三話
とある国、教会
夜、どこかの国の教会で、表向きには聖教を信仰する者達が集まり何かを喜んでいる。
「もうすぐだ!、もうすぐ、あの日、が来る!」
「ええ!、あの日、が来れば私達は富を得る!、ずっと虐げられて来た私達が!」
彼等は「あの日」が来る事を喜んでいたようだ、そしてその日が来れば彼等は富を得るようである。
「ジーク!アトリーヌ!」
「ジーク!アトリーヌ!!」
彼等は壁に貼り付けられた帝国の国旗に向けて叫び始める、叫ぶ彼等の目は希望に満ちていた。
同日、エンジェルズ本部、ボスの部屋
メアはボスに呼ばれ彼の部屋にいた、部屋に入るなり椅子に座るよう促されたメアは椅子に座る。
「メア、帝国が戦争を始めたのは知っているな?」
「はい、ウルフルム王国へ侵攻していると聞いています」
「よし、ならお前はどうする?」
知っているのなら早いと、ボスはメアにこれからどうするのか聞いた。
「このギグルスの国民である私が、他国の戦争に介入する事はいけない事だって知ってます、それでもアリシアを止めに、みんなとウルフルム王国に行こうと思ってます」
「そう言うと思ってたさ、そして大統領もだ、だからよ?、大統領が用意してくれたぜ?、これをな」
そう言ってボスは机の中からとある紙を取り出し、メアに渡す。
「戦争行為への介入許可書?、しかもこれ、帝国に反旗を上げた全ての国の王や大統領のサイン・・・」
メアが貰ったのは戦争行為への介入許可書だ、オラセンはアリシアを止めれるのはメアだけだと確信している、そのメアがギグルス国民だからと、他の国の戦争に介入する事が出来なければ、止めれる事は出来ない、だからオラセンは他国の王や大統領に掛け合い、メア達だけに戦争行為への介入を許すように頼み、認めさせたのだ。
「それがあればアリシアの所に行けるだろ?メア?」
「はい!、ありがとうございます!」
「礼なら大統領に言いな、それにお前達のバックアップもしてくれるみたいだぜ?、取り敢えず首都に行って来い」
「はい!」
戦争に介入する事が出来るようになったメアは、仲間達を起こし、アリシアを止める準備をする為、首都アーシアに向かった。
三日後、ホゾルフェン平原
ウルフルム軍を討ち倒しながら、進軍を続ける帝国軍は、王都まで二日と言う距離にある、ホゾルフェン平原に入っていた、前方には広く陣を取るウルフルム軍がいる。
「撃ち方始め、ファントム部隊、歩兵部隊出撃」
アリシアは全軍に砲撃を命令し、ファントム部隊と歩兵部隊に出撃するよう命じた、そして自身も転移をし地面に降り立つと、歩兵部隊の先陣を切って戦地を駆ける。
「ふふ、さぁ、戦いを始めましょう!」
戦闘が始まる、ウルフルム軍は必死になって帝国軍の飛空艇を撃ち落そうと砲撃をするが、全て防御フィールドに弾かれている、防御フィールドを貫くには、彼等の砲台では火力が足りないのだ。
ウルフルム軍の砲撃部隊が虚しい努力をしている中、両軍のファントム部隊がぶつかり合い、遅れて数秒後に歩兵部隊もぶつかり合った。
「来い!、エピオノール!」
「やぁ、アリシア、呼んでくれてありがとう、早速仕事をしようか!」
巨大な蠍、エピオノールは両腕の先のハサミを開くと、複数の兵士を纏めて真っ二つに斬り落とした、そして尻尾から強力な毒を放ち、毒をその身に受けた敵兵は跡形もなく溶けてしまう。
「良いわよエピオノール」
「これくらい、朝飯前さ!」
アリシアに労いの言葉を掛けてもらったエピオノールは更に戦果を上げる為、敵陣の中に突っ込んで行く。
「お母様」
突っ込んで行くエピオノールを見送り再び、敵兵と戦い始めたアリシアに、背後から近付いて来たアイリーンが声をかける。
「何?」
「彼女達の船がこの国に入ったようです」
「・・・、ふぅん、来るとは思っていたわ、望む所よ」
メサイヤが現れたと聞いたアリシアは、右耳に付けている通信機の電源を入れ、旗艦である皇帝の飛空艇を守らせる為、アテナに乗り飛空艇の近くで待機しているニアとキース、そしてファントム部隊を率いて先行しているエリシアに通信を入れる。
「ニア、キース、もう少しすると、メサイヤが、彼等が来るわ、その姿を捉えた後、早急に撃墜しなさい、お姉ちゃん?、先行している所悪いけど、後退して、私の飛空艇を守って」
『オーライ』
『分かったわ、母さん』
『仕方ないな、分かった』
アリシアの命令を受けニアとキースとエリシアは了承の返事を返して来た、アリシアはそれを聞いてから、通信を切る。
「彼等を殺すのですね?、お母様」
「当たり前よ、ここに現れるのならば、メア達は敵、ならば容赦などしないわ」
そう敵として戦場に現れるのならば殺すだけ、世界を手に入れると言う目的の為に動くアリシアに迷いは・・・。
メサイヤ
メアが操縦するメサイヤは、ウルフルム王国に入った、そして現在戦闘が行われているホゾルフェン平原に急行する、そしてホゾルフェン平原に入った途端、アラームが鳴った。
「くっ!」
アラームを聞き反応したニアは慌てて機体を旋回させる、すると機体ギリギリ横をビームが通って行った、キースが操縦するATF-078-Kアテナ砲撃仕様の攻撃だ。
「今日で終わりよ!、メアリ・アルビオン!」
ニアが高周波ソードを振り上げメサイヤに斬りかかる、しかし横から飛来した機体により蹴り飛ばされ阻まれた。
「何!?」
「俺の母艦を落とさせたりはせんよ!」
ニアが自身の機体を蹴り飛ばした相手を見る、そこにはフライトユニットを装備した、ケイネスが乗る茶色い塗装のギルスだった、ケイネス用に用意されたこの機体はニアと同じ超近距離戦仕様である。
「俺もいるぜ!」
メサイヤの後部ハッチから出撃したのはグレイのギルス、こちらもキースの機体と同じく砲撃戦仕様だ、グレイは早速、キースに向けて砲撃をし、メサイヤへの攻撃を阻んだ。
「チッ、ギルスをこんなに!」
「厄介ね!」
アリシアの命令はメサイヤを落とせである、それを阻まれた二人は、その原因である二機を
落とす為、戦闘に入った。
「メア、操縦変わるね、だからアリシアの所に行って」
「分かりました、メサイヤをお願いします」
「うん!」
シメラがメアからメサイヤの操縦を変わる、シメラにメサイヤを託したメアは転移しアリシアの元に向かった、メアを見送ったシメラは、メサイヤを用いて、帝国軍の艦隊に砲撃をするウルフルム軍の砲撃部隊に加わり、砲撃を始めた。
「アリシア!」
転移して来たメアがアリシアの目の前に現れる、剣を引き抜いた彼女はアリシアに斬りかかった、アリシアはメアの剣を自身の剣で受け止める。
「久し振りね、メア、ここに来たって事は覚悟してるのよね?」
「勿論、覚悟してますとも、でも殺されたりなんてしません!」
この一年間で剣の技術を完璧な物としている、メアはアリシアの剣を振り払うと、アリシアに蹴りを当てた。
「やるわね!、一年前とは別人じゃない!」
「先輩方と鍛錬を積みましたから!」
遥かに強くなったメアをアリシアは褒め、アリシアに褒められたメアは少し嬉しそうにしつつ、もう一度アリシアに斬りかかる。
(もう少しか・・・)
エピオノールの様子を横目で見てから、アリシアはメアの剣を弾き、左手に持つ杖から魔法弾を放ちメアに何発も叩き込んだ。
「ぐぅぅ!、はぁぁ!」
メアは根性で殺到する魔法弾を突っ切りアリシアの懐に潜り込む、そして剣を振り上げるがアリシアは杖と剣でそれを受け止めた。
「私だけじゃありません、あなたもあの頃よりかなり強くなっていますね」
「当たり前よ、帝国を率いる私には停滞など許されない、だからこの一年、鍛錬を怠った事なんてないわ」
「これだけ強くなっているのですもの、あなたの努力、分かります、やっぱりアリシアは凄いです!」
メアは自身も一年間鍛錬を重ねたのに、その更に上を行っているアリシアを凄いと言う。
「敵に褒められても嬉しくないわ!」
アリシアは褒められても嬉しくないと言い、メアを押し切った、押し切られたメアはバックステップを取ってバランスを取り倒れるのを防ぐ、同時に左手からブラスターを放つが、アリシアはそれをワームホールの中に吸い込ませ、メアに向けて返した。
「わわっ!、やっぱりあなた相手に砲撃は使えませんね!」
迫る自分の砲撃を見たメアは慌てて避ける、避けた所にアリシアが迫り、顔を蹴飛ばしたが、メアはその足を掴むとアリシアを地面に叩きつける。
「チッ!」
地面に叩きつけられてアリシアはすぐに起き上がり、斬撃を放とうとするが、その瞬間、降伏を示す閃光弾が空で弾け、アリシアは踏み止まる。
「なっ!?、もしかして!」
「そう、ウルフルム軍の将をエピオノールが討ち取ったの、指揮権を持つ将を失ったウルフルム軍はこのままでは多大な被害を負うと判断し、この場での負けを認めたって事よ、つまり、私の勝ちってワケ」
アリシアの説明を聞き、負けを理解したメアは納得がいかない様子だが、剣を腰に収める。
「メア、一つだけ聞くわ、もし十五の国のどこかにジューベルがいて・・・」
アリシアは新たに属国となった早速五十五国にジューベルを探させたがいなかった、その為残り十五国のどれかにジューベルがいると判断している。
「このまま私と敵対し奴を守る事になったら、守るの?」
「・・・、他の人はあなたから絶対に守ります、でも・・・彼だけは私は守りません、あなたが変わってしまった原因である彼だけは守る気になれませんから」
ジューベルは守らないメアはそう言った。
「そう、それなら良いわ」
メアがジューベルを守らないと聞き安心した様子のアリシアは、自身の飛空艇にへと転移して行った。
「さて、私も帰りますか」
アリシアが転移するのを見送ったメアは転移しメサイヤに戻って行った。
メサイヤ
後退するウルフルム軍に同行しているメサイヤに、ウルフルム王からの通信が入った。
「君が亡国の姫、メアリ・アルビオンか、今回の戦闘への参戦感謝しよう」
メアが持つ戦争行為への介入許可書の存在を知っているウルフルム王は、メアに感謝した。
「いえ、でも・・・、負けてしまいました」
「そうだな、しかし何度負けても良いのだよ、最後に勝てば、その時点で我々の勝利だ、そうだろう?」
「・・・はい」
メアは何度負けてもいいと言う国王の考えは危ういと思ってしまい返事が遅れた。
「それでは追撃に備えてくれ、追加の部隊は既に送っている」
「はい」
追撃に備えろ王はそう言うと通信を切った、メアは仲間達に警戒をするよう伝える。
皇帝の飛空艇
騎士団長の飛空艇から、マイルズが皇帝の飛空艇に乗り込んで来た、彼は早速アリシアの前で臣下の礼を取る。
「陛下?、勿論追撃をなさるのですよね?」
「ええ、決まっているでしょう?」
追撃をするのか聞いて来たマイルズに対しアリシアは頷き、目の前のパネルを指差す。
「現在奴等は、谷を通っているわ、ならばその両側を崩し生き埋めにする」
「単純ですが、一気に敵を一網打尽に出来る有用な作戦だと判断します」
「ありがとう、それでは早速準備なさい、準備が終わり次第、私に連絡を」
「ハッ!」
マイルズとの会話を終えたアリシアは、操縦室から離れ、自身の部屋に向かう、そして廊下を歩きながらメアの事を考える。
(・・・、メアに久し振りに会えて嬉しかった・・・、会う前は殺すって決めてたのに・・・)
会う前は殺すと思えても、会ってしまうとその気持ちは消え嬉しいと思ってしまい、しかもあの時のアリシアは成長したメアと力比べをするのを楽しんでいた。
(これじゃまるで友達と久し振りに会えた事を喜んでいるみたいじゃない・・・)
そうアリシアが感じている感情は、友達に久し振りに会えた事を喜ぶ感情そのものである。
「・・・認めない、こんな感情認めるものですかっ!!」
もしかしたら自分は既にメアを友達だと思ってしまっているのかもしれない、そう思ったアリシアは無理矢理にメアへの恨みを湧き立たせようとするが、どうしても無理だった。
「あんなにメアの事が憎くて恨んでいたのに・・・、なんで・・・、私は・・・」
憎くて憎くて仕方なかったメアをいつの間にか許している自分が自分で理解出来ず、アリシアは俯き壁にもたれかかった。




