十二話
サードン平原中央
「凄い数です」
「あら?、ゼロのスタイル使い様がこの程度でへこたれるの?、情けないわね?」
ゼウスとギルスのフォトンエネルギーが限界になるまで前線で暴れ回ったアリシアは、姉と共に一度飛空艇に帰投し、今度はメアとニアと共に大地に立っている、三人の目的は敵アジト内部に入り込み、アジトのボスを討つ事で敵の戦う意思を奪う事である、他の仲間たちはこの先の本部での戦いの事を考え、その実力を活かして帝国とギグルス連合側の歩兵部隊の被害を抑える為に奔走して貰っている。
アリシアは目の前の大量の敵を見てゲンナリとしているメアの肩に自分の肩を当てる。
「へこたれてなんていません、必ずここのボスを討ってみせますとも!」
「その意気よ、さぁ行きましょうか!、来い!オベロウス!、敵を蹴散らせ!」
「任せるっ!がっ!良いっ!、我がっ!主人よっ!」
アリシアに召喚されたオベロウスは相変わらずの尻上がりな喋り方をしつつ、腕をブンブンと振り回して敵を蹴散らして行く。
「テェイ!」
せっかちなニアはアリシアとメアより先に飛び出し、敵に斬りかかって行った、巨大な漆黒の刃を振り上げたニアは、敵に向けて振り下ろす。
「やるわね!ニア!」
「ですね!」
アリシアとメアはニアの攻撃を見て駆け出し、走りながら頷くと同時にブラスターを放ち、多数の敵を吹き飛ばし、一瞬にして道を切り開く。
「流石ね、さぁ敵が開いた穴を埋める前に敵基地に入り込みましょう!」
「ええ!」
三人は切り開かれた道を走り始める、それを見た敵は即穴を埋め始め三人の邪魔をしようとするが、連合側の兵士が三人のフォローをしノースフィアの兵士達を押し返し、アリシアとメアにより切り開かれた道は更に広がって行く。
「行かせ」
「ないよ!」
三人が突き進んでいると、双子の兄弟が現れた、三人がアジトの中に入るのを止めに来たのだろう、息のあった動きで駆け出した二人はアリシアとメアに斬りかかる。
「フン!、今回は私もいるのよ!」
ニアがラーギの剣を受け止める、剣を受け止められたラーギは押し切ろうと力を込めるが、ニアの力は強く押し切れない、その間にラーサをパワーで押し切り振り払ったメアが、ラーギに近付き宙に向けて蹴り飛ばす。
「アリシア!」
「ええ」
杖を右手に持ったアリシアは宙に浮かび上がったラーギに魔法弾を何発も叩き込む、一撃一撃が強烈なその攻撃はラーギをあっという間に血だらけにした。
「ラーギ!」
兄が大ダメージを負ったのを見たラーサは駆け出し、兄を攻撃するアリシアに斬りかかるが、メアがそれを阻み、魔力の塊をぶつける事で動きを止めさせた、そしてニアが彼の体を斬り上げる、胴体に大きな傷が出来た少年は力なく倒れた。
「くっ、くそ・・・、このまま負けない!、ラーサ!、あれをやるぞ!」
「あぁ!」
ラーギとラーサは手を向け合う、すると二人の手から魔力が放たれあい交わり合い激しい光が放たれた、それを見た黒騎士ニアは何が起こるか分からないとアリシアの前に立って守りの姿勢を取り、メアも油断せず何が起こるのかを見据える。
「グォォォ!」
光が収まるとそこにはラーギとラーサが合体し産まれた巨大な魔人がいた、彼等が持っていた剣を巨大化させた物を両手に持っている、激しい叫び声をあげた魔人は三人に向けて駆け出した。
「速い!?」
ニアはその巨体からは考えられないほどのスピードで迫る魔人を見て驚く、そして構えている剣で同時に振り下ろされた剣を受け止めるが力負けし吹き飛ばされた。
「おっと、ふふ、大丈夫?」
アリシアは杖を影の中にしまってから吹き飛ばされたニアを受け止めた。
「ふ、フン!、別に受け止めてくれなくても良かったわよ!」
「あらあら、なら次からは受け止めてあげないわ」
「いいもん!別に良いもん!」
アリシアに受け止められて嬉しい癖にツンツンしているニアに、アリシアはクスクスと笑いつつ、影の中から剣を取り出し構える、そしてニアに離れて貰ってからまたもや振るわれた魔人の剣と自身の剣を交わらせる。
両者の剣が交わった瞬間、ズン!と地面が揺れ、アリシアに打ち負けた魔人の体が仰け反る、それを見た耳の赤いニアが駆け出し、全力のドロップキックで魔人押し倒した。
「ゼロソード!」
「くぉあ!」
メアが倒れた魔人の首を斬り落とそうと飛び掛かるが、魔人は口からメアの剣に向けて砲撃を放った、この一撃で自身はメアは無傷だが走って付けた勢いを奪われ、魔人の体の上に降り立ってしまった。
「しまっ!」
メアは魔人の左手に体を掴まれる、メアを掴む腕を振り上げながら立ち上がった魔人はメアを地面に叩きつけようとしている。
「させないわよ」
アリシアはメアが地面に叩きつけられる前に、闇の斬撃で魔人の左腕を斬り飛ばしメアを助けた。
「ありがとう!アリシア!」
「お礼は良い、ほら!次の攻撃が来るわよ!」
「はい!」
「ええ!」
魔人はまた口から砲撃する、メアとニアはその一撃を同時に魔力を込めた斬撃を当てる事で弾いた。
「これでおしまい、ダークライジングブレイカー」
魔人の顔に迫ったアリシアは闇と雷の斬撃を発動させると体を回転させながら振るう、魔人の首に喰い込んだ強力な斬撃は魔人の首を斬り飛ばし、魔人に変身していたラーギとラーサもこの瞬間に命を失った。
「ふぅ、中々に強かったわね?、さぁ、アジトのボスを殺してしまいましょうか」
「ええ」
ラーギとラーサを倒したアリシア達はアジトの内部に降り立ち、ボスの部屋に向かう。
「こ、降伏する!、だから命だけでも!」
ボスの部屋に入ると男が命乞いをして来た、それを見て優しく微笑んだアリシアは、男に近付いていく。
「良いわ」
良いそう言ったアリシアの笑顔と言葉を聞いて男の顔が一瞬明るくなる、しかし・・・。
「殺してあげる、そもそも私達バトルシアを兵器として扱うお前達ノースフィアを帝国皇帝である私が、救う訳だからないでしょう?」
すぐに絶望に染まる事となった、優しい笑みから邪悪な笑みにその表情を変えたアリシアは、男を斬り伏せ殺した。
「さぁ、この部屋を調べ、本部の場所を割り出すわよ」
「・・・はい」
メアは笑いながら人を殺すアリシアを見て悲しくなりながらも何も言わず、アリシアとニアと共に本部の場所を示した情報を探す。
首都アーシア、国会議事堂、会議室
「恐ろしいものだよ、帝国もあの娘も・・・、たった一日でノースフィアをほぼ壊滅にまで追い込むのだから・・・」
戦況が表示されるモニターを見つめる大統領は、ノースフィアを示す赤いマーカーが、連合側の青に次々と変わっていく様子を見て、帝国の圧倒的な強さとそれを指揮する復讐心に溺れる少女の恐ろしさに恐怖した。
「しかも帝国はまだ戦争の準備をしている状態でまだ完全な戦力ではないと聞きます、その状態でこの強さ・・・、完全となればこの世界は・・・」
「あぁ・・・、分かっている、だが私はあの娘にこの世界を渡したりなどせん、出来るだけの抵抗をさせて貰うさ」
「・・・最後までお伴します大統領」
「ありがとう」
大統領が側近の言葉に礼を言った瞬間、ギグルス全域のノースフィアを示すマーカーが青くなった、ノースフィアは本部を残し壊滅したのだ。
「今戻ったわ、オラセン」
大統領が呆然とモニターを見つめていると、皇帝アリシアが側近とメア達を引き連れて部屋に入って来る、この少女の恐ろしさをモニターを見て目の当たりにしているオラセンは身を引いてしまった。
「どうしたの?」
アリシアは身を引いたオラセンを見てわざとらしく首を傾げ微笑んだ、アリシアは理解している目の前の男が自分に恐怖している事を、そしてオラセンを見据えるその目は確実に言っている、一年後はお前の国とお前がこうなるぞと。
「な、なんでもない、本部の場所は分かったのか?」
大統領はアリシアの目を見て怯える自身を奮い立たせ震える口を開き、ノースフィアの本部の場所を聞いた。
「ふふっ、ここよ」
アリシアは大統領の様子を笑ってから、モニターに新たな情報を送る、そこはノーワンズホール、ギグルス国の北西にある火山地帯だ。
「・・・、ノーワンズホール、確かにあそこは政府の出入りも冒険者の出入りも少ない、監視の目が少ない、と言う事は、あのような組織の本部を置くには最高の場所だな」
「ええ、中々に良い判断だと思うわ」
アリシアはノーワンズホールに本部を置く事に決めたのであろう、宿敵ジューベルの判断を良い判断だと評価した。
「皇帝アリシアよ、早速進軍するのか?」
「勿論」
「分かった」
大統領が頷くのを見たアリシアは彼に向けて手を差し出す。
「さぁギグルス国大統領オラセン?、共にノースフィアと言う名の愚かな存在を終わらせましょう?」
「ああ、アトリーヌ帝国皇帝アリシアよ、我々に勝利を」
「ふふっ、勝利を」
オラセンはアリシアの手を取り片膝をつく、自身の手を取ったオラセンを冷たい瞳で見下ろすアリシアは、邪悪な薄笑いを見せる。
ノースフィア本部
「ピーナ、気分はどうだ?」
「最高よ、この力があれば皇帝を殺せる!」
カプセルから這い出した皇帝への憎しみにその心を染め切っている少女は激しく魔力を放つ、エルセームはその魔力を目の当たりにし、最早自分では手も足も出ない事を理解する、もう彼にはピーナを止める事は出来ない。
「あは!、早く来ないかしら!あのクソ女!、早く戦って殺したい!」
狂った表情でアリシアを殺したいと言うピーナを見てエルセームは、自身が狂わせてしまったこの少女を必ず守ると誓う、その結果、自身が命を失ったとしても。




