いいの!?」
「おう!、緊急事態だからな!、俺が許可する!」
「やったぁ!」
「だぁぁ!、興奮して雷を放つな!」
「あら、ごめんなさい」
「新型に乗るだって?、させるかよ!」
「うぉりやぁ!」
アリシア達が新型を動かすと聞いたキースがその前に新型を回収しようと汽車に乗り込み、抱えて運ぼうとするが、メッシュの渾身の一撃を胴体に喰らい少しだけ怯んだ、その隙にアリシアは新型ファントムに乗り込む。
「全モニター起動、操縦サポートAI起動、魔導炉フル出力で動作確認、FNL-010レギルス起動!」
フォォンと起動音を響かせ、レギルス国の新型ファントム、レギルス、が立ち上がった、そしてキースのファントムをツインアイを光らせ見据える。
「武器は・・・、これね!」
左側の操縦桿を二回クリックすると、レギルスは自動でビームサーベルを抜く、そしてシュオン!と言う音と共にビームサーベルが発振された。
「チッ!、動いちまったもんは仕方ねぇ!、コクピットを潰してでも奪わせて貰うぜ!」
対するキースのファントムはヒートサーベルを構えた、そして振り上げ振り下ろす。
「汽車の上でそんな物を振り回すな!」
レギルスは驚異的な俊敏性を見せて、ヒートサーベルを避けた、そして右足を振るいキースのファントムを右側にはと蹴り飛ばした、キースのファントムは線路のすぐ下の川に落ちる。
「いってぇなぁ!」
すぐに立ち上がったキースのファントムがレギルスに向けて頭の機関銃を放って来た、アリシアはレギルスの足元に落ちている専用シールドを拾うと機関銃をシールドで防御し、それから汽車から降りてキースのファントムに向かって行く。
「くっそ!、はぇぇ!」
汽車から飛び降りたレギルスは恐ろしいまでのスピードで地面を走りキースのファントムに迫る、間合いを完全に詰めた所でアリシアは右トリガーを押しつつ操縦桿を引く、するとレギルスはビームサーベルを振るった、ビームサーベルは見事、キースのファントムの左腕を斬り飛ばす。
「くそったれぇ!」
左腕を簡単に失い焦るキースは突きを放つ、しかしレギルスはその突きを悠々と掻い潜り、キースのファントムの懐に潜り込むと、こちらも突きを放った。
「チッ!、メインカメラがやられた!、ここまでか!」
レギルスの突きはキースのファントムの胴体から顔を突き破った、アリシアはそのままビームサーベルを振り下ろさせる、キースはコクピットが焼かれる前にファントムから降り、なんとか一命を取り留めた。
「覚えてろよ!、雷女!」
「逃さない!」
アリシアは逃げ出したキースに向けてビームサーベルを振るうが、彼は足から炎を放ち急旋回する事でビームサーベルを避け、川に潜った、そのすぐ後にキースのファントムが爆発し、その爆発を避けざるを得なかったアリシアはキースを見失った。
「勝ったのは良いけど、逃げられちゃった・・・」
『アリシア、倒したのなら戻れ』
「ええ」
キースに勝利したアリシアはレギルスを汽車の上に戻す。
ギグルス国首都、アーシア
派手に最後尾の屋根を失っている汽車はギグルス国の首都であるアーシアに到着した。
「派手にやられたものねぇ、まぁこの子が無事なら良いわ、良くやってくれたわね」
先の戦いで命を失わずに生きていた三人の敵と共に貨車の中でアリシア達が待っていると、一人の女がやって来た。
「ふふん、私達にかかればこんな物よ、感謝しなさい」
「ふふ、ありがとう」
女は感謝の言葉を言いアリシアの肩を叩くと、最初の状態とは違い、片膝を着いたレギルスを見上げる。
「すまん、敵がファントムを使って来やがってな、こいつを使わねぇと、多分、奴らにこいつを奪われちまってた、許してくれ」
女がファントムを見上げたのを見てメッシュが動かした事を謝る。
「それは良いのよ、ただこれを動かせた事に驚いていただけ、この子はね?、スタイル使いの魔力を操縦桿に通さないと、動かせないように設定していたの、世界に七人しかいないスタイル使いにしか動かせないようにしておけば奪われる可能性はかなり低くなるしね、それでね?聞きたいのだけれど、あなた達の中で誰がスタイル使いなの?」
「えっと私よ」
「ふぅんあなたが・・・、ふむふむ、よし!」
「?」
暫く何かを考えた後、女はアリシアの手を引く、そしてどこかに向かおうとする。
「ちょっと待って!、どこに行くのよ!?」
「うちの研究室よ!、実はねスタイル使いにしか動かせないようにしている設定を解くのって物凄く面倒なの!、だからあなたに少しの間テストパイロットをして貰おうって思ってね、報酬はたんまりと出すし、協力してくれるわよね?」
「勿論!」
即答である、そしてアリシアの目は物凄くキラキラとしている、テストパイロットが出来るのが凄く嬉しいのだろう。
「ちょっと待って下さい!アリシア!、私達はどうすれば!?」
「帰っても良いし、この街で待ってくれてても良いわよー!」
「おいメア、諦めろ、あいつのファントムオタクっぷりは尋常じゃねぇ、ああなれば暫くは帰ってこねぇ筈だし、それによぉ折角首都に来たんだ、暫くの間ここで遊ぼうぜ」
「美味しいスイーツがいっぱいあるんだよ〜」
「・・・、分かりました」
ウキウキと離れて行くアリシア、メアは軍基地の方に向かうその背中を見送ってから、メッシュ達と共に街にへと向かって行った。
夜
首都に来ていたボスと女、アンナが裸でベッドに寝転がっていた。
「それにしても驚いたわ、スタイル使いまで揃えているなんてね」
「あいつは別に揃えたって訳じゃねぇよ、あいつの親がうちの組織にいたんだ、その流れであいつもうちの組織に入ったって訳さ」
「そう、でもあの子があなたの組織にいたお陰で助かったのは事実、だから本当に感謝するわ、今日は寝かせないわよ?」
「へっ、俺だって寝かせねぇよ」
ボスはアンナの上に覆い被さりその体に触れようとするが、アンナはボスの唇に手を置き彼を止める。
「どうした??」
「一つだけお願いがあるの」
「なんだよ?」
「あの子、アリシアちゃんを三日ほど借りて良いわよね?」
「良いぜ、でも変な事教えるなよ?、あれは俺の見立てではお前より確実に良い女になる、それをお前みたいな尻軽にさせるわけにはいかねぇからな」
「確かにすっごく美人で可愛い子だと思うけど、こう面と向かって私より良い女になるって言われると妬けちゃうわね」
「本当の事なんだから仕方ねぇだろ?」
「もう!、してあげないわよ?」
「へへっ、悪りぃ悪りぃ、今の時点ではお前の方がよっぽど良い女だよ」
「嘘おっしゃい」
むーと拗ねた顔をするアンナにボスはキスをし、二人は熱い夜を楽しむ。




