二話
シオルポール湾
「ここがご先祖様が暮らしていた場所か」
「ええ」
ウルフルム王国へ侵攻する艦隊に乗り込んでいるアリシアは、その道中にある、シオルポール湾のとある島にある、ゾフィディアが暮らしていた島に上陸していた。
緑豊かな島であるが、強力な魔力を感じさせる魔物が多数おり、強者との戦いを望むゾフィディアにとっては最高の島であったと、アリシアが取り込んだゾフィディアの記憶が教えてくれている。
島にいる魔物達は数千年経った今でも本能的にゾフィディアを恐れているようで、アリシアとエリシアの姿を見るとそそくさと逃げて行く、エリシアがそれを見て追い掛けたそうにウズウズしているが、アリシアは彼女の脇を思いっきり突っつき止める。
「痛いぞ妹よ」
「魔物追っかけ回してる暇はないの、しかもお姉ちゃんが来たいって言うから進軍中の部隊をわざわざ止めてこの島に立ち寄ったのよ?、余計な事しないで」
「分かってるよ、うるさい妹だ」
「・・・」
と言いつつニヤケながら魔物達を眺めているエリシア、そんな姉を見てアリシアは本当に分かってるのかしら?とため息を吐きながら、もう一回姉の脇を突っつき、道を進みゾフィディアが暮らしていた家がある場所に向かう。
「流石に風化して何もない・・・か」
「ええ、仕方ないわね」
ゾフィディアの家があった場所は数千年の時が経っているためか、基礎以外は何も残っていなかった、しかし二人にとって祖先が暮らしていた場所に来る事に意味がある、二人は祖先が暮らしていた場所の風景を眺めた後、暫く目を閉じて黙祷をし、更に奥に続いている道を進んでみる。
「お墓ね」
「ああ」
奥に進むとレイティスの名と帝国の紋章が刻まれた複数の墓があった、新しめの墓もあり、祖先達は親が亡くなるとここに運んで埋め、新たな墓を作ると言うサイクルを繰り返していたようだ。
「お父さんとお母さんのお墓はない・・・、でも当たり前ね、私達はこの島の場所を二人から教えてもらっていないのですもの、だから、ねっ?お姉ちゃん」
「ああ、二人の遺体は無いが、墓だけでも作ろう、頼むアリシア」
「うん」
アリシアは肩に触れてくる姉の手に触れてから、影から杖を飛び出し、両親の名を刻んだ墓をこの場所に創り上げる。
「お花を探しましょう、とびっきり綺麗な物を」
「そうだな」
姉妹はこの場所に加わった両親の墓に花を添える為、花を探して歩く、すると広い一面の花畑に出た。
「綺麗だ・・・」
「うん、お婆様もここで寝転がって日向ぼっこをするのが好きだったみたい」
アリシアとエリシアはゾフィディアが好きだったこの場所の花を沢山集め、両親の墓に持って行くと添えた、そして両親の墓の前で暫くの黙祷を捧げてから、戦争を始める為、皇帝の飛空艇に戻って行った。
ウルフルム王国、近海
ここはウルフルム王国の近海、アリシアが率いる帝国軍の艦隊がウルフルムの近海までやって来た所で、ウルフルム王から通信が入ったので、アリシアは一応ウルフルム王と話をしてあげる事にし通信を開いた。
「何かしら?、ウルフルム王?」
「なぁに、これから殺す王の顔を見ておきたくてな、ほうほう、実に美しいではないか」
狼顔のウルフルム王はアリシアの顔を見て美しいと言った。
「ありがとう、それで?、あなたの軍は私を楽しませる準備は出来ているのかしら?、攻め込んだらあっさりと終わりなんて事はないわよね?」
「フン、楽しませるどころか、貴様を恐怖させる準備は出来ておる、そして先に宣言してやろう、貴様ではどうやっても我が王都には辿り着けん!」
「ふふ、その余裕すぐに無くしてあげるわ」
「フン!」
アリシアの笑みを見たウルフルム王は牙を剥き出しにした怒りの表情を画面いっぱいに映してから通信を切る。
「前方に展開しているウルフルム軍から、砲撃です、皇帝陛下」
「防御フィールド展開、同時にアテナ部隊発進、前方のウルフルム軍を蹴散らし、ウルフルム王国に上陸する」
「了解!」
アリシアは前方から迫る砲撃を見ても焦る事なく命令をし、帝国の最新鋭機、アテナを発進させ前方のウルフルム王国製のファントム、UF-8ウルド部隊に攻撃を仕掛けさせた。
「アリシア?、私も出ていーい?」
「んー?、アテナ部隊だけで十分よ?、あなたは休んでなさい」
アリシアの騎士ニアが、アリシアの腕に抱き着き自分も出たいと言う、アリシアは早速圧倒的な性能差で敵部隊を圧倒している、アテナ部隊を見てニアに休んでいろと言った。
「嫌よ、だってこの一年間全く戦えてなくて、ようやく戦場に来れたのよ?、私も出たいわ」
そう、ニア達アリシアの側近は、アリシアと共に鍛錬をしていたものの、平和な日常が続いていた為、戦闘は全く行えていなかった、その為欲求不満なニアは、目の前で繰り広げられる戦闘を見て我慢が出来ず、戦場に出たいとアリシアに言ったのだ。
「仕方ないわねぇ、良いわよ、行きなさい」
「やった!、私の専用機の力をご覧あれ!」
戦場に出る事を許可されたニアは、喜んでからアリシアの頬にキスをし、操縦室から出て行く、するとエリシアもアリシアの横顔をジーと見て来た。
「はいはい、お姉ちゃんも言ってらっしゃいな、ニアなファントム操縦っていささか不安だからサポートしてあげて?」
ニアは生身での戦闘技能はアリシアの側近の中で黒騎士の名を辱める事なくトップなのだが、ファントムの操縦技能はアリシアの側近の中で最下位である、その為アリシアは姉に娘のサポートをするよう頼んだ。
「任せろ!」
祖先が暮らしていた島で魔物を追い掛け回せず、こちらも欲求不満であったエリシアは喜んでニアを追い、自身の専用機の元に向かって行った。
「お二人共お子様ですわね」
「そうね」
「ふふ、暫くはお母様を独り占めですわ」
「ええ」
ニアとエリシアが居なくなった途端、アイリーンがアリシアに甘えて来た、アリシアはそんな娘の髪を優しく撫でつつ、前方に映る戦場の様子を静かに見つめる。
「ATF-078-N、アテナ!、ニア・アトリーヌ!、行くわよ!!」
「同じく、ATF-078-E、アテナ、エリシア・レイティスで、行く!」
カタパルトを駆け抜け、ニアとエリシアの専用機が皇帝の飛空艇から青空にへと出撃をした、ニアの専用機は、超近距離戦仕様で二本の高周波ソード以外は一切の火器を搭載しない代わりに徹底的な軽量化が成された高スピード機体である。
エリシアの機体はアリシアのゼウスと同等の装備を与えられた機体であり、エリシアの優れたファントム操縦の腕も相まってスピード型のチューンが成されていないのにも関わらず、ニアの機体と同等の加速を実現している。
「さぁ行くぞ、ニア、遅れるな!」
「ちょっ!速いって!」
アリシアに面倒を見ろと言われたのにニアを放って先にウルド部隊に斬りかかる、ニアはその尻を追っかけてウルドを斬り裂いた。
「・・・」
「どうしました?、お母様?」
モニターを見て頭を抱えているアリシアを見て、その腕に抱き着いているアイリーンが話しかけた。
「後でお仕置きをしようと思ってね」
ニアのサポートをしろと言ったのに姉は全くサポートをせずに好き勝手に戦い、更にはニアにサポートされている始末である、これはお仕置き決定である。
「私ですか!?、是非!」
たまにアリシアから与えられるご褒美の時にベッドの上で母に徹底的に攻められるのにハマっているアイリーンは、お仕置きと言った母の言葉を聞いて自分の事だと勘違いし、キラキラした目を母に向ける。
「あなたの事じゃないんだけど・・・、まぁ良いわ、して欲しいならしてあげる」
「えへへ、やりました!」
夜、お仕置き?される事になったアイリーンは、喜びアリシアの腕に更に強く大きな胸を押し付け、母にその柔らかい感触を楽しませる。
アリシアとアイリーンが夜の予定を決めていた頃、エリシアは破竹の勢いで、ウルドを薙ぎ倒していた、ニアはヒィヒィ言いながら、エリシアを追ってウルドをなんとか斬り裂き倒して行く。
「ちょっ!待って、良い加減にスピード落として!」
「何を言うか!ニア!、見ろ!、大将機だ!、アレを落としここを制圧するぞ!」
確かに前方には明らかに他のウルドとは装備の違う、機体がある、その名はUF-8-S、ウルドカスタムだ、装備は巨大な高周波ソードだ。
「来たな!帝国のエース機よ!、我が名はこの場を指揮する男!フェルセル!、いざ尋常に勝負!」
「望む所ぉ!」
(うわぁ、同じタイプの馬鹿が二人・・・)
お熱い二人の会話を聞いて胸焼けがしたニアは、地面に機体を降り立たせ、観戦する事にした。
「行くぞぉぉぉぉ!」
「おお!」
熱血な二人は同時に斬り掛かりビームブレイドと高周波ソードを合わせ合う、ウルドカスタムは足を振り上げ、エリシアのアテナに蹴りを当てようとするが、エリシアは華麗に避け自分の蹴りをウルドカスタムに当てて見せた。
「くぉぉ!、やるなぁ!」
強者との戦いを楽しむフェルセルは笑いながら、ウルドカスタムに突きを放たせる、その突きを機体をしゃがませ避けたエリシアはビームブレイドでコクピットを刺し貫き、フェルセルを倒した。
「見ろ!、貴様らの大将はこの私、エリシアが討ち取った!、まだ戦いたい奴は、かかって来い!」
(オイオイ・・・、敵を呼ぶなよ・・・)
ニアはわざわざ敵を呼び込むエリシアに呆れる。
「うぉぉ!!、将軍をよくもぉ!」
(来ちゃったよ・・・、負けなんだし引けよ・・・)
そしてウルフルム軍は殺された隊長を伴う為、エリシアを殺そうと集まって来た、それを見たニアは、ため息を吐き、友軍とエリシアと共に次々と迫って来るウルフルム軍を蹴散らして行くのであった。
皇帝の飛空艇
戦争が始まって初の戦いは、帝国軍の勝利に終わった、敵の将を討ち取り勝利に多大な貢献をしたエリシアは、褒めて!褒めて!と言った感じでアリシアの前に立っている、その姿は大型犬のようだ。
「お姉ちゃん」
「うむ!」
「お仕置きね」
「!?」
しかし妹の口からお仕置きと言う言葉が出て、エリシアはガーンと言った表情になる。
「な、何故だぁ!?」
「そうねぇ、さっき出撃する時、私、なんて言った?」
「えーと・・・、ニアのサポートをしろと・・・、あっ・・・」
ここでエリシアはアリシアの命令をすっかり忘れ、しかもニアにサポートされていた事を理解する、マズイと言った表情になったエリシアは逃げ出そうとするが、いつのまにか杖を右手に持っており、ニヤニヤとしているアリシアを見て諦めた。
「ギャァァァァ!」
この後、エリシアはアリシアにたっぷりとお仕置きされましたとさ。
飛空艇、皇帝の寝室
「・・・」
夜、アリシアは映像を見ていた、それはウルフルム王国の国民がバトルシア人を奴隷として扱う様子だ、そしてウルフルム以外の他国の者達もバトルシア人を奴隷として扱う様子が映っていた。
「ホント最低ね!、最低よ!この世界は!」
各国に潜り込ませたスパイが手に入れた映像を見るアリシアは叫び、この世界への憎しみを更に強くする。
「お母様・・・」
アリシアの隣で眠っていたアイリーンは、母の声を聞き目を覚まし、そっとその手を握った。
「・・・」
アイリーンの温もりを感じたアリシアはアイリーンの手を握り返し、そして覆い被さると、暗黒聖女と再び交わり合う。




