六話
メアリの家
メアを連れて家の中に入ったメアの義理の母、リオナは、部屋の中央にまで来ると車椅子を止め、メアの顔を見上げる。
「噂は聞いているわ、ゼロの魔力のスタイル使いになったのね」
「はい、でもこんな力、何の役にも立たないんです」
「・・・皇帝アリシアの事?」
「はい・・・」
ゼロのスタイル使いは皇帝アリシアに執着している、戦争が始まる以前からこの世界に流れていた噂だ、リオナは生活用品や食料品をこの場所に運んで来て貰っている業者からこの噂を聞いていた。
「私はあの子を裏切りました、他の大人達と同じようにあの子を兵器として利用しようとして、母さんに言われた通りです、復讐は何も産まない、現に私は私の事を友達だと思ってくれていたアリシアを失いましたから」
「・・・」
「あの子は今、両親が死ぬ原因を作った仇がいるメイルス滅ぼし、そしてあの子を独りにし強い孤独感が産まれる原因となったギグルスを滅ぼし復讐を成し遂げようとしています、でも私には分かるんです、その先には死しか待っていないと」
「・・・皇帝アリシアは、言わばあなたの可能性の一つなのね」
「はい、アリシアは復讐心に溺れていた場合の私です、・・・私とあの子が逆だったら?、私は恐らくあの子と同じ事をしていたと思います、・・・恨みを晴らす為に憎き相手を全て殺すと言う、残虐な行為を・・・」
メアはアリシアを自分の可能性の一つだと考えていた、その為、もし自分がアリシアのように闇に堕ちていたら、自分の場合は憎き帝国を滅ぼそうとしていただろう、メアはそう思っている。
「なら私はあなたの母として皇帝アリシアに感謝しなくてはならないわ、何故なら皇帝アリシアと言う存在のおかげであなたは復讐心に溺れず、踏み止まる事が出来たのだから」
アリシアに感謝をしたリオナはしばらくの間、目を閉じた後、目を開けてメアと目を合わせる。
「それで?、メアリ、あなたそんな話をしに来たわけじゃないんでしょう?、何をしにここに来たの?」
「・・・、母さんが言う通り私はアリシアのお陰で踏み止まる事が出来ました、だからこそアリシアを救おうとしてるんです、でもアリシアを救おうとする度に誰かが死んで行くんです・・・、そして今回は一人じゃない、アリシアのやった事により、沢山の人が死に沢山の国が滅びた、それなのに私、あの子を救うだなんて言っていて良いのでしょうか・・・?、母さん・・・」
メアがこう言ったのはファーリーのアリシアを強く憎む目を見たからだ、彼のあの目を見たメアはアリシアを討つべきなのでは?と思ってしまった、その為、母に相談をしに来た。
「ふぅん、ならあなた皇帝アリシアを殺すの?、今皇帝アリシアを殺せばギグルスとメイルス、二つの強国が残っている今の状況なら十分に平穏を取り戻せるでしょう」
「なら私は・・・」
「でもあなたそれで良いの?、皇帝アリシアを殺して良いの?、それであなた後悔しないの?」
「そんなの・・・後悔するに決まってるじゃないですか!」
後悔しないのかリオナに聞かれたメアは叫んだ。
「私、私はアリシアの優しい笑顔を見たいから戦ってるんです!」
「そう、ならあなたは皇帝アリシアの笑顔を見る為に頑張りなさい」
「はい!」
「それじゃ、行って来なさい!、メアリ・アルビオン!、ふふ、次帰って来るときは、皇帝アリシアをここに連れて来なさい、ご馳走を作ってあげるから」
「行って来ます!、母さん!」
メアは母に手を振ってから転移をした、娘を見送ったリオナは娘がこの家に必ず帰って来るそう信じて日常に戻って行く。
アトリーヌ帝国、オドラス平原
オドラスにアリシアはいた、平原の中心に立つ彼女は右手に杖を持ちとある事を試していた、邪教を使っての反乱を起こさせても滅びなかった、この世界で第二位の実力を持つギグルスと、第三位の実力を持つメイルスを滅ぼす為の秘策を。
「ふふっ、こんにちは、私の魔物達?」
アリシアの杖の先には漆黒の魔力が渦巻いている、一年前、アリシアが開放して回ったアリシアならいつでも呼び出せる闇の龍脈だ、この一年間で更に強力となった闇の龍脈は更に強力な闇の魔物を作り出せるようになっていた、しかしテスト無しで使うのはいささか不安が残る、その為アリシアは平原に誰も連れて来ず一人で龍脈を試していた。
「グォォォ!」
「あはっ、少し魔力を開放するだけでこれ程の魔物を呼び出せる、凄い、凄いわっ!」
アリシアが闇の龍脈から解放した魔力は僅かに5パーセント程、それでも巨大なドラゴンを龍脈は作り出した、それを見てアリシアは自身の復讐が確実に成せると思い、楽しそうに笑う。
「楽しそうですね、アリシア」
そこにメアの声が響く、アリシアは振り返り声がした方向を見ると、怪しく微笑み杖を振るった、すると漆黒のドラゴンがメアに襲いかかる。
「スタイルバースト」
愛理の言葉と母の言葉により、メアはアリシアを救うと言う事に完全に迷いがなくなっていた、強い心を手にしたメアは自由自在にスタイルバーストを発動出来るようになっていた、スタイルバーストを発動させたメアは、闇のドラゴンを一撃で消し去る。
「へぇ、スタイルバーストをいつでも発動させれるようになったんだ、凄いじゃない」
「私はあなたを救う為ならどこまでも強くなれます、あなたはもう私には追いつけません!」
「フン、あなたたった一人が強くても意味はない、だって私にはこの無限の軍勢と強力な武力を持った帝国兵!、そして臣民となる為ならなんでもする属国軍がいる!、あはは!、あなたが強くなったとしても私と私の帝国には勝てない!、この世界に私の復讐を止めれる奴なんて誰もいないのよ!、あはっ!あはははは!」
「そうですね、あなたの帝国には私では勝てないでしょう」
メアは邪悪に笑うアリシアに近付く。
「だからあなたの心を救う、そしてあなたに復讐をやめさせる、絶対に」
「何があっても私は復讐をやめない、絶対に」
「・・・」
「・・・」
絶対に、同じ言葉を言い合った二人は睨み合う。
「それではまた会いましょう、アリシア」
「ええ」
二人は暫くの間睨み合い、同時に視線を逸らした、そしてメアは転移しギグルスに戻って行った。
「・・・」
アリシアも近くに待機しているゼウスに乗り込み城に戻って行く。
エンジェルズ
「君は?」
エンジェルズにてメアの帰りを待つウォーリーの元に一人の女性がやって来た、ウォーリーは見知らぬ彼女を見て首を傾げた。
「あの・・・、魔法使い様ですよね?」
「ええ、確かにそうですが?」
「やっぱり!、なら少しお時間をお借りしてもよろしいですか?、手伝って欲しい事があるんです!」
「構いませんよ、僕にできる事なら」
「ふふっ、それではこちらへ」
女性はウォーリーに背を向けると歩き始める、ウォーリーは彼女の後を追う、ウォーリーは気付いていなかった、目の前を歩く女の顔に邪悪な笑みが浮かんでいる事を。
第三部、三章、あの日が来る、完
次回からは、第三部四章Maryです。




