五話
王都ローレリア、王城
コツコツとヒールの音を鳴らしアリシアは王城の中を進んでいた、そこにアリシアとニアを討つため前方から敵が迫る、それを見たアリシアは左手に持つ杖から魔法弾を放ち殺した。
「相変わらず母さんは容赦ないわね」
「あら?、あなただって敵には容赦しないじゃない」
「まぁね」
二人の会話の通り、アリシアもニアも敵が攻撃を仕掛けてきたのなら容赦なく殺す、今回はアリシアの手の方が早かったと言うだけだ。
「うぉぉ!」
「はぁぁ!」
ローランがたった一日で滅亡寸前にまで追い込まれた元凶であるアリシアを討つため、左右の部屋に潜んでいた、斧を持った屈強な男二人が同時に壁を突き破りながら斬りかかって来た、それを見たニアはアリシアと目を合わせ、ニアに目を合わせられたアリシアはニヤリと笑みを見せた。
「ダークライジングソード」
「ノワールソード」
二人は闇の斬撃を同時に放ち、斬りかかって来た男二人を同時に首を斬り落とした、血を吹き倒れる二人の死体を冷たく見つめた後、アリシアは歩き始め、ニアは楽しそうに鼻歌を歌いながらアリシアについて行く。
王室
迫る兵士を惨殺しながらアリシアはニアと共に王室にやって来た、そこには立派な鎧を着たロミアスがいた、彼が着ている鎧こそこのローランの歴代の王に受け継がれて来た歴史あるこの国の象徴であり、歴代の王はこの鎧を着て戦争に勝利して来た、ローランの民が勝利の鎧と読んでいたこの鎧を着たロミアスがアリシアに勝てるのかは、まだ分からない。
対するアリシアは、彼女の皇帝としての正装である帝国の象徴であるバハムートを象った刺繍が刻まれたドレスを着ている、今日同時に複数の国を自身の策略により滅させるのだ、これくらいの正装をするのは当たり前だとアリシアは考えている。
「一年前だったな、君がこの国に来て今の君にへと変わってしまったのは・・・」
この国にアリシアを呼ばなければこの世界のほぼ全てが、アリシアの物になってはいなかったかもしれないと考えるロミアスは、悲しげな瞳で目の前の闇に染まり切った少女を見つめる。
「違うわ、私は復讐心を隠して生きていただけ、あの頃の私も今の私も何も変わらない、ただ自分に素直になっただけよ」
「その結果が、これか・・・」
「そうよ、私を独りぼっちにし、しかも兵器としてしか見ていないお前達なんて、苦しんで死ね、としか思わない、だから私はお前の国を滅ぼすの」
「させんよ、君をここで討ち、この私、風の国ローランの王、ロミアスが世界を救ってみせよう!」
ロミアスは槍を構えアリシアに切っ先を向けた、同時に背後から複数の兵士達が入って来る、王の援護をする為にやって来た兵士達だ。
「ニア、彼等はあなたの好きになさい」
「へへ、やった!」
ロミアスへの殺意を滾らせており、兵士などに興味はないアリシアは、ニアに兵士達を好きにしろと言い、それを聞いたニアは嬉しそうに斬りかかって行く。
「さぁ?、最後の戦いを楽しみましょう?、ロミアス」
この戦いに杖を使うのは無粋だ、そう思ったアリシアは杖を影の中に収めてから、ロミアスに飛びかかる、ロミアスは槍でアリシアの攻撃を受け止めた。
「へぇ、私の攻撃を受け止めるなんて、流石王を名乗るだけはあるわね?」
「国を守るのが王の役目!、君がそうであるように、私だって生半可な鍛え方はしておらんよ!」
槍を動かしアリシアの腕を無理矢理に上にあげさせたロミアスはアリシアの腹に蹴りを叩き込んだ、しかし渾身の蹴りを叩き込んでもアリシアはピクリとも動かなかった。
「でも、メアや師匠に比べたら話にならないほどあなたって、弱いわね」
腹を蹴られ俯いていた顔を上げるアリシア、その顔には邪悪な笑みが浮かんでいた、ロミアスはそれを見て慌てて後退する、するとロミアスが先程までいた場所にアリシアの斬撃が振り下ろされ、大きく床をくり抜いていた。
(なんと言う威力・・・、これが闇と雷、二つの魔力を掛け合わせたスタイル使いの力か!)
「ほら?ロミアス、かかって来なさい?、いくら弱いと言っても私を楽しませる事くらい出来るでしょう?、退屈させないで」
「その余裕!、すぐに無くしてやるさ!」
アリシアに向けて高スピードで迫ったロミアスは槍を突き出した、アリシアは突き出された槍を軽く身を動かす事で避け、ロミアスの顔を掴むと地面に叩き付ける。
「グッ!」
地面に叩き付けられ呻くロミアス、そんな彼を自分の国も守れない王だと完全に見下しているアリシアは、彼の顔から手を離し立ち上がると、足を振り上げ蹴り飛ばした。
「ぐぁぁ!」
「つまらないわ、何か技とかないの?」
壁に激突したロミアスに冷たい視線を送りながらアリシアはゆっくりと近付いて行く、ロミアスはアリシアが十分に迫った所で彼女に言われた通りに技を放つ。
「風神の槍!」
彼が放ったのは風神の名に相応しい高速の突き、放たれた技は正確にアリシアの心臓を狙って突き進んで行く。
「へぇ、良い攻撃ね、でも」
対するアリシアは技すら使わずに風神の槍を弾き防いだ。
「私には届かない」
歴代の王が極め続け、ローランの歴史と共に威力を上げ続けていた風神の槍が通じなかったのを目の当たりにしたロミアスは絶望した、力なくアリシアに腑抜けた突きを放つ。
「もう一度言うわつまらない、私を楽しませる事が出来ないのなら・・・死ね」
アリシアはロミアスの手から槍を奪うと、両足を斬り裂いた、足を切り裂かれたロミアスは立っている事が出来なくなり倒れる、アリシアはそんな彼の髪を掴むと引き上げた。
「さぁ最後よ?、滅び行くあなたの国を見せてあげる」
アリシアはロミアスを引きずってテラスに向かい、手摺に乱暴にもたれ掛からせた、ロミアスの目には彼の民や兵、そして属国軍の兵士達により滅ぼされて行く、たった数時間前までは美しい姿を見せていた王都の様子が舞い込んで来た、滅び行く国を元凶である少女に見せられたロミアスは涙を流す。
「君は満足か?、私の国を滅ぼして」
「ええ、満足よ、あはっ、ざまぁみろ」
「・・・、予言しよう、君は碌な死に方はしないとな」
「フン、世迷言を」
碌な死に方をしないと言うロミアスの言葉をせせら笑ったアリシアは、彼をテラスから放り投げた、放り投げられた彼は落下しつつも落ちる様子を見下ろして来るアリシアを最後まで睨み付け続け、地面に叩きつけられ絶命した。
「終わった?、母さん」
「あら?、まだ戦争は終わってないわよ?、ニア、邪教を信仰しない者達を全員殺し尽くさなきゃ、そうでしょ?」
「ふふっ、そうね、まだまだ楽しめそう」
「ええ、この国はまだまだ私を楽しませてくれるわ」
滅び行くローランを最高の遊び道具だと捉えているアリシアは、イブリサと合流する為、城を降りて行く。
あの日、から一週間が経った、帝国の属国とならなかった国内で決起した邪教の信者達は、帝国とアリシアの為にかつての自分の国を滅ぼし終えていた、アリシアは特に活躍した者に臣民権を与え、嘘をつかなかった皇帝に属国の者達や邪教の信者達から、更に強い信頼が寄せられている。
帝国への残る抵抗戦力はギグルスとメイルスとだけとなったこの世界は最早、帝国の・・・アリシアの世界と言っても差し支えはないだろう。
ギグルス国、オルビアの町エンジェルズ本部
「聞いたか、アリシアは次はメイルスに攻撃を仕掛けるんだってよ」
新聞を手に持ったグレイがファーリーを加えた仲間達が集まる部屋に入って来る、アリシアの次のターゲットはメイルス国のようだ。
「はい、知っています」
世界のほぼ全てがアリシアの物となったこの状態でも、彼女を救う事を諦めるつもりのないメアは、知っていると言ってから頷いた。
「君達は皇帝アリシアを救うつもりのようだが、私は君達には協力しない、自分の国を滅ぼされたのだからな、良いな?、メア」
「はい、分かっています・・・」
ファーリーが自身の国を滅ぼしたアリシアを恨むのは当然だ、その為アリシアを恨むなと彼に言えないメアは、力なく頷いた、ファーリーは話す事は話したと言う様子で部屋から出て行く。
「大丈夫?、メア?」
「・・・」
ファーリーの言葉を聞き俯くメアを心配し、シメラがメアの肩に触れるが、メアはスッと離れると部屋の入り口に向かう。
「ごめんなさい、少し一人になります」
振り返り一人になると言ったメアは、ドアを開けると部屋から出て行った。
アルビオン王国跡地
シュンと言う音と共にメアが転移して来た、メアが転移した先は義理の母が住まう地、メアが生まれ育った場所だ、久し振りに里帰りをしたメアは、幼い頃から十五歳になるまでずっと暮らしていた家に近付いていく。
「ただいま、母さん」
「あら、メア、お帰りなさい」
ドアを開け内部に入ったメアはただいまと言う、すると懐かしい声で義理の母が出迎えてくれた。




